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第15話 皇都事変⑤〜勝ち馬

列歴98年 7月7日  1区(皇区) 皇宮通り 裏路地 


「………眠い……」


裏路地にやってきたルナよりも小柄で、黒いフード付パーカーと黒い半ズボンに黒い靴に黒い靴下と全身を黒一色に染まった少年、『キオン』は目を擦りながら自身をここに呼んだ『ドランゲタ』のボス、バストーネに不服そうな目を向けながら言う。


バストーネはそんなやる気のなさそうな少年の一言に呆れながら答える。


「はぁ……待機の命令出してたろ。寝ていいってことじゃねぇぞ。うちにはまともな奴がいりゃしねぇなぁ…」


顔をに手を当てて空を仰ぐバストーネ


皇都の裏を仕切っている頭の姿とは思えずリータは少し不思議に思った。


「皇都一番の闇ギルドの割には人材不足なようね?」


「まぁ、これには訳があるんだが…まぁいい。俺とキオンが居れば『カモラ』と『ノストラ』は襲ってはこんだろ。目的地に向かいながら話すか」


そう言って、バストーネは刺客だらけの皇都の大通りへと悠々と歩き出した。


それに続く小柄の黒い少年


リータとルナ、ヒルデガルドも2人の先導に続いて、皇都の大通りへと歩み始めた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


列歴98年 7月7日  1区(皇区) 皇宮通り 


バストーネとキオンが脇に付いているだけで、刺客達からの襲撃がピタッと収まった。


無人の大通りをリータとルナ、ヒルデガルドにバストーネとキオンは歩いていた。


「あなたたちがいるだけでほんとに襲ってこないのね。伊達に皇都の裏を仕切ってはいないってこと?」


「『カモラ』と『ノストラ』のような落ちぶれた奴らには負けはしねぇよ。問題は『サクラロナ』の奴らだが、案件的にはお姫様の味方だろうよ。奴ら闇討ちとか大嫌いだからな」


「ふーん?皇都の闇ギルドも色々複雑なのね。その中で一強を誇っているのはあなたの手腕なんじゃない?」


「かの『太陽の皇女』に褒められるとくすぐってぇが、大したことはない。俺はただ『勝ち馬』に乗り続けているだけだ」


「『勝ち馬』?」


「そうだ。俺たちの様な日陰もんは権力者に目を付けられたらそれまでだ。警察権を立てに武力行使されちゃあお終いだからな。特に帝国では酷い目にあったもんさ」


「帝国で?あなた皇国人じゃないの?」


「裏の世界に国籍なんてもんはあってないようなもんだ。数年前は帝国のローデンベルグで似た様なことをしてたんだが…」


「………ローデンベルグ……かつての闇都ね……」


ローデンベルグの名を聞いたヒルデガルドが呟くように言う。


「そうなの?」


ヒルデガルドの呟きにリータは聞き返し、バストーネは感心するように言う。


「そこのメイドは何モンだよ……よく知ってるな。そこのメイドが言うように帝国のローデンベルグはかつて闇都と言われるほど裏のモンが溢れていた街だ。領主は賄賂に塗れ、領民は荒み、無法者達の楽園とまで言われた街だ。俺もその噂につられてその街に身を寄せてたんだが…」


「寄せてたんだが?」


リータはバストーネに続きを促すようにして聞く。


「ヴィルヘルムの野郎に目を付けられちまってな。あいつ、ローデンベルグが軍略的に有用だとわかると、領主を抱き込み、自治権を取っちまいやがった。んで街のゴミである無法者達は一斉摘発されちまった。それでも反発した奴らは多かったんだが、ヴィルヘルム子飼いの…十傑の女にほとんど殲滅されたのさ。俺はそんな中、ローデンベルグから逃げ出してこのセイトに細々と暮らしてるってわけさ」


「ヴィルヘルム子飼いの女の十傑って……」


リータはそれを聞いてヒルデガルドの方を向く。


「………そんなこともあったかしらね…」


ヒルデガルドは淡々と肯定する。


そんなヒルデガルドの答えに怪訝な表情を見せるバストーネ


「はぁ?…どういう意味だ?…」


バストーネの問いに対して、ヒルデガルドは剣を抜きバストーネへ向ける。


「……どう?……思い出した?……」

ヒルデガルドの剣の構えで、全てを思い出したバストーネは驚愕の表情を浮かべる。


「ばっ…馬鹿な……!?テメェは、『鮮血の猫』!?ヒ、ヒルデガルド・ラーム…!?こんなところで何してやがる!?」


「……その名は捨てた…今の私はただのヒルデガルド……リータ殿下の忠実なる侍従よ……」


「マジかよ……お姫様…あんたこいつを従えてるのかよ…」


「そうよ。私の自慢の御付きよ?羨ましい?」


「いやいや…元帝国十傑ならこの国最強の人間じゃねぇか…」


「そんなことない……私よりも強い人が…リータ殿下の下にはあと3人はいる……」


ヒルデガルドはシリュウとパオとアウレリオのことを思い出しながら言う。


「じょ、冗談だろ?お前より強え奴があと3人も…?」


「まぁヒルちゃんより強いかは、私は素人だからわからないけど同じぐらい頼りにしてるわね」


「……はは…最初の報酬は…別に安いもんじゃなかったのか…危ねぇ…」


「……そう……あなた達はリータ殿下を過小評価している……」


「……過小評価ねぇ…皇都華族の偽報のせいなんだろう……やっぱ信じるべきは自分の勘だな」


「そうね。噂なんか当てにはならないってことよ。それで、あなた達皇都の闇ギルドで一強らしいけど、なんで人材不足なの?界隈の覇権を握ってれば人なんて勝手に集まるでしょうに」


「それには特殊な事情があってな。話してもいいんだが、話す代わりにもう一つ約束してほしい」


バストーネはリータに条件を付した。


「何よ?」


「俺たち『ドランゲタ』は現状皇都の『勝ち馬』である皇王派からの依頼をこなすことで裏の覇権を握っている。でもこれからは乗り換えたい、あんたに。既にこの依頼を受けている以上、あんたに乗り換えモンだがな」


バストーネの唐突な恭順の依頼にリータは少し驚く。


「皇都の裏には興味はあるけど、外道を傘下には入れないわよ?」


リータは毅然としてバストーネに言う。


「そこは信じてくれとしか言えないな。法の道から外れているが、人の道から外れたことはねぇ」


「それを信用しろと?」


「今ここで口約束で信用してもらえるとも思ってねえ。これからの働き次第ってことでどうだ?」


「うーん…」


リータはバストーネの提案を受けるかどうか悩んでいる。


しかしそれを許さない者達もいた。



「殿下……思案は後よ……」



ヒルデガルドは大通りの先に立ち尽くす大勢の人影を見て言う。






大勢の人影は隊列を組み、重厚な鎧を装備し、行く手を阻むようにして布陣していた。






「はぁ……ならず者の次は、華族の私兵ってわけ?どんだけ私に消えてほしいのかしら?」



リータは皇王派の乱雑な武力行使に呆れながらも歩みは止めなかった。

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