第25話 『都督』リクソン・ベタンクール
烈歴98年 5月31日 ボナパルト王城 黄金の間
王都ルクスルに到着し、ボナパルト王城に到着した僕らは、その日は特段会談などの公務を行うことなく、旅の疲れを取るために早々に休み、そして翌朝にリアビティ皇国の外交使節団とボナパルト王家の公式な会談が行われた。
ここは王城の中でも最上級の会議室のようで、『黄金の間』と呼ばれていた。
その名に恥じることなく、机や椅子などの什器を除けば、あたり一面は壁や調度品を含め、黄金に輝いていた。
庶民育ちの僕としては非常に落ち着かない。
いまこの黄金の間には、リタさんやサルトリオ侯爵を始めとする外交使節団の主だったメンバーが席についている。
王国側も同じように、アルジェント王のシャルル王とその妃であるマリー王妃、そしてアルジェント王の祖母であるデボラ上皇后の3人が中心で、その他は王国の外交官だろう。
僕ら海軍は僕やパオっち、ジョルジュ大佐などの階級が高い者は、この場に護衛として起立し、控えているが、会談は文官達で行われるので、専ら暇だった。
これは皇国と王国の公式の会談で、リタさんの本当の目的を隠すための偽装であり、内容は当たり障りのないものだ。
リタさんも余所行きの仮面を被って、とても上品な皇族を演じている。
こういうところは流石皇妹殿下だな。
そんな退屈な会談を見守っていると、少し便所に行きたくなったので、パオっちとジョルジュ大佐に断りを入れて、黄金の間から退出し、便所に向かった。
廊下には従者の方がたくさんいたので、便所の場所を聞くのに困らなかった。
従者の方に案内され、用を足して、廊下に出たところで、赤い髪と黒い髪が混ざり合ったような髪をした王国の赤い軍服姿の男性が、窓を開けて空を見上げていた。
歳は、パオっちやリアナさんと同じぐらいだろうか。
幼い顔つきはしているが、凛々しく、修羅場をくぐっているであろう顔つきをしていて、不思議な雰囲気を醸し出していた。
僕がその男性を観察していると、その男性は僕の視線に気づき爽やかな笑顔で挨拶してくれた。
「やあ。君は皇国の護衛団にいたね。シリュウ・ドラゴスピア准将だっけ?ようこそ、アルジェント王国へ」
非常に顔が整っており、アウレリオ准将とはまた違った美形の人だ。
「初めまして、僕は皇国海軍准将 シリュウ・ドラゴスピアと申します。……失礼ですが…?」
僕はその男性の顔に心当たりがなかったので、名前を聞く。
「あぁ、ごめんごめん。名乗ってなかったね。僕はリクソン・ベタンクール、ボナパルト王家の都督をやっているよ」
都督?
聞きなれない役職だな。
「ベタンクール都督ですか。ご丁寧にありがとうございます」
「はは、そんなに固くならないでよ。取って食いやしないって。今王国で最も話題のシリュウ・ドラゴスピア准将を間近に見れてこっちの方が光栄さ」
「最も話題…?」
僕王国で話題になるほどの人物なの?
リタさんの方がもっと注目すべき人じゃない?
「それはそうさ。だって彼のインペリオバレーナを討伐したんだ。王国中の魔術師が注目しているんだよ」
「はぁ…そんなに大層なことなのでしょうか?」
僕は不思議そうにベタンクール都督に問うた。
「……本気で言ってる?」
「…はい…確かに討伐しましたけど、パオ・マルディーニ少将との共闘ですし、僕が討伐しなくても、ファビオ・ナバロ中将やマリオ・バロテイ少将、アレス・デルピエロ大将が討伐していたでしょう…」
「……う~ん、でも実際討伐したのは君さ。仮定の話には何の意味もない。討伐できると討伐できたには天と地ほどの差があるさ。もっと胸を張りなよ」
「そういうものでしょうか?ありがとうございます」
「はは、君はちょっと変わっているね。インペリオバレーナを討伐したのに、それを鼻に掛けない。王国人がインペリオバレーナを討伐したなら、功績を喧伝するために、自費で本を出版するだろうにね」
「そんなに王国の人はインペリオバレーナを恐れているのですか?」
「それはもちろんさ。王国では魔術が第一だからね。その魔術が全く効かないインペリオバレーナなんて、王国に襲来すると考えるだけでも鳥肌もんさ。実際インペリオバレーナは王国ではその討伐難易度からXランクの魔獣として登録されているからね」
「え、Xランク!?Sランクの上!?そんなランクがあるのですか?」
「まぁ国に拠るだろうね。皇国にもいるんじゃない?Xランク魔獣。一般には公開されていないと思うけど」
そんな国家機密的なランク設定があるのか。
というかこの人それを僕にばらしてもいいの?
「……僕にそれを言ってもいいのですか?」
「ん?大丈夫じゃない?王国の上級魔術師には周知の事実だからね。調べたらすぐわかるよ」
軽い感じでいうベタンクール都督……この人なんか適当だな……
都督ってのはそこまで偉い役職じゃないのかもしれない。
「まぁそんなことより、短い間だけども王国を楽しんでよ。できれば好きになってそのまま移住して欲しいな」
さらっと亡命の案内をするベタンクール都督
「王都を楽しみたいですが、その暇はなさそうです。会談や公務の予定が詰まっていますからね」
「はは、それはもう裏の予定も入れたらそうなるに決まってるじゃないか」
「!?」
ベタンクール都督の発言に、はっとなる僕
「あれ?僕そんなに賢くないように見える?やだなぁ、都督ってのは参謀兼司令官みたいなものだよ。皇国軍でいうと大将くらいさ」
「…な!?」
た、大将クラス!?
この若さで!?
パオっちと変わらないように見えるぞ!?
「ははは!君の反応は本当に面白いな!インペリオバレーナと魔猿をも討伐したどんな猛者かと思えば、年相応の少年じゃないか!」
そう言って屈託なく笑うベタンクール都督
しかもさらっと僕が魔猿を討伐したことまで把握している。
一体この人は何者なんだ。
「笑わせてくれたお礼にもっと丁寧に自己紹介するよ。ボナパルト王家の全ての兵を預かる都督であるリクソン・ベタンクールだ。巷では『深淵焔』って呼ばれたりするよ。君とは仲良くしたいね」
そう言って、握手を求めるベタンクール都督
僕はその差し出された手を握り返した。
「…!?」
そして僕は驚愕した。
「……え~?握手だけで気付くんだ?流石だね」
「……あなたは両術師ですか…」
握った手は、武人の手そのもの。
得物を握ってできるタコが多数にあり、その手は鋼鉄のように硬かった。
この手は武術の達人の手だ。
そしてこの人は魔術王国王家の軍の長だ。
一流の魔術師でないわけがない。
「はは。武術ではシリュウ准将には敵わないと思うよ。魔術ではパオ少将とは微妙かな?でも僕は実際に死合う時には負けないよ?」
リクソン・ベタンクール
僕が出会った中で、おそらく最も武術と魔術の双方に優れた両術師だ。
もし戦うとなれば、相当な強敵になるだろう。
そして王国の参謀と言う役割を持ち、相当な知恵者であることも伝わってくる。
そしてパオっちとも変わらないであろう若き烈国士
これが魔術大国 アルジェント王国を支える都督
リクソン・ベタンクール
僕はまだまだこの大陸の広さをわかっていなかったのだ。
リクソン(したり顔で握手して「気づくんだ?」とか言ったけど、シリュウ准将の手ヤバいって……なんだよあの力…少し握ったつもりだろうけど、僕の手が折れると思ったよ……めっちゃ痛い……)




