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【閑話】ドラゴスピアの再来~各方面の反応


烈歴98年 5月18日 帝都 シュバルツスタッツ 帝宮 帝国軍本部 特別作戦室


この大陸の雄である帝国、その屋台骨となっている大陸最大の軍事力を持つ帝国軍


その帝国軍の中枢を担う早々たる烈国士がこの作戦室に緊急に集まっていた。


その中でも抜きんでいる存在感を放つ将軍が2人



帝国にて特に武勇に優れた者として皇帝直々に贈られる称号「十傑」の冠する2人の将軍だ。


熊のような体格、肩までのある黒色の長髪、鎧のように纏われている筋肉、それでいて帝国の軍略を一手に担う頭脳を持つ。


十傑序列第3位 帝国軍 総司令 『黒狼』フリッツ・バルター 


小柄な体格だが、その技量は帝国一番とも称される黄金に輝く髪を靡かせる若き将軍


十傑序列第10位 帝国軍 将軍 『金鷲』メスティ・エジル


その2人を始めこの作戦指令室に集まった面々は皇国に駐在する諜報員からの報告書を、真剣な眼差しで読み込んでいた。


重々しい雰囲気の中、口を開いたのはメスティ・エジル将軍だ。


「これ本当に内容合ってるの~?俺っちより10も下のガキがインペリオバレーナを討伐したって、嘘じゃないの~?」


エジルのいちゃもんのような指摘に、この報告書を提出した情報部長は謙りながら答えた。


この情報部長はエジルより20歳も年上だが、この帝国軍では『十傑』より尊い存在はいないので、エジルの失礼な態度も誰も問題にはしない。


「はっ!討伐した事実の真偽はさておき、皇国からの公式発表であることは間違いありません」


「ほんとに~?インペリオバレーナってSランク魔獣の中でも弱い方なんじゃん?俺っちこの前Sランク魔獣の討伐任務に行ったけど、1人で狩るにはだるすぎるくらい強かったぜ?」


「……はっ…」


エジルの言いように答えに言いよどむ情報部長


それを察してこの場で最も発言力のあるバルターが答えた。


「残念ながらインペリオバレーナとお前がこの前部隊総出で狩った『王猿』は比べ物にならないくらいインペリオバレーナの方が厄介だ。何せ海の魔獣でありながら、魔力耐性が尋常ではなく、魔術が一切通らない。あのパオ・マルディーニでさえインペリオバレーナ戦では支援に回ったと聞く。この情報が真ならこのシリュウ・ドラゴスピアなる人物の実力はエジル程度ではどうにもなるまい」


「え~!?それはないぜ!バルターの旦那!俺っちだって十傑なんだぜ?」


「ギリギリの第十位のな。貴様程度の替えはいくらでもいる。いい加減自分の実力を過信せず謙虚に稽古しろ。出なければ、戦場ですぐ死ぬぞ。戦場で死んでいくのは弱い者ではなく、過信した者だ」


「けっ!まぁ俺っち?そんな本気出してないし?そのうちバルターの旦那も唸らせるから楽しみにしておいてよ!」


「期待しないで待っておく。して問題はこの公式発表の真偽だ。皇国が権威高揚のため、わざわざあのドラゴスピアの孫を引っ張り出して、功績をでっちあげたというのが、我々にとっての最良の真実だ。しかしこの公式発表が真実というのが我々にとっては最悪のケースになる。なにせ若干16歳にして、十傑と同等以上の武力を持つ烈国士が皇国に現れたのだからな。しかも休戦条約が間もなく期限切れになるという時期に」


そう言うバルター将軍に情報部長が進言する。


「わ、我々としましても、これはあまりに皇国に都合が良すぎると考えております。ここ数年は皇国内にて我が国への侵攻論が盛り上がっていました。その時期にこのような人物が現れるなど…なので我々情報部としては、我が国への侵攻を踏まえた権威高揚のための皇国の情報操作の可能性が高いと見ております」


「ふむ…浅いな」


情報部長の分析をバルター将軍が一刀両断する。


「…!?も、申し訳ございません!何か不備でも…」


「貴様らの言う通り、これが情報操作なら、なぜこのシリュウ・ドラゴスピアなる人物は()()()准将なのだ?我が国への侵攻なら目的地はまずインバジオンしかない。そこは陸路でしか到達できぬ。ならばこのシリュウ・ドラゴスピアは陸軍、もしくは皇軍に入隊しているはずだ」


「…あっ…!」


「武術師が活きるのは陸、それは自明の理だ。しかしこやつは相当な武術師にもかかわらず海軍に入っている。明らかに皇軍や陸軍の方が活躍の場が多いのにもかかわらずだ。海軍に入っているという事実は、このシリュウ・ドラゴスピアか別の者の強い意志を感じる。そしてそれを()()()()()()()()。この状況からはこのシリュウ・ドラゴスピアはそれを許されるだけの事情を有しているということ…つまり…」


「で、では…バルター総司令は…この報告が…皇国の公式発表が…」


「十中八九、真だろうな。残念ながら」


「マジかよ!…でもバルターの旦那が言うにはマジなのか…」


「それにもう一つ根拠がある」


「お?まだあんのか?旦那」


「こやつがコウロン・ドラゴスピアの孫ということだ」


「ドラゴスピア?あ~あの昔の大戦で活躍したって皇国の将軍か。でもあれってそんなに大したことない戦いだったんだろ?そんなチンケな戦いで活躍した将軍なんて大したことないじゃん」


「そう伝えるようにした。帝国内にはな」


「え…?」


バルターの発言に驚くエジル


情報部の面々も若い将校は首をかしげているが、年齢を重ねている将校は一様に渋い顔をした。


「25年前の第3次烈国大戦のノースガルド戦役のことは、帝国内では最終的に天候不順により撤退したとなっている。しかしその実はコウロン・ドラゴスピアにより、粉砕されたのだよ。しかも戦略や戦術ではなく、圧倒的なこのコウロン・ドラゴスピアの武によってな」


「マ、マジ…?」


「現場にいた私が言うのだ。それにコウロン・ドラゴスピアも目の当たりにした」


「ど、どんなだったのさ?」


「ふっ…思い出したくもないが、あれはまさに戦鬼、未だに拭えぬ悪夢の一つだな。それの孫ならインペリオバレーナを討伐しても驚きはないくらいに」


「……ふへぇ…旦那がそこまで手放しに誉めるのも珍しいじゃん…」


「……貴様もすぐにわかるだろう。ドラゴスピアに遭えばな。して情報部はこのシリュウ・ドラゴスピアの情報収集を最優先にせよ。可能であれば帝国に取り込むのだ」


「はっ!」


バルターの指示を受けて、情報部の面々は駆け足で部屋を出て行った。


エジルも情報部にさらにシリュウ・ドラゴスピアの話を聞こうと、情報部について部屋を出た。


そして部屋に残されたバルターは、窓から空を見上げながら1人呟いた。


「…シリュウ・ドラゴスピアよ…貴様はこの大陸に何をもたらす…平和か…さらなる戦乱か…」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


烈歴98年 5月18日 アルジェント王国 王宮 特別軍事作戦室


煌びやかな貴族衣装を身に纏う老齢の男ミカエル・プラティニ公爵と高官しか着用が許されない軍服を着ている壮年の男プラティニ公爵家筆頭司令官 ティオフィル・アンリが、大きな会議机にたった2人で座り、皇国の諜報員からのシリュウ・ドラゴスピアに関する追加の報告書を眺めて向かい合っている。


「閣下…皇国のこの公式発表は…」


「…忌々しいが情報操作をするほどあの国は器用ではあるまい。おそらく真だろう」


「私も同じ見解です」


「にしても、16歳だと?まだまだ子供ではないか。それがインペリオバレーナを討伐し、皇国海軍准将などと…我が王国の危機であるぞ!今後数十年、皇国との前線においてこのシリュウ・ドラゴスピアに怯え続けなければならん!」


「……てっきり現役のAランクかSランク冒険者が、軍に転身したものと考えておりましたが、ここまで若いとは…」


「王にはこのことを?」


「すでに耳に入っているようです」


「反応はどうであった?」


「はい。タレイラン公爵が強力に推進していたサザンガルド方面への侵攻作戦を白紙にすると。シリュウ・ドラゴスピアはサザンガルド一族の娘を妻にしているようで、サザンガルド戦役にも参加する可能性が高いと王は心配しておりましたゆえ」


「…ふぅ…王が聡明で助かった。あのタレイランの愚か者めが…」


「はい、タレイラン公爵は不満そうでしたが…」


「真に恐ろしいのは有能な敵より、無能な味方よ。あまりに酷いと我らでタレイラン公爵を暗殺しなければならぬ」


「はは、そうならないよう願うばかりです」


「…ならばしばらくは皇国方面の前線は膠着させる方針だろう。皇国には帝国侵攻論が盛り上がっているそうだ。なら皇国の侵攻に合わせて、帝国に攻め入るのが良いのやもしれん」


「皇国と同盟を結ぶと?」


「それができれば最良だろう。せめて不可侵条約くらいは休戦条約後も結んでおきたい」


「ならば皇国との関係強化を優先させるべきですね」


「うむ、タイミングよく皇国の皇妹が王国へ使節団として来るそうだ。精一杯もてなしておくのだ」


「かしこまりました」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


烈歴98年 5月某日リアビティ皇国 皇都 4区(商業区) とある大衆酒場 個室


ここは皇都の中でも一際賑やかな歓楽街で、皇都の庶民に親しまれている通りだ。


その中にあるどこにでもある普通の大衆酒場の個室に、この場にそぐわない面々が会していた。


この大衆酒場の個室は、個室と言っても暖簾がある程度で、話は筒抜け、周りの会話と騒ぎ声がよく聞こえる。


そしてこの場にいるいかにも庶民の格好をした、男女が3人、安い酒を手に宴会に講じていた。


「リオ?お酒進んでないじゃないの。もっと飲みなさい。私の奢りなんだから」


「ほっほ!リタの奢り程怖いものはないのねん!リオも遠慮するに決まってるのねん」


「……はぁ…でも任務のこと少し考えていましたゆえ…長く家を空けるので残された母が心配で…」


「はぁ~…30にもなってマザコンねぇ…いい加減1人立ちしなさいよ…!」


「しかし…!」


「…はいはい…わかったわよ。あんたのママも私の侍従として使節団に放り込んでおくから、それで安心でしょ?」


「……な…!?…良いのですか?」


「いいの。あんたの辛気臭い顔を1月も見るこっちの身にもなってよ」


「ほっほ!辛気臭い顔にさせてるのはどこの誰なのねん!ほっほ!」


「なぁに?文句あるのジョヴ?」


「ないのねん!リタの不器用な優しさを素直に受け取るのねん、リオ」


「…そうですね…そうします…」


「にしてもあんたほんと真面目ねぇ…そんなあなたが…()()()()()()()()()()をあんなにちゃんとできるなんて…」


「……そう振る舞えないとベラルディでは迫害されますから…私だけでなく妾で地位の低い母も…」


「ほっほ!ベラルディは公爵のくせに、器が小さい奴らばかりなのねん!同じように括られる私も困るのねん!」


「もったいないわね…早くあの家出なさいよ」


「そうしたいのは山々ですが、何か功績を挙げないと…!」


「まぁ私とジョヴが面倒見てあげても、今のあんたの立場じゃ不自然だしねぇ…せめて武功でもあれば私の力で無理矢理にでも新たな華族家を立ち上げさせるんだけども…」


「……戦の一つでもあれば…志願していくのですけどもね」


「まぁ今はタイミングが悪いわ。今回の使節団の近衛隊長をしっかりやりきったら私から兄さんにちゃんと言ってあげるから」


「…ありがとうございます…」


「はいはい、そんな畏まるのはやめて。せっかくここで飲んでいるんだから、()()()()()にしなさい。ここにいるのは只のリタとジョヴとリオの飲み仲間よ」


「……()()()()()()()…」


「ところでリオ、あのシリュウって子、どう思った?」


「ほっほ。私も会って話をしたのねん!」


「……私が恥ずかしくなるくらい真っすぐな目をしていたよ。本当にベアトリーチェ嬢が好きなんだと。私が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を申し訳なく思うくらいに」


「そうよね、そうよね。んであの子の顔どっかで見たことあんのよね…」


「ほっほ!コウロン様の孫だからなのねん?」


「いやコウロンの面影じゃなくて…もっとこう…近い人の…あの子の両親は今はいないの?」


「私も気になって戸籍を調べてみた。するとエクトエンドの前は、どうやらトレスリーに住んでいたようだ」


「…あー…あの…じゃあ両親はもういないか…本人が生き残っているだけで儲けもんよね」


「まぁそのころはドラゴスピアと別の姓を名乗っていたようだけど」


「…お?一応聞いておこうか。なんて姓だった?」


「たしか……()()()()()()()()だったかな…帝国で良く見られる姓だな」


「……え?……ベ、ベッケンバウアー……?た、たしかなの…?」


「た、たしかそうだったと思う。トレスリーは帝国との境だから帝国の姓の民がいても不思議ではないと思った記憶があるから…」


「そうか…あの子は、あの顔はあの人の…弟の……」


「ほっほ!リタよ?何か心当たりがあるのねん」


「……いやもうバリバリにね。決めたわ。あの子、私が庇護するから」


「そこまでか、シリュウとやらも災難だな」


「ほっほ!まったく!リタに目をつけられたら面倒どころではないのねん!」


「うっさいわね!あんたたち、ほら!杯が空よ!すいませ~ん!エール3つ追加で!」











リオ「ベッケンバウアーとは帝国ではよくある姓じゃないか?」


ジョヴ「ほっほ!主だった人物は庶子である帝国第三皇子がその姓を名乗っているのねん」


リオ「第三皇子…?…いやまさか…」

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