第3話 再会!カルロの成長
烈歴 98年 7月11日 16時43分 サザンポート 埠頭
僕達ドラゴスピア家一行を乗せた皇国海軍軍船は、特に問題もなく順調に航路を進み、出航した次の日の夕方に予定通り、サザンポートへと到着した。
今まさに僕達を乗せた軍船が埠頭に停泊しようとしており、甲板から港の方へ目を向けると、サザンガルド家の騎士団が20名程隊列を組んで待ち構えていた。
「あれは…出迎え?」
僕は隣にいたビーチェに聞く。
「そうじゃの。特にいらぬとは文で書いたが……どうやら待ちきれんかったようじゃな」
ビーチェは困ったようにも嬉しそうにも見える顔で微笑みながら、護衛騎士の中心にて護衛されている少年を見つめていた。
そうしていると、その少年が大きな声で僕達に呼び掛ける。
「義兄様ー!!姉様ー!!おかえりなさいー!!」
それはそれはとても元気で溌剌とした良く通る大きな声を放つビーチェの弟のカルロ君の姿があった。
「カルロ君ー!!ただいまー!!」
僕は大きな声で返事をすると、カルロ君は体いっぱいを使って手を振り、僕の返事に応えてくれた。
久々のカルロ君だ!
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「義兄様!姉様!おかえりなさい!」
下船した僕とビーチェに飛び込まんばかりに、カルロ君は駆けよって来た。
「ただいま!急に長期間不在にしてごめんね。会えて嬉しいよ!」
「何の!義兄様と姉様の御活躍が何よりの便りでした!」
「カルロや…元気になったのう…見違えるようじゃ」
「はい!あれからはここ数年の体調不良が嘘のようで、コウロン様にも武術の御指南をいただいています!」
じ、じいちゃんの指南…!?
じいちゃん……もちろん手加減しているよね?
僕が課せられた修業を病み上がりのカルロ君にはしていないと信じてやまない。
「それは凄いのう…剣の方くらいは覚えたかや?」
ビーチェはカルロ君に優しく問いかけるが、回答は想像の上を行った。
「はい!最近では騎士団員からも一本取れるようになりました!」
「「!!??」」
カルロ君の言葉に僕とビーチェは驚いた。
12歳のカルロ君が、大人の騎士から一本取れるとは…
それもじいちゃんからの評価が高いサザンガルド軍の騎士から…?
僕はそれがあまり信じられずビーチェに小声で訪ねた。
(……騎士の方が一本取らせてあげたとか…?)
(……考えにくいのじゃ…そんな真似あの父様が許すとは思えぬ…しかしカルロはこんなような嘘を言う訳でも…)
(…カルロ君が嘘をつくとは僕も思えないよ…真偽はサザンガルドで確かめよう)
(そうじゃな…コウロン様にも稽古の内容をお聞きせねばなるまいて……)
ビーチェと小声で話して、僕はまたカルロ君に向き合う。
「それは凄いね。僕とも仕合しようか。負けないぞ?」
「義兄様とお手合わせ願えるのですか!?これは楽しみです!すぐにサザンガルドへ参りましょう!」
カルロ君は目をキラキラさせて、僕とビーチェの手を引いて、用意された馬車へ引き込もうとする。
「待つのじゃ、カルロ!まだ妾達の使用人たちが下船作業をしておるところじゃ。気が逸るのも致し方ないが、周りに合わせるのじゃ」
ビーチェはカルロ君を嗜めた。
カルロ君はビーチェの言葉を素直に受け止める。
「も、申し訳ございません!気が付かず……騎士の皆さん!ドラゴスピア家の使用人の方々の下船を補助してください!僕が指揮します!」
「「「はっ!」」」
カルロ君はそう言って、護衛の騎士達とともに、ドラゴスピア家の使用人達が下船作業をしている軍船へと駆けていった。
カルロ君は下船の準備を指揮していたブルーノとトスカに声を掛け、下船作業についての打ち合わせを始めた。
そしてカルロ君の指示のもと、騎士達は、ドラゴスピア家の使用人たちが運んでいた荷物を次々と馬車や荷車へ積み込み始めた。
その手際は実に鮮やかだ。
そんなカルロ君の様子を見て、ビーチェは目を見開き、少し目に涙を浮かべていた。
「……カルロ……しばらく見ないうちに…こんなに立派に…」
僕はこの元気なカルロ君しか知らないけど、ビーチェは長年タレイラン公爵が盛った毒に苦しめられ、衰弱していたカルロ君を見ていたのだ。
こうして次期当主としての片鱗を見せ、立派に騎士達を統率しているカルロ君の姿に感動するのも無理はない。
僕はそんなビーチェを慮るように、無言でビーチェの頭を撫でた。
ビーチェは僕の手を受け入れ、騎士達に指示を出すカルロ君の姿をいつまでも眺めていた。




