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第25話 僕はシリュウ


「聞いてくれる?僕の、僕自身の話を」


「シリュウの話かや?もちろん知りたいのじゃ」

そう言ってビーチェは僕の顔を真剣な表情で見つめた。


「今まで隠していてごめんね。僕の名前は……シリュウ・ドラゴスピア」


僕がそう言うとビーチェは驚きに満ちた顔になった。



「………ドラゴスピア…!!つまり…シリュウは…?」


「皇国の英雄、コウロン・ドラゴスピアは僕の祖父なんだ。故郷のエクトエンド村で祖父と2人で暮らしていたんだ。祖父の友人からの助言で、姓はできるだけ隠すように言われててね。ここぞという時に姓を明かすようにと」


「…そりゃあ…隠した方が良いじゃろう…ドラゴスピア家は皇国の守護者…その名は皇国の武に心得のある者ならば知らぬものはおらぬほどの華族じゃ」


「華族?ドラゴスピアって華族なの?」


「そうじゃ、知らなかったのかや?」


「う~ん、じいちゃんが有名人なのはわかっていたけど、華族とまでは教えてくれなかったなぁ…多分何か考えがあるのだろうけど」


「まぁ、シリュウがその年で、凄まじい武を持っていた理由がわかったのじゃ。そりゃあコウロン・ドラゴスピアと暮らし、日々稽古を受けていたのじゃろう?それはそれは、並大抵の武人ではあるまいて…」

ビーチェが苦笑している。


「ごめんね、隠していて」

「いやはや、むしろ安心したのじゃよ。これが前に言っていた()()()()()()()かや?」


「うん。僕がコウロン・ドラゴスピアの孫だと知れば、本家の当主さんもビーチェのお相手として納得してくれるかなって」


「…………勝算はあるくらいかや?…シルベリオ伯父様がどう判断するかは話してみないとわからないのじゃ……それに妾がコウロン様に認めてもらえるかが不安になってきたのじゃ…」


「それは大丈夫だよ。僕からしたら稽古が鬼厳しい以外は、普通のおじいちゃんだしね」


「う~ん、そうかや。シリュウが言うなら信じるのじゃ」


「ありがとう。まず話したいのがそれで1つ目、もう1つあるんだ」


「うん、聞かせて欲しいのじゃ」


そして僕は話す。


9歳まではトレスリーで生まれ育ったこと


トレスリーの悲劇の時に、現場にいて、凄惨な光景を目にしたこと


父と母がトレスリーの悲劇以降、行方不明で未だに生死不明なこと


そして行き場をなくした僕をじいちゃんが引き取ってくれて、エクトエンド村で過ごしたこと



「………これが僕のすべてだよ。ビーチェには知っていて欲しかったんだ」

話し終わると、僕はすっきりした気持ちになった。


でもビーチェは、涙を流して、僕を抱きしめた。


「……シリュウ…シリュウよ!辛い思いをしたのじゃな……もう大丈夫じゃ…妾がおる!妾がおる!ずっと一緒にいるのじゃ!どこにも行かぬ!結婚を認めてもらえずともシリュウと共にどこへでも行く!」


ビーチェがありったけの想いを僕にぶつけてきてくれた。


僕はまだ動く右手で必死にビーチェを抱きしめた。


自然と僕の目からは涙がこぼれたけど、悲しい涙ではないことは確かだ。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


僕の話をした後、僕らはずっと無言で抱き合っていた。


長い時間抱き合っていたけど、扉をノックする音で、瞬時に距離を取った。


「お嬢様!シリュウ様!シュリットです!夕食のご準備ができましたので、お呼びに参りました!」


「……行くかや。食欲はあるかの?」

ビーチェが僕に尋ねる。


「昨日からあまり食べてないからね。流石にお腹が空いてきたよ」


「うむ、好きなだけ食べるがよい」


そう笑いあって僕らは食堂へ向かった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


食堂にはすでにオルランドさんとアドリアーナさんが待っていた。


「おお!来たかね。さあ座りたまえ」

「どうぞ、シリュウさん。ビーチェの隣がよろしいわね?」

諸手を上げて歓迎されて、少しこそばゆい感情になる。


席に着くと、次々に豪勢な料理が運ばれてきた。


鳥の丸焼きや魚のソテー、色とりどりのサラダに、黄金色のスープ


お腹が空いていたので、テーブルマナーも気にせずがっつくように食べてしまう。


ここ数日ビーチェに甘えていた癖が抜けず。汚れた口をビーチェに拭ってもらう失態を犯したが、周りの人は微笑みを浮かべるだけだった。


ある程度食事をしたところで、オルランドさんが話を切り出した。


「シリュウ殿、改めて言わせてほしいが、今回の件、本当にありがとう。先ほどデフォナ嬢が1つ目の活力剤を調合し終えて、さっそくカルロに投薬したんだ。すると1時間もすれば、目に見えてカルロが楽そうになっていた。このまま順調に投薬できれば、問題なく完治するそうだ。何とお礼を言えば……本当にありがとう」

「シリュウさん、ベアトリーチェに続いて弟のカルロの命まで救っていただきました。あなたはブラン・サザンガルド家の恩人です。困ったことがあれば何でも言ってちょうだい」

「シリュウよ…妾からも改めてお礼を言わせてほしい…本当にありがとうなのじゃ」


ブラン・サザンガルド家の3人から最大級の感謝の言葉を貰う。


僕は涙が出そうなほど嬉しかった。


「いえ…僕はビーチェのためにできることをしたまでです。ただそれを成しえた己の力に、そしてこの力を授けてくれた僕の家族に感謝します」


「素晴らしい家族のようだ。いつか会ってみたいね」

オルランドさんが言う。


僕も会ってほしいと思う。オルランドさんが思う「会いたい」とは意味が違うけれど


「さて、そんなブラン・サザンガルド家の恩人のシリュウ殿には、何かお礼をしなければならない。何か欲しいものはあるかね?当家が用意できるものなら何でも用意しよう」


欲しいもの?そんなの1つしかないね。


「ありがとうございます。1つお願いしたいことがあります」


「何かね。言ってみなさい」


「ビーチェ…ベアトリーチェさんを僕に下さい」


「………な!?…」

驚くオルランドさん


「あらあらまぁまぁ…!」

手を頬に当てて、ニマニマしているアドリアーナさん


「……これは予想外のお願いだね……うむむ」

考え込むオルランドさん


家の恩人とは言え、庶民の少年がご令嬢を欲しいと言えばそう悩むのも当然だ。


「ベアト……あなたの気持ちはどうなの?」

アドリアーナさんがビーチェに聞く。


ビーチェは顔を赤くしているが、真っすぐとアドリアーナさんの方を向いて答えた。


「母様……妾はシリュウのことを慕っております。シリュウ以外の男性と共に歩むことは考えられぬほどに。妾からも父様と母様にお願い申し上げます。どうかシリュウと共に歩む人生を妾にお許しください…!」


ビーチェが立ち上がって、手を祈りの形にしながら、ご両親に伝える。


「あなた、私は全然いいわよ?エンペラーボアを単騎で狩るほどの猛者がベアトの旦那様になるのよ?何が不満なの?」

「母様……ありがとうなのじゃ…」


「……いやはやアドリアーナよ…私も反対しているわけではない。ただ驚いているだけだよ。聞いたところ出会って1週間程度だろう?この短期間でベアトリーチェがここまで惚れ込むなんてね…」


「つまり…?」


アドリアーナさんがオルランドさんに問う。


「ブラン・サザンガルド家の当主、オルランド・ブラン・サザンガルドはシリュウ殿とベアトリーチェの結婚に賛意を示そう」


「……!ありがとうございます!」

「……父様…!ありがとうなのじゃ!」


よし。これで関門はあと1つ。


「しかし、ベアトから聞いているかと思うが、ベアトの結婚には、本家当主シルベリオ兄さんの許可がいる。ちょうどエンペラーボアを討伐した報告をシルベリオ兄さんにしたところ、討伐したシリュウ殿と会いたいそうだ。明日シルベリオ兄さんと会う約束をしていてね、シリュウ殿来てくれるかな?」


「もちろんです。僕としても直接お願いに伺う予定でしたので、渡りに船です」


「妾も行くのじゃ!」

ビーチェが手を挙げて主張する。


「いやシリュウ殿と2人で行く。実は何人か連れてシルベリオ兄さんと会おうと提案したんだが、シリュウ殿だけ連れてくるように言われてね」


「……ふ~ん…男だけで怪しいところに行くんじゃないでしょうね?」

アドリアーナさんがジト目でオルランドを見ている。

「そ、そんなわけないだろう!」

「……必死になって否定するところがさらに怪しいわよ」


オルランドさんが一瞬でピンチに陥る。


僕には関係のないことだと素知らぬ振りをしていると


「……シリュウもそういうの興味あるかや?」


とんでもない流れ弾が来た。


「怪しいところって何?僕はそんな悪人じゃないよ」


「…そうかや!シリュウは知らなくて良いぞ!」


ごめん。


意味は分かるけど、身を守るため、ここは純朴少年の振りをしておこう。



明日には本家当主と会える。


思いのほか、早かったな。


でもビーチェとの未来のため、必ず説き伏せてみせる。


ここまで読んでいただきありがとうございます!


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