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第24話 四公とイデオロギー



王様のお出迎えの後、僕らはシャルル王から「まずは旅の疲れを癒してください。浴場も会食もご用意させていただいております」と気遣いを受け、まずは王宮に割り当てられたそれぞれの滞在する部屋に案内された。


リタさんと侍従のレジーナさんとモニカさんは特等の客室と思われる部屋へ入っていった。

(レジーナさんは侍従として随行しているが、本当の侍従はモニカさんだけらしい)


僕とビーチェも割り当てられた部屋に入り、荷物を置いた。


そして、荷物を置いたらすぐリタさんの部屋に来るように言われたので、急いで向かう。


リタさんの部屋には、すでに僕とビーチェの他に、パオっちとリアナさん、アウレリオ准将とサルトリオ侯爵が待っていた。


「揃ったわね。じゃあまず王国での目的の説明とこれからの行動方針について共有しようかしら」


リタさんが切り出す。


これは、皇国としての話ではない。


皇妹派としての話し合いだ。


「まず王国には王家の他に力を持つ四公爵家があるわ、四公なんて呼ばれているみたいね。今回は王家を含めた5勢力に接触し、皇妹としての私個人の勢力に協力してくれる勢力を探すわ」


「……5勢力すべてですか?本日5月30日を含めても滞在予定日の6月4日まで6日しかありませぬが?」


ビーチェが少し戸惑いながら聞く。


「可能な限り接触出来たらいいなと思うわ。現実として5勢力全てに接触することは難しいでしょうし、どこかで取捨選択は迫られるわ」


「なるほど…」


リタさんは王国滞在中に、皇妹としての公務をこなしながらそれを成そうとしている。


しかしここで僕は聞いておかなければならないことがある。


「その四公について詳しく聞かせてください」


「シリュウちゃん?意外ね、あなたから勢力について質問するなんて」


僕が関心を持つことに少し驚いているリタさん


まぁ普段ならこういうことはビーチェに任せるが、今回ばっかりはそうはいかない。


「まぁいいわ。四公は今日同行していたアンリ司令官属するプラティニ家、皇国に接する大領地を持つタレイラン家、大陸で一番魔術の研究をしていると言われているポアンカレ家、王国の金融と貿易を司るピケティ家の4つよ」


やはりいるのか。


「確認させてください。皇妹殿下はこの4勢力と手を組む可能性があるということでしょうか?」


「いやね、シリュウちゃん、そんなに畏まっちゃって」


リタさんが揶揄うよう言うが、僕は真剣な眼差して返した。


「……どうしたの?…可能性としては否定できないわ」


「では一つ言っておきたいことがあります。もし皇妹殿下がタレイラン公爵家と手を結ぶのであれば、僕は皇妹派には決して与しない」


「「「「「!?」」」」」」


僕の発言に、この場にいる全員が驚く。


「シ、シリュウや…?どうしたのじゃ…?タレイラン公爵に何か恨みでもあるのかや?」


ビーチェが心配そうに言う。


でも真実は明かせない。


カルロ君の命を危ぶませたのがタレイラン公爵だということは僕とシルベリオさんとオルランドさんしか知らないのだ。


ビーチェが知る必要もない。


傷つくだけだ。


「ごめんね。理由は明かせない。でも僕はタレイラン公爵だけは絶対に許せない」


「………ライモンド…タレイラン公爵は至高派だったわよね?」


リタさんが険しい表情でサルトリオ侯爵に問う。


「そうでございます。あとピケティも至高派ですな。ポアンカレは中立、ボナパルト王家とプラティニは共生派でございます」


「なら問題ないかしら?タレイランは切っても?」


「……理由もなく選択の幅を狭めるのはあまり感心はしませぬ。せめて理由だけ伺っても?」


サルトリオ侯爵が僕に問う。


でも僕は答えられず俯く。


「……どうしても話せないことなの?シリュウちゃんらしくないわ」


リタさんが困ったように言う。


するとビーチェが僕の手を握り、優しく言う。


「……シリュウのことじゃから、きっと妾のためなんじゃろう?」


「!?」


「妾にはわかるのじゃ。きっと理由を明かすと妾が傷つくと思っておるんじゃろ?でも大丈夫じゃよ。シリュウ、そなたがそう気遣ってくれるだけで十分じゃ…」


「…ビーチェ……ありがとう……理由をお話します…」


「無理しない範囲でいいわ?ゆっくり話してちょうだい」


リタさんが優しく言ってくれる。


その表情は僕を心配しているようだ。


そして僕は、意を決して、理由を話す。


「……タレイラン公爵家は、ビーチェの弟、カルロ・ブラン・サザンガルドに毒を盛りました」


「「「「「な…!!!???」」」」


驚愕する一同


ビーチェも「えっ」と小さな声で驚いている。


「さらにその毒の解毒薬と引き換えにサザンガルドの無血開城をサザンガルド領主シルベリオ・フォン・サザンガルドに迫りました。カルロ君は活力剤のおかげで回復しておりますが、僕はタレイラン公爵家を決して許すことはできません。これが僕が皇妹殿下がタレイラン公爵家と組めば、皇妹派に与しない理由です」


「「「「「……………」」」」」


僕の告白に一同は静まり返っている。


ビーチェは小さく俯いている。


「……黙っていてごめんね……ビーチェ…」


「……シリュウはいつ知ったのじゃ…?」


「…オルランドさんと共に、シルベリオさんのところに初めて行ったときだよ……ほらビーチェは付いてきたらダメって言われた時に」


「そうか…あの頃から…そうじゃったのか……」


ずっとビーチェに秘密にしていた。


「……その話…裏は取れる?」


「はい。サザンガルド領主のシルベリオさんに確認していただいて結構です」


「…まぁシリュウちゃんがこんな噓をつくはずないか」


そう言って、少し考え込んだリタさん


そして


「わかった。シリュウちゃんの言うことを飲むわ。私達が交渉するのはタレイラン公爵家を除いた4勢力よ」


「「「「「……!」」」」


「確かにタレイラン公爵家は皇国と接するから、ここと協力できたら大きかったけど…そもそもそんな外道と組みたくないしね。ベアトちゃんの弟を殺そうとしたんでしょ?むしろ接触する前にそういう勢力だとわかって助かったわ」


「あ、ありがとうございます!」


「ふふふ、シリュウちゃんが何を言い出すかと思ったら、結局はベアトちゃんのためなのね。格好いいじゃない」


「い、いや……そうでも…」


「おお!皇国の若き英雄は、妻のために、皇族の選択を左右させた!権力に媚びないその想いに妻はどれほど喜んだであろう…!」


相変わらず芝居のようにいうサルトリオ侯爵




そんなことよりビーチェの様子はどうだ?


そう思ってビーチェの方を向くと、ビーチェが僕の胸に飛び込んで来た。


「…ビ、ビーチェ…?」


「ずっと…ずっと…苦しかったじゃろう…妾のために黙っていてくれてありがとう…妾は大丈夫じゃよ。シリュウが妾のために、ずっと…ずっと…今も…皇妹殿下をも説き伏せて……妾のために…」


ビーチェは僕の胸で涙を流しながら、僕への感謝を伝えていた。


僕はビーチェの背中をさすりながら、ビーチェが落ち着くまで抱きしめていた。


ビーチェが落ち着き一連の話しが落ち着いたため、リタさんは次の話題へ進む。


「となると…あとの4勢力ね……プラティニ公爵家は間違いなく接触できるわ。アンリ司令官はどう?信頼できそう?パオ少将とシリュウちゃんはどう思う?」


「にー。なんか真面目な人だったろんね。腹芸はできるタイプじゃないろん」


「アンリ司令官はタレイラン公爵家を嫌っていました。タレイランとプラティニは仲が悪そうでしたよ?パオ少将の言う通り、裏がありそうとは感じなかったし、仲良くなれそうな感じはしました」


「ふむ。2人が言うのならまずはプラティニ公爵家から交渉してはどうだろう?二人の活躍で貸しができたことだしな」


アウレリオ准将がそう提案する。


「そうね……でも王家との会談も並行して、後の2つポアンカレとピケティと接触する手がかりが欲しいわ…」


「しかし、その2つとは繋がりがありませんな。どう接触していいものやら」


リタさんとサルトリオ侯爵が悩んでいると、意外なところから提案が出た。


「あ、あの……ご提案させていただいてもいいでしょうか…?」


「あら?リアナ少尉じゃない?いいわよ?どんどん言ってちょうだい」


「ピケティはあまり海軍の中でも評判が良くありません…守銭奴の権化のような家です。何度か海戦したことはありますが、海に落ちた人より財物を優先して回収するような人達でした……その手を組むってのは海軍の人間としてはあまりいい心情を持たないです…」


リアナさんがおずおずと言う。


「あれってピケティだったおろろん?あれはとんでもないやつらじゃもん。オイラが海に落ちている船員をわざわざ届けたのに、「食い扶持が増える」とか言って拒否しやがったにー。オイラもあいつら嫌いだろんね」


「……ピケティも…至高派?」


「そうでございます」


「は~至高派には碌な奴らがいないのね。よくわかったわ」


リタさんが溜息をつきながら言う。


そのさっきから聞こえる至高派と共生派ってなんだ?


「すみません。その至高派と共生派って何ですか?」


僕が質問する。


「王国にあるイデオロギーだよ」


「いでおろぎー?」


サルトリオ侯爵がそう言うが聞きなれない言葉だ。


そんな僕を見かねて、サルトリオ侯爵は更に説明してくれる。


「簡単に言うと思想や信条のことさ。至高派は『魔術師こそが至高で魔術の才を持たないものとは一線を画する存在だ』というイデオロギーで、共生派は『魔術師もそうでない人も共に生きていることで国は発展する』というイデオロギーだ。今王国を二分しているのがこの2つのイデオロギーなんだ」



思想で国が分かれるのか。


「整理するとタレイランとピケティが至高派、王家とプラティニが共生派、そしてポアンカレが中立派だな。こうして考えるとまずは王家とプラティニに交渉を持ち掛け、ポアンカレとの接触を試みるのはどうだろうか」


アウレリオ准将がリタさんに提案する。


「そうね。その方針で行きましょう。ただタレイランは切るとして、ピケティは会えるなら会ってはおきたい。ごめんね?リアナ少尉」


「い、いえ!とんでもございません!…あとポアンカレと接触する方法があるかもしれません」


リアナさんが更に提案する。


「…え!?なになに?そんな方法があるの?」


「はい。ポアンカレは魔術の研究に命を懸けているといっても過言ではない勢力です。なのでパオ少将に会えると言えばポアンカレは必ず食いつくと思います。パオ少将は、王国の魔術師の常識を破る存在ですから」


リアナさんから意外な提案


パオっちをダシにするなんて


当のパオっちは平然としているから、リアナさんの提案は嫌でもないようだ。


「…妙案ですな。さっそくポアンカレの家に文を出してみましょう」


サルトリオ侯爵がリアナさんの提案に感心している。


「パオ少将、問題ないかしら?」


リタさんがパオっちに確認する。


「問題ないにー」


「じゃあ方針は決まったわね。王家とプラティニは協力関係を構築、ポアンカレはまずは接触し組むに値するか確認する。ピケティは機会があれば、交渉の席には着くわ。タレイランはあちらから接触があっても無視する。これで行くわね」


王都でも方針が決まった。


まぁここまできたら僕の出番はなさそうだ。


ビーチェとイチャイチャしながら、皆の応援でもしていよう。






シリュウ「リアナさんがパオっちをダシに使うことを提案するなんて意外でしたね」


リアナ「そう?だって、ポアンカレは大陸一魔術を研究している勢力よ?そこにパオを送れば……」


シリュウ「送れば?」


リアナ「パオが大陸一の魔術師って証明してくれるじゃない」


シリュウ「なるほど、通常運転だ」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 リアナさんパオを釣り餌にするとか、なかなか軍人らしい判断も出来るじゃん…と思ったら只の旦那自慢だった件について。関心したぶんを返してくれww [一言] タレイランは…
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