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第12話 サザンガルド晩餐会⑤~『黄金の槍 カタリナ・ジュンティ/漆黒の盾テオドーロ・マストロヤンニ』


この人は、『漆黒の盾』のクランリーダー、テオドーロ・マストロヤンニだ。


なんか酒場で『白銀の剣』のメンバーをいきなり殴り飛ばしたヤバい人だっけ……


「…マストロヤンニ…!貴様…!…何をする!……いやこれだけではない…!…ここ数か月ずっと我がクランのメンバーに絡みよって!どういう了見だ!」


インカンデラは立ち上がって、マストロヤンニに詰め寄って胸倉を掴む。


「待て待て待て!てめぇらいい加減しろ!ここをどこだと思ってやがる!」


その険悪な空気が流れる2人の間に茶髪で無精ひげを生やし、後ろで小さく髪を束ねているスーツの男性が間に入った。


「止めるな!グッチ!…今日という今日はこの陰気な男を許さん!」


激昂しているインカンデラ


それを必死に止めているグッチと言う人…


あぁ…この人が冒険者ギルド長のチェリオ・グッチさんか


「止めるに決まってるだろ!カタリナの言う通り、こういう場で揉めるから冒険者が粗暴な奴らだと思われるんだよ!終わってから好きなだけ揉めろ!ここではやめろ!」


「あんたら…ほんと勘弁してくれよ……」


グッチさんがインカンデラとマストロヤンニの喧嘩を必死に止め、カタリナさんは頭を抱えている。


なんだこのカオスな状況は……


「……はぁ…私もどうしたもんか…」


シルビオさんが溜息をつきながらこめかみを抑える。


「シルビオ…お主はようやった…これはもう関わらん方がいいのじゃ」


ビーチェも諦め気味だ。


「ふむふむ。ではこの場は私に預けてもらいましょう」


そう言ってこのカオスな場に現れたのは、軍都庁長官のウベルト・ヴェントゥーラさん


おお…!何とかしてくれそうだ。


「ウベルト!頼むのじゃ!」


ビーチェは小柄なウベルトさんの頭をポンポンと叩いてお願いする。


やめなさい…失礼でしょ…


そしてウベルトさんは胸倉を掴み合っているインカンデラとマストロヤンニに近づく。


「インカンデラ、マストロヤンニ、その手を放しなさい。ここをどこと心得ますか」


「ヴェ、ヴェントゥーラ殿…!」


「………」


ウベルトさんの登場に明らかに空気が弛緩した。


あの居丈高なインカンデラも明らかに委縮しており、マストロヤンニも鋭い目つきを柔らかくした。


「各々主張したいことはあるでしょう。それは私が別室で聞きましょうぞ。では付いて来なさい。あぁ…そう…付いてこない場合は、どうなることかお分かりですかな?」


ウベルトさんがそう言うと、インカンデラとマストロヤンニは手を放した。


「ふむ、いい子です。ではこちらへ」


そう言ってウベルトさんがインカンデラとマストロヤンニを連れて会場を後にした。


「……た、助かったね…すごいなウベルトさん」


「ほんとにのう…これぞ軍都庁を長く束ねる重鎮の威厳と人徳かのう…しかしシルビオも助かった。あそこで木偶の坊になっておる中年2人は後で説教じゃな」


「…いや結局はウベルトに頼ってしまった。力不足だな。それに説教は不要だろう。母様とアドリアーナ叔母様がカンカンに怒っている」


え?


そう思ってシルベリオさんとオルランドさんの方を見ると


その隣で、物凄い笑顔で2人を見つめているスザンナさんとアドリアーナさんの姿がいた。


おぉう……なるほど……人は笑顔が最も怖いのだね……


シルベリオさんとオルランドさんの顔が真っ青で、汗を滝のように流している。


「あー…あれは一晩説教コースじゃな……でも同情なぞせん。保身のために妾達を見捨てたのじゃからのう」


「まぁ…僕は気にしてないからいいんだけど……」


僕は話題を変えるようにしてカタリナさんとギルド長のグッチさんに向き合った。


「改めまして、シリュウ・ドラゴスピアです。カタリナ・ジュンティさん、チェリオ・グッチさん、はじめまして」


「ほぇ~…!皇国の英雄に名を知ってもらってるなんてありがたいねぇ!アタイはカタリナ・ジュンティ!冒険者クラン『黄金の槍』のリーダーをやらされてる。こう見えても槍の扱いには自信あるんだぜぇ?」


「挨拶もなしに失礼した。サザンガルド冒険者組合の組合長のチェリオ・グッチだ。周りからはギルド長と呼ばれているが、やってることはさっきみたいな図体だけ大人になっちまったガキの喧嘩を止めることが仕事だ」


「ははは……僕も冒険者の人とお話しすることはあまりないので、貴重な体験でしたよ」


「はぁ…そう言ってくれるか…?本来なら子爵クラスの晩餐会で暴行なんて、その晩餐会を開催している華族からものすげぇ苦情が来るんだがな……シリュウ殿もそうだが、サザンガルド家の寛容さにいつも助けられるぜ…」


遠い目をしながら、いつまにか手にしていたワインをがぶ飲みするグッチさん


「アタイらをあんな奴らと同列に語るなよな。まぁインカンデラはともかく、マストロヤンニがインカンデラを蹴るとまでは思わなかったよ」


「それな!どうしちまったんだ…アイツは…」


ん?マストロヤンニさんて凄く好戦的な人じゃないのかな?


気になって僕は2人にマストロヤンニさんの人柄を聞いてみる。


「マストロヤンニさんって普段どういう人なんですか?」


するとギルド長のグッチさんが答えた。


「噂が独り歩きしているが、悪い奴じゃない。ただ見た通り陰気な奴で、人とコミュニケーションを取るのが苦手なんだ。依頼はきっちりこなすし、『漆黒の盾』のメンバーもうまく面倒見ている。『白銀の剣』と『黄金の槍』のメンバーは犬猿の仲だが、『漆黒の盾』は我関せずの立ち位置だった。……だがここ数か月は『漆黒の盾』は…というよりマストロヤンニが『白銀の剣』をやけに敵対視しててな…さっきみたいな喧嘩も珍しくないんだ。マストロヤンニの奴になぜそんなに突っかかるか聞いても『……許せん』と一言だけ答えるだけ…」


以外にもグッチさんの中では高評価だった。


ここ数か月の間に『白銀の剣』にやたら敵対視している…?


「実はそれだけじゃないんだよ」


『黄金の槍』のリーダー、カタリナさんが続ける。


「マストロヤンニの奴、『白銀の剣』を敵対視すると同時に、うちの『黄金の槍』にはやたら好意的なんだよ。依頼の現場がかち合った時は、普段ならどちらの依頼を優先させるか揉めるんだけど、気持ち悪いくらいに親切に譲ってくれるのさ」


「そうなのか?初めて聞いたぞ?」


グッチさんがカタリナさんの発言に驚く。


「そんなの報告するようなことでもないだろ?」


「確かに…」


う~ん…マストロヤンニさんの謎が深まったな…


「こればっかりは直接話すしかないんじゃないかな?マストロヤンニさんと話してみたいね」


「確かにシリュウの言う通りじゃ。折を見て話してみようぞ。そしてできるなら冒険者クランの関係を良く出来たらいいのじゃ。シルビオもマストロヤンニがこうは暴れていては困っているのでのう」


「…いやほんとそうなんだ……シリュウ殿とベアトリーチェに任せる形になってしまっているが」


「いや気にしないでくださいよ。僕もシルビオさんにお力になりたいと思いますし」


『白銀の剣』のバルトロ・インカンデラはわかりやすい人だったけど、『漆黒の盾』のテオドーロ・マストロヤンニという人は本当に何もつかめなかった。


ただ一つ言えることは、あの蹴りは加減していたようだが、マストロヤンニさんの体の軸が全くぶれておらず、彼が相当な武術師であることはわかった。


もちろんカタリナさんも佇まいでかなりの武術師であることはわかる。


……ただバルトロ・インカンデラさんは…その……お世辞にも腕が立つとは思えなかった。


しかし軍都庁や領邦軍の依頼を安定してこなす『白銀の剣』のリーダーだから統率力に優れているのかもしれない。


冒険者といえども、武の実力だけで生きていけるわけではないと思うしね。


「それにしても…マストロヤンニさんか…仲良くできればいいけど…」




僕がそう呟くと、ビーチェはニカっと笑って言う。





「……案外うまくいくやもしれんぞ?」



ビーチェ「…マストロヤンニは普段は他のクランと関わらぬ人間じゃ。しかし数か月前から『白銀の剣』を敵対視し、『黄金の槍』に好意的に接しておる……なるほどのう……そういうことか…」

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