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第14話 龍槍ガルディウス

烈歴98年 5月24日 皇都 11区(民間港湾区)


王国と帝国の遠征前日、英気を養うため非番をもらった僕とビーチェはサザンガルドへ船で帰還するシルベリオさん、シルビオさん、アドリアーナさん、じいちゃんの見送りのため、11区に来ていた。


時刻はもう正午というところで、天気は快晴、まさに航海日和だ。


「お〜!鉄甲船購入の交渉うまくいったんですね!」


僕はサザンガルド組が乗り込む予定の鉄甲船を見て興奮する。


「ああ。滞在日を延長したことで帰還する日までに引き渡してもらえたよ。これもシリュウ殿のおかげだがね」


シルビオさんが僕の肩に手を置き笑いながら言う。


「いえいえ、シルビオさんの交渉あってのものですよ」


「はは、私はなんてまだまだださ。シリュウ殿がもたらしてくれた多くの手札があったからね。こんなものこどものおつかいと変わりあるまい」


「またまた〜」


フランシス中将相手にきっちりと要求を倒すのだから凄い人だ。


そんなシルビオさんが勝ち取った鉄甲船を前に各々が別れの挨拶をしている。


アドリアーナさんとビーチェが母娘の会話をしている。


「いい?ベアト、7月の結婚式までには体型を整えておくのよ?ドレスが入らなくなってしまうわ。私がいないからって暴飲暴食しないようにね」


「母様…妾を子供扱いするでないぞ!歴とした海軍少尉なのじゃ!」


「……あまりふくよかになったらシリュウさんに愛想尽かされるかもね……」


「ぎゃっ!なんて恐ろしいことを……シ、シリュウはそんな男ではありんせん!」


「馬鹿ね、シリュウさんも側室を持てる華族なのよ?その座を狙う泥棒猫は無数にいるわ。そんな子猫ちゃん達をしっかり退治できるように、女を磨いておきなさい」


「……うう……が、頑張るのじゃ…」


いや、大丈夫ですよ?


ふくよかなビーチェもそれはそれで可愛らしいと思うし。


母娘の微笑ましい会話を聞いているとじいちゃんが僕に声を掛けてきた。


「シリュウや、明日からは本格的に軍人として身を立てることとなろう。それも将校として人の命を預かる大変重い立場でのう」


「そうだね。人を率いるなんて初めてだから心配ごとばかりだよ」


「はっはっは!しかしどんな名将も誰しも最初はそうじゃ。儂もこの年なっても未だにどう人を差配して良いかわからぬ。人を率いることに対する正解など女神様しかわからぬじゃろうて」


将軍としての経験ならこの国1番であろうじいちゃんでさえ人を率いることの難しさを痛感している。


改めて自分の立場の重さに身が引き締まった。


「儂からは少し助言しておこう。戦場で修羅場になった時は、何を優先すべきかを考えるのじゃ。優先順位を見誤るでないぞ。そして仲間を信じることじゃよ」


そういうじいちゃんの目はかつて皇国を救った英雄の目ではなく、1人の祖父としての目をしていた。

 

「………その言葉、胸に刻んでおくよ」


じいちゃんから助言を受けていたところで、シルベリオさんが駆け寄ってきた。


それに従者の方が何人も付いて、従者の方は数人で何か布で包まれた細長いものを運んでいた。


「おお、シリュウ殿!ここにいたか」


「シルベリオさん!長らくお世話になりました」


「何、シリュウ殿からサザンガルドが貰ったものを思えば大したことはない。それでだ、我々サザンガルド家からシリュウ殿に贈り物があるのだ」


贈り物?


シルベリオさんがそう言って従者の方々に運ばせた細長いモノの布を取った。


「!?」


そこには僕の身の丈より少し長い重厚な槍があった。


柄は金色で塗装されて、所々に装飾が施されている。


穂は銀色と金色が混ざり合う色をしていて、先端が螺旋状になっている。


穂の根元には金色の毛の房の装飾もある。


それに穂の大きさが僕の僕の腕の程もあって、非常に大柄で重厚な大槍だ。


いや穂先の形はランスのようになっているが、意匠は矛のように見える。



僕が驚きながらその武器を見つめていると、シルベリオさんが説明してくれた。


「これは我がサザンガルドの鍛治技術の粋を集めて作成した、その名も『龍槍ガルディウス』だ。コウロン様にも監修していただきシリュウ殿のために誂えた武器だ。つい先日サザンガルドで完成させ、ようやく到着した。カルロの件から何もしてやれなかったから、せめてシリュウ殿の愛用の武器を贈呈したい」


なんと!


わざわざ僕のために作ってくれた槍なのか!?


「いえいえ!それにこんな凄い槍…いただいても?」


「もちろんだ。シリュウ殿のために用意したのだ。シリュウ殿はその常人離れした膂力ゆえに槍がシリュウ殿の槍捌きに耐えられないと聞いた。ゆえに最高硬度の鉱物をふんだんに使用し、決して折れない槍をコンセプトに作成したのがこの龍槍ガルディウスだ」


「意匠は私も考えたのよ〜。金色と銀色にしたのはシリュウさんとベアトの髪の色がモチーフなの。それにその毛はベアトの髪そのものよ」


「ぎゃっ!なんでそんなもの持ってるのじゃ!」


「あなたが長髪から今の髪型に変えた時に、記念に取っておいたのよ。未来の旦那様のアクセサリーに使えると思って。大正解ね」


「流石に恥ずかしいのじゃ…」


「それに金色の柄が支えてるなんてまるで貴方達みたいで素敵じゃない?」


「それはその……素敵じゃ…」


ビーチェが恥ずかしそうに頬に手を当てる。


そんな表情も愛おしい。


僕は差し出された槍を片手で掴んで、天に掲げて見た。


その姿に従者の方が騒ついた。


「嘘だろ……3人がかりでやっと持てたのに……」

「あの細腕にどんなそんな力が……」

「……しかも片手で……?」


ずっしりとした重量は感じるが、寧ろこれくらい手応えがあった方が振りやすい。


少し周りの人達と安全に距離を取って、槍を振ってみる。


じいちゃんからもらった刀の暁月は切れ味が良く、空気を切り裂く感触がしたが、この槍からは力強さを感じる。


硬度にこだわってくれたと言うが確かに、この槍はどんなに無茶しても折れなさそうな気がする。


この槍があればインペリオバレーナの外皮も貫けただろう。



「はっはっは!やりおるのう!儂もその槍は振るうと腰にきそうじゃったわい!成長しておるのう!」


じいちゃんが豪快に笑う。


「……シルベリオさん、素晴らしいです。この槍ならどんな敵も貫けそうだ」


「遠征前に間に合って良かった。王国と帝国でも気をつけてな」


「はい。でもこの槍を振るう時なんてきっと禄でもない事態になってるでしょうね」

 

「ふっ、違いない」


そう言ってシルベリオさんが微笑む。


初めて会った時はこんな仲になるとは思わなかったが、人生何があるかわからないものだね。


「7月の結婚式の際にまた会えるのを楽しみにしている。それと招待したい人がいればその都度文で知らせてくれ。こちらから招待状を出しておこう」


「おお、何から何まで!ありがとうございます!」


「それと言っては何だが、一つ頼みがある」


「なんでしょう?何なりと」


「実は今年の8月にサザンガルドで大規模な武術大会が開催される。5年に一度の催しで、皇国中から腕自慢が集まってくる。16歳以下の弟子の部と、年齢制限がない達人の部がある。シリュウ殿は16歳だが、達人の部に出て、優勝してほしいのだ。サザンガルドに連なる者にこんな強者がいると見せつけて、サザンガルド家の権威を高めたいのだ」


ああ、あのビーチェが弟子の部で優勝したっていう武術大会か。


そんなことならお安い御用だ。


「そんなことでいいなら。ビーチェの夫として恥ずかしくないように頑張りますよ」


僕はそう言ってシルベリオさんと握手を交わす。


「ありがとう。シリュウ殿なら心配いらないだろう」


シルベリオさんがそう言ってくれるが、まだ見たこともないような武術師もたくさんいるだろう。


ビーチェの実家であるサザンガルドのお膝元で負ける気はないが、万全を期して臨もう。


「また稽古しておきますね」


「シリュウなら優勝間違いないのじゃ。他の参加者が可哀想になるくらいにの」


「必ず優勝するよ、ビーチェのために」


僕は必ずその大会で優勝して、ビーチェがこんなに強い人と結婚したんだと知らしめるんだ。



遠征から帰ったら鍛錬の量を増やさないとね。


そんな新たな目標を胸に、僕はビーチェと共にサザンガルドは向かう船を見送った。


シリュウ「武術大会ならファビオ中将とかすっ飛んで来そうなんだけど…流石にあの人相手じゃ優勝の確約はできないなぁ」


ビーチェ「大丈夫じゃ、ファビオ中将は前回大会の優勝者で、歴代優勝者は出場できぬのじゃ。軍関係者で参加権があってシリュウと並ぶほどの武術師はマリオ・バロテイ将軍くらいじゃがマリオ将軍は前回準優勝して今後は出ないと公言しているのじゃ」


シリュウ「ふーん、でもまだ見ぬ強者がどこかにいるかもね。油断せず鍛錬はしておこうかな」

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