第20話 皇都事変⑩〜軍の行方
列歴98年 7月7日 22時12分 2区(華族区)リータウン リータの屋敷 大会議室
リタさん達は3人の大将とアウレリオさんの援軍もあって無事に合流地点で待っている僕達と合流した。
合流する時には数十人もの華族の私兵達が付き従っていたのはびっくりしたけど…
そして後は、リータウンまで安全な道を行くだけだったので、無事にリタさんをリータウンまで迎え入れる事ができた。
今はリタさんの屋敷の食堂で、主要な人物が一堂に会している。
バストーネとキオンはリータウンに着いたところでお別れとなった。
キオンは後の再会を約束して別れたから近いうちに会えるだろう。
まさかトレスリーに住んでいたころの幼馴染とこの皇都で再会するとは人生何が起こるかわからないものだ。
今ここにいるのは、リタさん、ルナ姉ちゃん、ヒルデガルド、ブッフォン将軍、デルピエロ将軍、ゾエさん、僕とビーチェ、パオっちにリアナさん、サンディ中将にアウレリオさんだ。
そしてリタさんの掛け声で話は始まる。
「まずここにいる皆んなの尽力で、私は無事に皇宮から出ることができたわ。ありがとう」
リタさんがお礼を言って立ち上がって礼をする。
ルナ姉ちゃんも見よう見まねで立ち上がり礼をした。
「特に援軍に駆けつけてくれたブッフォン将軍、デルピエロ将軍、ブロッタ将軍には感謝の言葉しかないわ。とても驚いたけどね」
「驚いたのはこちらの方です。まさか華族の私兵があのような武力行使に出るとは…皇宮と皇都…皇族の方をお守りするはずの皇軍を預からせてもらいながらこの事態に至るまでお力になれず申し訳ありません」
ブッフォン将軍は立ち上がり、リタさんに謝罪の礼をした。
「いいのよ。ここまでわかりやすく襲撃されるとは私も思っても見なかったし…」
リタさんは苦笑いしながらブッフォン将軍の謝罪を受け取る。
それに続いてデルピエロ将軍が険しい顔で言う。
「リータ殿下をこんな形で襲撃するなんざぁ……これも皇王派の仕業か?サンディ」
「間違いなくそうだ、旦那。これがパオ少将の言っていた『俺たちは当事者』ってことさ」
「にー」
「そうか……テメェら知ってやがったな?しかもあの『円卓会議』の時にはもう繋がっていたんだろ?」
腕組みをしながらサンディ中将を片目で見るデルピエロ将軍
「旦那には隠し事はできないね〜」
サンディ中将は手をひらひらさせながら肯定の意を示した。
「はん!まぁいい。にしても今回の件で俺は皇王派の奴らが嫌いから大嫌いになったぜ。これを皇王様が見逃してるなんざ考えたくもねぇが」
デルピエロ将軍は皇王派の所業に怒り心頭だ。
そしてゾエさんもそれに同意する。
「アタシも元々華族なんて碌でもない奴らだと思っていたが、想像以上さね。でもこれを目にしちゃぁアタシ達も考えなければいけないねぇ」
ゾエさんがふぅと息を吐きながら今回の事件のことを咀嚼している。
そしてそれに続いてアウレリオさんが言う。
「これが皇都華族の実態なのだ。自分達の私腹を肥やすためには手段を選ばない。民を顧みることもしない。権利ばかり主張し、義務は果たさぬこの国の寄生虫なのだ。こいつらを一掃しなければこの国の未来はない」
毅然として言い放つアウレリオさん
その言いように3人の大将は目が点になっている。
「……おい…誰だ……こいつ?」
「……アウレリオによく似た双子の弟さね?」
「いやはや……まるで別人ではないか…」
そう言えばこの3人はアウレリオさんが庶民嫌いの華族至上主義の仮面を被った時しか知らないのか。
驚くのも無理はない。
「今までの私はベラルディに囚われていて仮面を被っていたのです。本当の私は大の華族嫌いですよ」
アウレリオさんは3人の大将に爽やかに答える。
「お、おう……これからは仲良くしような?」
「そ、そうさね……いやぁ…話が合うねぇ…」
「す、少しずつ慣れていこうか…」
アウレリオさんの変わり振りに戸惑いながらも好意的な3人
そして話は本題に入る。
「まぁこれでわかってくれたかしら。この国は現皇王を中心に腐敗し始めている。私はこの国を傾きさせはしない。だから私をこの国の王にして欲しい。他でもない軍のトップであるあなた達にもお願いするわ」
リタさんから3人の大将に対して、皇妹派への勧誘
ここは非常に重要な局面だ。
最初に動いたのはデルピエロ将軍だ。
「リータ殿下…確認させて欲しいことがいくつかある」
「何かしら?」
「帝国とはどこまでやりあえる?」
「私は帝国を滅ぼしたいわけじゃないわ。でもヴィルヘルムは打倒する必要はある。だから帝国の西半分を帝国の現体制と協力して平定したいわ」
「領土の割譲は?」
「最低でもインバジオンまではもらうわ。あそこは元々皇国の地だしね」
「なるほど…サンディ…テメェはどう見る?」
「旦那の野望を叶えるにはリータ殿下に乗っかるのが最善だ。そもそも皇王は侵攻する状況を作りたいだけで、侵攻の成功の可否については興味がないようだ」
「そうか………」
デルピエロ将軍は腕組みをして、一度天を仰いで考える。
「………いいぜ。アレス・デルピエロはリータ殿下に乗る!」
デルピエロ将軍はリタさんへの恭順を示した!
「ほんとに!感謝するわ!」
これにより陸軍は、デルピエロ将軍とサンディ中将が皇妹派になったことになる。
マリオ少将は2人に逆らわないから陸軍を手中に収めたのだ!
そして次は………
「アタシからもいいさね?リータ殿下」
我らが海軍大将のゾエさんがリタさんに切り込む。
「もちろんよ。なぁに?ゾエ大将」
「風の噂で聞いたんだが、リータ殿下は皇軍と海軍と陸軍を解体して軍を編成し直す構想があると聞いたさね」
「「!!??」」
ゾエさんの発言にブッフォン将軍とデルピエロ将軍が小さく驚く。
その構想は僕達は帝国での撤退時にリタさんから聞かされたことはある。
どれだけ本気かはわからないけど…
「そうよ。今の軍の枠組みを壊すわ」
「それはどういう形になるさね?」
「軍団制にするわ。今の皇国軍の規模だと4軍団かしら」
「軍団制に…なるほど…海や陸の枠組みを取っ払うさね…」
「そうよ。別に海軍を無くすわけじゃないわ。海の人材はどの軍でも必要だと思うし」
「そこまで海軍を評価してくれるのは嬉しいさね」
「もちろんよ。海軍にはパオ少将だけじゃなく、凄い人はいっぱいいることを私は遠征で知ったから」
「それはありがたいさね。ではその分けた4軍団はどうのるさね」
「私が考えているのは、4軍団の上に大総督と総司令を置く。そして第一軍は帝国方面に、第二軍派王国方面に、第三軍は軍全体の後方支援に、そして第四軍は皇国軍の英雄を集めた最強の軍にするわ」
リタさんの構想に前のめりで聞いているゾエさん
ブッフォン将軍とデルピエロ将軍も真剣な表情だ。
そしてブッフォン将軍がリタさんに尋ねる。
「地方ごとに分けるのですか…それに後方支援に1軍…そして最強の軍とは?」
「選りすぐりの軍よ。シリュウ・ドラゴスピア…パオ・マルディーニ…ファビオ・ナバロ…マリオ・バロテイ…アウレリオ・セレノガード…皇国軍で随一の戦力を誇る最強の軍を作る」
「つまり重要な戦線にそいつらを放り込むってわけか…」
「その通りよ、デルピエロ将軍。こうすればインバジオンなんてすぐ取れそうじゃない?」
「……確かに陸軍だけの戦力じゃあきついところもあったが…パオにシリュウか…アウレリオもできる奴だしな…おもしれぇぜ…!」
デルピエロ将軍は最強の軍団に興味深々だ。
そしてゾエさんはさらに尋ねる。
「では人事はどうなるさね?」
「大総督は……これから勧誘するあのお方にお願いしようかしら」
あのお方はコウロン・ドラゴスピアだな。
「総司令はサンディ中将にお願いするわ」
リタさんのご指名にサンディ中将は飄々として答える。
「おいおい。大任すぎやしませんか?今だって陸軍で手一杯なんでさぁ」
「あなた以上の参謀を知らないわ。それは帝国の件でわかったから」
「まぁ…そうなったらまた考えさせてくだせぇ…」
「お願いね。あと各軍団長だけど、帝国方面はデルピエロ将軍、王国方面はゾエちゃん、後方支援はレア・ピンロ少将、最強の軍団はブッフォン将軍ね」
リタさんの人事案に三大将はそれぞれ反応する。
「へぇ…!」
感心するゾエさん
「ずりぃぞ、ルイジ!」
うやらむデルピエロ将軍
「あくまで仮の話だろう?熱くなるな…」
冷静なブッフォン将軍
リタさんの軍の構想を聞いて、ゾエさんは結論を出す。
「軍の素人かと思いきや…なかなか理のある構想さね。それに後方支援の長にレアを挙げるなんて、見る目のあるお方さね」
「彼女ほど『バランス感覚』に優れた軍人はいないわ」
「はっはっは!そうなんだよ!レアは海軍にいた時から智謀や氷魔術に注目されがちなんだが、真に優れているのは『バランス感覚』の良さから来る仕事の安定感さね。本当によく見ていらっしゃるねぇ」
「この国を支える要人よ。理解するのが皇族の務め」
「いやはや…お見それいたしたね……アタシもリータ殿下に忠誠を誓うさね」
ゾエさんもリータ殿下に忠誠を誓った!
「本当に!?ありがとう」
「フランシスにはアタシから言っておくさね。これで海軍は皆んな皇妹派ということかね。よろしく頼むよ!先輩!」
ゾエさんはそう茶化して僕とパオっちの背中を叩く。
「いやいや先輩て…」
「大将が何を言うのだろん……」
「あんた達の慧眼に敬意を表したさね。まぁ問題は……皇軍だろうけど…」
ゾエさんはブッフォン将軍の方を見る。
ブッフォン将軍は難しい顔をして、考え込んでいる。
そんなブッフォン将軍にリタさんは声を掛けた。
「陸軍も海軍も私の味方になってくれたわ。これで『円卓会議』の決定権は手に入れたけど、それだけじゃだめなの。皇軍も協力してくれないかしら?」
リタさんの言葉にブッフォン将軍は申し訳なさそうに答える。
「リータ殿下…皇王様を守る我ら皇軍が皇王様以外に与するなど…難しゅうございまする」
「そんなの皇家守護騎士団にやらせとけばいいのよ。あなた達の立ち位置の難しさはわかるけど…」
「確かにこのままではこの国が良くはならないとは感じます…しかし…軍の存在意義が…」
ブッフォン将軍は皇軍の存在意義と皇妹派に与することが両立しないと悩んでいるようだ。
でも本当にそうなのかな?
「ブッフォン将軍、本当にそうなのでしょうか?」
僕はブッフォン将軍に言う。
「どういうことかな?シリュウ君」
「爺ちゃん…コウロン・ドラゴスピアは言っていました。『誰のために槍を振るうか、それを決められるのは自分だけだ』と。ブッフォン将軍は、自身の武を現皇王に捧げると決められましたか?」
「………いや……私は…困っている人を救うため…この戦乱の世にも義と仁はあるのだと証明するため、軍を志した」
「なら現皇王のために振るう武はあくまで手段であって、ブッフォン将軍の目的ではないのでは?」
「!?」
僕の言葉にハッとした顔をするブッフォン将軍
「私は…いやしかし……コウロン殿の教えを違えるわけには…」
ん?爺ちゃんの教え?
そしてブッフォン将軍は結論を出す。
「リータ殿下…答えは保留にさせていただきたい…私自身答えを出すのに、コウロン殿にお会いしなければなりません…サザンガルドでコウロン殿とお話しした後にご回答させていただきたい」
「もちろんいいわ。コウロン殿も私達の味方になってくれるようお願いするから」
「申し訳ございません」
「大丈夫よ。じゃあ今日はこれにて解散ね。デルピエロ将軍、ゾエちゃんは改めてよろしくね」
「「はっ!」」
立ち上がって敬礼するデルピエロ将軍とゾエさん
2人の顔は新たな主君を得たことで生き生きとしていた。
そんな2人とは対照的なブッフォン将軍の表情から僕は目を離せなかった。
リアナ「私達何も喋れなかったわね」
ビーチェ「これだけの面子がいてはのう…」
ヒルデガルド(リオ様とお話リオ様とお話リオ様とお話)




