第16話 皇国の現状と真実
アウレリオ准将の生い立ちと現在の状況を聞いた僕とビーチェとパオっちとリアナさんの4人はその壮絶な半生に絶句していた。
アウレリオ准将はたった一人で、それも8歳という幼い頃から、母を守るために、その身を削っていたのだ。
「…ベアトリーチェ嬢に求婚したのは、ベラルディ公爵から提案される縁談を断るための偽装だった。ベアトリーチェ嬢は有力華族令嬢にもかかわらず、一切縁談を受けないことで有名だったからね。それに軍都サザンガルドの武を司るオルランド・ブラン・サザンガルドの娘だ。その繋がりはベラルディ公爵からしても無視できない利益だったからね。おかげでベアトリーチェ嬢の求婚している間は、縁談を受けずに済んで助かっていたよ」
なるほど
だから謁見の時に僕を見て申し訳なさそうにしていたのか。
僕の婚約者であるビーチェを縁談を断る理由として利用していた罪悪感からきた表情だったのだ。
「……にー。リオリオはなんで結婚するの嫌だったろん?」
パオっちがアウレリオ准将に聞いた。
「決まっているだろう。私が結婚すると母を1人にしてしまう。そうなるとこれまで以上に母を守るのが難しくなるのだ」
なるほどね。
アウレリオ准将の優先順位の一番最初に母が来ているのだ。
結婚はベラルディ公爵との明確に安全に袂を分かつまでは難しいのだろう。
「や~ね~。30にもなる男がママ、ママって……」
「何とでもいうがいい。私には母しかいないのだ。それに私はまだ27だからな」
「…え!?アウレリオ准将は確かに30歳だと聞き及んでいますが…ファビオ中将と同い年では?」
アウレリオ准将の発言に驚くのはビーチェ
パオっちとリアナさんも驚いている。
それに対して涼しい顔で応えるアウレリオ准将
「公称はな。ベラルディ公爵の指示で私は10歳の時に、13歳として世に出されてからずっと年齢を3つ多くサバを読んでいる」
なんだって!?
「……と、とんでもないですよ…だってアウレリオ准将は皇都の華族学園の最高峰…セイト学園を主席で卒業していらっしゃいますよね!?」
驚くように問うリアナさん
「ああ、それもベラルディ公爵の要請だからな。血の滲むような努力をして主席を何とか勝ち取ったよ」
「…えぇ…つまりアウレリオ准将は、3つも年上の人達に囲まれながらも成績一番で学園を卒業したってこと…?…化け物じゃん…」
僕が若干引き気味に言う。
「ふっふっふ、誉め言葉として受け取っておこう。でも君には言われたくないな」
「それはそうじゃな」
「それはそうだに」
「それはそうです」
「ひどくない!?」
僕がビーチェ、パオっち、リアナさんの裏切りに心を痛めていると、リタさんが僕らに向けてお願いをする。
「まぁこんな事情で、このリオは大変不憫な子なのよね。でも見ての通りとびきり優秀だから仲良くしてやって頂戴ね」
「僕としては全然問題ないですけど…むしろ境遇は少し似ているので親近感が湧きました」
「ほう?どんなところが似ているのだ?」
アウレリオ准将が興味深そうに僕に聞く。
「自分の無力を悔いて、ひたすらに努力したところですかね」
「……!?……なるほど…無力感に悔いるか…未だに私は無力を感じているよ」
「でも皇妹殿下にサルトリオ侯爵もお味方なのですのよね?そんなに無力なのかなぁ…」
僕が疑問を呈していると、ビーチェも同様に疑問を呈した。
「……それになぜこのタイミングでアウレリオ准将の身の上話を?」
それに対してリタさんがにっこりと笑う。
「それはね、ベラルディ公爵がどれだけクソ野郎かシリュウちゃん達に知っておいて欲しかったのよ」
はぁ…それは伝わったけど、話はそれだけなのか?
「自らの悲劇も皇妹殿下の掌の上では所詮前座に過ぎない…おお…この哀れな青年を救いたまえ…」
相変わらず劇団のような話しぶりをするサルトリオ侯爵
この人絶対面白がっているよね。
「ふふふ、サルトリオ侯爵の言う通り、本題はここからよ?」
そう言うと、部屋の空気が引き締まった。
珍しくパオっちも姿勢を正して、皇妹殿下に向き合っている。
「この国はね、腐り始めているの。ベラルディ公爵のような外道が華族の最高峰にいる。パッツィ公爵もベラルディ公爵と変わりない外道よ?皇国最大の穀倉地帯を持ち皇国の食を支えていると言われているけど、パッツィ公爵は自領地で領民を奴隷のように扱っているわ」
「!?」
リタさんの発言に驚く僕
しかし驚いているのは、僕だけだった。
ビーチェもパオっちもリアナさんも苦い顔をしている。
知っていたのか。
「特に腐っているのは政庁ね。外交大臣のサルトリオ侯爵と商業大臣のアンブロジーニ侯爵はまともだけど他の大臣は汚職・腐敗の塊よ。省庁関係団体と癒着して、既得権益を貪っているわ。皇国民に使われるべき予算が、この腐った豚どもの懐に入っているの」
それはエクトエンドにいた頃にサトリの爺さんから朧気に聞いたことがある。
吐き捨てるように政庁に勤める人の悪口を言っていた。
「そしてすべての元凶は、この状況を見て見ぬふりをし、あまつさえ助長させている現皇王フェルディナンド・フォン・リアビティよ」
「「「「!!??」」」」
おいおいおい!?
皇妹殿下が皇王を名指しで批判!?
あまりに苛烈な発言に僕達4人は驚きすぎて声も出せなかった。
しかしサルトリオ侯爵もアウレリオ准将もただ頷くだけだった。
「皇王はね、自分に波風立たないように嫌なことからずっと逃げているの。耳障りの言いことを言う者を傍におき、諫言する者は遠ざける。そして側近の都合のいい傀儡に成り下がっている……この三国が…この大陸が……時代の大きな節目にある時に…」
リタさんは悔しそうに唇を噛み、拳を握り締めている。
「……でも謁見の時はシルベリオさんの陳情をすべて許可していたし、懐が大きい人なのだと…」
僕がそう言うと、ビーチェが首を振りながら言う。
「……黙っていてすまぬ…シリュウ…あれは伯父様が皇王様に陳情を認めてもらえるよう事前に政庁側へ賄賂を贈っていたのじゃ……あの一連の流れは茶番じゃよ…」
「え!?わ、賄賂!?」
「そうよ。この国では…いや政庁では意見を通すのに必要なのは論理ではなく、金貨なのよ。それがまかり通っているわ。それが先代皇王の時からもう数十年も続いている」
リタさんの発言が信じられず、ビーチェの方を見たが、ビーチェは俯きながら頷くだけだった。
本当のことなのか…
………なんてことだ…これほどまでの国の危機を僕は何も知らなかったのか…
「幸いにも軍に腐敗は及んでいない。そして優秀な軍人のおかげで防衛は何とか成り立っている。この国は皇国軍によって国家としての形を保てているのだよ」
サルトリオ侯爵が先ほどまでの劇団のような口ぶりではなく極めて真面目な口調で言う。
「でもここ数年は、財務大臣が軍の予算を削りに来たわ。軍の縮小を間接的に狙っているの。このままでは戦力縮小を見越した帝国と王国が攻め入ってきて、皇国が亡国の危機に晒されるかもしれないの」
「……フランシス中将が鉄甲船をサザンガルド家に売った理由がわかりました……それほどまでに海軍は予算を削られ困窮していたのですね…」
ビーチェが腑に落ちたように言う。
確かに鉄甲船なんて貴重な戦力を海軍が簡単に手放すわけはないか。
「そうよ。メディチ家には私があえて軍に投資させていないけど、そろそろそれも解禁しなければならないかもしれない。今回はシリュウちゃんをダシにメディチ家に護衛団の費用を出させたけどね」
「…え!?それって…計算だったのですか?」
「もちろんよ?まぁシリュウちゃんがひもじい思いをしないように!っていう気持ちはもちろんあるわ。でも本当にそれだけじゃ、シリュウちゃんだけに食事を多く割り当てたらいいだけの話じゃない?わざわざ物資を大量に積み込む必要なんてないわ」
た、確かに…その通りだ……もうリタさんの考えが全く読めなくなるな…
「今の皇王はダメ、パッツィもベラルディも腐っている。でもこの三者が固く結びつき合って強力な勢力になっているの。メディチ家は財政力では華族で一番だけども、流石に皇王と2公爵家相手には分が悪すぎるの。だから今のメディチ家は各方面に投資をすることで、疑似的に公共事業を行って、皇国の経済を支えてくれているわ」
「メディチ家は本当に華族の鑑のような華族だ……ベラルディ公爵にも見習っていただきたい」
そう吐き捨てるアウレリオ准将
「……では……この国はどうなっていくのですか…」
僕は不安に押しつぶされそうになりながらもリタさんに問う。
僕はトレスリーの悲劇の経験したことで、こんな思いを他の誰にもして欲しくないと思い、武を磨き、平和を成そうと海軍に入隊した。
しかし大陸の平和どころか、この国の平和自体が脅かされようとしている。
それも現皇王の手によって
僕が不安そうに尋ねる姿を見て、リタさんは立ち上がり、僕をそっと抱きしめた。
「私がこの国を守る。だから力を貸してちょうだい」
「……僕にできることはありますか?」
「もちろんよ。シリュウちゃんにしかできないことよ」
「……それは何でしょう?」
そしてリタさんは部屋を見渡して、力強く言う。
「戦よ。皇都を私達で獲る」
シリュウ「……とんでもない話になってきたね…」
ビーチェ「……皇国の腐敗は華族ならだれもが知るところじゃ…」
リアナ「うぅ……お給金が減っていたのはそういうことなんですね…新しい服や本が買えなくなっちゃう…」
パオ「ろん?オイラが全部買ってあげるじゃんもん。元気出すにー」
リアナ「あぁん♡もう、パオ!好き!ちゅっちゅっ!」
シリュウ「シリアス崩れるんで自室でやってくれません?」




