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第22話 シエナ防衛戦⑦〜反転そして終戦 [中央:遊軍]

烈歴 98年 7月15日  農耕街シエナ東部 シエナ丘陵西 空見の丘 防衛軍 中央軍


「うっわぁ〜…マリオ少将すんごいね…」


左翼で冒険者軍がうまく中央へ魔獣の群れを流したのを確認した僕とビーチェは、この戦場の中心地となっている陸軍が布陣している中央へ移動していた。


そこで見たものは数百もの魔獣を超巨大な戦斧で次々に屠っている鬼神のようなマリオ少将の姿だった。


「帝国の援軍の時は大錐のような打撃武器を使ってたよね?今は戦斧か…対人と対魔獣で使い分けてるのかな」


僕が独り言のように言うと、隣にいたビーチェが推測しながら答えた。


「おそらくのう。あの膂力じゃったらどんな得物でも扱えよう」


「確かにね…」



「マリオ少将は機動力がないものの与えられた持ち場ではあのように個の力で武功を挙げる武将じゃて。サンディ中将のように読みの深い軍師と合わさるとそれはもう戦場では末恐ろしいものよなぁ」


ビーチェの言う通り


サンディ中将はここぞの決戦場を読み切る知能が半端ではない。


むしろ神の使いですと言われたほうが納得するレベルで先を見据えている。


そんなサンディ中将の頭脳とマリオ少将の武力でここ最近の陸軍は帝国相手に前線を押し上げるほどの躍進を見せていた。


僕がそんなふうにマリオ少将の奮闘を遠目に見ていると、僕の方に手を置いて話しかけてくる人物がいた。


「珍しいな。君でもそんな他人を化け物を見るかのような目で見ることもあるんだな」


「………人をなんだと思ってるんですか、アウレリオ団長」


少し微笑みながら普段着に申し訳程度の甲冑と盾と長剣を装備しているのは、リタさんが新設した私兵団『太陽騎士団』のアウレリオ・セレノガード団長だ。


「なんだと思ってると言われたら……化け物ね」


僕の問いかけに冷たく答えるのは、アウレリオ団長の妻であるヒルデガルド・セレノガード


今は金髪を後ろで留めていて、ビーチェと同じく女性冒険者のように軽武装をしている。


この2人は僕達の結婚式に出席するリタさんの護衛としてサザンガルドに来訪していたが、どうやらリタさんの配慮で数日休暇をもらっていたらしい。


その休暇でシエナに来ていたが、偶々今回の事態に出会したため、領邦軍から装備を借りて遊軍として今朝から参戦していた。


「相変わらず酷い言いようだなぁ…」


「まっことそうじゃ!人の旦那様を化け物呼ばわりとは…!こんなに愛くるしいのに…!」


ヒルデガルドの軽口にビーチェはプリプリ怒りながら僕の頭を抱く。


もにゅもにゅ


「はいはい。じゃあその愛くるしい旦那様に最後の大仕事お任せするわね…」



そう言ってヒルデガルドは腰から剣を抜き臨戦体制に入る。


「大仕事ねぇ…いいのかな?こんな美味しいところを僕がもらって」


僕はあまり面白くはないように言う。


「『中央に魔獣を集めて、マリオ少将に堪えさせ、魔獣が逃走する気配を見せたところで反転、シリュウ准将筆頭に我々4人で魔獣を狩り尽くす』…サンディ中将の策に不満か?」


アウレリオ団長は苦笑しながら言う。


「そりゃあ…僕としてはもっと最初からガンガン参戦させてもらってこの戦場に貢献させて欲しかったですよ…ビーチェの故郷の戦なんだし」


僕は不満を隠さずにアウレリオ団長に愚痴る。


ビーチェは熱い眼差しで僕を見ており、ヒルデガルドは僕ら2人の相思相愛ぶりに呆れていた。


そんな僕の愚痴もアウレリオ団長は大人の余裕で受け止める。


「そう言うな。これも『政治』なのだ」


「『政治』?」


「そうだ。これから皇妹派と皇王派の政争は激化の一方だ。それを見越して皇妹派とサザンガルドの関係を良好に保っておくのがこの作戦の目的だ。サザンガルドの危機に皇妹派の武人が活躍すればサザンガルドの人から見たリタの印象…シリュウ准将の印象の良さは言うに及ばずだろう?」


「まぁ、そうですけど」


「そんな顔をするな。君の槍はこの地の人達の助けになるのは間違いない。私達汚い大人がそれを少し利用させてもらうだけさ」


アウレリオ団長は、美味しいところをいただくことに不満がある僕を宥めながら言う。


「はぁ…わかりました。僕も個人の感情で動いてしまうこと反省しなきゃだな」


「シリュウ准将はそれでいい。こういうことは私たちに任せておけ」


「あいあいさー。ではそろそろ参りましょうかね」


そして僕は龍槍ガルディウスと名刀 暁月を準備する。



今回の戦は単純


目に映る全ての魔獣を狩り尽くす。


死角はアウレリオ団長とヒルデガルド、ビーチェがカバーしてくれる。


相変わらず魔獣の群れはマリオ少将に群がるが、そろそろ魔獣達も限界が近いだろう。


マリオ少将に突撃する魔獣の数がだんだん減ってきた。


そして陸軍の陣から赤い大きな旗が上がる。


あれは『反転』の合図だ。


さて行きますかね!


「シリュウ・ドラゴスピア、参る!!!」



僕は戦場に響くほどの声で名乗りを上げ、中央の魔獣の群れへと突撃した。


相手は数千、数万もの魔獣の群れ


しかしそのほとんどが低級魔獣


それにカタリナさんやマストロヤンニさんの冒険者軍、パオっちとリアナさんの領邦軍、マリオ少将を筆頭とした陸軍の奮戦のおかげでめぼしい魔獣はほぼ狩られている。


こんなに弱っている魔獣の群れを狩るなんて、木を伐採するようなものだ。


少し魔獣達に同情を覚えるが、すぐに気を引き締めて僕は戦場を駆けた。




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