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第10話 サザンガルド晩餐会③~『周辺都市』


軍都庁長官ウベルト・ヴェントゥーラさんと歓談したのちに、ハトウ、リーゼ、テラモ、シエナのサザンガルド周辺都市の領主達が僕らの主賓席のほうへやって来た。


そして4人の中から白髪に頭頂部の髪が少し寂しい温和な老人の方が前に出て挨拶をしてくれる。


「シリュウ・ドラゴスピア様、お初にお目にかかります。ハトウ領主のダミアーノ・ハトウでございます。ベアトリーチェお嬢様におかれましてはご結婚、誠におめでとうございます」


「ハトウの領主さんでしたか。こちらこそ初めまして!シリュウ・ドラゴスピアです。ハトウには良く訪れたので、お会いできて嬉しいです」


「ダミアーノ、久しいのう。元気かや?そろそろ領主業も辛い年齢になるじゃろうて」


「ほっほ。お気遣いありがとうございます。ただこの老体にもハトウの人々はお手柔らかに対応してくれます。穏やかな田園都市ゆえ、このようなヨボヨボの爺にも治められますぞい」


話した感じは、近所に住んでいるお爺さんのようだ。


領主だというが偉ぶった漢字など微塵も感じない相対して非常に感じの良い老人だと思った。


「シリュウ様には以前ハトウ大橋のホブゴブリンを退治していただいたお礼を言いたかったのです。その節は誠にありがとうございました」


あ~そんなこともあったっけな…


ビーチェと初めて出会った時に、サザンガルドへ行こうとした時に、ハトウ大橋に大量のホブゴブリンが出たのを討伐したんだっけ…


「いえいえ!お役に立てたら何よりですよ。またあのように困ったことがあれば、都合がつく限りお手伝いしますよ!」


「ほっほ!まことに頼りになる旦那様でございますなぁ。このダミアーノ・ハトウはシリュウ様がサザンガルドの一族に連なることをお慶び申し上げますぞ。ベアトリーチェ様も素晴らしい殿方に出会われたものだ」


「ふふふ。そうじゃろそうじゃろ!それに妾とシリュウの馴れ初めはハトウが中心じゃったからのう。妾達にとっても思い出深い場所よ。これからも元気に治めてくりゃれ」


「しかと承りました。お二人の益々のご活躍を遠いハトウの地より祈念しておりますぞ」


ダミアーノさんはそう言って、後ろに下がり、他の3人と並んだ。


「さて、次はどなたが挨拶されるかな?」


ダミアーノさんがそう3人に聞くと、色黒のガタイのいい男性が前へ出た。


「なら俺からさせてもらおう。シリュウ・ドラゴスピア殿、お初にお目にかかる。俺は鉱山街テラモの領主をしているドナート・テラモだ。もともとは鉱山の鉱夫でな。礼儀とかは疎いので失礼があったら許してくれ。ベアトリーチェお嬢、結婚おめでとう。まさかこんな年下の少年と結婚するとはな…!はっはっは!」


快活に笑うドナートさん


この人は領主と言うより、たたき上げの現場の人間の感じがする。


「初めまして、ドナートさん。お会いできて光栄です」


「ドナートとは半年ぶりくらいかや?2月頃にテラモで会ったきりじゃのう」


「そうですな。その時は領邦軍に鉱山の魔獣退治をしてもらった。お嬢は部隊を率いる才があるとは思っていたが、軍に入隊早々に軍功を上げるとはいやはや…血は争えん。さすがはオルランドの娘だ」


「そうなんです。ビーチェが僕の隊を実質的に指揮してくれるので、僕は大変に助かっているのです。……それにオルランドさんとはお知り合いで?」


ドナートさんはビーチェの父であるオルランドさんを呼び捨てにしていた。


「ああ、オルランドとは士官学校の同期でな。一時期領邦軍の同じ部隊で戦った戦友でもある」


「そうなのですか!?ではドナートさんは元軍人なのですね。どおりでしっかりとした体つきだと…」


「まぁオルランドやシリュウ殿に比べれば大したことはない。それに結局は戦場でもらった傷のおかげで、サザンガルドの鉱石の供給を支える鉱山街テラモで鉱夫に転身したのさ。……まぁそこからなんやかんやあって今はテラモの領主をやっている」


いやそのなんやかんやがすっごい気になる……一鉱夫からどうやって領主にまで成りあがったのか…


「くっくっく…!シリュウや…簡単な話じゃよ…ドナートはテラモ領主一族の婿養子なのじゃよ」


「あ~なるほど。領主の娘さんと結婚したのか…」


「そうそう…それが傑作でのう……」


ビーチェはニマニマしながら話そうとする。


「待て!お嬢の口から話すと変に脚色されかねん!」


「……何かあったの?」


僕がそう聞くと、ドナートさんはバツが悪そうに言う。


「いや…何というか…その当時のうちのカミさんにな……なんかこう…懐かれたというか…」


「懐かれた…?もしかして結構な歳の差なのですか?」


「少しな…?」


「12歳差が少しなら妾達の4歳差などないに等しいのう」


「12歳差!?…」


「あっ…テメェ!…バラしやがって…」


「かっかっか!いずれは知られるじゃろうて!」


ふ~むなるほど。


このドナートさんは、当時幼かったテラモ領主の娘さんに気に入られて、そのまま大人になった時に結婚したのか。


「夫婦の数だけ物語があるのですね。また詳しく聞いても?」


「……シリュウ殿はお嬢よりよっぽど大人だな。変に茶化すこともせんとは…またテラモに遊びに来て欲しい。歓待しよう」


「ありがとうございます。滞在中に都合つけて訪れたいと思います」


「テラモの温泉にも入りたいし、行ってみるかや」


温泉もあるのか、ますます楽しみだな。


「はぁ~……お嬢はやっぱり変わらないな…次は…ダニオのおっさんか?」


ドナートさんは、そう言って隣に居た茶髪の壮年の男性に声を掛けた。


「やれやれ…君もおっさんだろう…今ご紹介に預かりましたダニオ・リーゼです。リーゼという宿場町の領主をしています。この度はご結婚おめでとうございます」


「ありがとうございます。お会いできて光栄です。リーゼはハトウとサザンガルドの間にある宿場町でしたっけ?」


「そうです。リーゼはサザンガルドの北西に位置し、リーゼ周辺には森や山岳地帯が広がり冒険者や狩人の狩場が豊富にあるため、彼らのための宿場町として栄えていますよ」


「ほぇ~!行ったことはありませんが、行ってみたいですね」


「シリュウよ、リーゼはなんと言っても、酒がうまいのじゃよ。妾もまだ飲んだことはないが、リーゼで醸造された酒は皇国でも有名じゃ」


「まさに。我が街は宿場と酒とロマンの街!一獲千金を夢見た若者たちが拠点とする面白い街ですよ」


「そうなんだ。もしも僕がハトウではなくリーゼに行っていたら、冒険者になっていたかもしれないね」


「シリュウなら冒険者としても活躍したじゃろう」


「噂は聞き及んでいますよ。Sランク魔獣を3体も狩ったとか。そのような実力を持つものはサザンガルド周辺の冒険者でもいますまいて」


「そ、そうかな?」


「そうじゃよ。サザンガルドにいるSランク冒険者は3人じゃが……シリュウよりも腕が立つものはいないのではないかや?」


「それは流石にないと思うよ」


「長年冒険者を見てきた私からしても、ベアトリーチェお嬢様の武はかなりのものです。そのベアトリーチェお嬢様が、お認めになるお方…Sランク冒険者にも引けは取りますまい」


「いえいえ!そんなことはありません…またリーゼにも寄らせてください」


「是非お越しください。我が街自慢の料理でおもてなしします」


「ありがとうございます」


そしてダニオさんとも挨拶を交わし、最後は紺色の長髪を綺麗にまとめている綺麗な女性が前に出た。


「初めまして。サザンガルド南東に位置する農村…シエナ村の領主をしておりますエッダ・シエナと申します。シリュウ様、ベアトリーチェお嬢様、ご結婚まことにおめでとうございます」


「ありがとうございます。シエナ村…ですか…」


「ふふふ…ご存じないのも当然です。サザンガルドの田舎ですから」


「いえ…!無知で申し訳ございません…どんな街か教えていただいても?」


「もちろんでございます。我がシエナ村は農業を生業としております」


「シリュウよ。エッダ女史は謙遜しておるがシエナ村は、村というには大きすぎる立派な街じゃよ。サザンガルド一帯の食糧の供給を担っておる大農作地帯なのじゃ」


「えっ!?サザンガルド一帯って相当な人口だと思うけど…」


「ふふふ…たくさんの作物を作らせてもらっていますよ。少し特殊ですけども」


「少し特殊…?どういうことですか?」


「わが村の農業では、魔術による農作業が盛んなのです。そのおかげで少ない人で多くの耕作地を維持できるのですよ」


「魔術を農業に利用…!へぇ…それは面白いですね」


「これもスザンナ様の伝手で、タキシラから魔術師を派遣してくださるおかげです」


「スザンナさん…おっとりしているようでかなり凄い人ですよね…」


「ふふふ。スザンナ・フォン・タキシラは学術界ではかなりの有名人です。サザンガルドに輿入れすると聞いた時はタキシラ中が驚いたものです」


「そうですよね……ん?その口ぶりだとエッダさんはタキシラの人間のように聞こえますが…」


「ええ、その通りですよ。私は生まれも育ちもタキシラで、タキシラ大学で農作業における魔術の有用性について研究していた研究者なのです」


「えぇ…!?大学の研究者だったのです?…それがまたなぜ領主に…?」


「それはのう…シリュウ…もともと普通の農村であったシエナ村で、エッダ女史は自身が研究した魔術に拠る農業を実践したのじゃ。その結果シエナ村はサザンガルドが誇る大農村になってのう…その功績をもってシエナ村の領主となったのじゃ」


「す、すごい……」


「それほどでもありませんよ。結局は魔術師を定期的に派遣してくれるタキシラ大学の協力あってこそですから」


「いやいやそれでも魔術で農業革命をしているとは……皇国探してもそんな人いないのでは?」


「どうなんでしょう。私はただ自分の研究が正しかったと証明したかっただけなのですが……」


「う~ん…それだけの人材…政庁が放っておかないような気が…」


「政庁に勧誘されても興味はないですね。それに私はシエナで家庭を持っています。今更皇都に行くことはないですね」


「それはそうですね。ご家庭が一番大事です」


「ふふふ。そう思いますか?シリュウ様は良き父になりますね」


「父…!?まだ僕は16歳なので…子を持つとかは全く…!」


「あらあら…でも結婚なさるのですからいずれはその時が来ますよ?」


「まぁそうですね…ならその時に備えて、子に誇れる父であるために日々精進するだけです」


「ふふふ。その時を楽しみにさせていただきます」


エッダさんはそう言って、カーテシーをして下がった。


そしてハトウ領主のダミアーノさんが最後に締める。


「シリュウ様、ベアトリーチェお嬢様、この度は誠におめでとうございます。我ら領主一同、お二人の良縁を心よりお祝い申し上げますぞ。ではこれにて失礼します」


そう言って4人の領主たちは席に戻っていった。


ハトウのダミアーノさん


テラモのドナートさん


リーゼのダニオさん


シエナのエッダさん


みんな僕達の結婚に肯定的だった。


皆がそう祝福してくれたら嬉しいのだけど……


僕がそう願っていると、そんな思いを砕くように居丈高な声が聞こえてきた。



「貴様がシリュウ・ドラゴスピアとやらか。ふん、まだ子供ではないか」



なんか面倒くさそうな人が来たぞ……

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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 まぁ今回挨拶に来たダミアーノさん、ドナートさん、ダニオさん、エッダさん…共通して『現場の声が大事』な環境で陣頭指揮を取ってる方ですからね。恐らくシリュウの武功が真実と掴んでる→利…
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