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第7話 サザンガルドの勢力図②~『経済界』と『学校園』


サザンガルドの勢力図について、シルベリオさんとシルビオさんに教えてもらっているが、まだまだ色々あるらしい。


「え~と、残っているのが、『経済界』と『学校園』ですっけ?」


僕が質問するとシルビオさんが説明してくれる。


「『経済界』は、主に3つの組織が中心となっている。サザンガルド一帯の商圏を取りまとめる『商業組合』に、サザンガルド自慢の鍛冶職人達が所属する工房をまとめる『鍛冶組合』、そしてサザンガルド経済を支える『軍都銀行』だ」


「商業組合に、鍛冶組合……そして銀行ですか」


「そうだ。サザンガルドは軍都の名に恥じぬように武器や防具の製造が盛んで、サザンガルド産の武具の質の高さは大陸中でも有名だ。帝国の武人はサザンガルド産の武具を密輸してまで手に入れるらしい。それに父上がシリュウ殿に贈呈した『龍槍ガルディウス』は、サザンガルドの一線級の鍛冶職人達が協働して作成したものだ」


「確かにあの龍槍は、素晴らしい槍です。王国や帝国では幾度も僕の危機を救ってくれました」


「………まぁ鍛冶職人達も『これを扱うなんてどんな野人だ?ゴーレムみてぇな巨躯をしてるんじゃねぇか?』とその武器の取り扱いの難しさに息を巻いていたよ…シリュウ殿の膂力があればこそだな」


「いえいえ……そんな素晴らしい腕を持つ職人達をまとめる鍛冶組合の何が問題なのです?」


「簡単な話だ。職人気質がすぎるのだ。製作する武具にこだわりすぎるあまり、利益や納期を度外視しがちでな……」


「あぁ……なるほど…利益を追求する商人達とは相性が悪そうです……」


「まさに……納品や代金など商取引に関する諍いが絶えなくてな。しかし鍛冶組合は製作した武具を売りさばく販路もなければ、営業や販売するノウハウもないので商業組合に卸すしかなく、商業組合も鍛冶組合に属する工房が製作した武具を捌けないと、サザンガルドの商人として価値がない。お互いがお互いを必要としているのだが……」


「であれば手を取り合えそうなのですけどもね」


「…第三者から見ればそうなのだが、お互いの矜持問題なのだろう。商業組合の会頭『エットレ・コルシーニ』と鍛冶組合の筆頭理事『ヤコボ・コッツィ』も犬猿の仲だ。その間で板挟みになっている『軍都銀行』頭取の『エルネスト・ルオポロ』氏はいつも胃を痛そうにしている」


ぉぉ……会ったこともないけど、その光景が目に浮かぶようだ。


「鍛冶組合と商業組合がもっと緊密に連携すれば、サザンガルドの生産力も向上するのだがな。この案件に関してはシルビオに任せている。両者の仲を取り持ち、サザンガルドの生産力を向上せよと課題を課しているのだ」


それでさっき『経済界』は仕事で関わることがあるとシルビオさんは言っていたのか。


シルベリオさんのプレッシャーのある発言に、シルビオさんは苦笑いで応えた。


「若輩者には難題さ。先ほど言った3人も晩餐会に来るからその時に紹介しよう」


「ありがとうございます。商業組合と軍都銀行の方にはあまり興味はありませんが、鍛冶組合の方は興味がありますね」


「ほう?」


「だって龍槍を作ってくれたので。お礼を言いたいです。」


「それもそうか。楽しみにしておいてくれ」


「はい」


シルビオさんの経済界に関する解説を終え、次の説明を引き継いだのはスザンナさんだった。


「『学校園』に関しては私が説明します~。いいですか?あなた、シルビオ」


スザンナさんの提案に、問われた2人は即答する。


「もちろんだ、スザンナ」


「はい。母上が一番『学校園』に通じていますから」


スザンナさんが『学校園』に一番詳しい?


僕が頭に疑問符を浮かべていると、ビーチェがこそっと教えてくれる。


「ほれ、忘れたかや?スザンナ伯母様は、『学都』を治めるタキシラ一族のお人じゃ。教育界隈では大物なのじゃよ」


「そう言えばそうだったね」


僕は得心して、スザンナさんの説明に耳を傾ける。


「サザンガルドにはたくさんの教育機関があります~。あらゆることを学べる総合学校、特定の分野に特化して学べる専門学校、研究機関も兼ねる大学など、教育機関の形態は様々です~。サザンガルドの各教育機関を総称して『学校園』と呼称していますね~。『学校園』の中でも、影響力の高い教育機関が2つありまして、1つは総合学校の『サザンガルド学院』です~。こちらは男女共学の総合学校で6歳から入学可能な初等部から年齢無制限の大学まで、あらゆる年代の生徒が所属しています~。ベアトリーチェは初等部から高等部までこのサザンガルド学院にて学びました~」


ビーチェの母校のサザンガルド学院ね。


4月頃にサザンガルドに滞在していた時も見に行った思い出がある。


あの時は外から見るだけだったけども。


スザンナさんの説明に、卒業生であるビーチェが補足を加える。


「サザンガルド学院の特徴はなんといっても自由な校風じゃ。生徒の自主性を何より重んじる。『自由とは制限がないことじゃない。主体的に行動し、その責任を取ることだ』とは、学院長『クレメンティーナ・ヴェルドーネ』先生の口癖じゃよ」


「へぇ……それは中々響く言葉だな…自由とは主体的行動とその責任か……耳が痛いね」


「シリュウは立派に責任取っているじゃろう。そしてその力もある。気にするでない」


「そうかな?照れるなぁ」


僕がビーチェの言葉に照れていると、ニマニマしているスザンナさんがいた。


「うふふ。本当に仲が良いですね~」


「……話を遮ってしまってすみません。続けてください」


「ありがとうございます~。もう1つの影響力のある学校は『サザンガルド士官学校』です~。ここはサザンガルドにいくつもある軍事を専門的に学ぶ軍事学校の中で最高峰と評価される軍事学校です~。入学は14歳から18歳まで、男子のみ入学ができます~。この『士官学校』での教練は大変に厳しく、ここの卒業生ということだけで、軍や領邦軍に優先的に入学できるほどのステータスがあります~」


「へぇ……軍都サザンガルドで最高峰の軍事学校か…軍人のエリート養成学校みたいものかな」


「違いないのう。士官学校卒の軍人は多くいて、皇国軍にもおるぞい。有名な卒業生は、妾の父サザンガルド領邦軍 総司令『オルランド・ブラン・サザンガルド』やフォース砦の『コルラード・トロヴァート』隊長……皇軍の精鋭部隊である1番隊を率いる『フィリッポ・インザーク』隊長が有名かや」


「……フィリッポ大佐…!皇軍基地に行った時に会った人か。あの人もサザンガルド出身だったのか」


「あの後レア少将にお聞きしたのじゃよ。士官学校は軍事の名門であることは間違いないぞ。ただ……」


ビーチェが何かを言い淀む…なんでだ?


その理由はスザンナさんが教えてくれた。


「士官学校はここ数年は厳しすぎる教育により、進学先として敬遠されているのです~。昔は士官学校がサザンガルドでの最大の影響力を誇った教育機関なのですが、最近は学院の方が志望する生徒も多く、更にベアトリーチェとアントニオが学院に進学したことで、更に学院の方の人気が加速しました~。優秀な生徒の獲得競争で辛酸を舐めている士官学校と、勢いのある学院の対立が深まっているのですよ~」


「そうなんですね……ん?ビーチェとアントニオ君が学院?ではシルビオさんとピエールさん、それにカルロ君はどこの学校に通っていたのです?」


スザンナさんの説明からは派生して僕は質問した。


するとシルベリオさんが応えてくれた。


「シルビオは領主嫡男ということもあり、どちらかに進学することで、両者のパワーバランスが崩れることを恐れ、『サザンガルド学園』へ初等部から高等部まで通わせた。こちらは、サザンガルド周辺の華族の子息令嬢や有力者の子が通う学校だ。ピエールは本人の希望で、初等部から中等部までは『サザンガルド学院』に通ったが、同世代ではあまりにも突出した学力を持っていたため、高等部からはより学力の高い生徒が集まるタキシラにある『ミラパドヴァ高等学校』に留学し、そのまま『タキシラ大学』に進学したのだ。カルロは、幼少から病弱なこともあって、オルランドが家庭教師による教育を施していたようだ。体調が回復したので、秋ごろからはどこかの学校に入学させるつもりらしいがな」


う~む…流石華族一族…みんなきちんと学校に通っているのだな…


それにピエールさんは高等部からは留学までしてるなんて、ほんと賢さが限界突破している。


しかし…


「サザンガルドの勢力図か……一度に頭に入れたらもう何がなんやら…」


一気にサザンガルドに関する情報が入ってきたので、僕の小粒の脳みそが破裂寸前だ。


「今日の晩餐会で、顔を合わせるのでな。直前に教えることになり申し訳ない」


シルベリオさんがそう言って、僕に詫びる。


「いえいえいえ!そんな謝らないでください!」


僕はシルベリオさんにそう言う。


そしてシルベリオさんが神妙な面持ちで、僕に向かって言う。


「……サザンガルドでは様々な勢力がそれぞれの思惑のもとに対立しているが、シリュウ殿の評価もその一因となっている」


え?僕っすか?


僕が呆けた顔をしているとシルビオさんが代わって続けた。


「…唐突に現れた『シリュウ・ドラゴスピア』という武術師の評価が、サザンガルドでは割れているのだ。皇国軍が公表した事実通りの英雄か、皇国軍がプロパガンダにより生み出した虚構の英雄なのか。サザンガルドにはシリュウ殿の活躍は報せとして入っては来るが、サザンガルドの人々にはまだその実感がないのだ。皇都ではインペリオバレーナを実際に討伐し、それを目撃した民も多かったから、シリュウ殿の活躍に疑義を持つものは少ないのだが…」


「なんじゃと!?」


シルビオさんの発言にビーチェが怒りながら驚く。


なるほど…単純に僕はまだこのサザンガルドでは認められていないのか。


まぁ実際にサザンガルドのために武を振るったこともないし、僕自身がサザンガルドにために何かしたこともないから当然だな。


僕はそう納得したが、ビーチェはプリプリと不満そうにしている。


「シリュウの活躍が信じられんとは、軍都の民としてどうなのかや!どうせろくに稽古もせず誇りだけは一丁前の奴らが嫉妬しているにすぎん!気にするでないぞ!シリュウ!」


「ありがとう。でも僕はビーチェが知ってくれているからそれで十分だよ。栄誉とか名誉とか、僕には些細なことだからね」


「……うぅ…しかし妾の旦那様が不当な評価を受けているのは看過できんのじゃ!シルベリオ伯父様、シルビオ!何とかしてくりゃれ!」


ビーチェはシルベリオさんとシルビオさんに詰め寄った。


「……それに関してはこちらの不徳の致すところだ。弁解しようもない」


シルベリオさんは、腕を組み目を伏せながら言う。


「しかし今夜の晩餐会でシリュウ殿に失礼な態度を取る者がいれば、即刻退場させるつもりだ。安心してくれ」


シルビオさんが力強く言う。


お二人の優しさが伝わってくるけど、僕は全然気にしていない。


「ありがとうございます。でも全然大丈夫ですよ。むしろサザンガルドのためにまだ何もしていないので、認められないのは当然のこと」


僕がそう言うと、シルベリオさんに、シルビオさん、ビーチェも、果てはスザンナさんまで目を見開いて驚いている。


なんで……


「シリュウ殿…本気で言っているのか…?」

「これは本気で言っていますよ…父上…」

「無自覚もここまでくると……いやこれもシリュウの良さかのう…」

「ここまで無自覚さんなのは困りますよ~?ベアトリーチェ…」


皆口々に言う。


なんでさ……


僕はサザンガルド家の皆の発言に疑問を持ちつつも、今日の晩餐会が少し楽しみになって来た。


どんな人と出会えるのだろうか。










シルベリオ「エンペラーボア討伐でカルロの命を救い、それによりタレイラン公爵の企みを潰してくれたぞ」


シルビオ「微妙な立場であったベアトリーチェを娶り、果ては皇国軍の将軍となり、ドラゴスピア家の名も相まって、僕らの世代で落ちかけていた軍都サザンガルドの軍威を復権させてくれたな」


ビーチェ「アルジェント王国のシャルル王の命を救い、ボナパルト王家と固い友好を結ぶことにより、サザンガルドと国境を接するタレイラン公爵がサザンガルドに目を向ける余裕をなくさせたのじゃ」


スザンナ「シリュウさんが切っ掛けで、皇国海軍がサザンポートを利用することになり、そのことによりサザンガルド周辺海域がより平穏になり、またサザンポートの景気も良くなっているのです~」

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