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【閑話】蠢く悪意再び~私怨に囚われた者の末路

烈歴 98年 7月某日 タレイラン公爵王都邸 とある一室


王国の四公爵の1人、タレイラン公爵が所有する王都ルクスルにある邸宅で、タレイラン公爵その人と神父のような恰好をした大柄の男が卓を囲んでいた。


「これがかの伝説の『女神様の法具』の一つ……『魔祓いの琴』…!」


タレイランはその大柄の神父が大層丁寧に梱包して、遥かヘスティア神国から持ち込んだ虹色に輝く琴を手に持ち感動しながら言う。


「そうです。これはあの『女神様』が魔獣の襲撃を恐れる民を想い、魔獣にしか聞こえない嫌悪する音を奏でることで魔獣を容易に追い払うことができる『魔祓いの琴』でございます」


「……司祭よ。此度の助力誠に感謝する。これでサザンガルド山脈中の魔獣をサザンガルド方面へ追いやれば…」


「サザンガルド一帯は、かの屈強な山脈の魔獣たちに踏み鳴らされるでしょうなぁ」


「然り!…しかももうすぐサザンガルドの娘とあの憎きシリュウ・ドラゴスピアの結婚式だと言う…!これで慶事の空気をぶち壊してやろうぞ…!」


タレイランは、『魔祓いの琴』を狂気の笑顔を浮かべながらその胸に抱く。


「……ブラン・サザンガルドへの調略の阻止に、シャルル王の暗殺阻止…そしてハンブルク海戦での惨敗……皇国には煮え湯を飲まされ続けたが、これで全てを取り返す…!サザンガルド一帯が魔獣のスタンピードに見舞われた隙を持って、我が軍の総力でサザンガルドを落とす…!」


その憎しみに囚われ、実現性が乏しい計画を本気で遂行しようとするタレイランを神父の男は表面上は笑顔ではあるが、内心冷え切った心で見つめていた。


(………かつての大魔術師も老いれば感情的になり、大局を見失うものですねぇ…しかし枢機卿からは、『戦乱の灯を絶やすな』とのご指令が下りたものですから、わざわざ『女神様の法具』まで持ってきたのですよ?…ちゃあんと、成果を出さないと、その首いつまで繋がっているかわかりませんよぉ?)


この神父の男は、ヘスティア神国を牛耳る教団の幹部の部下であり、裏でこの大陸の戦乱が続くように工作している諜報員だ。


(我が神国が永世中立国としての地位を確立し続けるためには、あなた達には存分に争ってもらわねばねぇ……ヴィルヘルムは御せなかったが、このタレイランとやらは実に御しやすい…!…まずは手始めに皇国と王国の関係にヒビを入れましょうか…)



「…長年の夢…サザンガルド陥落が…目の前に…!」


タレイランは『魔祓いの琴』を手に勝利を確信している。


(………まずいですね。少々イってしまっているのでは?ここは少し頭を冷やさせますか)


「タレイラン公爵よ。その『魔祓いの琴』も完璧ではございません」


「む?どういうことだ」


「簡単な話、屈強すぎる魔獣には効果がなく、むしろ神経を逆撫でし、琴を持つものを襲撃する恐れがあるのですよ」


「なるほど。屈強過ぎるとはどの程度を言う?」


「そうですね…Sランク魔獣はまず間違いなく効果がありません。Aランクでも効果がある魔獣とそうでない魔獣で半々くらいでしょう。Bランク魔獣以下には効果覿面です」


「承知した。かのサザンガルド山脈には『獄炎鳥』フェニーチェが生息しておる。かの鳥の生息地域付近では使用しないように部下に言付けておこう」


(さすがにその程度の知能はあるか…)


神父の男はタレイラン公爵の回答に満足し、笑顔で首肯した。


「ええ!それが良いでしょう。ではよろしくお願いしますよ。あぁ…報酬は神国へ送付をお願い致します」


「もちろんだ。火の魔石だったな。幸い我が領地では、火の魔石は採掘に事欠かない。順次運搬するように指示しておく」


「ありがとうございます。それではこれにて」


そう言って神父は、一礼して退室した。


そして誰もいなくなった部屋で、タレイラン公爵は独り言ちる。



「フン。薄気味悪い女神の狂信者どもめ。神龍さえいなければ、貴様らの国などとっくに荒野と化しておるわ」


そして持っていた虹色の琴『魔祓いの琴』を掲げる。


「あの神父はSランク魔獣には効かぬと言うたが、試してみねばわかるまい。それにあのシリュウ・ドラゴスピアがいるのだ。獄炎鳥でもけしかけんと撃退されてしまうであろうが」


その瞳には既に光はなく、そこにいるのは憎しみに囚われた哀れな老人がいるだけだ。






「待っていろ…シリュウ・ドラゴスピア……今までの借りを全て返すぞ…!」







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