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第2話 エクトエンドのシリュウ

—7年後—


列歴 98年 4月10日


のどかな村で暮らす僕は日課の薪割りをしていた。


春の陽光が森の木々の間から漏れ、木々の葉が優しく揺れる中で、太陽の光がキラキラと輝く。


「シリュウや、薪割りは終わったかの?」


じいちゃんの声が木窓越しに響く。


窓の外から見えるじいちゃんの白髪が、暖かな光に照らされてより一層輝いて見える。


「終わってるよ、じいちゃん。何なら物足りなくて明日の分も割っていたところだよ」


「ほっほ、元気があって良いの!これは鍛錬の量を増やさねばならぬな!」


「僕はいいんだけど、またサトリの爺さんに止められるんじゃない?」


「むむ、儂もまだまだ動けるんじゃが…あの口うるさい爺にまたどやされてもかなわんのう…」


じいちゃんは、腰に手を当てながら笑い、今にも爆笑しそうな表情をしている。


その大柄な体格に似合わぬおおらかな笑顔は、今も昔も変わらない。


じいちゃんはかつて武で名を馳せた猛者で、今はその面影を残しつつも、優しい笑顔で僕を見守っている。


7年前に故郷の町が帝国に攻め滅ぼされた際、身寄りのない僕を引き取ってくれた。


男手一つで16の成人になるまで育ててくれたその優しさに、僕は感謝してもしきれない。


今は「エクトエンド」と呼ばれる樹海の真ん中に位置する村で、じいちゃんと2人だけの静かな生活を送っている。


樹海の中にひっそりと佇むこの村は、春の陽気で満ち溢れていた。


木々の緑が生い茂り、時折小鳥のさえずりが耳に心地よく響く。


僕は日々の鍛錬と魔獣狩り、農耕に勤しみながら、じいちゃんから武術の手ほどきを受けている。


じいちゃんはかつてこの皇国に仕え、『槍将軍』の名でこの大陸に名を轟かせた偉人だ。その伝説の数々は村人たちの口の中で語り継がれている。


25年前、第3次烈国大戦の際、少数の手勢で帝国の大軍を撃退し、その功績で「コウロン・ドラゴスピア」の名が一躍有名になった。


その姿はまるで戦鬼の如く、圧倒的な武力で敵をなぎ倒したという。


僕が12歳のとき、戦記物の本を読んでじいちゃんの名前を見かけ、その偉業を知ったときには驚きと敬意で胸がいっぱいになった。


そんなじいちゃんから武術の手ほどきを受け、毎日のように体力を鍛え、技を磨いてきた。鍛錬の際、槍を持って相対すると、じいちゃんの威圧感に圧倒され、息を呑む瞬間が多々ある。


「打ち込んでくるんじゃ!」と言われるが、その言葉に応えるのは一苦労だ。


また、じいちゃんは腰の調子が悪いことがあり、張り切りすぎると数日間動けなくなることがある。


そのたびに近隣に住むサトリの爺さんに叱られている。


「こやつは昔から人の忠告を聞きもせず、無茶ばかりして、周りに迷惑をかけとる。この年になっても治らんとは、死んでも治らん…」と呆れるサトリの爺さんの言葉には、じいちゃんも苦笑いするしかない。


そんなじいちゃんとサトリの爺さんから手ほどきを受け、僕はこの村で育ち、成長してきた。


リビングに戻ると、じいちゃんとサトリの爺さんが椅子に座りながらお茶を飲んでいる姿が目に入る。


じいちゃんは木の椅子に座り、サトリの爺さんはローブの襟を立てて落ち着いた様子でお茶をすすっている。


「お待たせ。サトリの爺さん、こんにちは」


「おう、シリュウよ。成人したてというが、もう立派な戦士の顔つきだな」


サトリの爺さんは、黒髪を肩にかかるローブの中で優雅に整え、落ち着いた表情で僕に微笑む。


その知的な雰囲気と穏やかな目元が、彼の深い知識と経験を物語っている。


「そうかなぁ?この村僕と同じ年代の子どもがいないからわからないよ。ただ身長はじいちゃんに似ないで、そんなに大きくはないかな」


僕の身長は、周りの大人たちと比べても特に高いわけではない。


街に出ても、僕より背の高い人はたくさんいるし、女性でも僕より大きな人が多いほどだ。


「まぁこの村は老人ばかりじゃからのう…サトリみたいに草臥れた奴しかおらんわい」


「だーれが草臥れた、だ。お主は年甲斐もなくはしゃぎすぎだ。孫のシリュウを見習え、この落ち着きを」


「孫を見習えてどういうことじゃ!?」


二人の掛け合いは、まるで長年連れ添った夫婦のように、互いに親しみを込めて軽口を叩く。


それを見ていると、どこか懐かしさと温かさを感じる。


「さて、シリュウや、少し話がある。こちらに座りなさい」


じいちゃんが僕に着席を促すと、僕は言われた通りに空いた椅子に座る。


サトリの爺さんも真剣な眼差しで僕のことを見つめている。


「うぉっほん!すまぬなシリュウ話が脱線してしもうた。今日の話はほかでもないシリュウのことじゃ。お主は今月の1日に16歳になった。皇国法令上、成人となる年齢じゃ。この年齢からは冒険者ギルドに登録し、冒険者になることもできれば、皇国軍に入隊することもできる。また各地方の華族の騎士に仕官することも可能じゃ。要はお主は立身することができる年齢になったのじゃ。いつまでもこの寂れた村にいてはお主の将来に支障になってくると思っての。そろそろこの村を旅立ってはどうかと提案したかったのじゃ」


じいちゃんの言葉に僕は心の中で頷く。


「僕は…何になるというよりかは…この戦乱を終わらせたい…」


その言葉に対して、サトリの爺さんが優しく言う。


「シリュウよ、お主のその志は立派だ。だがこの戦乱を終わらせることはこの100年誰にも成しえていない大業だ。その志を否定する気はさらさらないが、まずはこの世を見てこい。お主はまだ若く、幼い。この世がどうなっているのかをまず見てきてから、戦乱の終わらせ方を見出してくるのだ」


サトリの爺さんの言葉には重みがあり、僕はその意図を深く理解する。


「そうだね…まったくその通りだよ、、僕はこの世界を知らなすぎる。まずは身の立て方を考えないと」


「シリュウや、祖父の儂が言うのもなんじゃが、お主は同世代の中でも抜きんでた武を持っておる。この周辺の大抵の魔獣は狩れるし、槍が一番じゃが、弓も剣も扱える。軍に入隊すればその武で出世するじゃろう。ただ世間とは社会とはそれだけではだめなんじゃ。人を率いることもあれば、教え、導くこともある。武だけでなく知を持ち、仁を持たねばならぬ。なぜなら人は一人では生きていけないからじゃ。口で言うのは簡単じゃがこのことを身に染みて感じるためには、まず人の輪に入ることが必要じゃ。まずはどこかの組織に所属してはどうじゃ?」


じいちゃんの言葉に頷きながら、僕は決意する。


「そうだね…ならまずは身の振り方を決めやすい都市に行こうかな。冒険者ギルドも軍の駐屯所もあり、華族の家もある街がいいね」


「それがいいだろう、この辺だとその条件に合致するのは、『軍都サザンガルド』だろうな」


サトリの爺さんが即答する。


僕が出した条件に当てはまる都市を瞬時に出す知識と経験の深さには驚かされる。


僕が住むこの「リアビティ皇国」は「ユニティ大陸」の南西部に位置し、北はユニティ大陸の北半分を制する帝国、東はユニティ大陸南東部に位置する王国に接している。


またリアビティ皇国の中心部は樹海地帯となっており、この樹海地帯の中心部にこのエクトエンドの村が位置している。


そのためこのエクトエンドは皇国のほぼ中心に位置していることになる。


皇国は中心部が樹海地帯のため、樹海地帯を避けるように環状に大街道ができており、その街道によって皇国五大都市が繋がっている。


南西部の皇王が住まう『皇都セイト』、南東部に位置し長年続いた王国との戦争で前線都市となっていたため軍事施設が充実している『軍都サザンガルド』、南部に位置し皇国最大の港を擁する『商都カイサ』、北西部に位置し皇国の最高頭脳が結集する学術と研究の『学都タキシラ』、北西部の帝国との国境地帯ではあるものの、山岳地帯に位置し、皇国最大の関所であり、鉄壁の守りを誇る『門都ノースガルド』


地理的に近いのはサザンガルドで、申し分ない。


「僕はサザンガルドに行くよ」


僕の旅の最初の目的地が決まった。


じいちゃんとサトリの爺さんがその決断に頷き、晴れやかな笑顔を浮かべる。


そして運命が動き出す。



シリュウ「もともとサザンガルドには興味があったからね。僕の武を活かすにはちょうどいい街じゃないかな」

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