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第16話 皇都事変⑥〜『神速少年』

列歴98年 7月7日  1区(皇区) 皇宮通り 


ドランゲタのボス、バストーネとドランゲタで1番の手練であるキオンを加えたリータ一行の前に、重厚な鎧とハルバードを装備した大勢の人影は隊列を組み、リータ達の行く手を阻むようにして布陣していた。


部隊の全員が兜を被っており、顔がわからないため、どの家の私兵かわからないようになっていた。


リータはその部隊に臆せず近づき、声を掛ける。


「どこの家の私兵か知らないけど、私の道を遮るなんて不遜にも程があるんじゃない?」


リータの強気な牽制に、部隊の隊長と思われる騎士が一歩前に出て答える。


「知れたこと!あなたには無法者をこの皇区に引き入れ、皇都を混乱に貶めた内乱罪の嫌疑がかけられている!その身柄、我が部隊でお預かりいたす!」


あまりにも無理筋な嫌疑にリータ達全員は冷めた目で、部隊長を見る。


「はぁ……こんな雑なやり方…こんなのを相手にしてるなんて低レベルすぎて…呆れてものが言えないわ」


リータはこめかみに手を当てて、やれやれと首を振る。


「……そもそもあなた達はどこの部隊で、何の権限があって皇位継承者を拘束するのかしら……?」


ヒルデガルドは正論を部隊長に突きつける。


「メ、メイドごときが知ることではない!おとなしくお縄につけ!」


部隊長は狼狽えながらも、ハルバードをリータ達に向け威嚇する。


その様子を見たヒルデガルドはリータに進言する。


「……リータ殿下…これはもう立派な武力行使よ…彼らを呼び寄せた方がいいんじゃないかしら?」


「確かにねぇ…刺客達だけならともかく、華族の私兵が出張ってきては、政治的な争いでは済まないわね」


リータとヒルデガルドは部隊長に構わず話し合いをする。


この状況で安穏と話し合いをしているリータ達が気に食わない部隊長は、さらに威嚇を強めた。


「ふざけるな!何をペチャクチャ喋っている!?この人数差で勝てると思うな!」


部隊長はリータ達に大きな声で忠告をするが、リータ達は意に介さない。


それどころかヒルデガルドは挑発するように答える。


「……あなた達こそふざけないで…私とやり合うには人数の桁が足りないわ…」


そう言って剣を抜き、部隊長に凄むヒルデガルド


総勢20名程のフルアーマーの騎士達に対して、人数の桁が足りないと言わしめる。


そんなヒルデガルドの迫力に少したじろぐ部隊長


「……す、少しはやるようだが、そんな脅しは通用せん!」


「……そう?……ところであなた達はダレッシオ侯爵家の私兵ね……そんなに堂々とリータ殿下を襲って大丈夫なの?」



「「「!!!???」」」


ヒルデガルドの指摘にこの場の全員が驚く。


「ヒルちゃん、それって本当?」


「間違いないわ…この皇都を散策するついでに主要な華族の私兵も調査してたもの……あの隊列の組み方…部隊長の声…装備の形……ダレッシオ侯爵家で間違いないわ…」


ヒルデガルドの推理に度肝を抜かれる一同


バストーネは冷や汗を掻きながら、ヒルデガルドの慧眼に感心した。


「……とんでもねえなぁ……武に関しては、その目は何でも見通しそうだな…」


キオンもヒルデガルドの推理に閉じていた目を開いて驚く。


「……すごいや……てかめちゃ強そう…これは寝てて正解だった……」


キオンはリータの暗殺依頼に応じなかった自分の判断を正解と断じながら、ヒルデガルドの隠しきれない実力を感じ取っていた。



一方指摘された部隊長は、何も言えずにいた。


「……………っ!」


ここでは肯定も否定もできない。


まともに反応しただけで、真実であると認めてしまうからだ。


そんな部隊長を気遣って部下の騎士が声を掛ける。



「た、隊長…何か指示を!……このまま制圧するとなっても相手にはバストーネにキオンがいます…!あのバストーネが付き従っていることからもあのメイドも只者ではないでしょう……増援を呼ぶか撤退しないと!」


「……そ、そうだな…」


「我が家のことまで知られております…!ここは奴らも巻き込むため増援を呼びませんか?」


「うむ!…その通りだ…!あれを出せ!」


部下の進言を聞いた部隊長は、部下に何かを持ってくるように指示する。


そして後列にいた騎士が何か筒状のものを部隊長に手渡した。


そしてそれを空に向けて起動した。




パシュッ!



パァーン!




部隊長が何かを空に向けて、そして空高い地点で何が破裂した。


その破裂音は辺り一帯に鳴り響いた。



「なに?」


リータは呟くように聞き、ヒルデガルドが答える。


「……おそらく増援を呼んだわ……まずいわね……増援の規模によっては…守り切れないかも…」


「ならこっちも増援を呼ぶしかないわね」


リータはそう言うが、問題はどうやって増援を呼ぶかだ。


リータはバストーネとキオンの方を向き、尋ねる。


「目的の地点に、シリュウ・ドラゴスピアとパオ・マルディーニがいるの。そこまで駆けていって、ここに駆けつけるように伝令できないかしら?」


リータの要請にバストーネが答える。


「可能だな。キオンに行かせる。それで、その要請の見返りは期待していいんだな?」


「ええ、人の道から外れたことをしないことを条件に『ドランゲタ』を私の傘下に組み込んであげる」


「はっは!願ってもねぇな。交渉成立だ。おい!キオン!行ってこい!」


「……了解…」


ヒュン!


「!?」


バストーネの指示を受け、キオンは部隊の隊列に突っ込むようにして、駆け出した。


そのあまりの初速の速さにヒルデガルドも驚いている。


「構えろ!奴を通すな!」


部隊は道いっぱいに盾を構えて、鼠一匹通さないように布陣している。


これでは全く通ることはできないが……


「……甘いっしょ……」


トン!


キオンは隊列とぶつかる直前で跳躍し、布陣している部隊を軽々と飛び越えた。


「何!?」


ダン!


そして着地して、爆速で通りを駆けた。


キオンの背中はほんの数瞬で通りの向こうへ消えていった。


あまりのキオンの身のこなしと俊敏さに残された者はバストーネを除き、驚いて呆然としていた。



「あの子……何者なの?」


リータはバストーネに尋ねる。


「俺も詳細は知らん。幼少期に街が焼かれて、妹と2人で過酷に生きてきたくらいしかな。あの身のこなしは生きていく上で身についたようだ」


「……本当にそれだけ?あの俊敏さ……私と同等かそれ以上よ…?」


「まぁあいつはあの身のこなし一本しかない。あんたとは比べ物になんねぇくらい弱いぜ」


「……すごく早い……猫さんみたい…」


ルナはキオンの身のこなしを猫のようだと表現した。


「はっはっは!嬢ちゃんは可愛らしく表現してくれるなぁ」


ルナの可愛らしい例えにバストーネは快活に笑う。


「まぁこれで増援はすぐ来るだろう。それまではお相手の増援とこちらの増援の競争ってことだ」


「ならこっちの勝ちね」


「あん?」


「こちらの増援はシリュウ・ドラゴスピアにパオ・マルディーニよ?そこらの私兵よりよっぽど早いわ」


「ちげぇねぇ!はっはっは!」


バストーネは大きな口を開けて笑う。


それと対照的に増援を呼んだダレッシオ侯爵家の私兵達は、圧倒的有利に立っているはずの自分達の立ち位置に不安を覚えていた。



そしてお互いの増援はほぼ同時にやってきた。


それもお互いが予想しない形で

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