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第20話 シエナ防衛戦④〜斜線陣[左翼:冒険者軍]

烈歴 98年 7月15日 9時1分 農耕街シエナ東部 シエナ丘陵西 空見の丘


カンナヴァロ家第3部隊 レーモ・ジョフレ隊長から領邦軍の嫡男達部隊の独断専行により本軍が魔獣の群れのほとんどの突破を許してしまった伝令を受けた僕達防衛隊は、大急ぎで布陣の前線を上げた。


陸軍中佐のヴィート・アレッシ中佐の提言により、魔獣の群れの動線が集中しやすい隘路があり、シエナからもほどよく離れた場所である『空見の丘』というところに僕達は到着した。


ここはなだらかな丘がいくつもあり、周りには大きな人工物がないため空が広く見渡せる場所だ。


天気がいい日にピクニックをするには最高の場所だ。


ただ今は緊急事態


ここは今から数万の魔獣と数千の兵士が入り乱れる戦場となるのだ。


中央の隘路付近にはマリオ少将率いる陸軍


右翼にはパオっちを中心とした領邦軍


左翼にはマストロヤンニさんとカタリナさんが中心となる冒険者軍


僕は左翼の軍にビーチェ、漆黒の盾の面々と共に布陣していた。


軍の布陣早々に東から砂煙が上がっている。


どうやら魔獣の大群がもうそこまで来ている。


遠目にも様々な種類の魔獣が群をなしてこちらに進行しているのが見えた。


「いよいよ来たね。今回は陸軍が肝要だ。僕はマストロヤンニさん達の戦闘をまずは見させてもらうよ」


僕がそう言うとマストロヤンニさんは目を輝かせた。


「もちろん……!ご期待に沿えるよう…死力を尽くします…」


それとは対照的に呆れたような顔をしているのがビーチェだ。


「本当に…シリュウや?目の前にあれほどの魔獣の大群が迫ってきておるなのに呑気なもんじゃのう」


ビーチェは僕の緊張感のなさに些か呆れている。


僕としては油断をしているつもりはないが、あの魔獣の群れを見て少し気が緩んでいるのは確かだ。


それにヴィート・アレッシ少佐から真の作戦内容も聞いて


「ごめんごめん。でもあの魔獣の群れってほとんどが中級か低級じゃない?それにサンディ中将の策もあるしね」


僕はビーチェにそう確認した。


エクトエンドにいた頃はエクトエンド周辺の魔獣しか知らなかったが、海軍に入ってから魔獣図鑑や様々な魔獣による被害報告書を目にして僕の魔獣の知識は格段に増えた。


その知識に間違いがなければ目の前に迫っているのはほとんどがなんてことのない魔獣だったからだ。


そしてこちらは兵数が絞られているとはいえ、パオっちにマリオ少将までいる。


「確かにそうじゃが…数が数じゃぞ?」


「こっちが4,500で、魔獣は…目算2万くらい? 1人5匹討伐すればいい計算じゃん。よゆーよゆー」


「そうです…!…さすがはシリュウ様…!」


「こ、こやつらは…」


僕とマストロヤンニさんの脳筋振りに頭を抱えるビーチェ


「あなたも苦労するのね…ベアトリーチェ…」


「ナナリ…そなたはわかってくれるか…」


マストロヤンニさんの右腕であるナナリさんがビーチェを労っている。


「それに僕らの役割は殲滅じゃないし。中央の陸軍の方へ()()んでしょ?」


「それはそうじゃが…」


僕の言葉にビーチェは少し口を尖らせた。


「左翼の冒険者軍と右翼の領邦軍を鶴翼の陣に布陣させて、中央の陸軍へ魔獣の群れを流して陸軍で殲滅する……ヴィート・アレッシ中佐だっけ?中々大胆な策を考えるわよね」


「ナナリさんが言うように僕も驚いたな。サンディ中将が『あいつは普通の奴だ』って評していたのになかなかの策士だよね」


「……マリオ少将のお付きじゃろう?普通の人じゃなかろうて……ほらそうこうしているうちに第一陣が来るのじゃ!」


ビーチェが指さす方向に、魔獣の第一陣が僕達冒険者軍に迫ってきていた。


第一陣は狼や豹型の機動力のある魔獣が多そうだ。


しかし中には熊のように体格のある魔獣もおり、ところどころにCランク魔獣のハイオークも散見されていた。


「おまいたち!気合を入れるんだよ!魔獣狩りは『黄金の槍』の専売特許!領邦軍にも陸軍にも遅れをと取るんじゃないよ!」


「「「応!!!」」」


冒険者軍の最重要地の最左翼に布陣する『黄金の槍』を率いるカタリナ・ジュンティさんが自身の得物である黄金の槍を天に掲げながら大きな声で檄を入れる。


そしてそれを合図に『黄金の槍』の面々は槍を前に出し、見事な槍衾を形成した。


「一番隊から!順次突撃!」


「了解!行くぞお!!!」


カタリナさんの号令で最左翼に位置する部隊が魔獣の群れへと突撃した。


「2番隊続きます!」


「3番隊出るぞ!」


最左翼の1番隊の突撃を皮切りに時間差で、魔獣に突撃する『黄金の槍』


「ほう!これは見事な『ロクセ・ファランクス(斜線陣)!』冒険者クランでこれを難なく実行できるとはよほど統率の取れた部隊じゃのう!」


ビーチェは感嘆の声を上げた。


「確かにね。冒険者たちはこんな陣形を組んだ戦闘なんてほとんどやらないはず…これもさっき口頭で説明されたばかりなのに、これほど見事に実行できるものなのか」


僕が疑問に思っているとマストロヤンニさんが説明してくれる。


「……黄金の槍は…サザンガルド…いや皇国で最も規律的なクランだ…それを支えるのはカタリナ・ジュンティのカリスマだよ…曲者揃いの冒険者たちだけど…カタリナの前だけではみんな従順なのさ…」


「へぇ…流石はSランク冒険者ってところか…」


黄金の槍の『ロクセ・ファランクス』は見事に決まり、最左翼で激突した魔獣の群れが押し出されるように、左翼中央の方へ寄って来た。


「……さて僕らの出番だ……出るぞ…!」


「あいあい」

「うい~」

「やってやるさ~」


マストロヤンニさんさんの掛け声で『漆黒の盾』のメンバーはそれぞれ統一性のない返事をした。


メンバーは見たところ10代~20代の若者がほとんどだ。


マストロヤンニさんの孤児院での後輩が主な構成員だそうだから、必然的にかなり若年層のクランになる。


「若者ばかりじゃが、この戦場で臆するものがいないのは大したものじゃの」


「それはね、テオがいるからよ」


「それほど頼りになるのかや?」


「そうね。ロロ・ホウセン…ファビオ・ナバロ…大陸最強は誰か?という議論はどこの酒場でもあるけど、私はもう断じるわ。最強は『鉄鬼』テオドーロ・マストロヤンニだってね…!」


ナナリさんはそう言って、得物の双剣を構えながら先行したマストロヤンニさんの背を追っていく。


「一番近くで見ているであろうナナリさんがそういうマストロヤンニさんの腕前…拝見させてもらおうかな」


僕は突撃した『漆黒の盾』の方を観察していた。


『漆黒の盾』の布陣はかなり特殊だ。


マストロヤンニさんが突出して前線に位置し、そのマストロヤンニさんを後ろに離れた位置で半円状に囲うように布陣していた。


「キシャー!!」

「バウバウ!!」

「ガルウウ!!」


黄金の槍が流した魔獣の群れが突出したマストロヤンニさんに襲い掛かる。


その数は数十も見られた。


普通の人なら絶体絶命の窮地であるが、『漆黒の盾』の面々は誰一人慌てていない。


そして…


ズバッ!!!



マストロヤンニさんは右手に装備していた黒色のバスタードソードを魔獣の群れへと一閃した。


その一振りで十の魔獣は真っ二つになった。


「……行くぞ…!」


そしてその勢いのまま魔獣の群れへ飛び込むマストロヤンニさん


当然全方位を魔獣に囲われるが……


「そこ!」

「あいあい!」

「背を見せたなぁ!」


ズバッ!

ビュン!

ドゴォン!



マストロヤンニさんに釣られた魔獣の背に向かって『漆黒の盾』が総攻撃した!


それぞれの得物は双剣や弓・メイスなどバラバラで、杖を持っていて火の魔術を放つ人もいた。


単純だが、マストロヤンニさんを囮に魔獣の背後に攻撃する『漆黒の盾』の攻撃は魔獣の群れを崩すのに十分すぎる程の攻撃だった。


「これは……いいね…素晴らしい。マストロヤンニさんの個の武力を最大限に生かしつつ、各々が持ち前の能力を発揮しているんじゃないかな」


「そうじゃな。得物がバラバラなのは各々の適性に合ったものなんじゃろう。皆若いなりに自分の得物を使いこなしておる。これはそこらの領邦軍より個の力はあるぞ」


僕とビーチェは『漆黒の盾』の戦闘に惚れ込んでいた。


よし、()()()()


僕達が『漆黒の盾』の戦闘に魅入られていると、更に左翼から甲高い声が響いた。


「はいはい!あたいらも忘れないでよ!」


最左翼からカタリナさんが槍を振り回しながら奇襲してきた。


『漆黒の盾』の釣り攻撃と『黄金の槍』の奇襲攻撃でこちら側の魔獣の群れは総崩れになりつつある。


左翼の冒険者達の攻撃に恐れをなして、背を向けるか中央の方へ駆けるように逃走していった。


背を向けた魔獣は冒険者達に難なく討ち取られため、その様子を見た魔獣たちは中央へ流れることに活路を見出し、左翼の冒険者軍を避けるように中央へを駆けていく。



そこが死地とも知らずに……






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