【閑話】変わる皇都②〜パオの提案
列歴98年 6月27日 皇都セイト 1区(皇区)皇宮 円卓の間
おおよそ二月振りにこの円卓の間には皇国軍の最高幹部である『王家十一人衆』が一堂に会した。
この皇宮にある円卓の間にて、着座しているのは10人と書記係が数名
皇軍大将 『金剛』 ルイジ・ブッフォン
皇軍中将 『蒼の剣聖』ファビオ・ナバロ
皇軍少将 『氷の智将』レア・ピンロ
皇軍准将 『不壊の盾』アウレリオ・ブラン・ベラルディ
陸軍大将 『獣王』 アレス・デルピエロ
陸軍中将 『鬼謀』 サンディ・ネスターロ
陸軍少将 『泰山』 マリオ・バロテイ
海軍大将 『双嵐』 ゾエ・ブロッタ
海軍中将 『狐火』 フランシス・トティ
海軍少将 『海の迅雷』パオ・マルディーニ
皇国軍の最高戦力もとい最高権力者達が一堂に会していた。
そしてこの会議は以前より予定されたものではなく、とある将軍の発議により、臨時に緊急に召集されたものである。
この会議を召集された経緯を知るものはほとんどおらず、集まった将軍達は、発議をかけた将軍の開会宣言を固唾を呑んで待っていた。
「昨日召集をかけたにもかかわらず集まってくれて感謝するろん。これより円卓会議の開催を宣言する」
発議者 パオ・マルディーニ海軍少将は、起立し一同に礼をして、開会宣言をした。
「いやはや、いつも会議では他人事のようなパオ少将が発議人なんて珍しいこともあるもんだなぁ」
陽気に笑いながらこの会議を珍しがるサンディ
「ほんとですよ…それに賛同者がアウレリオ准将にマリオ少将ってますます変です…あなた達…何の繋がりで…?」
レアは発議人と名を連ねたアウレリオとマリオを見ながら不思議がる。
円卓会議は発議者1人では開催できない。
別の軍から各1人以上の賛同者が必要なのだ。
パオは皇軍からアウレリオ、陸軍からマリオの賛同を得てこの会議を招集したのだ。
レアに視線を向けられたマリオはいつものようにおっとりとした感じで答えた。
「おいらはパオに頼まれて賛同しただよぉ。詳しい中身は知らないぞぉ?でもめったにないパオの頼みだからなぁ」
マリオはパオと同年代で、同じような時期に将軍になった。
更に円卓会議の際には、蚊帳の外になることが多い2人は不思議と馬が合い、私的に会食をする仲でもあるのだ。
「はぁ…まぁあなた達は仲が良いからわかりますが…アウレリオ准将はまたなぜ?」
レアはアウレリオ准将に問いかけた。
この会議でいつもと一番違うことはアウレリオの雰囲気だ。
いつもは剣呑として、隙あらば議題に噛み付くような狂犬のように振る舞っていたが、今は腕を組み、落ち着いて着座している。
「それは今は良いだろう。パオ少将、始めてくれ」
「ういっさ」
レアの質問を躱し、パオに進行を促す。
いくら1月も共に遠征に行った仲とは言え、アウレリオとパオの間に不思議な連帯感が生まれていることを他の将軍達は不思議に思っていた。
「まず、始めに。書記官、兵士に、パオ・マルディーニの名を持って命ず。この部屋より退室せよ」
「「「「!!!???」」」」
いきなりの退室命令
それはこの会議は、腹を割って話すというパオの決意表明でもあった。
そしてそそくさと退室する書記官達
あまりにも異質な会議の始まりに、陸軍大将のアレスは吹き出してしまう。
「ぶはははは!おめぇ、面白えなぁ…そこまでして話し合う議題…期待させてもらうぜ?」
「にー。ご期待に沿える分からないろんよ」
「……パオ…一体何を?」
普段は議論に加わることもないファビオも訝しんでいる。
そんな混沌としそうな会議を皇軍大将ルイジと海軍大将ゾエ、海軍中将のフランシスは黙って見守っている。
「そもそも海軍の上司さんは中身を知っているのかい?」
サンディはゾエとフランシスに問う。
「そんなの知らないさね」
あまりにもあっけらかんと答えるゾエに一同は驚く。
そしてフランシスが補足した。
「パオは…遠征の褒美に何が欲しいか聞いたら…この会議の開催を所望した…そして賛成まではいらないと…僕たちもここで初めてパオの話を聞くんだ」
「そうかいそうかい。じゃあ話してもらおうか、パオ少将」
「ういっさ。オイラが提案する議案は3つある。まずは一つ目…」
そうしてパオは一同を見渡し決意を込めた目で言う。
「帝国への侵攻作戦、これを一旦白紙にする」
「「「!!!???」」」
あまりに予想外な提案にアウレリオとサンディを除く全員が立ち上がって驚いた。
そしてすぐさま侵攻賛成派の旗頭であるアレスが噛み付く。
「ふざけんな!そもそもシリュウ・ドラゴスピアをお前達海軍に譲る代わりに帝国への侵攻作戦に賛同したんだろうが!筋が通らねぇぞ!」
アレスが怒号をパオに飛ばす。
しかしパオは一切引かない目をしている。
そんなパオを見てサンディがアレスを宥める。
「まぁまぁ、旦那落ち着きなって。帝国に攻めないってわけじゃないだろう?一旦と言っているじゃないか」
「一旦…?」
アレスはサンディに聞き返す。
そしてパオが続きを話す。
「その通りじゃもん。帝国を…ヴィルヘルムを打倒する方針には異議はない。ただ今は外に目を向けている場合じゃない」
「「「「!?」」」」
パオの口からまた予想外の言葉が出て再度驚く一同
「……テメェ…政争に軍を巻き込む気か?」
アレスはパオが皇王派と皇妹派の争いに飛び込むことをその一言で察知した。
「違うろん。巻き込むんじゃない。もうオイラ達は当事者なのさ」
「はっ!?」
政争とは無縁だったパオから当事者という言葉まで出た。
「そのことは後で話すろん。帝国への侵攻の中止、賛成する人は起立をお願いする」
パオが採決を取る。
そして意外な人物が最初に起立する。
「パオ少将の議案に賛成する」
「ア、アウレリオ…!?」
「貴様…どういう風の吹き回しだ…?」
「これはこれは…予想外だ…」
一早いアウレリオの賛成に驚く皇軍の面々
それに対してアウレリオは涼しい顔で答える。
「パオ少将の言うことに利はある。デルピエロ将軍のお怒りも最もだが王国、帝国を見てきた我々は帝国の侵攻よりも優先すべきことを見つけたまでのこと。この前とは世界情勢が違うのだ」
アウレリオの毅然とした反論に唖然となる一同
そんなアウレリオを揶揄うのはサンディ
「ひゅ〜世界を見てきた男の言うことは違うねぇ」
「何とでも言うがいい。それで?他の面々は?」
アウレリオは他の将軍に採決を促す。
「と、当然私達は元々侵攻には反対の立場です!賛成します!」
「……戦に行けぬのは残念だが、俺も賛成する」
「無論、私も賛成だ」
レア、ファビオ、ルイジの皇軍の将軍達も起立する。
これでパオ含めて5人の賛同者が出た。
後1人でこの案は、可決される。
「パオの言うことには賛成したいが、シリュウの件もあるからねぇ。確かに筋違いだ、私は賛成しかねるさね」
ゾエは賛成しないようだ。
そしてフランシスは…
「まぁ…こういう悪役は僕が引き受けよう…僕は賛成するよ」
そしてフランシスは起立する。
これで6人
過半数を超えた。
「パオ!フランシス!ふざけるんじゃねぇぞ!テメェらそんな義にもとることをしていいと思ってんのか!」
帝国への侵攻作戦の中止
その賛成が過半数を超えたことで、この案は可決される。
アレスは裏切り者のパオとフランシスに罵声を浴びせる。
しかしパオは引かない。
そしてまだ話を続ける。
「まだ話は終わってないにー。オイラの今日の議題は全員一致を求める。それ以外なら廃案さ」
「「「「!!!!????」」」」
またしてもパオから驚くべき言葉が出た。
通例なら過半数で採決される円卓会議に全員一致を求める。
その意味に皇軍大将のルイジが誰よりも早く気づく。
「そう言うことか……パオ君…君は本気なんだな」
「おい、どういうことだ?ルイジ、説明しやがれ」
「パオ君は、帝国への侵攻中止が本丸ではないということだ。おそらく『王家十一人衆は一致団結している』ことを突きつけたいのだろう」
「はぁ?突きつけるって誰にだ?」
「円卓会議の結果を突きつける相手は1人しかいないだろう?」
「……は!?…パオ…テメェ…まさか!?」
ルイジの言葉に目を見開くアレス
円卓会議の会議の突きつける相手は皇王ただひとりである。
しかしパオはあえて濁して進める。
「にー。そこから先は想像に任せるろん。是非とも陸軍にも協力して欲しい。それにいざインバジオンを攻める時が来ればオイラも参戦することをここで誓うよ」
「「「!?」」」
パオの参戦宣言に一同は目を見開く。
しかしアレスはすぐに反応する。
「……ほぉ!悪くねぇな!パオ程の戦力を当てにできるのはデカいぜ!」
パオの衝撃の提案に喜色を浮かべるアレス
反対にゾエは厳しい顔になる。
「ちょっ!何言ってるさね!パオ!勝手なこと言うもんじゃないさね!」
軍の上司としては当然の意見
しかしパオは止まらない
「オイラは誓うよ。ゾエ大将が止めたって約束を果たす。海軍を辞めてでも」
「はぁ!?何言ってるさね!?」
あまりのパオの強硬さにゾエは素っ頓狂な声を上げる。
「ぶはははは!そりゃあいい!うちはいつでも歓迎するぜ!」
「ちっ…パオに辞められるくらいなら行かせた方がマシさね…でどうするんだい?陸軍は」
ゾエは陸軍の面々に採決を迫る。
ゾエはあくまで陸軍との約束の義を通すためにパオの議案に反対しているだけで、陸軍さえ賛成すれば、自分も意見を変えるつもりだ。
「俺はありだな。旦那、ここは一旦パオ少将の案を飲もう。俺も帝国の情勢が激変してるから、情報を整理したい」
「おいらもパオの意見はいいと思うぞぉ。ただ旦那に任せるよぉ」
「まぁ…テメェらがいいなら俺が反対する理由もないな。いいぜ…パオ、テメェの案に乗ってやる!」
その一言を皮切りに陸軍の3人が起立する。
そして1人残ったゾエも起立した。
「今ここに『帝国への侵攻作戦を中止する』ことを全員一致で可決とする。ご理解、感謝する」
パオの一言で最初の議案が締められた。
そして一同が着席し、会議は次の議案に移る。
「さて、2つ目の議案は…」
パオが議題を言おうとすると、アウレリオが制した。
「その議案は私から言おう」
その様子に他の面々は小さく驚くが、進行を妨げることはしない。
そしてアウレリオから驚くべき議案が出された。
「次の議案は、『王家十一人衆からアウレリオ・ブラン・ベラルディを外し、代わりにシリュウ・ドラゴスピア准将を推挙する』ものだ」




