第3話 海辺のデート(やり直し編)
烈歴98年 5月11日 皇都セイト 10区(民間港湾区)
謁見の次の日、僕とビーチェは2人きりで、また皇都の海辺沿いの観光街に遊びに来ていた。
先週も同じようにここにビーチェと来たけど、あの時はキングバレーナとインペリオバレーナを討伐することになり、ちゃんとしたデートができなかったし、インペリオバレーナとの戦闘で負った傷を治療していた期間はビーチェにたくさんお世話になったから、お礼も兼ねて僕から提案したのだ。
今は観光街の道すがらにある広場にいて、海を臨みながら2人でベンチに座って潮風を感じていた。
ビーチェは大きな胸を張るようにして、大きく伸びをした。
「くぅ~ん…!やっぱり海は気持ちがいいの~!どこまでも広がる開放感…!まっこと素晴らしいのじゃ!」
「ははは、ビーチェは本当に海が好きだね。これからは嫌というほど海の上にいるかもしれないよ?」
「どんとこいじゃな。海はいつまで見てても飽きはせぬ。そなたのようにな」
ビーチェは少し顔を赤らめながら僕を揶揄うように言った。
「……それは僕も同じだよ…」
僕はビーチェの言葉に応えるように隣に座っていたビーチェを抱き寄せた。
「…シリュウ…//」
ビーチェも僕に体を預けてきて、しばらく二人で身を寄せ合いながら海を眺めた。
身を寄せ合いながら今後の予定をビーチェと話し合う。
「そういえば、シルベリオさん達の帰還が少し遅れるんだっけ?」
「うむ、シリュウが狩ったインペリオバレーナとキングバレーナを皇都の民に振る舞う皇国捕鯨祭が5月17日に開催されるのじゃ。それに伴い、皇都各地で社交の場が開かれておっての、せっかく皇都まできておるし、社交に参加せぬわけにもいかぬから、捕鯨祭が終わってからサザンガルドに帰還するようじゃ」
「社交……なんだかもう苦手な響きだ」
今まで武術に明け暮れていた僕は、華族の習わしや、社交の作法などとんと知らない。
参加してもかなり浮きそうで、あまり参加したくないなぁ
「海軍准将にもなろうなら社交の場も少なくないぞ?まぁ軍の高官は華族ほど作法に厳しく見られぬから気を楽にするが良い。最低限の作法は妾が教えるから安心するのじゃ」
「先生!ご指導よろしくお願いします!」
「うむ。早速じゃが5月16日には皇国捕鯨祭の前夜祭が皇宮にて開催される。これには皇王様もご参加される大変名誉な社交の場じゃ」
嫌な予感がするけど一応聞いておこう。
「……もしかして僕に招待状とか届いていたりする?」
「いや、招待状は届いておらぬよ」
お?
てっきり皇王様がお披露目をすると言っていたからこの場かと思っていたが違うのか。
何にせよ堅苦しい社交の場を逃れられて僕はほっと安堵した。
「……主催側でお主の名前があるぞ?来たのは招待状じゃなくて指令書じゃよ」
ですよねー
「ん?指令?僕ってもう海軍に入っているの?」
「…妾がフランシス中将に聞いた話じゃと捕鯨祭の後に、海軍准将の辞令交付を行う予定だったそうじゃが、皇王様の謁見の後にゾエ大将がその日の内に名目的に海軍所属にしたようじゃ。近々辞令交付と海軍幹部への顔合わせのために時間を欲しいとフランシス中将から話が来ておるのじゃ」
本人の預かり知らないところで何やってるんですかね ゾエ大将
まぁ遅かれ早かれか
体も完全回復して、鈍ってきたところだし、働きますかね。
可愛い奥さんを養うためにも
「了解だよ。明日からは予定はないし、いつでも参上するとフランシス中将に伝えてよ。海軍兵士として働きましょうかね」
「うむ、すぐに海軍へ文を出しておく」
ビーチェが少し離れたところに立っていたサザンガルド騎士団のリナさんに合図して、指示を出していた。
てかいたんだリナさん……
相変わらず表情はないけど、目がガン決まっているな…
僕達の様子を見てまた興奮していたんだろ…
リナさんが文を出すために、離れたところで、ビーチェが僕の手を取った。
「これで本当に2人きりじゃ!明日からは皇国軍兵士として忙しい毎日じゃろうから今日は妾に付き合ってもらうのじゃ!」
満面の笑みで僕の手を引いて、ビーチェは街並みへ駆けて行った。
僕は太陽よりも眩しい笑顔に目を奪われながらも、引かれた手を離さないようにしっかりと握り返した。
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その後ビーチェと海沿いのレストランで昼食を取ったり、釣り体験ができる店に行き、釣りを楽しんだり、屋台が立ち並ぶ浜辺では、海の幸を楽しんだ。
そうして、海辺の街を散策していると、一際大きな通りに出た。
それも高級な店が立ち並ぶ区画だ。
ブティックに、宝石店、高級レストランと思われる店が立ち並んでいた。
そこの中で、とあるブティックの店の間で2人の男女が言い合いをしていた。
言い合いと言うより女の人が男の人へ色々言っているようだが…
というかあの男の人…緑と黄色と青色の3色が混ざり合った特徴的な髪…
「……パオっちじゃないか。こんなところでどうしたの?」
「…おお!シリュウっち!我が心の友よ!…助けておくんなましぃ…!」
僕に縋り付くように助けを求めるパオっち
珍しいなこんな姿は
そして一緒にいる女性は初めて見る人だな。
身長が小さいパオっちとそこまで変わらない小柄な女性で、赤茶髪の長髪を編み込むようにした髪型をしている。
パオっちもこの女性も普段着のようだから、パオっちが非番の日に会うほど親しい女性なのかな?
「ちょっとパオ!まるで私があなたをいじめているみたいじゃないの!」
「…オイラの嫌がることを強いるなんていじめだい…!」
「私はちゃんとするように言っているだけよ!」
2人の言い合いは止まらないため、ビーチェが間に入った。
「まぁまぁ、パオ少将も落ち着きなされよ、そちらの女性はお初にお目にかかります」
「あ、すみません…!初対面の人の前で…私はリアナ・フォッサと言います!海軍所属少尉でパオ…少将の補佐官をしております!」
パオっちの補佐官の人だったのか。
僕達にとっては先輩にあたる人じゃないか
「これはこれは!先達とは露知らず失礼いたしました」
ビーチェ上品な仕草で、頭を少し下げた。
「え?…先達?」
リアサ少尉は少し驚いている。
「え~と、僕はシリュウ・ドラゴスピアと言います。海軍所属の兵士です。なのでリアナさんは僕達の先輩になりますね」
「妾は、ベアトリーチェ・ドラゴスピアと申します。シリュウの妻にして、同じく海軍にてお世話になる者です。どうぞお見知りおきを」
ビーチェの名乗る姓がドラゴスピアになっていることに、嬉しさからニヤつきが止まらない。
皇王様との謁見の後、戸籍上はビーチェは僕と結婚をしたのだ。
結婚式はビーチェの20歳のお祝いを兼ねて、7月にサザンガルドで行う予定だけども。
「そ、そうなの?これからよろしくね!……ん?ドラゴスピア…?…まさか…ね?」
僕らが海軍の新人だと知って、リアナさんがフランクに話しかけてくれた。
ドラゴスピアの姓に少し引っかかっているようだけども
「…にー…リアナ……シリュウっちは准将として海軍に入隊するんだろんよ……それにベアちゃんもシリュウっちの補佐官で階級は少尉……普通の新人じゃないおろろん」
「え!?准将…!じゃああなたが噂の”皇帝狩り”!?」
なんだその物騒なあだ名は!?
「…なんですかその皇帝狩りって…そんな心当たりないのですけども…」
僕がげんなりしたように言うと、ビーチェはジト目で僕を見る。
「エンペラーボアに、インペリオバレーナ…皇帝と称される魔獣をこの短期間で2種も狩っておいて、心当たりがないとは…妾の旦那様は記憶力が乏しいのかや…?」
そういうこと?
でも皇帝狩りって大仰な渾名はやめてほしい。
「し、失礼しました!ご無礼をお許しください!」
リアナさんがすごく畏まってしまった。
「いやいや!失礼ですけどもリアナさんは僕より年上の方ですよね?」
「はい!パオ少将と同じ26歳になります!」
「なら畏まるなんてやめてください。僕はまだ16歳の未熟者なので…」
「しかし……」
「リアナ、僕と同じように接するといいぬん。シリュウっちはそういうのは望まないからにー」
さすがパオっち僕のことよくわかっている。
「わかりました…でも敬語にします!年齢はともかく階級は軍では絶対ですので!」
真面目な方なんだな。
敬礼をしつつ、そう答えるリアナさんを見て僕はそう思った。
階級は絶対とかいいつつ、パオっちにはめちゃくちゃタメ口だったのは突っ込まないでおこう。
「ところでパオっちはここでリアナさんと何してたの?見たところ2人とも非番のようだけども」
「そう!聞いてくださいよ!」
僕が2人のことを聞くと、リアナさんが食い気味に聞いてくださいと言わんばかりに前に出た。
「パオったら、捕鯨祭の前夜祭に来ていく服をいつも通りの軍服にローブで行くって言うのです!皇王様も出る誉れ高き場なので、きちんと正装しなさい!と言っているのですが、正装なんて持ってないと言い張るから休日に連れ出して、礼服を揃えるように言っているのです」
「……にー…パーティーなんて美味しい食べてるだけぽん…汚れてもいいようにいつもの服でいいおろろん……」
「良くない!それに今回の捕鯨祭は海軍が主役なのよ!海軍の顔のあなたがしっかりとした格好をしないと海軍全体の品位を疑われちゃうじゃない!今日はフランシス中将にもしっかりとパオの礼服を見繕うように言われてるんだから!」
なるほど
言い合いをしていると思ったが、違った。
これは戦いにもなっていない。
ビーチェも苦笑いをしている。
そして僕ら2人は同時に言う。
「「パオ(っち)(少将)が悪い」」
「ぎゃっ!?なんでぬ!?」
「リアナさんの言うことは全くもって正論じゃないか。流石の僕でも前夜祭には礼服でいくよ」
「リアナ少尉の苦労を考えてくだされ…わざわざ非番の日を潰してまでパオ少将に付き合ってくださっているのですよ?」
「……すーん」
僕とビーチェから集中砲火を喰らって撃沈するパオ号
リアナさんはキラキラした目で僕らを見ている。
「パオを言い聞かせるなんて…!ありがとうございます!」
お礼を言われてしまった。
普段からどんだけリアナさんを怒らせているのだ。
でも気になっているのは、リアナさんとパオっちの距離感だ。
2人は上司と部下にあたるはずだが、距離感がもっと近い。
「リアナさんはパオっちとどういう関係なんですか?ただの上司と部下には見えなくて」
「えっ…!?//……どういうって…その…」
リアナさんが顔を赤らめながた言い淀む。
「リアナは僕と海軍学校の同級生だろんよ。そこから10年近くずっと一緒だにー」
「…そ、そうです!同期なんです。昔からパオは手がかかって…私が軍学校で学級委員長をしていた頃からこういう風にお世話をしてあげたりして……」
なるほど
パオっちは不思議な言動と独特の価値観を持っている。
そして何よりレアさん曰く生活力が皆無だそうだ。
でも僕の病院にお見舞いに来た時は凄く気を遣ってくれていた印象がある。
僕だけでなく、医師や看護婦さんにも手土産を渡していたくらいだ。
もしかして…
「パオっちにお見舞いの際のお土産を渡すように言ったのもリアナさん?」
「…!そ、そうです…!最初は手ぶらで行こうとしていたので、それじゃあ非常識だからお土産を持っていくように言いましたが、パオに任せると何を持っていくかわからなかったので、品物も私が選定し、周りの方にも渡すように言いました」
おお…できる人だ。
品物もビーチェが唸るほど良かったらしいから、そのセンスもあるのだろう。
「それに今も非番なのにパオ少将に付き合ってもいいのかや?リアナ少尉にもプライベートがありますでしょうに」
ビーチェは僕が気になっていたところを聞く。
そうなんだよ。
ただの補佐官と同期っていうだけでここまでする?
「大丈夫です!フランシス中将からもパオを頼むと任されていますし…!あとパオと同じ建物に住んで、炊事や洗濯も毎日してあげていますし…プライベートも仕事のようなものです!それに私が面倒見てあげなきゃパオはダメだと思って…」
おいおいおいおいおい
なんだそれ!
もう妻じゃん!
パオっちの生命線はこの人が握っているといっても過言ではないだろうか。
それにパオっちはここまでしてくれているリアナさんにどういう感情をもっているんだ?
リアナさんは満更でもないように思えるけども…
リアナさんの話を聞いているビーチェはリアナさんには優しい眼差しを向けているが、パオっちにはゴミを見るような目を向けている…
そうだよね…ここまで尽くしてくれている女性の好意に応えるどころか気づきもしないなんて女の敵だろうな……
「そこまでしないてもいいろんよ…リアナも好きなことすればいいに」
「で、でも私が面倒みないと、パオ生きていけないじゃない!」
「面倒見てくれる人別に探すおろろんよ」
「…えっ…」
「オイラも少将になって給金はたんまりあるし、使用人の1人や2人くらい雇っても……って…え?」
パオっちが言い終わる前に、リアナさんは涙を流していた。
「わ、私はもういらないってこと…?パオには…私は…?…ただの鬱陶しい委員長のままなの…?」
「い、いや…いやいや!そういうことじゃないね!…違う!そういうことじゃないって!」
パオっちがオロオロしながら宥めようとするが、時すでに遅し
「……パオなんて知らないっ…!!!」
リアナさんは叫んで、泣きながら走り去ってしまった。
パオっちは驚きすぎて、その場に立ち尽くしてしまう。
そして僕とビーチェはまた2人同時に言う。
「「(お前)(貴様)が悪い…」」
「二人とも…口悪っ!!」
レア「海軍学校は12歳から18歳までの6学年制です。主にタキシラ・カイサ・セイトの3つに海軍学校がありますが、2人が通っていたのはセイトの海軍学校でリアナは12歳の1学年から入学しましたが、パオは4学年時に編入してきました。パオが15歳の時ですが、私もレベッカも就職したためパオの面倒を見ることができず、まあパオの魔術の才が当時の海軍高官の目に留まったため、半ば強引に編入させたのです」




