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第24話 海軍からの勧誘

烈歴98年 5月7日 皇国軍病院 特別病室


「ほれ、シリュウ、あーん」


「あーん」


インペリオバレーナを討伐してから早3日、僕はインペリオバレーナとの戦いでボロボロになった体を治療するため皇国軍の病院にその日に入院した。


そして今は入院している病院の個室で、ビーチェのお世話を受けている。


今はおやつの果物を切ってもらって、口に運んでもらっているところだ。



僕の体に負ったダメージの診断内容は火傷に、衰弱?というものと、両手の亀裂骨折だ。


衰弱はあれだろう、雷魔術を受けた時に感じた体内のどうしようもない気持ち悪さだ。


火傷と衰弱はほとんど治癒しており、亀裂骨折の痛みだけが体に残っていた。そして両手に添木がされているため、僕は自由に体を動かせなかった。


船酔いでまいっていた以上のお世話をビーチェに受けていた。


飲食はもとより、着替えに便所、入浴に就寝まで……これは看病というより、介護では?


しかも入浴時はお互いに一糸まとわぬ姿になって大変に恥ずかしい思いをした。


大変良いものをお見せいただき申したが……むふふ……


しかし何から何までやってもらって本当にビーチェに申し訳なく思うが、ビーチェは楽しそうにお世話してくれるので、何も言わずにおとなしくお世話されていた。


「シリュウ…どこか痛むところはあるかや?」


「大丈夫だよ、腕の痛みも違和感の段階まで落ちてきたんじゃないかな。謁見の時には万全だと思うよ」

 

「無理するでないぞ?謁見なぞいざとなったら妾だけでいいのじゃ。あとは当主のシルベリオ伯父様とコウロン様が良きに計らってくれるじゃろうて」


「うーん、せっかくの機会だし。皇王様にも会っておきたいんだよね。あと僕の妻になる人はこんなに素敵なんですよって自慢もしたい」


「……もう、何を言うのじゃ…//」


照れているビーチェ 可愛い


「…はぁ…ビーチェ可愛い…でも満足に抱きしめられないこの両手が恨めしいよ…」


「ならその分妾が抱きしめてあげるのじゃ…ほれっ」


ビーチェに抱きしめられる僕


主に頭がビーチェの大きな胸元に寄せられて抱きしめられている。



大変ようございますなぁ。ゲヘヘへ



そうやってビーチェと病室でイチャイチャしていると来客があった。



「……相変わらず…らぶらぶ…!」


颯爽と入室してきたのは、海軍少将パオ・マルディーニことパオっち


「パオっち!今日も来てくれたんだね、ありがとう」


「……ソウルブラザーの見舞い……毎日は当然!」


そう決めポーズをしながら言うパオっち


多忙な身であろうに、毎日来てくれるパオっちの心遣いは本当に嬉しい。


「…パオ少将…連日のお見舞いとお心遣い感謝します。でも本務はよろしいので?」


ビーチェがありがたそうにも心配そうに言う。


ビーチェの言うとおり、僕がここに入院してから欠かさずパオっちはお見舞いに来てくれた。


それに来てくれるだけじゃなく、大量のお土産の品を部下に持たせてきてくれる。


中身は果物や銘菓などそのお土産の内容は華族令嬢のビーチェも感嘆するほどだった。


そしてお土産を僕だけでなく、僕をお世話する看護師や医師にも差し入れする心遣い


そして滞在時間も短くもなく、長くもない。


絶妙なタイミングで帰っていくのだ。


普段の言動とは裏腹に非常に心配りが上手なパオっちの一面を見て、ビーチェと2人で驚いたものだ。


「……シリュウっちと絆を深める…それこそオイラの本務……!」


嬉しいけど、それでいいのか海軍よ



「まぁ僕はパオっちに会えて嬉しいけどね」


「……ふっふっふ…今日はとっておきのお土産があるんじゃもん…!」


しかしそう言うパオっちは何も持っていない。


なんだろう?


「何でございますか?」


僕の代わりにビーチェが聞く。


「『円卓会議』の議事録だにん…!」


そう言ってパオっちは懐から数枚の紙を取り出した。


「……はぁ?」


「……は!?」


呆けたような返事をする僕と驚き目を見開くビーチェ


「……ごめん…ビーチェ…『円卓会議』って何…?」


「…王家十一人衆が一堂に会する皇国軍における最高位に位置する会議じゃよ…年に数回もなく、開催されぬ年も珍しくないのじゃ。しかしその議事録とは…開催されたのは、つい先日と聞く。こんなに早く手に入るとは…」


「それってすごいの?」


「『円卓会議』の議事録は一般に公表されるのじゃが、通常は検閲され、公表内容を各所で調整されるから、公表はどんなに早くても一月はかかるのじゃ…なのでおそらくパオ少将が持っているのは、何も削られていない原本ではないかや?」


ビーチェがパオ少将の紙を指差しながら言う。


それに対して大仰に反応して言うパオっち


「…さすがはシリュウっちの奥さん!…半分正解だぬ!」


「半分とは?」


ビーチェが再度パオっちに聞く。


「……『円卓会議』の議事録は世間に公表されるもの…そしてその添削前のもの…その他に非公式の部分も含めて全部が示された完全版の3つがあるんだろん……!これは完全版で、王家十一人衆しか持ってないものだ…ほろろん…!」


「え!?」

「なんと!?」


驚く僕とビーチェ


そんなもの素人の僕にだってわかる。


軍の最高機密ではないか。


「その…よろしいので…?」


ビーチェがおずおずと聞く。


それもそうだ。


インペリオバレーナの討伐に協力したとはいえ僕たちは軍の部外者だ。


しかしパオっちは構わず僕たちに渡そうとする。


「ゾエゾエとフラフラの許可はとったねん…!」


「海軍大将と中将が…なんとまぁ…ふむふむ…」


ビーチェが理解したように頷く。


どういうことだろう。


僕が疑問に思っていると、ビーチェが教えてくれた。


「シリュウ…これは海軍からの信頼の証じゃよ…そして勧誘の一環じゃな…妾は海軍のこの行動からは『お主を少将と同様の待遇で迎え入れる』というメッセージに受け取れるのじゃ」


「…え!?そんな馬鹿な!?まだ16歳の僕を?いきなりパオっちと同等で?」


「………奥さんの言うことはあながち間違っていないさね…!もしシリュウっちが来てくれるなら将校待遇はもちろん、空席になってる准将の地位も用意するとゾエ大将は約束してるんだに…!」


「嘘でしょう!?」


パオっちの発言に飛び上がるほど驚く僕


軍経験もないこんな若造がいきなり准将なんてとんでもない!


「……海軍准将の復活かや…妾も詳しくはないのですが准将とはどのような地位なのですか?」


ビーチェがパオ少将に尋ねる。


「オイラもそこまで詳しくはないけど…皇軍・陸軍・海軍に常設されているのは大将・中将・少将の階級だろん……!准将はその時代に臨時に置かれる階級だね…!今は皇軍に設置されているけど、その昔には陸軍にも海軍にも置かれていたことがあるぽろろん…!」


「そうなんだ。でも大将の一存で准将を復活するとかできるの?」


「…復活だけならその軍の大将の権限で可能っさ……!ただ『円卓会議』への参政権…つまり王家十一人衆に入るには、皇王様の許可がいるろん…!」


「…なるほど…王家十一人衆に入らない将軍も存在しうるのか」


「……王家十一人衆に入る…というより、皇王様のみが『円卓会議参加名簿』を変更する権限をもつのじゃよ。つまり今の皇王様は『円卓会議』の参加者と大総督と皇軍大将・中将・少将・准将、陸軍大将・中将・少将、海軍大将・中将・少将の11名と定めておるのじゃ。所謂この『円卓会議』の参加者を王家十一人衆と呼んでいるのじゃ。時代によっては王家九人衆の時代もあったそうじゃぞ?」


「…へぇ!定数制じゃないのか…」


「…まぁとりあえずはこの議事録を見るが良いさね…!」


パオっちが僕に向けて渡してくれるが、あいにく僕は両手を添え木で固定され受け取れない。


それにそんな軍の最高会議の内容なんて、僕が見てもチンプンカンプンだろう。


そう困っているとビーチェが僕の方へ目配せをしてきた。


「…シリュウ」


ビーチェから任せなさいとの意思が伝わってきた。


ここは僕専用超絶美人参謀 ビーチェさんにお任せするとしよう。


「…パオっち、議事録はビーチェに渡して欲しい。そして内容の吟味もビーチェにお願いするよ」


「…あいあい!……ではこちらを……どぞっ!」


「ではありがたく……ふむふむ……ぶふっ!!」


議事録を読むビーチェが吹き出す。


「……これは凄い議事録じゃのう…ファビオ中将とアウレリオ准将の口喧嘩まで書いておるぞ…」


「……あの二人は犬猿の仲じゃもんね……ゾエゾエが怒っていたろん…」


「その様子も漏れなく載っております…これを読むとこの会議に参加したかのような気分になりんす…」


議事録を驚きながら呼んでいくビーチェ


そしてある部分に目を付けたところで大きく驚く。


「……!!!??」


「ど、どうしたの…」


「とんでもないことが書いてあるのじゃ……帝国侵攻戦が…7対3で賛成で可決されておる…」


「え!?それじゃあついに皇国は帝国へ…攻め入るの…?」


それはあまりにも大事件だ。


皇国は建国から専守防衛の方針を貫いていて、侵攻も奪われた領土の奪還でしか行っていない。


つまり建国からおおよそ100年、皇国は自らの領土を広げていないのだ。



そして現在の領土は建国時とほぼ同じ。



しかしここに来て、帝国を侵略する決断を王家十一人衆がしたという。



それは国の決定事項ではないが、国の決定に大きく影響することは間違いないだろう。


「……帝国侵攻論はここ数年陸軍を中心に湧き上がっていたのじゃが、皇軍と海軍の理解が得られぬため、採用されることはなかったのじゃが…海軍が陸軍に同調したようじゃ…」


「…海軍が?なんで?」


「それはシリュウっち!チミが理由だろん!」


パオっちが両手で僕を指す。


「……議事録を見ると陸軍のサンディ・ネスターロ中将が、シリュウを海軍に推挙することと引き換えに海軍の票を貰い受けたようじゃ……」


ビーチェが驚きつつ僕に教えてくれる。


「え!?」


「……シリュウっちは海軍と陸軍と皇軍の3勢力で取り合いになってたんに……そして陸軍が引いて海軍に譲歩したんよ…!これで陸軍と海軍はシリュウっちが海軍に入ることを認めたろんね!」


「……でもパオ少将…大事なのはシリュウ本人の意思では?」


ビーチェが視線を鋭くして言う。


僕たちの預かり知らないところで、僕の配属を決めようとしているのが気に食わないのだろう。



「もちろんだに!だから僕がここに毎日来てるんじゃん…!…()()()()()めぇ…!」


「……なるほど…理解しました。…つまりパオ少将は海軍の使者だったと……シリュウ…モテモテじゃのう……妾も少し妬けてしまうぞ…」


「…話が大きすぎてとんでもないんだが…」


「…まとめると皇軍と海軍がシリュウを取り合ってるのじゃよ。そしてシリュウのご機嫌取りにご執心ということじゃのう…」


「そう言えばレアさんもブッフォンさんも人は違えど、皇軍の人は毎日来てくれるなぁ…」


「…シリュウの意思を除けば、現状海軍の方が優勢じゃのう…」


「そうなの?」


「うむ。海軍は准将の地位を用意するとあるが、皇軍はそれ以上の地位は用意できないのじゃ。埋まっておるからのう…」


「あ~なんだっけアウレリオ准将だっけ。ビーチェのストーカーの」


「覚え方!?」


「この腕が治ったら討伐しにいくから安心してね」


「魔獣かや!?」


「……シリュウっちはアウレリオが嫌いにー?」


「うん、会ったこともないけど、ビーチェに執拗に求婚していたストーカーらしいからね。生かしては置けないよ」


「過激すぎるのじゃよ…」


「……じゃあ皇軍はやめとくぬん!皇軍に入れば、あいつが君より高い地位にいるろんよ?絶対嫌な思いをするんじゃもん…!」


うーむ、それは確かに


ビーチェのストーカーなんぞの指示に従いたくはないなぁ。


僕の心が海軍に傾きつつあると、病室の扉が勢いよく開く。


「…ちょっと待った!シリュウ君…安心してください!このレア・ピンロが便宜を図りますよ!」



おっとレアさんの登場だ。


どうやら第2ラウンドが開始するらしい。






 


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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 確かにシリュウはビーチェガチ勢ですからね。殺りはしなくても、アウレリオに会った瞬間に「こんにちはー!」と頭を下げると見せかけて顔面に頭突き→かがんだアウレリオにそのま…
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