第6話 遠征の論功行賞
烈歴98年 6月29日 10時 皇都セイト 10区(軍港区) 海軍本部 軍議の間
2日間の休暇を終えて、僕とビーチェは海軍に出勤し、今回の遠征の論功行賞に参加していた。
結局この2日間はドラゴスピア家の新たな屋敷や使用人の手配に忙殺されていた。
でもある程度の方針が固まり、あとはブルーノとトスカに丸投げするだけのところまで来れた。
家のことは優秀な家臣に任せるのが一番だね。
論功行賞が行われるのは海軍本部の『軍議の間』というところで、数十人は座れることのできる大きな会議室だ。
華族屋敷の食堂に比べると豪華はないが、ある程度の調度品が置かれていて、軍における儀礼の間でもあるみたいだ。
そんな軍議の間には、ゾエさんはじめ、海軍の大佐以上の身分の者が集められていて、他にはビーチェやリアナさんのような補佐官が何人か参加していた。
あとは遠征に参加していたジーノ大尉やダニエル中尉等も参加している。
そしてゾエさんの発声で論功行賞が始まる。
「皆、良く集まってくれたさね。今回の王国と帝国への外交使節団の護衛任務を無事に終えて来てくれた者達への論功行賞を行う。まずは任を終えた英雄たちに拍手を」
その一言で、参加していた全員が起立し、軍議の間に拍手が鳴り響いた。
しばらく間拍手が鳴り響いたが、ゾエさんが手を挙げて制した。
「さて…論功行賞を行うが、ここでは特に功績の多かった者だけを発表するさね。他の功労者は一覧で掲示板に張り付けておくから各自で確認しておくんだよ」
そしてゾエさんは手元にある紙に目を向ける。
「まず第一功…パオ・マルディーニ少将!」
「うぃっさ!」
最初に呼ばれたのは護衛団長のパオっち
まぁ当然だね。
「まず帝国でのあの状況から護衛団の責任者として誰一人欠ける事無く帰国させたその功績…見事さね。また帝国の十傑ロタ・マテウスを討ち取り、王国ではSランク魔獣の双剛魔猿の剛猿を討伐…そしてポアンカレ家との同盟を見事に成立させた。本当によくやってくれたさね」
「当然の働きじゃもんね」
「はっはっは!頼もしいねぇ…第一功のパオ少将には、褒美としてアタシとフランシスへの上申権を与える。まぁすでに使ったさね。はっはっは!」
なんと……パオっちは褒美をもう使ったのか。
そして上申権か…それを使って何をしたんだろう。
「オイラには十分すぎる褒美だったじゃもんね」
しかしパオっちは満足そうに笑っていた。
「それは何よりさね…じゃあ次!」
そして次の人が呼ばれるみたいだ。
「第二功……シリュウ・ドラゴスピア准将!」
えっ?僕?
「は、はい!」
とりあえず返事をして、起立する。
そんなに功績上げたっけな……
「シリュウ・ドラゴスピア准将は、詳細は省くが王国でアルジェント王とリータ殿下の身をお守りしたさね。それにパオと同様に王国でSランク魔獣の魔猿を討伐……帝国では凱旋軍を実質的に統率し、ヴィルヘルム軍の追撃を受けながらも、非戦闘員含めて全員を帰国させた。その功績は本当に見事さね。シリュウを海軍に入れて…准将にして本当に良かったと痛感したさね」
「きょ、恐縮です…でも僕だけでなく凱旋軍の皆の功績ですよ」
「部下を労うその意気やよし!褒美は……昇格はできないからすまないね。臨時の給金も懐が寂しくて支給も難しいさね」
ゾエさんは申し訳なさそうな顔で言う。
いや本当に褒美なんていらないんだけどな。
与えられた任務をしてきただけだし。
「いや…大丈夫です…本当に…」
僕がそう言うと、ゾエさんは首を横に振る。
「でもとっておきの褒美を用意したさね。まぁアタシが用意したわけではないけど」
「なんでしょう…?」
「シリュウ・ドラゴスピア准将を『円卓会議』において、全員一致で王家十一人衆に推挙したさね。そして皇王様に承認された。お前さんは今日から王家十一人衆の一人さね」
「えっ…ええええええええええええ!!??」
ゾエさんの発言に顎が外れるほど驚く僕
「シリュウが…!王家十一人衆に…!…なんとめでたいこと…!」
ビーチェは涙目で喜んでいる。
「おめでとう…シリュウっち…」
パオっちは静かに祝福の言葉を述べてくれた。
「おめでとうございます!シリュウ准将!」
「…おめでとう…シリュウ君…」
リアナさんもフランシス中将も祝福してくれた。
他の将校たちも一様に歓声を上げている。
「おおおお!!」
「シリュウ准将!流石です!」
「当然!十傑を撃退するくらいなんだ!王家十一人衆くらいになっても不思議じゃない」
「シリュウ准将万歳!」
会議の間に響く歓声
僕は照れながらも、歓声に応えた。
「いやはや……本当に僕でいいんですかねぇ…」
「はっはっは!お前さん程の武を持って、軍の最高幹部に迎え入れない国はないさね。でもこれからは大きな責任が伴う。お前さんは海軍だけでなく皇国軍を背負って立つんだ。気合い入れていきな!」
ゾエさんが僕の背中を叩く。
「……はい!」
僕は力強く返事をした。
王家十一人衆……その責…しかと果たして見せよう。
僕の王家十一人衆の就任が発表されて場が賑やかになったが、まだ論功行賞は終わっていない。
「最後に1人…功績者を発表するさね」
そしてゾエさんの一言で場は再び規律を取り戻す。
「第三功……リアナ・フォッサ少尉!」
「えっ…は、はい!」
最後の功績者はリアナさんだった。
本人は驚いているが、当然だと思う。
「リアナ・フォッサ少尉は、護衛団長パオ・マルディーニ少将の補佐を帰国するまで見事に遂行した。さらに王国ではポアンカレ家との軍事同盟の締結を主導し、皇国における海上の安全保障に極めて大きな貢献をした!本当によくやってくれたさね…リアナ…」
そう言ってゾエさんはリアナさんを優しく抱きしめた。
「ゾ、ゾエ大将…!」
「海軍基地に出入りしていたあんな小さな女の子が…こんな大きなことをやり遂げるなんてね……アタシは涙が出そうだよ…」
「え…し、知っていたのですか…!?」
「当然だよ。大きくなったさね…リアナ…」
「…うぅ……ありがとうございますぅ……!」
ゾエさんの言葉にリアナさんは嬉し涙した。
「褒美は伝えていなかったさね。今回の功績を持ってリアナを『少佐』に昇格させるさね」
「はい!………ン?……しょ、少佐…!?」
ゾエさんの言葉にリアナさんは目が点になっている。
そして周りの将校たちも同じ反応だ。
「しょ、少尉から…少佐…!?さ、三段階昇格…!?」
「そんな人事みたことあるか?」
「あるわけ……いやパオ少将はそんな感じで昇格していったな…」
「まじかよ…夫婦ともどもとんでもないな…」
少尉から少佐への昇格なんて中々見ないのかな。
「ビーチェ、そんなに珍しいことなの?」
「まぁ普通はないじゃろうなぁ。殉職した時でさえ2段階昇格じゃからのう。極めて大きな功績と昇進の時期が丁度重なったらあるんじゃないかのう」
「ベアトリーチェの言う通りさね。リアナはもともと中尉に昇格させようと思ってたところさね。そんな時にこんなでっかい土産を持って来たんだ。少し奮発してしまったさね。はっはっは!」
「わ、笑いごとじゃありませんよ……この年齢で少佐なんて…」
リアナさんは胃の辺りを抑えている。
「ビーチェ…少佐ってどれくらいの権限があるの?」
「内勤なら1つの部署の長じゃな。外勤なら1隻の船長…いずれにせよ、管理職と言われる役職じゃよ。普通なら40歳くらいに到達する役職じゃなぁ…」
「超スピード出世じゃん。リアナさん凄いね」
「シリュウ准将にだけは言われたくありません」
リアナさんを褒めたつもりが死んだような目で反論された。
解せぬ。
「いずれにせよ、他の者も功績を挙げたらどんどん昇格させてやるさね。反対に働かないやつは容赦なく降格させるさね。これからは大変な時代になる。各々励め!」
「「「「「「はっ!!!」」」」」」
ゾエさんの励ましの言葉で、論功行賞は締められた。
論功行賞に参加した者の目には、次は俺だと言わんばかりに光が宿っているように見えた。
そんな面々を見ながら、僕はこれからのことをぼんやり考えていた。
「王家十一人衆って何するの……」




