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第3話 旅立ち

金貨1枚=1万円

銀貨1枚=1000円

銅貨1枚=100円 で考えてください。

ここには出てこないですが、鉄貨1枚=10円もあります。


「僕はサザンガルドに行くよ」


そう決意を込めて僕は言った。


朝の光が村の入り口を照らし、木々の葉がほんのりと緑色に輝く中、僕の声は静かに響いた。


「ユージがサザンガルドの商会に奉公してるってこの前ハトウの街で聞いたんだ。久しぶりに会いたいと思って」


ユージはこのエクトエンドの最も近隣の街「ハトウ」の商家の息子だ。


先月ハトウの街へ魔獣を卸売りに行った際に、ユージが不在だったため、親父さんに聞いたところ1か月前からサザンガルドの大商会に商人見習いとして勉強がてら奉公していると聞いた。


ユージは僕と同年代ながら実家の商家を皇国一の大商会にするという明確な目標を持っていて、その夢を最後に会った3ヶ月前に僕に語ってくれた。


その言葉は今も鮮明に心に刻まれており、僕の道しるべとなっている。


今身の振り方に迷っている僕にとって、ユージの生き方や将来の夢は何かヒントになるかもしれないと思う。


青々とした木々や温かな日差しの中で、彼の話を思い出すと心が少し軽くなる。


まぁ単純に唯一といっていい友人に会いたいと思ったからサザンガルドへ行くことを決めた。


サトリの爺さんも「友人に会うほど大事な用もあるまいな」と微笑みながら賛同してくれた。


「なら思い立ったが吉日じゃ!すぐにサザンガルドへ行く準備をするがよい。途中ハトウの街を経由することになろう。サザンガルドへはハトウの街から乗り合い馬車があるはずじゃ。それに乗れば迷うこともない」


「ありがとう、じいちゃん。持っていくものも槍くらいかな。明日にでも出立するよ」


「お、おう…準備が良いの…いざ旅立たれるとなると寂しいもんじゃが…」


「なーに、今生の別れでもあるまいよ、そこは漢らしく見送らんかい、この木偶の坊め」


「な、なにおう!サトリは一人もんじゃからの!この寂しさがわからんのじゃよ!」


「お?喧嘩か?買ってやるぞ?まだ魔術の1つや2つは打てるからな?」


「はいはい、そこまでそこまで。じいちゃん、大丈夫だよ、機を見てこの村には戻ってくるから」


「そ、そうかの…じゃが無理して戻らなくても良い。便りだけでも十分じゃ」


「便り…でもこの村に便りって出せるの?ほとんど来たことがないと思うけど?」


「そこは大丈夫じゃよ、冒険者ギルドへ便りの配達依頼を出せば良い。少々値が張るかもしれんが、受取人払いにしておけ。儂が払っておくからの。どんどんよこすのじゃ」


「わかった、ありがとう。じゃあ準備してくるね」


そう言って僕は出立の準備をするために自室へ行った。


部屋の中は僕のこれまでの思い出が詰まっている。


窓から差し込む朝の光が部屋の奥に柔らかい陰影を作り、僕の心を落ち着けてくれる。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「旅立ちか…いつか来るとは思っていたけど、いざ旅立つとなると不安や希望が入り混じって複雑な心境だね」


自室で出立の準備をしながら独り言ちる。


壁にはエクトエンドの村の風景を描いた古い地図が掛かっており、そこから離れることに対する感慨深さを感じる。


それもそうだ。僕はこの世界のことをほとんど知らない。


9歳までは皇国最北東の街トレスリーで過ごし、トレスリーが帝国軍の侵攻で焼け野原になってからは、祖父に連れられエクトエンドで16歳まで過ごした。


トレスリーの街並みや香り、冷たい空気が懐かしく感じられる。


そんな思い出の中で、新しい土地への不安と興奮が入り混じる。


サザンガルドへも行ったことがないので楽しみ半分、きちんと辿り着けるか不安半分だ。


広がる空と、まだ見ぬ地に対する期待が僕の胸を膨らませる。


またサザンガルドへの旅費も道すがら魔獣を狩ったりして稼がないといけない。


野営はじいちゃんに連れられた訓練で何度も経験していて慣れているから宿がなくても問題はないが、それでもいつかはどこかに居を構えることにもなるだろう。


雑然とした部屋を見渡しながら、将来の生活に思いを馳せる。


どうやって家を借りるの?買うの?わからないことだらけだ。


それでも旅立たないと。


この戦乱を終わらせたい。


あんな思いをするのは僕らの世代で十分だ。


大切な人をこの手で守れない無力さとこの世の理不尽さに打ちのめされるのはもう懲り懲りだ。


そんな幼い決意を胸に僕は、出発の準備を進めた。


荷物をリュックに詰める手が、時折止まっては家族や村の人々の顔を思い浮かべる。


「はは…これが旅立ちか…なんともワクワクすることばかりじゃないんだな」


僕は旅立ちに付随する別れについて想いを巡らせながら旅立ちの準備を進めた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


翌朝 烈歴98年 4月 11日 


僕は9歳から過ごしたこのエクトエンドの村を旅立つ。


持ち物は最低限の日用品と衣類を軽く詰め込んだリュック1つと愛用のジャベリンだ。


空気は清々しく、村の小道は朝の霧がかすかに漂い、村人たちの姿が見え始める。


時刻は日が昇って数時間、朝というには遅く昼というには早い時間で、見送りのためにこの村の人全員総勢50人ほどが村の入り口まで来てくれていた。


「いやぁ…こんなに皆来てくれなくても…」


僕は苦笑いしながら集まってくれた皆に語り掛けた。


村の入り口には、村人たちが温かな笑顔とともに見送りの言葉をかけてくれる。


「何言ってやがる!この村の唯一の若者かつ希望のシリュウの旅立ちじゃねぇか!」


「そうそう、こんな寂れた村にこんなまっすぐな若者がいつまでもいてもねぇ…?」


「寂しくなるが、元気でやりなさい。いつでも帰っておいで」


村人から次々に激励される。その言葉には深い愛情と信頼が込められており、僕の心に温かな感謝の気持ちが広がる。


「ありがとう。じいちゃんから受け継いだこの槍の腕を頼りに、この世の中を少し見てくるよ」


頑張れ!いつでも帰って来いよ!と、また声援をもらう。


村の雰囲気が、まるで英雄の旅立ちを祝福しているかのようで、気恥ずかしい気持ちがこみ上げる。


その喧噪をかき分けてくる人物がいた。じいちゃんだった。


「シリュウや、これを持っていくんじゃ。せめてもの餞別じゃ」


じいちゃんから渡されたのは鞘に入った剣だった。


鞘は黒色をしており、柄も黒色だが、ところどころ金色の模様が施されており、月の光に照らされたような輝きを放っている。


高貴な感じがする剣だ。


「これは…剣?でも少し細いような…」


「これは刀という剣の一種じゃ。刃が片側にしかないが、その分斬ることに特化しておる。このユニティ大陸ではあまり見ないと思うがの。東方大陸では主流の武器なのじゃ」


「これは貴重な剣なんじゃない…?」


「はっはっは!ただの刀ではないことは確かじゃ。ただ旅立つ際にこれはシリュウに授けようとは決めておった。お主の槍捌きで、最も得意なのは槍の投擲じゃろう。ならば得物を手放すことも多々あるはずじゃ。これまで通り魔獣相手なら仕留めきれば問題なかろうが、これより先は人と相対することもあろう。これは副武器として持っておくのじゃ」


じいちゃんの言う通り、僕が槍を扱う上で最も得意なのは突くでも払うでもなく、「投げる」ことだった。


魔獣を狩る際にも、槍を投げて仕留めることは多々あったし、その投擲の距離と精度はじいちゃんにも一目置かれるほどだった。


そんな僕に、じいちゃんが用意してくれたこの刀は、戦いの新たな側面をもたらしてくれるだろう。


「すごいね…素人の僕でもわかるよ…とてもいい剣だと…ありがとう、大切にするよ」


「武器は使ってなんぼ!大切にしすぎて飾るでないぞ!はっはっは!」


じいちゃんから授かった刀を抜いて刀身を眺めてみる。


刀身は日の光に照らされ反射し光っているようにも見えた。


刃の模様がほんのり湾曲しているようで、まるで三日月が刀身に埋め込まれているようだ。


刃に触れることはないが、感覚的にわかる。


この剣はとてもよく斬れると。


試しに軽く上から下へ振ってみると、空気を切り裂くような感触がした。


空気でこの感触なら、物を斬った時はどうなるんだろう…実戦までに慣れておかないと…


「この刀の名は暁月(あかつき)と言う。かつて東方大陸に儂が旅をしたときにとある刀匠に出会ってのう。そいつにこの度特別に打ってもらった刀じゃ。そいつは今は商都カイサに住んで居るでの。お主の旅立つ時に贈ろうと以前から依頼して打ってもらった。あとこれも渡しておかねばな」


そう言うとじいちゃんは3つの小袋を渡してきた。


「これは…お金?」


中を見ると金貨と銀貨と銅貨がそれぞれ分けられている小袋だった。


「そいつは旅費だ。お主が狩ってきた魔獣の売り上げから捻出されておるからお主のお金だぞ、遠慮なく受け取れ」


サトリの爺さんがそう補足してくれる。


「なるほど…金貨と銀貨と銅貨で分けられてるのはサトリの爺さんが用意してくれたんだね、ありがとう」


じいちゃんにはこんな細かい気配りはできないもんね。


「その通りよ。この木偶の坊は最初金貨の袋だけ渡そうとしての…金貨だけで旅ができるか!と叱ってやったもんだ」


「むむ!それより金貨があった方が安心じゃろて!」


「成人したての旅人が金貨だけ大量に所持してたらトラブルを誘発しかねんだろ!あと使い勝手が悪い!」


「何を言う!?」


また二人の言い合い漫才が始まったのを見て、苦笑いしながら袋を確認した。


金貨が20枚、銀貨が50枚、銅貨が糸で10枚にまとめられたのが10束ほどあった。


これならハトウの街までは全然持つ。


サザンガルドまでの乗り合い馬車の代金がわからないからしばらくは節約していく方がよさそうだ。


「シリュウ、これも持っていくのだ」


そう言ってサトリの爺さんがまた紙を一つ渡してきた。


「これは…?」


「これは為替の証文だ。ハトウの商家に渡せば現金に替えられる」


「え!?」


「何を驚く。その金もお主がこれまで狩った魔獣の売却益から出ておる。今渡したのはハトウまでの旅費だ。ハトウからはその証文をもって、ハトウの商家から引き出せ。乗り合い馬車代もそこから出せる。おそらく乗り合い馬車代はサザンガルドまでなら金貨5枚程でいけるだろう」


「何から何まで…サトリの爺さんには最後までおんぶにだっこで申し訳ないよ」


「なーに、そこの木偶の坊にかけられた迷惑に比べりゃ、迷惑にもならん。それに子の旅立ちを整えるのは大人の役目、お主に子ができた時に同じようにしてやればそれで良い」


サトリの爺さん…本当にかっこいい人だ…


サトリの爺さんから貰った証文をリュックにしまい、いよいよ出立の時だ。


「シリュウ、俺からは一つだけ言葉を贈ろう。自分の頭で考えて生きろ。それだけだ」


サトリの爺さんらしい言葉を貰う。


「シリュウ、お主には小さいころから大変な思いをさせてしまった。その分自由に生きてほしいんじゃ。戦乱を終わらせる、その志は立派じゃが、本当に自分のしたいことをまずは見つけるんじゃ」


じいちゃんからは温かい言葉を貰う。


「サトリの爺さん、じいちゃん、本当にありがとう。それでは行ってきます!」


烈歴98年 4月 11日 僕は…シリュウ・ドラゴスピアはエクトエンド村を出立する。




ここから僕の物語は、始まるのだ。




シリュウ「以前から旅立つ準備はしていたから、すぐに出発できたよ」


サトリ「シリュウがいつ出立してもいいように、3月前から準備はしていたからな」

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