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第8話 『投資王』ジョヴァンニ・フォン・メディチ


メディチ家


皇国華族として最高峰に君臨し、皇国の経済の中心を担う。


銀行業を中心に、芸術・運輸・学園経営等、その事業の幅は無数にあり、すべての商売の元を辿ればメディチ家の事業に行き着くとまで言われるほどの影響力を持つ。


そして事業で得た利益を皇国の発展や福祉に惜しみなく投資する姿は、華族のみならず平民からも尊敬の念を集める。


徹底的な合理主義と奉仕精神を柱に、皇国の経済を支える。



それが皇国最高の華族 メディチ家なのだ。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ルイーゼ男爵との会合に割って入って来たのは、メディチ家のご当主さんらしい


この人が皇国最高の華族 メディチ家の主 ジョヴァンニ・フォン・メディチか


メディチ家は事前に聞いたところ寛容な華族と思っていたので、想像通りの人だな。


「失礼いたしました。僕はシリュウ・ドラゴスピアと申します」


「良い良い!お主の噂がたくさん聞いているのねん!まだ若いのに凄まじい武術師だとか!皇国の未来も明るいのねん!」


気さくな方だな。


めちゃくちゃ話やすい雰囲気だ。


「ジョヴァンニ様…お久しゅうございます。アドリアーナ・ブラン・サザンガルドの娘にして、シリュウ・ドラゴスピアの妻、ベアトリーチェ・ドラゴスピアです」


ビーチェがメディチ公爵に畏まって挨拶をした。


「おお!我が姪アドリアーナの娘か!こんなに美しく成長したのねん!アドリアーナの娘夫婦なら私の家族も同然なのねん!困ったことがあったら何でも言うのねん!」


「ありがたきお言葉、まだ皇都に住み日が浅い妾達にとっては何よりの支えでございます」


「うむ!遠慮するでないのねん。してさっきの話だけどもロンネル伯爵家に言っておけばいいのねん?」


おお!メディチ家程の人から注意してもらえれば、今後も大丈夫だろう。


「そうなんですよ。ここのルイーゼ男爵令嬢のトスカが、ロンネル伯爵家の…え~と…誰だっけ…嫡男って言っていたけども…後2人いて…なんか男爵令嬢風情が参加するなといちゃもんつけてたんですよ。ルイーゼ男爵は僕が思い付きのように言った皇都の民にインペリオバレーナの肉を配ってくれる大事な仕事をしてもらってこの場に呼ばれているのに…」


僕がメディチ公爵にそう言うと周りの人達が焦ったように僕を制止する。


「シ、シリュウ准将…!お心遣いはありがたいのですが、大変不遜にございます…!私たちのような泡沫華族のことでメディチ家の御当主様の手を煩わせるわけには…!」


「わ、私は大丈夫です…!ええ、もう!全く!」


ルイーゼ男爵とトスカが滝のような汗を流しながら僕を嗜める。


「ほう?ルイーゼ男爵とやら?お主がインペリオバレーナの肉の配給を担当したのねん?」


「はっ…!商業省で流通を預かる役を拝命しておりますゆえ!」


「うむ。シリュウ准将の想いを実現した其方の功績、誠に大儀であるのねん。今度メディチのホームパーティーに招待するからその時に詳しく聞かせて欲しいのねん!」


「………!!??……はっ!…万障繰り合わせても慶んで出席させていただきます!」


ルイーゼ男爵は大仰に頭を下げて、メディチ公爵に返答した。


「…それとロンネル伯爵ね…オレスト」


メディチ公爵は一点鋭い目つきでお付きの礼服の方を呼び掛けた。


お付きのようだがその人も偉い人だと格好でわかる。


「はっ。ロンネル伯爵は商業省の事務次官で、私の部下であります。この度は我が部下の不始末誠に申し訳ございません。この責は私に」


僕が誰?この人?って顔をしているとビーチェがそっと耳打ちしてくれた。


(……オレスト・フォン・アンブロジーニ侯爵じゃよ……商業大臣…つまり商業省の長じゃよ。皇国に10人もいない大臣職を拝命している華族で、政庁の最高幹部の1人じゃ……軍でいうと大将クラスの人じゃよ…)


すんごい偉いさんだった。


軍のトップが大将なら政庁のトップは大臣だ。


つまりこの人はロンネル伯爵とルイーゼ男爵の所属する商業省で1番偉い人ってわけか。


もうルイーゼ男爵は驚きすぎて、目が死んでいる。


それにしてもそんな大臣をお付きのように従えているメディチ公爵はやはりとんでもない権力を持っている人なんだと痛感する。


しかも同じようなお付きの方はまだ何人もいる。


あの人達皆大臣クラスの人間なのかな。


「オレストを責めるつもりはないのねん。シリュウ准将よ。何か望みはあるのねん?」


「まぁロンネル伯爵を懲らしめて欲しいということではないんです。僕が割って入ったからトスカが、ルイーゼ男爵家が逆恨みされないか心配しているのです。できたらそうならないように配慮して欲しいなぁって」


「ほっほ!良いのねん!オレスト、ルイーゼ男爵の面倒を見て欲しいのねん!」


「お任せを。ルイーゼ男爵よ、少し話をさせてもらおう」


「はっ!もちろんでございます!」


そう言ってアンブロジーニ侯爵とルイーゼ男爵が2人連れ立って場を離れた。


(…別室で密談するのじゃろう…こういう場は密談用に別室が何十も用意されておるからのう…おそらくアンブロジーニ侯爵が庇護するんじゃろう…大臣の庇護下に入れば何の心配もなかろうて)


ビーチェがまた耳打ちする。


そうなんだ。


これでトスカがまた絡まれることはないかな


「これで良いの!まだ何か望みはあるのねん?」


「いえ、十分です。初対面の僕のお願いを聞いていただいて、ありがとうございました」


「いいのねん!メディチ家としてもシリュウ准将とは仲良くしたいのねん!」


「僕で良ければ、何なりと。僕の武が必要であれば頼ってください。あ、でもゾエ大将とフランシス中将に許可を得ないと」


「おお!Sランク魔獣を単騎討伐するシリュウ准将の武を頼れるなんてこれほど頼もしいことはないのねん!我が領に危険な魔獣が出て、当家で対処できなさそうなら相談させてもらうねん!」


「はは、お安い御用ですよ。僕には武しかありませんから」


「頼もしいねん!では私も別にいくところがあるからここで失礼するのねん。皇都にいるならいつでも会えるのねん。近いうちにまた会いたいのねん!」


「ええ、ありがとうございました」


「またねん!」


そう言って、大きな体を揺らしながら、ご機嫌にメディチ公爵は去っていった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「いやぁ…気持ちのいい人だったね、メディチ公爵は。華族が皆あんな人なら良かったのに」


僕がそう率直に感想を言うと、ビーチェとトスカは顔が引き攣ったまま笑みを浮かべている。


え?なんか変なこと言った?


「……シリュウは…毎度毎度妾を驚かせてくれるのう…」


「…私は心臓が何度も止まりかけました…」


なんで


そんなに怖い人じゃなかったじゃん。


僕が不思議がっていると、僕の周りにいた人達が僕達と先ほどより距離を開けている。


ぽっかりと空いた空間に僕ら3人が取り残されているように。


「……シリュウや…先ほど相対したのはジョヴァンニ・フォン・メディチ公爵…皇国の投資王とも称される皇族を除けば華族の頂点に位置するお方じゃ…」


「…?それは前にも聞いたけど…人間的にも好感が持てる人ってアドリアーナさんが言っていたし」


「……それは母様と妾が悪かったのう……それは母様がジョヴァンニ様の姪で身内じゃからじゃよ…ジョヴァンニ様……いやメディチ公爵は話しぶりは非常に気さくな方じゃが、本質は気難しい方なのじゃよ…」


「ええ!?そんな感じはしなかったけど…」


「そこは海千山千の経験を持つメディチ公爵じゃからじゃよ。相手のそんな気は諭させないのじゃ。メディチ公爵と友好的だと思っても、ある日突然取引を停止されるなんて話は無数にあるからのう」


「へぇ…そんな人には見えなかったけどね」


「それが華族というものじゃ。そしてその頂点に立つお方よ。腹の中は誰にもわからないじゃろうて」


「そういうものか…でも友好的な関係を築けたと思うんだけどなぁ…」


「答え合わせは今は妾達にはできぬ。メディチ公爵は最後に「近いうちに話がしたい」と言ってくれたが、友好的に接することができたならば本当にお茶会なりの招待状が届くじゃろう」


「そういうものか、なんか怒らせちゃったらまた謝りに行くよ」


「はっは!軽いのう!皇国華族の頂点を怒らせて謝って済むとは思えんが、シリュウなら許してもらえそうじゃ」


ビーチェが豪快に笑う。


大丈夫だって、ビーチェと一緒なら心配なんてないね。


最悪アドリアーナさんに泣きつこう。


「……この人達…怖い」


トスカの震えるような呟きは僕達には聞こえなかった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


皇宮 大会場 別室 


メディチ公爵は一通り主要な華族との挨拶を終え、別室にて休憩をしていた。


この別室には今は、メディチ公爵の他にはオレスト・フォン・アンブロジーニ侯爵しかいない。


「ふぃ~…疲れたのねん。皇王様がご臨席されるから、華族が多くて大変なのねん」


「お疲れ様です。こちら、用意させました冷水でございます」


「助かるのねん。やっぱ水より美味しい飲み物はないのねん」


「まったく」


「して、いかがでございましたか?シリュウ・ドラゴスピアは?」


アンブロジーニ侯爵がメディチ公爵に問う。


「うむ。私の目からは良き若者に見えたのねん。若くしてSランク魔獣を狩るほどの猛者と聞いていたから、血に飢えた獣のような男を想像したが、そんなことはなく草食動物のように可愛らしい少年だったのねん。心配は杞憂だったのねん」


「それに海軍だと」


「それも良かったのねん。あの少年が陸軍か皇軍に入ろうものなら帝国侵攻論は急加速してただろうねん」


「商業を預かる私達からすれば、戦争など百害あって一利なしですからね」


「そうなのねん。王国と帝国との貿易も縮小されるだろうし、何より人々が消費を行わなくなるのねん。倹約を美とする文化は商業の最大の敵なのねん」


「いやはや全く」


「シリュウか…あの少年は皇国の命運に大きく関わる気がするのねん」


「ほう…ジョヴァンニ様が珍しく、理論的ではないことをおっしゃる」


「ほっほ、たまにはそういうことも言いたいのねん。オレストよ、あの少年…いやドラゴスピアをしっかりと支援せよ」


「御心のままに」




「この私に、下心も裏もなく直球でお願いしてきたのは久しぶりなのねん。私も楽しかったねん。願わくばあの少年の心が黒く染まらぬよう、華族の暗い部分は見せないようにしないといけないのねん」








ビーチェ「ちなみのルイーゼ男爵はアンブロジーニ侯爵の派閥に入ることで庇護されることになったらしい」

シリュウ「商業大臣だっけ?商業省の役人のルイーゼ男爵からすれば安心だね」

トスカ「……派閥の会合にいっても場違いすぎて針の筵ですよぉ~……」

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