【閑話】変わる皇都⑤~フェルディナンドの焦燥
列歴98年 6月27日 皇都セイト 20時18分 1区(皇区)皇宮 皇王の私室
「ど、どういうことじゃ!?」
全ての公務を終え、夕食に入浴も終え、あとは至福の時間を過ごすだけと油断していた皇王フェルディナンド・フォン・リアビティの元に、侍従が至急の報告に来ていた。
報告の内容は、本日開催された皇国軍最高幹部達が参加する『円卓会議』の議題と採決結果
「わ、私にも詳細は…あくまで議題名とそのすべての議題について、全員一致で可決されたことしか書記官にも知らされておりませんので…」
たかが軍人と油断していた結果がこれか…!
サンディやレア、フランシスなどの知恵者はいるが、真面目なルイジ、脳筋のアレス、大雑把なゾエとそれぞれの大将は御しやすいため、軍部の掌握は後回しにしていた。
それよりもメディチに握られた商業省の主導権の奪還を優先し、軍部への根回しを疎かにしていた結果が、その『円卓会議』の結果だ。
「帝国への侵攻作戦の中止……アウレリオを王家十一人衆から外し、シリュウ・ドラゴスピアを後任にあて……あまつさえ大総督の人事を王家十一人衆に一任じゃと…!?…奴らは余に歯向かう気か!?」
円卓会議の議題の内容はそのどれもが皇王フェルディナンドの権勢を削ぐものだ。
帝国への侵攻作戦の名目で、ベラルディとパッツィの産業に公金を支出し、ベラルディとパッツィの勢力図を間接的に拡大させる予定が水泡に帰した。
さらに軍部で唯一と言ってもいい皇王派であるアウレリオが解職され、後任はリータのお気に入りのシリュウ・ドラゴスピアだと言う。
それに名目上の地位であるが、戦時においては軍部を掌握する実権を持つ大総督の地位を軍部に委ねるなど、軍の統制が華族で取れなくなってしまう。
そしてその議題全てが王家十一人衆全員の一致で可決された。
(これが皇都で公表されようものならば、余でもこの採決結果を違えることはできない…)
万が一強硬して従わなければ、皇妹派に挙兵の口実を与えることにも等しい。
そうなれば軍部を掌握している方が勝つが、現状では軍は皇妹派に傾いている可能性が高い。
(そんな分の悪い賭けには出られぬ…!)
皇王フェルディナンドは王家十一人衆の唐突な自我の芽生えに焦燥を覚えていた。
「………遠征でリータの暗殺が失敗したことがここまで裏目に出ようとは…」
遠征中にリータがパオ・マルディーニとシリュウ・ドラゴスピアを自身の勢力に組み込んだことは周知の事実
それに今回の議題は全てパオ・マルディーニの発議だった。
明らかに皇妹派の将軍の主導によってこの結果が導かれている。
(…まずいまずい…!この結果と経緯が皇都に周知されれば、リータに付く華族も増えるやもしれん…!どうすれば…!)
フェルディナンドの焦りは深刻なものだ。
なぜなら皇王の地位に就くためには、政庁の大臣達で構成される最高会議の『閣議』と軍の最高幹部達で構成される『円卓会議』の承認が必要なことが、皇室典範に明記されている。
代々『円卓会議』は『閣議』で承認された後に、事務的に承認するだけであったため、実質的には『閣議』…つまり政庁の大臣を抑えれば皇王の地位に就けた。
大臣は伯爵家以上の華族当主による相互選挙により選出される。
つまり皇王の地位を就くには伯爵家以上の華族をどれだけ抑えることができるかにかかっていた。
しかし状況が激変した。
今まで皇位争いには無頓着だった『円卓会議』が参戦してきたのだ。
これからは皇都家族だけでなく、軍の将軍達…ないしはその部下達も取り込まなければならない。
しかし王家十一人衆の中で明らかにパオ・マルディーニは皇妹派だ。
これから選出されるシリュウ・ドラゴスピアも皇妹派…
新たな大総督は王家十一人衆により選出される。
ここも皇妹派の人物が来ることは想像に難くない。
つまり残り8人のうち6人を皇王派にしなければならない。
残りの8人
皇軍大将ルイジ・ブッフォン、陸軍大将アレス・デルピエロ、海軍大将ゾエ・ブロッタ
皇軍中将ファビオ・ナバロ、陸軍中将サンディ・ネスターロ 海軍中将フランシス・トティ
皇軍少将レア・ピンロ、陸軍少将マリオ・バロテイ
(このうちの6人を皇王派にしなければ!)
フェルディナンドはそう考える。
(しかし…確実に皇王派にできるのはサンディぐらいだろう……あ奴は金の亡者…金さえ掴ませればよい)
フェルディナンドは帝国への救援をフェルディナンドが無下に断ったことをサンディに金を掴ませ黙らして成功したことから、サンディは金さえ積めば言うことを聞くと思っている。
ただ残り5人を掌握できるかどうかは不透明だ。
しかしやるしかないのだろう。
皇王フェルディナンドは、自らの保身のため、どうすれば良いか、大きい体に備わった小さい脳で必死に考えていた。
サンディ「貰えるものは貰っておくさ~。金で釣れると思われているなんてこれほど楽なことはないな」




