【閑話】変わる皇都①〜アウレリオの独立
列歴98年 6月27日 皇都セイト 1区(皇区)皇宮 謁見の間
帝国から帰国して早2日
私は皇王から褒美を戴く茶番に参加している。
私は皇王の前に跪き、文官が私の功績を長ったらしく朗読している。
こんなこと早く終わらせて欲しいが、必要な茶番のため我慢している。
今回の遠征の功績を持って、私がかねてより皇王に志望している私を当主とする新たな華族家の立ち上げを認めてもらうのだ。
これで私はベラルディの家から合法的に独立することができる。
そして華族家を立ち上げた後はリタの傘下に入ることを公言し、名実ともに皇王とベラルディと袂を分つ。
20年近く夢見ていたことが現実になろうとしていた。
しかし私にあるのは達成感ではなく、使命感
昔の私ならここが終着点であっただろうが、今は違う。
むしろここからが出発点なのだ。
リタと共に皇都を、皇国を変える。
私のように華族の私利私欲に人生を左右される者を生んではならない。
私は華族が大嫌いだ。
生まれだけ高貴で、華族としての義務も満足に果たさない。
下々の民から搾取することしか考えぬ家畜より劣る存在
そんな華族を嫌と言うほど見てきた。
そして何より彼らには自覚がないのだ。
人を虐げている、搾取しているという感覚がない。
だから彼らの更生などに期待するのは無理というもの
リタは華族制度をぶっ壊さないと彼らの意識は変わらないと断言するがその通り
私としては華族制度をぶっ壊したとしても彼らは自らの悲運を嘆くだけで省みることはしないと思うが…
そんな風に哀れな華族達のことを考えているとどうやら文官の長ったらしい朗読が終わりそうだ。
「以上の功績をもって、アウレリオ・ブラン・ベラルディに新たな華族を立ち上げる権利を偉大なる皇王様より下賜するものとする!」
「ありがたき幸せ!」
そして皇王は玉座から徐に立ち上がり、手を大きく広げる。
「ほっほ、今ここに新たな英雄の誕生を祝おうぞ!」
その一言を皮切りにこの謁見の間に集まった文官と華族達から万雷の拍手を送られる。
ここに集まった華族達はベラルディ公爵の呼びかけで召集された野次馬だ。
ベラルディ公爵が私の功績を自らの功績のように見せ、見栄を張るためだけに集められた哀れな群衆なのだ。
こういうところも嫌気がさす。
そして拍手がひとしきり落ち着いたところで皇王から私に問いかけがあった。
「して…新たな華族家の名は決めておるのか?」
政庁にはすでに届出をしているが、この皇王はそんな細かいところまでは知らされていないらしい。
「はっ!すでに政庁へと届出ております」
「ほう?何というのか?」
そして私は答える。
これがあなたと袂を分かつ時
「はっ!セレノガードと申します!」
「!?」
私の回答に目を見開く皇王、そしてベラルディ公爵
セレノガード
その意味はこの国の言葉で『晴天の守護者』
まるで『太陽の皇女』の異名を持つリータ・ブラン・リアビティの騎士であるかのような名前だ。
「そ、そうか。由来を聞いても良いか?」
冷や汗を掻きながら私にさらに問う皇王
「もちろんでございます。私の母は空を愛しておりまして、私もそうでございます。この皇国の未来を照らすような快晴を私の矮小な身なれど守る決意を表してそう名乗ることとしました」
私の回答に杞憂だったかと安堵の表情を見せる皇王とベラルディ公爵
馬鹿め
気づけ
「良い由来じゃ!してお主はそろそろ妻の一人でも迎える頃じゃろう?これを機にどうじゃ?余が仲介してやろう」
気を良くした皇王は私に縁談を勧める。
皇王が華族に対して縁談を勧めるなど、『私の決めた相手と結婚せよ』との命令に等しい。
以前の私ならこうなれば抵抗もできなかっただろう。
でも今は違う。
私はアウレリオ・セレノガード
皇王の忠実なる僕のベラルディ公爵とは何の関係もない個人だ。
「大変光栄な話…私にはもったいないと存じまする。ひとえにご遠慮させていただきたく」
「「「!?」」」
流石に謁見の間が騒つく。
それもそうだ。
今まで皇王の親衛隊長でなおかつ最側近のベラルディの一族が皇王からの縁談を断ったのだ。
華族社会ではあり得ない光景だ。
今この瞬間に私は皇王の懐刀という仮面を外したのだ。
流石に皇王とベラルディ公爵も気付いたようだ。
ベラルディ公爵は下唇を噛みちぎらんばかりに怒りで震えている。
皇王はこういうところはさすがと言うところか、表情を崩していない。
「まぁ、そう言うでない。悪いようにはしないせぬ」
それでも私の首に嵌めた首輪を外したくない皇王はまだ諦めない。
しかし私の腹は決まっている。
「ありがたき幸せ、しかし私は妻に迎えると決めた女性がいます。お気持ちだけいただいておきます」
「「「!?」」」
再びどよめく謁見の間
この茶番が終われば、私のことが皇都中に出回る。
明日にでも私は親衛隊長の職を解職され、皇軍准将の地位もなくなるのだろう。
それでも今日だけはその役は降りられない。
この後すぐには臨時の『円卓会議』がある。
それまでは私は皇家十一人衆としての責務を果たすとしよう。




