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第11話 皇妹殿下とのお茶会(強制)


烈歴98年 5月22日 海軍本部 准将執務室


初任務の指令が出て早3日


僕とビーチェは、王国と帝国への遠征のために必要な準備に追われていた。


まず持参品の確認や編成された兵士の確認、当直、進路、護衛の際の注意事項など頭に入れることは山ほどあった。


指令が出た日からほぼこの准将執務室でビーチェと2人で缶詰になり、大量の資料に目を通すのと同時に、決裁といって、僕の許可出すための裁定行為を、部下が求める度に、書類に署名をしていった。


内容はもうわからないから、アイコンタクトでビーチェに伺いながら行っていた。


将校って武力だけじゃダメなんだと痛感した。


パオっちもこんな職務をしているのかとパオっちに聞いたら、どうやらほぼリアナさんに丸投げして、署名だけしているらしい。


部下の人もそれがわかっているからパオっちへの案件は直接リアナさんに持っていくようだ。


それでいいのか海軍少将


ある意味でリアナさんは海軍少将以上の権力をもっているのであった。




あと僕達しなければならないのはドラゴスピア家の本拠を皇都に用意すること。


今はサザンガルド家のセイト政務所にお世話になっているが、いつまでもお世話になるわけにはいかない。


サザンガルド家から独立した屋敷を構え、使用人を雇い、ドラゴスピア家を運営していかなければならない。


その為に、まず皇都でいい屋敷はないかと、昨日華族御用達の不動産屋をシルベリオさんの紹介で訪ねて行った。


いい条件の屋敷を探してくれるということで、僕たちが遠征から帰った頃には見繕ってくれるらしい。


インペリオバレーナ討伐の功績で多額の臨時収入が入っていたので、予算も十分だし問題ないだろう。


また使用人は、メイドはシュリットが、護衛騎士はリナさんがドラゴスピア家へ移籍してくれるらしい。


両人ともビーチェと長い付き合いだからとても安心だ。


あともう少しの使用人と護衛騎士、そして家を取りまとめる家宰、そして会計役が必要だそうだ。


屋敷の維持費用と使用人の給金はドラゴスピア家当主子爵としての俸禄と海軍准将としての給金を合わせれば十分対応可能なので、すぐには必要ではないが、いい人材がいたら勧誘しておこう。


そんなこんなで忙しい日々を過ごす僕とビーチェだった。


この日もいつものように、遠征の資料の確認と決裁を行っていたところ、僕の執務室に駆け込んでくる人がいた。


「シ、シリュウ准将!失礼します!」


「ダニエル中尉!どうしたの?」


入って来たのは僕の直属の部下 海軍第一艦隊所属 第二特務部隊 隊長代理兼第一小隊長のダニエル・ロッシ中尉だ。


特務武官として入隊した僕は海軍第一艦隊の第二特務部隊という組織を預かることになった。

(ちなみに第一特務部隊はパオっちの部隊)


第一小隊から第三小隊まで各10人の准将直轄部隊で、僕の就任とともに新設された部隊らしい。


僕が隊長でビーチェが隊長補佐、そしてこのダニエル中尉が隊長代理という役職で、実質的に僕の代わりに隊を運用する重要な役になってくれる人だ。 


そして第一小隊の隊長でもある。


ビーチェが僕の右腕なら、ダニエル中尉は左腕と言っても過言ではない人なのだ。


「こ、皇宮からシリュウ准将へこの招待状が届きまして、急ぎ確認するようにとのこと!」


「ありがとう。…皇宮?嫌な予感しかしないけども」


「うむ。政庁ではなく皇宮じゃと?ご丁寧に皇家の紋章で封緘されておるのう…」


「とりあえず開けてみるか……え~と……何々…長ったらしい挨拶は無視して……要点は…ここかな…」


華族の招待状の前半部分は時世の挨拶がほとんどで、要点は大体後半に書いてある。


ここ数日ひっきりなしに僕に皇都中の華族からお茶会や晩餐会のお誘いが届くから慣れてしまった。


任務の準備もあるから片っ端から断っているが、明日はルイーゼ男爵とトスカとともにメディチ公爵が主催する晩餐会に出席する予定だ。


トスカとルイーゼ男爵にも会いたかったし、メディチ公爵にも色々お世話になったしね。


唯一招待に応じる気になったので、参加することにしたのだ。


「………ぜひ貴殿の武勇伝を直接お聞きしたいので、多用中、誠に恐縮ではございますが皇宮 東宮にて5月22日15時より開催するお茶会へご来臨の栄を賜りたく 謹んでご案内申し上げます……リータ・ブラン・リアビティ………」


「……ほぇぇえ?」


ビーチェが素っ頓狂な声を出す。


「……ぐふっ……」


ダニエル中尉が気絶した。


「今日何日…?」


「5月22日じゃな…」


「……今何時…?」


「……13時28分じゃ……」


「ちなみにダニエル中尉…この招待状って…」


「……先ほど海軍本部に届いたものを大急ぎでお持ちしました」




ということは





「こんなギリギリに招待状なんて出すなよ!!!もおおおおお!!」


「急ぎ支度せねば!!!!」


僕とビーチェは大きな声で叫びながら、お茶会に参加すべく大慌てで、執務室を後にする。


一言だけ言い残して


「あ、今日の分の残りの書類はダニエル中尉に一任するね。全部僕が追認しておくから」


「ええええええ!!!???」


ごめんね、ダニエル中尉


恨むなら皇妹殿下ね



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


皇妹殿下のお茶会に参加すべく、大急ぎでセイト政務所に帰り、軍服からお茶会用の礼服に着替えた僕らは、皇宮へ向かう馬車で息を整えていた。


「ぜぇぜぇ…これならなんとか間に合うかな…」


「はぁはぁ…な、なんとか間に合うじゃろう…」


ここまで一心不乱に帰宅し、着替えをしたから、お茶会の内容とか皇妹殿下の意図とかもうどうでもよくなっていた。


皇族から招待されたお茶会を欠席するのはありえないことと僕でもわかるが、こんな直近に出す方も問題ではなかろうか。


「……まぁ皇妹殿下の意図を考えても仕方あるまい。成るようになれじゃ。妾達など皇妹殿下の掌の上じゃろうて。小賢しいことはせずに、堂々と相対するしかなかろう」


「それもそうだね…はぁ…でも間に合いそうで良かった…」



やがて馬車は皇宮のさらに奥にある皇妹殿下の生活居住区である東宮へと入っていった。


大きな建物の正面玄関に到着したところで、馬車が停まったので、僕らは下車した。


そこには10人以上のメイドさんと5人くらいいる執事の方が綺麗に整列して待ち構えていた。


「シリュウ・ドラゴスピア准将及びベアトリーチェ・ドラゴスピア少尉ですね。急なお誘いにもかかわらず応じていただき誠にありがとうございます」


そう言って執事の方の一人が僕らの前で礼をした。


いやほんとにね。


次からはちゃんと頼むよ?


「これはご丁寧にありがとうございます。妾達も皇妹殿下といつかお話できる機会を望んておりました。何か手違いでこちらが招待状に気付くのを遅れましたこと、お詫びいたします」


おお、流石ビーチェ、大人だ…


それに招待状は皇妹殿下が遅れて出したのではなく、何かの手違いでこちらが気付くのが遅れたことにして、皇妹殿下側を庇うとは…


「……いえ、…その…手違いでありません……本当につい先ほど招待状を作成し、送付しましたゆえ……」


執事の方が凄く言いにくそうに言う。


「……まさか今日のお茶会は…?」


僕が恐る恐る執事の方に聞くと


「皇妹殿下の公務の1つが急遽取りやめになり、皇妹殿下の体が空いたため、急遽お茶会をしたいと言い張り…もう取りつく島もなく…」


ビーチェのフォローも台無しだよ。


ビーチェも笑顔ではあるが、額に青筋を浮かべている。


それに執事の方もメイドの方も良く見たら皆肩で息しているし、汗をかいている。


ああ…あなたたちも被害者なのですね……


僕はそっと執事の方の肩を叩き労った。


「大変でしたね……お疲れ様でした」


「…!おお!…わかってくださいますか…誠にありがとうございます…」


執事の方が泣きながら僕の手を握った。


普段からどんだけ苦労させられてるんだろう……


もう怖いよ、皇妹殿下


エンペラーボアやインペリオバレーナと相対する時よりよっぽど怖い。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


従者の方に案内されたのは、東宮の中庭だった。


その中庭は煉瓦の通り道が十字路にあり、中央は広場のようになっていてそこにお茶会用テーブルと椅子が設置されていた。


煉瓦の通り道以外は、一面に色とりどりの花が植えられていて、まるで楽園のような景色だった。


中央には薄紫のドレスを着た美しい女性とその女性より少し小柄で白いワンピースのようなドレスを着た少女が立っていた。


「招待に応じてくれて、ありがとう。私はリータ・ブラン・リアビティ、現皇王フェルディナンド・フォン・リアビティの妹よ」


この人が皇妹殿下


溢れ出る気品に、美しい金髪、魅惑的な女性的な体つき、魅力の塊のような人だ。


「お招きいただきありがとうございます。僕はシリュウ・ドラゴスピアと申します。皇国海軍にてお世話になっています。こちらは妻のベアトリーチェ・ドラゴスピアで、同じく皇国海軍にお世話になっています」


「ベアトリーチェ・ドラゴスピアと申します。皇妹殿下にご挨拶申し上げます」


「あらあら?あのサザンガルドの剣闘姫ね?こんなに美しく成長したなんて」


「勿体なきお言葉でございます」


「若干14歳にしてサザンガルド大武闘演舞の弟子部門で女子の身ながら優勝した時は華族令嬢の憧れだったのよ?それが嫁に行くなんて少し残念だと思ったけど、こんな素敵な旦那様なら納得よね」


おお、流石ビーチェ


サザンガルドの剣闘姫の由来はここからきているのか。


「我が夫、シリュウは皇国一の武術師でございますが、妾が惚れたのはその人柄にございます。誤解なきよう」


「ふふふ、わかっているわ。あなたたちの仲の良さは色んなところで聞くものね。それでいつまで黙っているつもり?ご挨拶なさい」


皇妹殿下に促されて隣に立っていた小柄な少女が挨拶をする。


皇妹殿下と同じ金髪で、こちらはまるでお人形のような儚い雰囲気を醸し出している。


触れれば折れてしまいそうなくらい華奢な体だ。


「………ルナ・ブラン・リアビティ……です…」


「この子は私の娘よ。こう見えてもう18歳にもなるのよ」


うっそぉ!!


まさかの年上ぇ!


12、3歳にしか見えないって…


「社交の場に滅多にご出席されないルナ様にお目通りいただき光栄にございます」


「まぁこの子この性格だしね。そんなことよりお座りなさい。さぁお茶会を始めるわよ!」


「え?他の参加者を待たなくて良いのですか?」


「そうよ?だって私達4人だけのお茶会だから」



えー本当に僕達とだけ話したかっただけなのぉ?









ダニエル中尉「うぅ……シリュウ准将に任されたけど、どうすれば…そうだ!リアナ少尉に助言をもらおう!普段からパオ少将の案件を処理しているし、すみません!リアナ少尉はいますか?」


ガチャっ(扉を開ける音)


リアナ「ねぇ?パオ、さっき女性士官と話していたよね?ね?私以外の女性と私の許可なく喋るなんて、浮気じゃない?ねぇ?」


パオ「ひょえ……」


ダニエル中尉(俺は何も見ていない…見えていない…)




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― 新着の感想 ―
[良い点] 連投お疲れ様です。 前の話でさらっとシリュウと皇家の繋がりの可能性が示唆されたと思ったら、急に御呼び出しですか…。皇妹が何考えてるか解らんし、皇都に来てからホントにお話が加速してますなぁ…
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