【閑話】変わる皇都④〜サンディの暗躍
列歴98年 6月26日 23時15分 皇都セイト 4区(商業区)パオとリアナの私邸
円卓会議が開催される日の前日
日付が変わろうという時間だが、パオの私邸の1階の食堂には一風変わった面子が揃っていた。
この家の主人であるパオ・マルディーニ
そして今はまだ皇軍准将 アウレリオ・ブラン・ベラルディ
そして陸軍中将 サンディ・ネスターロの3人だ。
全員が軍服ではなく、私服で集まっていることもその集まりの異様さに拍車を掛けていた。
この3人は明日開催される円卓会議の流れと方向性、そして着地点を綿密に議論していた。
議論とは言うものの、パオとアウレリオが落としたい着地点に持っていくにはどうしたらいいかをサンディが形作っているのだが…
そして今日の夕方から始まったこの会合だが、大方の話し合いが終わり一同は安堵の息をついた。
「ふぃ〜!まぁこんなもんだろ〜後はなるようになれだ」
どかっとソファに座りながら天井を仰ぐサンディ
そんなサンディが作った会議の流れの資料をアウレリオは驚愕の目で読む。
「凄いな…1つに議題に対する我々以外の7人全員の反応の予想と対処法…それが3つの議題全てに…いつもこんなこと考えているのか?」
「性分なんだよ。分からないことはとことん突き詰めるってだけの話さ。それに彼らも知らない仲じゃない分読みやすいからまだ助かる」
「相変わらずとんでもないろんね。でもサンディがこちら側で助かったにー」
パオとアウレリオはサンディが皇妹派に部分的にではあるが協力的な事実に安堵を感じていた。
「帝国から帰ってくる1週間…リータ殿下と目一杯話させてもらった。その上でリータ殿下に与するのが俺の利になると判断したまでさ〜。アレスの旦那も帝国を滅ぼしたいわけじゃなく、インバジオンをどうしても取りたいだけだからな。そこはリータ殿下とも利害は一致している」
「本当にデルピエロ将軍のことを慕っているのだな…理由を聞いても?」
アウレリオは恐る恐る聞く。
アレスとサンディの蜜月は周知の事実だが、その理由を深く知るものは少ない。
しかしサンディは軽く答える。
「まぁ隠しているわけじゃないんだが、幼少期に命を救われたのさ」
「命の恩人っていうことかにー。サンサンの出身地はノースガルドって聞いたが本当かろん?」
「はっはっは。戸籍上はそうなっているが、本当でもあり、そうでもないな。ただサンディは確かにノースガルドで生まれたのさ」
「意味深な言い方だな…」
「どういうことかろん…」
「まぁそのことは今は関係がない。いずれ皇妹派に心から忠誠を尽くすことを決めた時に話そうか。今はただ皇都を取ることには協力する」
「それは百人力だ。サンディ程の知恵者がこちら側に着くだけで勝負は決まったようなものだ」
「いやそうでもないんだなぁ。それが」
「「!!??」」
サンディの弱気な発言にアウレリオとパオは驚く。
「どうした?政争などの搦手が中心な争いはサンディの十八番ではないのか?」
「俺がそういう搦手に長けているのはあくまで軍や市井のレベルの話だ。華族社会は全く別物だ」
「どういうことかにー?」
「華族社会の争いは、ほとんどが人脈で決まる。そしてその人脈の繋がりは外の人間には全くわからないのさ。表向きの人脈は調べればわかるが、本質は裏の人脈だ。裏の人脈を隠すことに関しては、皇都の華族より秀でている者はこの大陸にはいない。それはアウレリオが何より知っているだろう?」
「た、確かに…それに華族同士の約束など本人達が密室で口約束をしているから外に出ることなどほとんどないな…」
「そうだ。だからリータ殿下が皇都を牛耳るためには、皇都の華族を惹きつけなければならない」
「その初めの第一歩が軍の掌握だにー」
パオの一言にサンディは首肯する。
「そうだ。長年政争に無縁だった軍を掌握できれば、リータ殿下という人物に華族達は注目せざるを得ない。そこからが取り込み合戦の始まりだな」
「何にせよ、軍の掌握…王家十一人衆を味方にできるかと言うところが肝要だな…こればかりは私ではなくパオ少将にかかっている」
「まぁ長年嫌われ者の仮面を被っていたアウレリオが取り込むのは難しい。そもそももう下りるからなぁ。あくまで皇妹派を公言するパオ少将が円卓会議を主導することで、皇妹派の動きの強さを内外にアピールするしかない」
今まで政争に無縁の軍にあって、さらに無縁のパオが皇妹派であることを公言し、軍の団結を導くこと
それがパオに課せられた使命であった。
「これはオイラの仕事じゃもんね。シリュウっちばかりに負担を掛けてちゃダメろん」
パオは課せられた使命に対して並々ならぬ責任感を抱いていた。
現役の王家十一人衆であり、2年もの間その勤めを果たしてきたパオだからこそ王家十一人衆を取り込むことができるのだと、この場にいる3人は考えていた。
そして再び資料に目を向けるサンディ
「何にせよ、明日の議案で最大の難関は最初の議案だ。旦那が般若の顔で怒り狂うのが目に見えてる」
サンディは苦笑いしながら言う。
「しかし会議の流れでは最初に出すのが一番通りそうなのだろう?」
「まぁそうだな。最初さえ乗り切れればな。おれも影ながら援護する」
「頼むにー」
そして3人は資料の記載されている3つの議案に目を落とす。
1.帝国への侵攻作戦を中止にする。
2.アウレリオ・ブラン・ベラルディを王家十一人衆から解職し、後任にシリュウ・ドラゴスピアを推挙する。
3.大総督 マンリオ・リッピを解職し、後任については王家十一人衆に一任する。
「この3つ目…これこそ華族に対する挑戦状だな」
アウレリオは苦笑しながら言う。
「大総督…名ばかりの役職だが、実権は微かにある。代々大華族から選ばれることもあって華族が軍を従えていると名目上見せかける楔のような役職だな」
「その慣例を皇妹派であるオイラの発議でぶっ壊す…」
「そうさ。これ以上ない皇王派への挑戦状だろう?はっはっは!」
サンディは陽気に笑うが、やろうとしていることは尋常ではない。
しかしやるしかないのだ。
リータを王にする細い細い勝ち筋を辿るために。
3人は明日の会議の行く末を慮るように、自分たちで作成した資料をいつまでも眺めていた。
リアナ「私は途中で就寝しました。夜更かしはお肌に良くないもの」




