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第13話 告白大作戦、始動

 ステーキを食べながら決意を固めた私は、その後、とにかくがむしゃらにジュリアン攻略のために奔走した。とにかくジュリアンに付きまとって好感度を高め、シャルロットを妨害し、ダフネに妨害され……。ゲームに必死になるほどに、時間はまさに光のように過ぎて行った。


 そしてあっという間に5日目の夜、私は鏡台に座って天使のお姉さんに頼んでジュリアンの好感度を確認しようとしていた。膝の上でこぶしをぎゅっと握り、意を決して鏡を見た。そして、恐る恐るジュリアンの好感度を確認する。


「70……なんとか、ギリギリセーフ……!」


 きらカレ原作に準拠するならば、攻略完了には最大値である100の好感度が必要なはず。残された時間はあと2日間だが、今までの経過からすれば、好感度100への到達はなんとかなるだろう。


「すごいです、ジュリアンさんとかなり仲良くなってきましたね! さあ、泣いても笑ってもあと2日で二週目は完了です! このまま好感度を高めて、シャルロットさんからジュリアンさんの愛を勝ち取りましょう!」


 天使のお姉さんはこぶしを振り上げ応援してくれる。私も元気よくそれに応えたいところだが、そうそう楽観的になれる状況ではない。私はジュリアンの好感度を稼ぐことには成功しているが、シャルロットのイベントの妨害には今まで一度も成功していない。主人公補正なのか、きらカレ世界の強制力なのかは分からないが、いくら先回りして二人の出会いを妨害しようとしても絶対に二人は原作通りにイベントを起こし、仲を深めてしまう。

 今まで成しえなかった原作イベントの妨害。明日、これが出来なければ、恐らく私がジュリアンを攻略することは難しい。なぜなら原作では、6日目にジュリアンはシャルロットに――告白するのだから。


「あの……レティシアさん?」


 沈黙する私に、天使のお姉さんが様子を窺うように声をかける。思ったより考え込んでしまっていたようだ。


「ああ、ごめんなさい。ちょっと色々考えてしまっていて……」

「そんな! 大変なときですもの、大丈夫です。あ、そういえば! 確か明日は王都の外へ出かけるんでしたよね」


 そう、明日はジュリアンの故郷に行くことになっている。ちなみに、シャルロットと……非常に残念ながらダフネも一緒だ。


「なんとか明日、致命的な事態にならないよう、うまく立ち回らないと……」

「ちなみに、何か作戦はあるんですか?」


 明日の作戦について問われ、私は一瞬言葉に詰まる。ジュリアンからシャルロットへの告白。この重大イベントを回避するため、ずっと考えてきた秘策がある。ただこれを実行するのは、やや……いや、だいぶ気が引ける。けれど、ボーナスのために実行しないわけにはいかない。こういう時は誰かに実行を宣言して、退路を断つのが一番だ。私は意を決して天使のお姉さんに秘策を明かす。


「シャルロットとジュリアンのイベントが起こる前に、私がジュリアンに告白する……予定です」


 私の言葉を聞いて、天使のお姉さんは女子高生が恋バナを聞いたときに上げるような、お手本のような黄色い声を上げる。


「きゃあー! 素敵です!! ドキドキ大作戦ですね!」

「いやいや……玉砕して、そこでゲームオーバーの可能性もあるんですけど……」


 失敗する可能性があるとはいえ、それ以外に良い作戦を思いついていないというのが現状だ。それに、現実ではないとしても、誰かに告白するなんて、そもそも誰かと恋愛するなんてすっかりご無沙汰しているし、うまく出来る気がしない。それよりなにより、ものすごく恥ずかしい。


「案ずるより産むが安しですよ! 頑張ってジュリアンさんを射止めて、ボーナスへの一歩を踏み出しましょう!」


 そうだ。これはただの告白ではない。500万円獲得に向けた、借金返済に向けた告白だ。恥ずかしいなんて、うまく出来ないかもなんて、そんなことを言っている場合じゃない。


「はい! 絶対に告白、成功させてみせます!!」


 私は自分に言い聞かせるよう、高らかにそう宣言した。



 * * *



 そして、6日目。ジュリアンと彼の故郷である小さな村に到着した。……正確にはジュリアンとシャルロットの旅に、私とダフネが同行する形だが、そんなことを気にしている場合じゃない。どこか懐かしさを感じる、石造りの建物と土の道。村の入り口に立つと、緊張で手が少し汗ばんでいるのがわかる。


 原作での展開はこうだ。ジュリアンの生まれ育った孤児院を訪ねたシャルロットは、すぐに孤児院の子供たちと打ち解ける。身分の差を感じさせないシャルロットのその振る舞いを見て、ジュリアンは改めて自分のシャルロットへの想いを確認し、告白をする。


 この展開を覆すために、ジュリアンがシャルロットに告白する前に、折を見てジュリアンに告白をする。恐らく今回もダフネは私を何らかの方法で妨害しようとしてくるだろう。ダフネの妨害を避け、ジュリアンと二人きりになり、うまく雰囲気を作って告白にもっていく……改めて考えると一筋縄ではいかなさそうだが、やるしかない。


(細かいことを色々考えたって仕方ない! 方針は決まったわけだから、あとは当たって砕けろの精神で、やってやる!)


 私は心の中で気合を入れなおし、シャルロットと談笑するジュリアンとの距離をさりげなく縮め、その腕に抱きつく。悪役令嬢らしく、主人公シャルロットからヒーローを奪い取るために。

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