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第21話 シエナ防衛戦⑤〜なんと恐ろしきおしどり夫婦 [右翼:領邦軍]

烈歴 98年 7月15日 9時1分 農耕街シエナ東部 シエナ丘陵西 空見の丘 防衛軍右翼


左翼の冒険者軍が魔獣の群れへ斜線陣で迎撃したとほぼ同時


右翼のコンパニ家を中心とする領邦軍1,000も魔獣の群れと相対していた。


そしてこの領邦軍の先頭に立っているのは、コンパニ家の当主ジッロ・コンパニ……ではなく


王家十一人衆の一人であり、皇国最強の魔術師


皇国海軍 少将 『海の氷雷』パオ・マルディーニ少将 その人だった。


そしてその隣にはパオ・マルディーニ少将の婚約者であるリアナ・フォッサ少佐もいた。


「その…よろしいので…?」


この領邦軍…ないしはシエナ防衛軍の全権を任されており、この戦場では誰よりも偉いはずのジッロ・コンパニがパオに伺うようにして尋ねた。


「もちろんだにー」


「…パオ・マルディーニ少将は海軍のお方…それに今は休暇中とも聞いております。ご助力は大変ありがたいのですが、何もこのような最前線に立たれずとも面目は保てましょうぞ」


ジッロはパオを慮るように言う。


それもそのはず


この戦いはサザンガルド領邦軍の失態により引き起こされたものであり、なおかつサザンガルドと縁遠い海軍のパオが最前線どころか戦場に立つ義理もないのだ。


しかも彼の名高き『海の氷雷』とあっては、領邦軍の中でもかなりお偉方のジッロでさえ申し訳なさから委縮してしまう。


そんなジッロの罪悪感を風の前の塵芥のように気にせずパオは言う。


「ふみゅう。ここはベアちゃんの故郷だもん?ならシリュウっちにとっても大事な場所だろんね。親友のオイラが腕を振るうのにこれ以上の理由はあるのじゃろうもん?」


「!?」


あっけらかんと答えるパオの言葉にジッロは感銘を受けた。


(軍の政治的面子より友としての義理を通すか……さすがは王家十一人衆の方…若いのになんと器の大きい方だ…)


パオの回答にジッロは覚悟を決めた。


この戦場は、自身の面子や誇りなど折れた矢ほども役に立たないと。


恥を忍んで、皇国の最強の御仁に力を借りることを惜しまないと。


「この戦終わればこのジッロ・コンパニ…全てを賭してあなた様の武功に報いましょうぞ」


ジッロの言葉にパオは即答した。


「ならこの先もシリュウっちとベアちゃんの味方でいて欲しいぬん」


パオの言葉にジッロは毒気を抜かれる。


パオの武功に全てを賭して報いる覚悟でいたが、『これからもシリュウとベアトリーチェの味方でいる』などというあまりにも当たり前のことをお願いされたからだ。


「は、はぁ…それは当然この先もそうなるでしょう」


ジッロは困惑するように答えるが、パオの目つきは鋭くなり、そしてパオが今までの飄々とした態度とは一線を画す低い声で答えた。


「……()()()()()だろん」


「!?」


()()()()()()…?


つまり言外に…これから何かが起こるということをパオはジッロに暗に示した。


「あ、あなた様は一体…」


ジッロはパオにその先の言葉を促そうとするが、パオはまた雰囲気を元にもどした。


「まぁこれからじゃもんね。とりあえず目の前の奴らを中央に流すにー。リアナ!」


「ええ!魔力は練れたわ!準備万端よ!」


「じゃあお願い!」


「行くわ!『ポアンカレ・ブリーヌ!』」


リアナが杖を天に掲げて水の魔力を眼前の魔獣の群れの上空へ展開した。


すると、魔獣へしとしとと霧雨のように水が滴った。


驚くべきはその範囲


雨に塗れた魔獣の数はおそらく数千にも上る。


王国最高の魔術師軍団ポアンカレ家に魔術の手ほどきを受けたリアナだからこそ放つことのできた水の魔術だ。


「や、やった!」


「にー!すごいろん!」


リアナは『ポアンカレ・ブリーヌ』を実戦にて初めて成功させて喜んだ。


パオも我が事のように喜んでいる。


しかし魔獣の群れは雨に塗れる程度で行進は止めない。


領邦軍1,000の前には数千近くの魔獣の群れが迫っていた。


「ここからはオイラの番じゃもんね」


「頼むわよ!パオ!」


リアナの声援を受けてパオは風の魔術で浮遊し、領邦軍の最右翼の方へ移動する。


そして最右翼に到着し、魔獣の群れの横っ腹に向けて、会心の魔術を放つ!


「『氷槍烈風!』」


ビュオオオ!!!!!!!


「ギャオオン!!」

「アガガガガ」

「キイイイイイン!!」


パオは魔獣の群れへ、凄まじい冷気を伴った風の魔術を放つ。


魔獣の群れはリアナの魔術により滴り冷え切った体に更にとてつもない冷風を浴びた。


パオの魔術により、数千もの魔術のおおよそ3割程がその場で動けなくなり、残りの7割は這う這うの体で、中央へと逃げて行った。


「……ふぅ…久しぶりに大きな魔術放ったもんね…疲れたろん」


パオは魔術を放った疲労感に見舞われながらもリアナとジッロのいる右翼の中心部へ戻ってきた。


「お疲れ、パオ!」


そんな魔獣の群れを見送りながら、まるで日課の仕事を終えた夫を労う妻という日常風景を作り出す2人


しかし今この2人の戦果は、千近い魔獣を一瞬にして葬り去り、さらにその倍の魔獣を撃退したのだ。


あまりにも非現実的な、あまりにも理不尽な暴力に、ジッロを始めとする領邦軍の面々は顔を青ざめさせていた。







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