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第3話 槍将軍 サザンガルドに立つ


じいちゃんがブラン・サザンガルド家に来訪したとの知らせを受けて、カルロ君の部屋にいたカルロ君とデフォナさんを除く僕ら全員は玄関に駆けだして行った。


玄関に行くと、元気そうなじいちゃんが立っていた。


「はっはっはっは!久しぶりじゃのう!シリュウよ!」


快活に笑うじいちゃん、旅の疲れなんてないようだ。


「じいちゃん!久しぶりって言ってもまだ半月だよ」


「ずっとシリュウと一緒にいたからの!半月でも久しく感じるのじゃ!」


「そうかな、それにしても急なお願いで来てもらってありがとう」


「何の!それよりシリュウの伴侶はどの女性かの?旅立って早々に、所属する組織を決める前に伴侶を決めるとはさすがの儂でも予想外じゃわい!」

じいちゃんはそう言い、僕らを見渡して僕の伴侶は誰か探し始めた。


そんなじいちゃんを見て、少し緊張しながらビーチェが前に出て挨拶をした。


「初めまして。コウロン・ドラゴスピア様。妾はベアトリーチェ・ブラン・サザンガルドと申します。シリュウに危ないところを助けてもらった縁で出会い、そして恋仲になりました。不束者ですが、どうぞシリュウとの結婚をお認め下さりますようお願い申し上げます。」


「これはこれはご丁寧に!シリュウの祖父のコウロン・ドラゴスピアと申す。不肖のわが孫がこのような絶世の美女を娶ろうなど、感謝こそすれ、何も言うことはありますまい。どうぞ支えてやってくだされ」


じいちゃんが優しい口調でビーチェにそう言う。


「……ありがとうございます!必ず死が2人を分かつまで、シリュウを支えることを誓いましょう」


ビーチェが力強くじいちゃんに誓う。


ビーチェの言葉に、僕も胸がいっぱいになった。


「うむ。気品もあり、素晴らしい女性じゃ。シリュウよ、お主が早々に結婚を決めたのが良く分かった。これほどまでの素晴らしい女性はそうはいまい。大事にするのじゃぞ」


「もちろんだよ、認めてくれてありがとう」


僕とビーチェと一通り会話すると、じいちゃんはオルランドさんに向かい合った。


「して順番が前後して失礼した、当主殿。コウロン・ドラゴスピアでございまする。この度は不肖の孫と貴家の御息女との婚約を認めてくださり、誠にありがとうございます」


「いえいえ、オルランド・ブラン・サザンガルドと申します。このサザンガルドの領邦軍を管轄しております。名高きコウロン・ドラゴスピア殿とお会いできて光栄でございます」


「妻のアドリアーナ・ブラン・サザンガルドでございます。お会いできて光栄でございます。」


「こんなところで何ですので、どうぞ中へ」


オルランドさんがそう言い、じいちゃんを応接室の方へ案内した。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

僕らは応接室に移動し、ソファに座りながら談笑していた。


「ベアトリーチェ嬢の美しさはご母堂譲りですかな」


「あらあらご上手で」


「それにオルランド殿とは、戦場で何度か一緒になりましたな」


「覚えてくださったのですか!?コウロン殿からすれば私達の軍など泡沫のようでしょうに…」


「そんなことはありますまい!サザンガルドの領邦軍は、儂はこの国の領邦軍では最強だと思っておりまする。見事な集団戦術は、戦場でも非常に助かったこと覚えております」


「いえいえそんな!お世辞が過ぎますぞ!」


「そんなことはありますまい。サザンガルドの領邦軍は規律正しい。それに各部隊長も戦術に明るく、柔軟性がある。何より皇国軍と関係が良好な故、皇国軍と歩調を合わせることが得意であった。ノースガルドの奴らに貴殿らの爪を煎じて飲ませたいと思ったことは両の手では数えきれないですぞ!」


じいちゃんの言いようにオルランドさんは苦笑いしている。


でもサザンガルドの領邦軍を褒められて嬉しそうだ。


それにしてもノースガルドの領邦軍のこと嫌いなんだな。


「ねぇ、じいちゃん、ノースガルドの領邦軍とは合わなかったの?」


「合わないなんてもんじゃないぞい!奴らノースガルドが攻め込まれた際に皇国軍が援軍で向かった時に、儂ら皇国軍を補給部隊扱いしよった!「兵糧さえ持ってきてくれれば貴殿らはお役御免だ」なんて吐き捨てるようなやつらじゃよ」


じいちゃんが憤慨している。


そんなじいちゃんを見かねてオルランドさんが補足した。


「私達サザンガルドの領邦軍は、歴史的に王国の侵攻を食い止めていたのだけど、領邦軍だけでは難しく、昔から皇国軍と共同戦線で防衛してきたんだ。それもあってサザンガルドには皇国軍の施設が多数あり、皇国軍の将校とも関係が良好なんだよ。でもノースガルドは、ほとんど領邦軍の戦力だけで帝国の防波堤になっている歴史から、皇国軍に頼らないのを良しとする文化があるんだ」


「へぇ~そうなんですね。でもじいちゃんが活躍したのは第3次烈国大戦の帝国との戦いじゃなかったっけ?」


僕がそう疑問に思っていると、またオルランドさんが解説してくれる。


「それもまたノースガルドのプライドを傷つけたんだよ。帝国軍が大戦力で押しかけて、援軍を拒否したノースガルドが陥落寸前のところ、援軍に現れたコウロン殿の部隊が帝国軍を撃退したんだからね。あの戦い以降ノースガルド家の発言力がかなり落ちたから、ノースガルドの家系にはコウロン殿を恨む声もあるんだよ」


「助けられておいて恨むなんて、全く理解不能じゃのう…」


ビーチェがにべもなく言い放つ。


「ノースガルドの領邦軍は確かに精強じゃが、いらぬプライドや文化、慣習が邪魔しておる。もったいない奴らじゃ」


「領邦軍にも色々あるんだね」


「そうじゃぞ。領邦軍だけでなく、皇国軍も軍によって文化が違うからのう」

じいちゃんがそう言う。


「そうなの?」


「そうじゃぞ。皇軍・陸軍・海軍があるのは知ってるじゃろ。まず皇軍が精鋭の集まりじゃ。皇軍に入るには、まず陸軍・海軍に入隊して、一定の功績を積んだ後に、皇軍選抜試験を受け、合格せねばならぬ。皇軍に入ることは皇国軍兵士にとって憧れなのじゃよ。皇軍の主な任務は皇家の親衛隊と直属部隊としての特殊任務じゃな。そして陸軍、もっとも数が多く、皇国軍の主力じゃ。陸軍は各地に派遣されておるから、領邦軍とも関わりが多くある。このサザンガルドの基地に駐屯しているのも陸軍じゃ。主な任務は各地の治安維持や帝国・王国との戦闘じゃな。最後に海軍、セイト・カイサ・タキシラの3都市にしか配置されぬが、1年のほとんど海にて過ごす海の専門家達じゃな。海軍は陸軍・皇軍と共に任務にあたることが少ないから、独立性が高いのじゃ。海域や航路を守るのが主な任務じゃから、航路が生命線の商人の方が海軍と距離は近いじゃろうな」


「ふ~ん、なら僕はまず陸軍に入ることになるのかな」


「十中八九そうじゃろう。まぁシリュウ程の武があれば、どこでも活躍できるから心配するでないぞ!はっはっは!」


じいちゃんが僕の肩を叩きながら笑う。


「して、まずはセイトに赴かねばならないかの?」


じいちゃんがオルランドさんに問う。


「そうですね。サザンガルド本家当主のシルベリオと、婚姻の当事者のシリュウ殿とベアトリーチェ、分家からは代表して妻のアドリアーナが同行します。私は本家当主が不在のサザンガルドの領主代行として残ります」


「なるほどのう、では本家当主のシルベリオ殿にも挨拶に出向かねばなるまいな」


「いえ、その必要はありません。もうそろそろかと…」


オルランドさんがそう言うと、応接室の外からドタドタドタと足音が聞こえてきた。


するとバーン!と扉が勢いよく開いた。


開いた先にいるのは、スーツをぎちぎちに着た熊のような男性


サザンガルド本家当主のシルベリオさんだ。


「おお!これは…コウロン・ドラゴスピア様ではありませぬか!?」


キラキラした瞳でじいちゃんを見つめるシルベリオさん


「いかにも。貴殿はもしや…」


「失礼いたしました!私はシルベリオ・フォン・サザンガルドと申します!お会いできて大変光栄にございます!」


ガチガチに緊張しながら挨拶をするシルベリオさん


声が若干上ずっている。


「当主自ら足を運んでいただけるとは恐縮ですぞ!はっはっは!」


「いえいえ!私のような小物ごときにお気遣いは不要です!この度は我が姪ベアトリーチェとシリュウ殿のご縁嬉しく思います!」


嬉しく思っているのはじいちゃんとの縁ではないのかとの突っ込みは何とか飲み込んだ。


「うむ。素晴らしい令嬢である。さぞサザンガルドの教育は教養もあり道徳もしっかりしているのでしょうな」

「もちろんでございます。特にベアトリーチェは自慢の姪です」


この言いようにオルランドさんが苦笑、アドリアーナさんが笑いを堪えていて、ビーチェが目をひん剥いて半ギレしていた。


確かこの前挨拶行ったときに、「あのじゃじゃ馬には苦労をかけられた」とか言ってなかったか?


ビーチェが「こいつ良くもまぁいけしゃあしゃあと言うもんだな」という顔をしている。


「このよきご縁に感謝ですぞ。シルベリオ殿、我らはこれで同じ一族の者、よろしく頼む申す」

じいちゃんがそう言って右手を差し出すと


「もちろんでございます!何か我らが力になれることがあれば、何でも言ってくだされ!」

シルベリオさんがそう答えて、差し出された右手を両手で握り返した。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


両家挨拶?が終わったところで、セイトへ向かう行程と予定についての話し合いに移行した。


話し合いはシルベリオさんの説明を皮切りに始まった。


「まず皇家の方へ、ベアトリーチェとシリュウ殿の結婚の了承を貰うべく訪問をする前触れの文を出しておりました。先日皇家の方から返答が来まして、5月10日の午前中に謁見を行う通知が来ております。今日が4月28日なので、12日間の猶予があります」


「それだけあればサザンガルドからセイトまでは十分間に合いまするな。行程は五街道を馬車で行くのですか?」


じいちゃんがシルベリオさんに問う。


「いえ。実はコウロン殿の到着をもう少し遅く見込んでいたため、より移動日数が少ない海路の準備をしておりました。このサザンガルドの真南に位置する港町サザンポートからセイトまで船旅で行こうかと」


船旅か。


それは予想外だった。


船は乗ったことがないので楽しみだ。


「ほう!船ですかな!それはオツですのう!」


「喜んでいただいて何よりです!我がサザンガルド家が所有する軍船がございますので、それでセイトまで一気に向かおうかと!途中カイサを経由しても出発から3日間で着く予定です。」


「なら出発までまだ余裕がある?それまではサザンガルドにて待機ですか?」

僕がシルベリオさんに問う。


「もちろん船旅は順調にいけば3日間で着くが、天候等で遅れることもあるだろう。少し余裕を見て5月3日くらいに出発し5月6日に到着する予定を組んでいる」


シルベリオさんが答えてくれた。


その日程なら十分間に合うから問題なさそうだ。


でもじいちゃんが口を挟んだ。


「シルベリオ殿、行程の準備まで任せきりの立場で申し訳ないが、出発を早めることは可能ですかな?」


「もちろん可能ですが、いかがなされた?」


シルベリオさんが不安そうに聞く。


憧れの人に、自分が何か粗相をしたように思ったのだろうか。


「いやはや、これは儂の都合で申し訳ないのじゃがな。儂が久しぶりに皇都に戻ると()()()()()()でのう。謁見までの期間を十分に取りたいのじゃ。無論移動費や滞在費に付いては、儂からも支出させてもらうでの」


「確かに、コウロン・ドラゴスピア殿が皇都に戻るとなると、皇都はお祭りでしょうな」


オルランドさんがそう言う。


「全く問題ありません。明日にでも出立できるよう準備しますので」

シルベリオさんがそう言うが明日なら僕らの準備の方が間に合わないよ…


「それにドラゴスピアの家督をシリュウに譲りたいのですじゃ。その手続きもしておきたいのでのう」


「えっ!?家督を僕に譲るの?」


僕は驚く。


「そうじゃ。もう隠居していたもんじゃがの、シリュウも成人したしちょうどよかろう。名実ともに御隠居にさせてくれ!」


まぁ家督を貰ったところで、今と何も変わらなそうだからいいか。


僕がそう楽観的に考えていると、


サザンガルド家の人たちの目線が僕に集中する。


「シリュウ殿がドラゴスピアの当主……!」

「シリュウさんがドラゴスピアの当主ならベアトはその妻……なんと…」

「妾はベアトリーチェ・ドラゴスピア…」


「え~と、家督ってそんな大したものでもないんじゃないですか?」


「「「そんなわけない!」」」




そうなんですか~?


この章では、華族について掘り下げていきます。

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