第22話 シエナ防衛戦⑥〜『泰山』 [中央:陸軍]
更新ペースは週1を目安に頑張ります…!
とりあえずこの章をなんとか近日中にまとめます!
烈歴 98年 7月15日 農耕街シエナ東部 シエナ丘陵西 空見の丘 防衛軍 中央軍
このシエナ某援軍の中核をなすのは皇国軍陸軍
それもここいるのはサザンガルド方面に配置された一線級の兵士達だ。
陸軍は、皇国中の治安や安寧を守るために、皇国各所に配備されている。
だが配備されている場所によって、同じ陸軍でも『格』が存在するのだ。
最も『格』があるのは、この大陸の雄であるシュバルツ帝国と対峙する『門都ノースガルド』に駐在する皇国陸軍第一師団だ。
このノースガルド軍に配備されることは、陸軍兵士にとっては最も誉れであり、この第一師団で活躍が認められれば陸軍の出世街道を華々しく歩むこととなる。
陸軍大将アレス・デルピエロも
陸軍中将サンディ・ネスターロも
陸軍少将マリオ・バロテイも
この第一師団にて頭角を現したことで将軍となったのだ。
そしてこのサザンガルドに配属される第二師団は、第一師団には及ばないものの陸軍の中では精鋭揃いの軍だ。
今このシエナ防衛軍に布陣している陸軍は第二師団の精鋭達1,000が配備されていた。
なぜかここより東に布陣している最前線である討伐軍を差し置いて
しかしこのシエナの眼前に迫る魔獣の大群を目の当たりにして、第二師団の精鋭達は自分たちがここに配備されたことの意味を見出していた。
精鋭達を率いる第二師団の副長は、隣にて超大型の戦斧を担いでいるマリオ・バロテイ少将に語り掛けた。
「第二師団の主力である我々がこちらの配備となった時は疑念に思いましたが…結果的には良かったと感じています。これも女神の御導きでしょうか」
自分たちの配備場所に納得していなかった自分に言い聞かせるように副長は言うが、マリオは飄々として答える。
「ん~?そんなことないぞぉ?サンディは最初から主力をここに置くことを決めていたんだぞぉ?」
「…まさか…?…サンディ中将はこの事態を読んでいたのでしょうか?」
「そうだろうなぁ。サンディは最初からあのスタンピードの決戦場はここだと読んでいたんだぞぉ」
「ご、御冗談を…この事態は領邦軍の不手際により引き起こされたもの…偶然では?」
「それをやってのけるのがサンディなんだぞぉ。だってキミら以外にもパオもシリュウも今ここにいるんだぞ?」
「!?」
マリオがさも当たり前のように言うが、副長は驚愕していた。
(……確かに数は少ないと言えど、この戦場には第二師団の主力に、かのパオ・マルディーニ少将…シリュウ・ドラゴスピア准将もいる…それはすべてサンディ中将が糸を引いているのか…!?)
副長は驚愕に染まった顔で思考を張り巡らせるが、そんな副長の肩にマリオは優しく手を置いた。
「そんなに思いつめなくてもいいんだぞぉ。やることは簡単。サンディに言われたとおりに、目の前の魔獣をぶっ飛ばすだけなんだぞぉ」
「…!…はっ!マリオ少将のおっしゃるとおり!いかようにもご指示ください」
マリオの言葉に覚悟を決めた副長は敬礼を取り、マリオの指示を仰ぐ。
「最初に言った通りだぞぉ」
「は、はぁ…本当にあの作戦でよろしいので?」
「もちろんだぞぉ。オラを信じるんだぞぉ」
「……マリオ少将の武を疑うものなどこの陸軍にはおりますまい。では手筈通りに!」
「よろしく頼んだぞぉ」
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マリオの指示通りに、第二師団の副長は陸軍1,000を鶴翼の陣に布陣した。
そして……
「魔獣は中央に流せ!無理に討伐しなくていい!盾隊を前に重厚な防衛陣を築け!」
「「「はっ!!」」」
陸軍は、左翼の冒険者軍、右翼の領邦軍から流れてきた数千、数万の魔迫りくる魔獣を討伐しながらも重厚な鶴翼の陣で、更に中央に流した。
この戦場は左翼と右翼が小高い丘となっており、中央の場所は、周囲より平地になっていることも相まって、魔獣の群れはどんどん中央…中心に流れていった。
そして魔獣の群れが行き着く先に待っているのは………超大型の戦斧を担ぎ、泰然自若に魔獣を迎え撃つ。
『泰山』が聳え立っていた。
「来たかぁ。この街の食べ物はうまいだぁ。それを荒らす奴らは許さないぞぉ……!!」
普段温厚なマリオの逆鱗
それは『食べ物』に関することだ。
今でこそ超巨漢で大飯食らいのマリオだが、飢えに苦しんだ過去を持つ。
魔獣達にシエナの肥沃な農作地を荒らされようとしていることは、マリオの本気を引き出すには十分な理由だった。
「うぉおおおおおおお!!」
ブォン!!!
ブォン!!!
マリオは得物の超巨大戦斧を豪快に振り回す。
技術も何もない
ただただ力任せに大きな武器を振り回す。
しかしそれが圧倒的な膂力により繰り出される一振りになっている。
それは魔獣が吹き飛ぶにはあまりにも十分すぎる必殺技だった。
一振りで二十の魔獣が
二振りで五十の魔獣が
三振りで百の魔獣が屠られていく。
「死にたい奴はかかってこぉおい!!」
マリオは魔獣の群れに威嚇する。
それでも骨のある魔獣はマリオに攻撃を仕掛ける。
「キシャァー!!」
「グルウウ!!」
「バウッバゥバゥ!!」
狼のような魔獣数十がマリオに襲い掛かり、数匹の牙がマリオの腕に刺さる。
しかし……
「うおおお!どっせい!!」
パキャッ!
噛みついた狼たちは、マリオの戦斧を持っていない方の腕により、頭蓋骨を握りつぶされる。
そして噛みついた腕も鋼鉄のように固い筋肉の鎧で覆われており、牙が痛々しく折られている。
膂力だけでなく、鋼鉄の体により鉄壁の耐久力を誇る。
まさに鳴動すれば大地を轟かせ、襲われても揺るぎない峰のように聳え立つ
皇国陸軍の武の象徴
かのサンディ・ネスターロに『この大陸で最も強い男』と言わしめる。
『泰山』マリオ・バロティ
「うおおおおおおおお!」
その者の前に築かれるは、魔獣の屍の山
中央に向かう魔獣達は、泰山の前に成す術もなく、その命を散らしていった。




