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第9話 アイツの好感度は0

 ふかふかの枕で何とか羞恥心を克服した私は、頭をもたげて窓の外を見る。いつの間にか外はすっかり暗くなっており、空には星と月が輝いている。バタバタしている間に、あっという間に一日が終わってしまった……。

 そのままガラス越しに夜空をなんとなく眺めていると、窓ガラスに映ったレティシアが必死にこちらの気を引こうと動き回っているのに気付いた。


「レティシアさ~ん!!」

「天使のお姉さん!」


 私は急いで自分の姿が映った窓ガラスに駆け寄る。


「どうしたんですか?」

「やっと気づいてくれました! それが、え~と……実はお伝え忘れていたことを思い出しまして……」

「伝え忘れていたこと?」

「ええ、あの。本当にちょっとした便利機能なんですけど……実はキャラクターの好感度が確認できる機能がございまして……」

「好感度が確認できる機能?! それ、めちゃくちゃ大事なヤツじゃないですか!」

「で、ですよね~……本当にごめんなさい……」


 スキルのことを伝え忘れたとき、もう伝え忘れはないって言ってたじゃん! そう思ったが、過ぎたことをどうこう言っても仕方ない。


「まあ、二周目の序盤で気付いてもらってよかったです。早速、その情報見せてもらえますか?」

「レティシアさん……お優しい……はい!今すぐに出しますね!!」


 天使のお姉さんがいつものように指さし棒を振ると、窓ガラスにうすぼんやりと攻略キャラクターごとの好感度が映し出された。


「なんか……見えにくいですね……」

「ああ、窓ガラスだと向こう側の景色も見えてしまうので……鏡台のほうに行きましょう!」


 促されて鏡台に移動すると、今度こそきちんと好感度情報が表示された。レオンは好感度0。まあ当然か、別に個別で話したりもしていないし。シャルロットは……20か。きらカレの好感度の最大値は100なので、顔見知りに程度の関係にはなれたということだろう。まあ、嫌われるよりはやりやすい。


 そして、問題のジュリアンの好感度を、自身のないテストの採点結果を見るような気持ちで確認する。結果は……30、友人一歩手前くらいの関係だろうか。一日目の成果としては悪くない、むしろ成功と言っていい結果だ。正直、全然ダメかもしれないと思っていたのでこの結果は素直に嬉しい。


(ああ、でも歯に肉が挟まっていなければもう少し好感度が稼げたかもしれない……あ、ダメダメ。思い出したらダメだ。思い出すとまた恥ずかしくなってくる……)


 先ほどの失態の記憶が蘇りそうになって、あわてて首を振り、思考を強制終了させる。危ない危ない。


「わ~! レティシアさんジュリアンさんの好感度、バッチリ上がってますね! 今回はジュリアンさん狙いなんですか?」

「ああ、そうなんですよ。ただ、シャルロットや、もしかするとダフネとも攻略対象が被りそうで……」


 と、そこまで言ってふと素朴な疑問が浮かぶ。


「そういえば好感度情報って、自分の分しか見られないんですか?」

「……というと?」

「例えば、ダフネに対するキャラクターたちの好感度情報って見られないんでしょうか?」


 ダフネの好感度情報が見られれば、今天使のお姉さんが私の攻略目標を当てたように、私もダフネの攻略目標を推測することができる。ダフネの攻略目標が分かれば……。


(ダフネが私に仕掛けてきたように、私もダフネの妨害ができる……!)


 思わず悪い笑みが浮かぶ。一周目の開幕断罪に、二周目のハンカチ事件。このままやられっぱなしという訳にはいかない。


「ダフネさんの好感度情報ですか? ちょっとマニュアルを見てみますのでお待ちを……。あ、やっぱり他の人の好感度情報は見られないようです……ごめんなさい」


 まあ想定内の反応だ。だが、ここはもう一歩食い下がってみよう。


「そうなんですね……残念です……。でも、私、好感度情報のこと二周目になってから知らされたんですよね」

「ええ……」

「つまり、今までダフネより少し不利になってしまっていた……ってことですよね」

「た、確かに……!」

「その分、何とかなりませんか?」

「ちょ、ちょっと確認させて下さい!」


 天使のお姉さんは鏡の中で電話の子機のようなものを取り出し、どこかに電話をかけはじめる。やがて電話が通じたようで、私に背を向け小声で誰かと話し始めた。声が小さくて何を話しているかは聞き取れないが、どうやら私のために何事か交渉してくれているような雰囲気だ。やがて電話が終わったのか、天使のお姉さんは晴れやかな顔で私に向き直り、威勢よくグッと親指を立てた。


「情報が伝わるのが遅く不利になった分の穴埋めとして、今回限りの一回きりならダフネさんの好感度情報を見てOKだそうです!」

「ありがとうございます!」

「それでは早速、ダフネさんの好感度情報を表示しますね!」


 天使のお姉さんが指さし棒を勢いよく振ると、私の情報が引っ込み、代わりにダフネの好感度情報が表示される。さて、どうしてやろうか……なんて、私はわくわくしながら情報を見た。しかし、その内容はある意味期待外れなものだった。


「攻略キャラクター全員の好感度が0……?」


 ダフネに対する好感度は、シャルロットからの好感度が30あるだけで、他のキャラクターからの好感度は軒並み0だった。この結果から考えられることは一つ。ダフネは二周目の初日を無駄に浪費したということだ。


(人を呪わば穴二つ。自業自得よね)


 攻略キャラクターと親密になるという点ではダフネに一歩リードしていることが分かり、勝ち誇った気分になるとともに、ボーナスに向けて一歩前進できたことに安心する。……そして、安心したからだろうか、急に眠気が襲ってきた。


「レティシアさんどうでしょう? 好感度情報はもうおしまいでよろしいでしょうか?」

「ええ、今は大丈夫です。ありがとうございました。……お姉さん。少し眠くなってしまったので、今日はこれで失礼します……」

「あっそうですよね! お疲れさまでした! ゆっくり休んでくださいね」


 天使のお姉さんに挨拶をし、鏡台を離れる。明日からはジュリアンに護衛してもらいながら、好感度を稼ぐための生活が本格的に始まる。英気を養うため、しっかり休まないと……そんなことを考えながら、再びふかふかの枕に顔を埋める。眠気でぼんやりする頭に、ふとジュリアンの笑った顔が浮かんだ。


(ジュリアン、私との食事、少しは楽しんでくれてたのかな……)


 令嬢とはかけ離れたこともしてしまったのに、そんな私といても楽しいと思ってくれたのなら……正直、少し、嬉しいかもしれない。私は心地よい満足感に包まれながら、柔らかいベッドに身を委ねる。こうして、私の二周目の初日は無事(?)に幕を閉じたのだった。

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