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第27話 氷塊は龍を呼んだか?


ドゴゴゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!




凄まじい轟音と共に、講堂の天井をぶち抜いて、この講堂の全範囲を埋め尽くすほどの巨大な氷の塊が現れた。


「なんじゃ!?」

「うそでしょ!?」

「くっ!?…」

「……これはまずいって…!」

「私が盾に…!」


僕は机の上に立って、氷塊を見つめる。


僕はこの氷塊を見た時に湧き出た感情は焦りでも、絶望でもなく、怒りだった。


この氷塊からはこの場にいる人は全員逃げられない。


あの氷塊に潰されたなら命はないだろう。


つまりあの氷塊はビーチェの命を奪おうとしている。


なんて奴だ。


許せない。


僕は龍槍を目いっぱい引いて、落ちてくる氷塊の中心点に向かって飛び、人生で一番と言ってもいいほどの力で、氷塊を突いた。


「……九の型……穿龍……!!」


ガキーン!!!


僕は氷塊の重みに負けないよう両手で槍を持ち、衝撃波を氷塊中に行き渡らせるように突いた。


バキバキバキバキン!!!


僕の突きを受けて、氷塊は砕け散った、


これでひとまず潰される心配はない。


「うそでしょ!?」

「シ、シリュウぅ……!」

「は!?」

「……おいおいおい……!?」


僕の突きに驚く面々


しかし僕の突きを受けて、氷塊は粉々に砕け散るが、それでも氷の破片が無数に降りかかってくる。


その中で、僕に続いて反応をしてくれた人が一人だけいた。


「…ナイスだ!シリュウ准将!あとは僕に任せろ!……万焔!」


そう叫んで、手を天にかざすベタンクール都督


そしてベタンクール都督の手から無数の火の玉が飛び出し、その火の玉が僕達に降りかかる氷の破片を溶かし尽くす。


やはりこの人は相当な魔術師だったのか。


ガラガラガラガラ


僕らの付近に降りかかるであろう氷の破片と講堂の天井の残骸は、ベタンクール都督の火の玉によって燃やされ、僕らはどうやら氷塊の襲撃を防げたようだ。


「………ふぅ~……めちゃくちゃ焦ったけど…何とかなったね…怪我は無い?ビーチェ…」


「あぁ…もう…何と言っていいのやら……妾は何度シリュウに惚れさせられるのかや?」


「そう言ってくれるなら、守った甲斐があるね。何度でも惚れてくれてもいいんだよ?」


「…シリュウ…」


そうして自然と抱き合う僕ら


他の面々も少しずつ落ち着いてきたようで、各々無事を確かめ合っている。


「……いやいやいやいや……助かったけど、あの氷塊を砕くって、シリュウちゃんもう人の枠超えてきてない…?」


「…私はさっきのは夢だと思うことにした。リタが無事で、命があるなら何よりだ」


「……これが…シリュウ准将…皇国の新しき風……いや暴風ではないか…」


「……いんや…想像以上ってもんじゃないな……とんでもない力だよ…シリュウ准将」


僕が氷塊を砕いたことに、皆驚いているが、残念ながら、犯人は命が助かった余韻に浸らしてくれないようだ。


「皆さん、警戒して。そこにいるよ。あの氷塊を放った奴が」


僕がそう言うと、講堂が破壊されて巻き上がっている土煙の向こうに、多数の人の影が現れた。


現れたのは顔を含めた全身が灰色の鎧で包まれており、大きな戦斧を担いでいる人と男性もののスーツを着ている細剣を抜刀している男装の麗人とショートカットの青色と空色の特徴的な髪をしていて、赤色のローブを羽織っている少し小柄な女性だ。


そしてその3人の後ろには数十人の部隊として統率された兵士がいた。


「おいおい、あの氷塊を砕くってまじかよ!とんでもないやつがいるもんだな!」


「…あの氷塊を壊すのは非現実的よ…あなた張りぼての氷しか作れないのね…」


「ち、違うわよ!ちゃんと最強の硬度で作った氷塊よ!砕いた奴が人間じゃないのよ!」


何か言い争いをしているようだが、関係ない。


こいつらは明確な敵だ。


ここで全員討つ。


しかしここには、リタさんとシャルル王という絶対に守らなければならない存在がいて、戦力は僕とビーチェとアウレリオとベタンクール都督の4人だけだ。


護衛に1人はリタさんとシャルル王の側に付けておくとしても、あの3人と後ろの数十人の兵士を相手にしなければならない。


「…お前は…タレイラン公爵家の一級魔術師…『絢爛氷河』のプスキニア・メルセンヌ!!これは私に対する明確な反逆行為だぞ!」


シャルル王が怒りに満ちた声で糾弾する。


あの人タレイランの人なのか。


本当に碌なやつじゃないな。タレイランは。


しかしプスキニアと呼ばれた女性はどこ吹く風か、王の糾弾を意に介していない。


「あん?それが何?あんたはここで死ぬのよ。奇襲が失敗しただけで、これからちゃんと殺してあげる」


「…貴様…!タレイランめ……!」


悔しそうに顔を歪めるシャルル王


状況は完全にこちらが不利


これはこちらの護衛体制も相手方にばれているようだな。


シャルル王がタレイランに情報戦で完全にしてやられたということか…


色々言いたいこともあるが、今はそれどころじゃないな。


そしてあとの二人は何者なんだ?


相当な武の香がするけども


「……タレイランも落ちるところまで落ちたなぁ。まさか帝国と手を組んでまで王を暗殺しようとはな」


ベタンクール都督が呆れるように言う。


「え?あの人達帝国の人なんですか?」


「そうさ。灰色鎧の男は帝国十傑第8位『紅熊』エゴン・レヴァンドフスキ、スーツを着ている女性は帝国十傑第9位『紅熊』ヒルデガルド・ラーム、どちらも帝国を代表する武術師さ…」


「…帝国十傑…かの武術大国帝国で最も武に優れた10人にしか与えられない称号……相当な武の達人じゃよ…」


ビーチェも恐れおののくように言う。


「……潰されるどころかピンピンしているわね……でも護衛にパオ・マルディーニはいないのは本当だったのね…これなら問題ないわ…」


「……さっきの氷塊を砕いたのはどいつだ!俺が相手してやる!」


完全にあちらはやる気だな…


して布陣はどうするか……この中で最も軍略に優れているであろうベタンクール都督の方を見る。


ベタンクール都督は僕らを一通り見渡している。


そしてシャルル王がリタさんに懇願する。


「リータ殿下、このような状況になって申し訳ないが、この場の指揮をリクソンに委ねても良いか。あの者は王国一の知恵者だ」


「……シリュウちゃんとリオはどう思う?」


「問題ありません。むしろ助かります。指示願います」


「任せても良いが、私はリタの護衛に回るぞ」


そう言って、右手でロングソードを持ち、左手で方盾を構えるアウレリオ准将


「わ、妾も戦えます!ご指示を!」


そう言って、愛用のレイピアを構え、臨戦態勢に入るビーチェ


「…責任重大だなぁ…シリュウ准将、ベアトリーチェ少尉、あの中なら誰を受け持てる?」


「僕は誰でも」


「心強すぎるな…ベアトリーチェ少尉は?」


「妾はあの細剣を持つ女性となら戦えそうです」


「了解だ。でも問題はその後ろの部隊だな…雑魚だろうけど、いるだけで厄介だ…どうしたものか…」


ベタンクール都督は少し困ったように考えている。


確かに、この場で戦闘に出せるのは僕とベタンクール都督とビーチェの三人


向こうもプスキニアという魔術師と、エゴンという大男と、ヒルデガルドという細剣使いの女の3人の猛者がいて、その上で数十人の兵士がいる。


なら数十人の兵士にはご退場願おうか。


「あれですか、僕に任せてください」


「え?どうするの?」


「ここから倒します。皆さん少し耳を塞いでください」


僕がそう合図し、こちら側の全員が耳を防いだのを確認して、僕は目いっぱい息を吸う。


「十の型……龍の咆哮…すうぅぅぅ……」


そして吸った息すべてを吐き出す勢いで、喉が潰れそうなくらい叫ぶ


「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!」


僕が放つ爆音の咆哮に驚く3人組


「うおおい!!」

「きゃああ!?」

「ひえええ!?」


そして兵士の方にも僕の咆哮が襲い掛かる。


「ひいいい!?」

「ぎゃああ!?」

「わあああ!?」


一頻り咆えたところ、あの3人組はしっかり立っているが、後ろの部隊に立っているものは1人もいない。


ほとんどが僕の威嚇咆哮で失神したようだ。


それでも何人かは意識があるようで、止めを刺しておこう。


「我が名はシリュウ・ドラゴスピア!!皇国の英雄コウロン・ドラゴスピアを祖父に持ち、軍都サザンガルドの剣闘姫を妻に迎える者だ!!先ほどの氷塊も我が槍で木っ端微塵に砕いた!!あの程度の氷塊、先月我が槍で貫いたインペリオバレーナに比べればまるで雪を突いたかのようだった!!この槍は今から其方らに向く!!死にたい者だけかかってくるがいい!!」


「ひ、ひいい!!化け物だ!」

「敵う訳ない!逃げるぞ!」

「ふ、ふざけるなよ!何が楽な仕事だ!」


僕の威嚇で、意識がある兵士はほとんど戦意喪失したようだ。


これで兵士の方は問題ない。


「……情けない…あなたたち本当に帝国軍人なの…?…はぁ…」


ヒルデガルドは兵士たちを呆れた目で見ている。


「ちょ、ちょっと…!あの化け物はあたいは無理よ!あんたたちでなんとかしなさいよ!」


プスキニアはどうやら僕に恐れ慄いているようだ。


「……すげぇ咆哮に名乗りだ…たまらねぇ…!あいつは俺の獲物だ…!」


エゴンは、僕の威嚇にも動じていない。


この男がどうやらこの場では一番の手練れらしい。


「相手はもう決まったようだね。シリュウ准将はエゴンと、ベアトリーチェ少尉はヒルデガルドを頼むよ。あのふざけた氷のガキんちょは僕が躾ておくから」


「了解です」


「任せてくだされ」


「…では状況開始。負けられないね、王国と皇国の未来のために」


ベタンクール都督の合図を皮切りに、それぞれが各々の獲物と定める相手へと攻撃を仕掛けにいった。


僕にとっては、戦の初陣だ。




プスキニア「ちょ、ちょっと…なんで奇襲を万全に期して仕掛けて、人数差も圧倒的だったのに、3対3の構図に持ち込まれているわけ!?」


ヒルデガルド「……あなたの氷が柔すぎたおかげね…」


エゴン「しかし、氷塊で潰されて、はい終わりじゃつまんねぇからなぁ!やってやろうじゃねえか!」

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