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【閑話】ティオフィル・アンリの憂鬱な報告

烈歴98年 5月30日 深夜 アルジェント王国 王宮 特別軍事作戦室


魔術大国アルジェント王国の全ての中心である王宮の中でも、更に中枢の区画に位置する特別軍事作戦軍事室に、煌びやかな貴族衣装を身に纏う老齢の男、ミカエル・プラティニ公爵とプラティニ公爵の懐刀であるティオフィル・アンリはいつものように大きな会議机にたった2人で座り、向かい合っている。


アンリが皇国の外交使節団の護衛任務を終え、王に護衛任務の完了報告をし、双剛魔猿(ツイン・エイプ)に関する部隊内の情報操作を済ませた時は、もうすでに日付が変わろうという時間である。


主であるプラティニ公爵への報告を遅れたことを詫びるアンリ


「ご報告申し上げるのが、遅くなり申し訳ございません…」


「良い。報告は粗方王宮の文官より聞いておる。あのタレイランが逃した猿をお主の部隊でしっかり仕留めたようだな。褒めて遣わす」


上機嫌にアンリを褒めるプラティニ公爵


しかしアンリの表情が渋いことを不可解に思った。


「……いかがした?お主のそのような顔は珍しい」


プラティニ公爵の問いかけに、恐る恐る報告するアンリ


「……申し訳ございません。私の部隊で討伐したのは、皇国同意の上で私が行った情報操作であります。実際はパオ・マルディーニとシリュウ・ドラゴスピアの2人で双剛魔猿(ツイン・エイプ)を討伐せしめました…」


「…なんだと!?」


「そして皇国の皇妹…リータ・ブラン・リアビティより、『貸一つと交渉の席に着く用意がある』との伝言を承っております…」


「……タレイランの馬鹿のせいで私達が貸しを作ってしまったのか…忌々しい奴らよ…!」


タレイランの不始末に、悪態をつくプラティニ公爵


「…申し訳ございません…私の部隊で討伐できていれば…」


席から立ち上がり、頭を深く下げ謝罪するアンリ


しかしプラティニ公爵はアンリに対しては、怒りを感じていなかった。


「良い。お主の部隊は、外交使節団護衛用の部隊であり、Sランク魔獣を討伐する布陣を組んではおらぬ。それは無理難題と言うことよ。むしろ独断とは言え、皇国の将軍が討伐したという事実を隠せたのは見事な判断だ。これが他家に知られていれば面倒なことになっていよう」


「……勿体なきお言葉…!」


主から怒りを買うと思っていたアンリは、反対に褒めの言葉を貰い、少々面食らったが、自身の判断が誤っていなかったことに安堵した。


「…それにしても双剛魔猿(ツイン・エイプ)を2人で討伐するか…パオ・マルディーニとシリュウ・ドラゴスピアは、インペリオバレーナを討伐した2人組…さぞ見事な連携であったろう」


プラティニ公爵がそう推測するが、プラティニ公爵はシリュウが剛猿を、パオが魔猿をそれぞれ討伐したと疑っていなかった。


プラティニ公爵の様子を見て、おそらく勘違いしているであろうと気付いたアンリは、憂鬱な気分で報告を続ける。


「……あの……確かに連携は見事でしたが…違うのです…」


「何が違うのだ?」


「…シリュウ・ドラゴスピアが魔猿を…パオ・マルディーニが剛猿を討伐しました……」


「は?……はぁ!?」


あまりに非現実的な報告にプラティニ公爵は二度聞き返してしまう。


「馬鹿な!魔猿の外皮は大陸随一の硬さだ!インペリオバレーナに勝るとも劣らない程のはず…それに剛猿の魔力耐性もインペリオバレーナ程ではないにしろ…相当なものだ…」


「この目でしかと確認いたしました。パオ・マルディーニは風の魔術をうまく利用し、剛猿を川に落としめ、川の水を利用して水の檻を作り、その中で溺死させました。シリュウ・ドラゴスピアに至っては、正面から槍を突き、魔猿の腹を貫いていました……」


「…お、おう……ティオよ……冗談なら今の内だぞ…?」


「私も何度も夢であって欲しいと願いましたが、残念ながら今もその光景が脳裏に焼き付いております…」


「……そうか…良い。そなたを疑うわけではないのだ…その現実を疑っておる…」


「いえ、お気持ちは物凄く良くわかります。実際に目にした私も未だに信じられません…」


「……よく考えればパオ・マルディーニは報告以上に魔術の技量が高いという範囲で済むだろう…しかし…」


「ええ、閣下の思う通り、シリュウ・ドラゴスピアに関しましてはどうしようもありません」


「…その者の武が王国に向いたらどうなると思う?」


「魔猿の外皮をぶち抜く槍です。王宮の外壁なぞ、藁のようなものでしょう…」


「…だろうな…圧倒的な膂力…攻城戦なら大陸最強ではないだろうか…」


「間違いなく。それに対人戦の技量も未知数です」


「……あの者を抑える手立ては?」


「対立するなら毒か寝込みを襲う暗殺しか思いつきません。いや彼の者なら毒でも死なぬやも…そう思わせる程の生命力を感じます。魔猿の外皮をぶち抜いた後の感想が『手が少し痺れた』ですから…」


「……つくづく冗談のような人間だな……もはや人であるかすら怪しい…」


「ええ、しかし手立てはありそうです」


「ほう?何であろう?」


「シリュウ・ドラゴスピアは良くも悪くも16歳の少年の内面を持っています。そして理由は不明ですがタレイランをひどく嫌っているようでした。『ぶっ飛ばしてやろう』と言うほどの感情でした。おそらくシリュウ・ドラゴスピアの内面は善性であると考えられます。あと妻のベアトリーチェ・ドラゴスピアを溺愛しているようでした。以上のことから戦闘以外では抑える手立てはありそうに思えます」


「なるほど…調略か…」


「ただリータ・ブラン・リアビティと非常に親し気でありました。シリュウ・ドラゴスピアはリータ・ブラン・リアビティのことを『リタさん』と気軽に呼ぶくらいには…」


「…シリュウ・ドラゴスピアはリータ・ブラン・リアビティの子飼いの将である可能性が高いな…」


「私もそう考えます」


シリュウとリタの分析を行うプラティニ公爵とアンリ


そして2人はとある結論を出す。


「交渉の席に着くと言ったな?おそらく現皇王と対立するのであろうな。そして皇国内の政争の分が悪いから、他国の勢力に協力を求めに来た…それでしかわざわざ皇妹が他国に赴いてまで交渉などすることでもない」


「事実、皇都の諜報員から政庁は皇王派と皇妹派で別れており、皇妹派が軒並み一掃されたと聞きます」


「ふむ、そして休戦条約更新の前に、王国と帝国に外遊か……着眼点は悪くない。そのリータ・ブラン・リアビティとやらも中々の策士のようだ」


「…では?」


「王の方針次第だろうな。皇国を獲るなら愚王の現皇王に在位してもらったほうが都合が良い。ただ手を取るならリータ・ブラン・リアビティに即位をしてもらい、強力な関係を構築するのが得策である」


「……すべては王次第と言うことですか…」


「現王は若いが聡い。私から進言しておく」


「お願いいたします。あの槍と相対するのは勘弁願いたいですからね」




プラティニ「もしシリュウ・ドラゴスピアとお主が相対するならどう戦う」


アンリ「私の土魔術で精いっぱいの土煙を生み出し、足が千切れる限り逃走します」

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