第1話 賑やかな朝食
更新まばらですみません
来週からは頑張ります!
烈歴 98年 7月9日 7時35分 太陽殿(リータの私邸)大食堂
「ふ〜ん、結構突っ込んだこと書いてるわねぇ」
煌びやかな調度品や豪勢な朝食に彩られた食堂の主人であるリータ・ブラン・リアビティ殿下ことリタさんは、朝食のパンを齧りながら、今朝の新聞を真剣な目で読んでいた。
「アンブロジーニ侯爵のコメントもほぼ原文のままだな。ここまで書けるとはな。皇王派のメディアに対する圧力もだいぶ弱まっていると見える」
さすが公爵家出身ともあり、朝から綺麗な身なりをしながら、洗練されたテーブルマナーで朝食を取るアウレリオ団長(准将は辞めたのでそう呼んでいる)が言う。
「……それにしても好き勝手書きすぎじゃない?帝国なら即廃刊ものの内容よ…」
アウレリオ団長の隣で、そんな華奢な体のどこに入るのか思うくらいに皿を重ねるアウレリオ団長の妻になったヒルデガルドが言う。
「それだけ皇王派が弱まってる証拠だにー。皇軍大将が皇王派の重鎮を逮捕したことも大きいろんね、もごもご」
「あー、またパオこぼしてるわよ。ほら、顔こっち向けて」
小さな体に大きな口を開けて、テーブルマナーもお構いなしに次々と食事を頬張るパオっちとパオっちを甲斐甲斐しくお世話するリアナさんも続ける。
「まぁ、妾達はしばらく皇都から離れるからのう。この辺のことはメディチ公爵に任せるしかなかろうて?」
すでに自分の分の朝食を終えた僕の奥さんであるビーチェは優雅に食後の紅茶を楽しみながらそう締める。
「そうだね、明日にサザンガルドへ出発して、明後日には到着かな。そして3日後には結婚式と…なかなか忙しいね…」
既にヒルデガルド以上に積み重ねた皿を使用人達に引き渡しながら、僕は今後の予定を嘆いた。
「……ギリギリまで…お仕事……シリュウ…大変…」
リタさんの隣で、可愛らしい量の朝食を終え、食後のケーキをはむはむと食べているリタさんの娘のルナ殿下こと、ルナ姉ちゃんが僕を労ってくれた。
「…シリュウ兄ちゃんは、昔から…限界まで無茶する…誰かが…止めなきゃ…」
執事姿のドラゴスピア家の新しい仲間になった執事見習いのキオンが、僕の食べた皿を受け取りながら言う。
キオンはあの騒動の後、所属していた闇ギルド『ドランゲタ』を脱退し、妹のシャノンとともにドラゴスピア家の使用人として住み込みで働いている。
キオンはブルーノの指導のもと、立派な執事兼護衛になるために勉強中だ。
シャノンは、シュリットの1番目の部下として、メイド見習いとして働くことになった。
「……キオンよ…その通りじゃのう…うちの旦那様は本当に無茶ばかりして、何よりそれを恐れないのが一番タチが悪いのじゃよ…見守る妾の心労はいかほどかわかるかや?」
ビーチェがおよよと泣いた振りをしながら言うけど、そんなに心配かけてたのかな…?
僕が不思議そうにしていると、白い目線が僕に集中した。
「自覚ないの?シリュウちゃん」
「それは流石に庇えないな」
「勇猛通り過ぎて鈍感ね」
「にー….おいらもそれはどうかと…」
「ベアトの苦労が偲ばれるわ….」
「ぇぇ…ご、ごめんなさい」
三十六計逃げるに如かず
形勢が不利と見ると素直に引くのも、大事だ。
なんたって僕は海軍准将で王家十一人衆の一人だからね…くすん…
そんな賑やかな面子で朝食を取り、リタさんを領袖とする皇妹派は新たな門出をこのリータウンの中央に立つ、『太陽殿』で迎えた。
大きな屋敷に、舞踏会場、護衛騎士団の訓練場、使用人の宿舎、庭園、皇妹派華族達が集会に使う建物まで用意している皇妹派の本拠地だ。
つい先日この太陽殿と僕らが住むドラゴスピア家の屋敷が完成し、僕とビーチェは昨日から住み始めている。
太陽殿とドラゴスピア家の屋敷は渡り廊下で繋がっている。
パオっちとリアナさんは太陽殿構内に一戸建てを建ててもらい、そこに2人で住んでいる。
アウレリオ団長とヒルデガルドは太陽殿の一室に同居していた。
そのため僕たちは、これから毎日食事を共にする家族のような関係になっていた。
3組の夫婦と1組の母娘で囲う食卓は、それはそれは賑やかなもので、サザンガルドにいた頃を僕は思い出していた。
そんな賑やかな朝食が進むにつれ、リタさんはため息を吐きながら、悩みを吐露した。
「はぁ〜…にしても国土大臣の後任の人選がままならないのよねぇ」
国土大臣はつい先日まで、皇王派のロカテッリ侯爵が務めていたが、リタさん襲撃の罪により逮捕された後、正式に罷免されていた。
どうやら華族界隈の政争の結果、その椅子は皇妹派で抑えられそうなのだが、適任者が皇妹派にいなくて、リタさんは悩んでいるらしい。
「そこそこ実務能力があって、私に忠誠を誓う人なら誰でもいいんだけど….今さら擦り寄ってくる奴は信用ならないのよねぇ」
やれやれといいつつ、リタさんは新聞を眺めながら、愚痴っているが、僕には人選の心当たりがあった。
「それなら適任者いると思いますよ」




