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第5話 豪胆な施工主

列歴98年 6月27日 13時24分 皇都セイト 2区(華族区)某所


トスカとブルーノを雇うことに成功した僕らは、昼食を取り、今後のドラゴスピア家の準備について話し合った。


そして兎にも角にも屋敷の確保が最優先ということで、屋敷を確保すべく不動産屋に行こうとしたのだが、ブルーノから「屋敷については当てがございます。もしご都合よろしければこの住所の所に行ってみては?」

と言われたので、早速ブルーノからもらったメモを頼りに目的の場所へビーチェとトスカと共に徒歩で向かっていた。


「なんだろうね?この場所」


僕とビーチェは皇都の地理に明るいトスカの案内で目的の場所へ歩いて向かっていた。


「この住所は華族区の北西ですね…それに皇区とも隣接している場所…こんなところに屋敷なんてあったかなぁ?」


トスカは訝しみながらも迷いなく僕達を目的の住所に案内してくれた。


結構歩いたところで目的の場所に着いたようだが、なんといえばいいのか…



「おい!こっちにもっと土回せ!」

「ここの木材はあっちの建物だ!運んでくれ!」

「あっちで人が倒れた!誰か日陰に運んでやれ!」



広大な平地に街を作っているかのように多数の大工や魔術師達が建物をもの凄い勢いで建築している。


その熱気はさながらお祭りのようで、ところどころで怒号にも近い指示が飛び交っている。


「なんなんだここは…」


「街を作っている…?いやそれにしては建物の一つ一つがやけに大きいのじゃ。まるで華族の屋敷のよう…」


「それに向こう側の土地は明らかに皇区ですよぅ…誰ですかぁ…皇王様の土地にこんな建物を乱立してる人は…」


ビーチェは周りを見ながらこの場所の正体を推理している。


トスカはこの事業があまりにも不遜なことに恐れ慄いている。


しかしそんな不届者には僕達は心当たりがあった。



「……トスカの発言で大体わかったよ…施工主がね…」


「なるほどのう…相変わらず豪胆な方じゃ。かっかっか!」


「えっ?えっ?どういうことですか!?私にも教えてください!」


トスカはビーチェの袖を引っ張って、答えを教えるよう促す。


「あら?シリュウちゃんにベアトちゃんじゃない?」


しかしその施工主自体が現れたため、答え合わせはすぐにできた。


「どうも、やっぱりリタさんでしたか」


「ご機嫌麗しゅう、リータ殿下」


「えっ…リ、リータ殿下…!?」



建築される建物を眺めている僕らに声をかけてきたのは施工主 リータ・ブラン・リアビティことリタさん


僕達の主君であり、現皇王の妹にして皇位継承順位第1位の高貴なお方だ。


「あらあら、わざわざきてくれて呼ぶ手間が省けたじゃないの。それにそちらのお嬢さんは初めましてね」


「は、初めまして!カッリスト・ルイーゼ男爵の娘、トスカ・ルイーゼと申します!」


「丁寧にありがとう。リータ・ブラン・リアビティよ。シリュウちゃんとベアトちゃんは私の子みたいなものだから仲良くしてあげてね?」


「は、はいぃ!」


緊張した声で答えるトスカ


「リタさん、トスカはドラゴスピア家の会計役なんだよ。僕達の仲間さ」


「へぇ!シリュウちゃんと年も変わらなさそうだけど、優秀なのね。なら…」


「当然、皇妹派であることも話しておりまする」


「それは重畳。トスカ、あなたも私に力を貸してくれるかしら?」


そう言ってリタさんはトスカの両の手を優しく包み込んだ。


「も、もちろんでございます!トスカ・ルイーゼ、リータ殿下、シリュウ様、ベアトリーチェ様のために粉骨砕身の覚悟で臨みます!」


そんなに強張った顔で言わなくても…


「緩くでいいんだよ。緩くで。トスカも学園生活あるだろうしね」


「まぁ…そこは適度に頑張ります!」


両の手の拳を握り、やる気満々に答えるトスカ


「ふふ、若者の友情って眩しいわねぇ」


リタさんが遠い目をしながら言う。


「年寄りみたいなこと言わないでくださいよ。それで呼ぶ手間が省けたって?」


「そうそう。ここに私達の街を作るのよ」


「街?私達?」


僕が頭に疑問符を浮かべていると、ビーチェが答えた。


「なるほど、皇妹派の華族達をここに住まわせるのですね」


「「え!?」」


僕とトスカは驚くが、リタさんは笑顔で答える。


「その通り!ここに皇妹派の華族達を集めて、私の勢力の大きさを可視化するのよ。そして皇王に圧をかけるの」


なんとまぁ…圧をかける手段の規模が大きすぎる。


というかこのことをブルーノはよく知ってたね。


さすが皇都華族から引っ張りだこの敏腕執事というところか


皇都の事情にかなり詳しい。


それにしてもあまりにも大きな建物が乱立されているので、その費用を考えるだけでも恐ろしい。


「これだけの建物の建築費用は…?」


僕が恐る恐る聞くと予想通りの答えが帰ってきた。


「そんなの全部メディチ公爵に払わせるに決まってるじゃない」


ですよねー


哀れねメディチ公爵…合掌


「ではここにドラゴスピア家の屋敷をせがんでもよろしいのですか?」


ビーチェは悪い顔をしながら言う。


それに対してリタさんはあっけらかんと答える。


「もちろんよ。むしろシリュウちゃんのために土地を空けているの。ほら、あそこよ」


そしてリタさんは一際大きな建物が建築されている場所の隣にぽっかりと空いている土地を指差す。


「………あの一際大きな建物は…?」


僕はまたおそるおそる聞く。


「私とルナの屋敷よ」


えぇ…皇妹殿下御殿の隣ですかぁ?


僕は頭を抱える。


ビーチェも苦笑いだ。


トスカは胃を抑えている。


「まぁまぁ。これにはちゃんと合理的な理由があるのよ」


「合理的な理由?」


「そうよ。私の屋敷って政争が激しくなれば暗殺とか襲撃されるかもしれないじゃない?」


「確かに…こちらに有利になれば相手の方は手段を選ばなくなる可能性はありますのう…」


「そういう時に、皇国一の武術師が隣に住んでいたらどうかしら?」


なるほど


抑止力か


「確かにリタさんに何かあった時隣に住んでいれば、すぐに駆けつけられるか…」


「そうそう!合理的な理由でしょう?」


「して本音は?リータ殿下」


「シリュウちゃん達と毎晩ご飯食べたい」


「本音漏れてる漏れてる!」


「はっ!見事な誘導な…さすがベアトちゃん…」


あまりにもちょろいリタさんに非があると思うが…


「まぁ何にせよ屋敷をどこに建てるか迷わなくてすむしいいんじゃない?」


「そうじゃな。リータ殿下、土地代と建築費用は?」


「他の華族からは取るけど、シリュウちゃんから取るわけないじゃない。タダよ。それも貸与じゃなくて土地の所有権ごと譲渡するわ」


「ブッ!」


リタさんの発言にトスカが吹き出した。


「ど、どうしたの?トスカ」


「ど、どうしたも何も…リータ殿下のお家のお隣であの広さを土地・建物ごと譲渡……概算でも金貨30万枚はくだらない価値がありますよう…」


「ぎょっ!?そ、そんなに!?」


根っからの庶民の僕はトスカの概算に目が飛び出た。


「へぇ…シリュウちゃんが連れてきたからどんな子かと思えば優秀ね。瞬時にこんな特殊な土地の相場を見抜くなんて」


リタさんはトスカの優秀さに感心していた。


「きょ、恐縮です!」


「ふふふ、こんな優秀な子がシリュウちゃんの家の会計役なのね。安心したわ。じゃあ間取りを決めましょうか?専門の設計士を呼ぶから好きに決めてちょうだい。設計してから1週間ぐらいで建つと思うわ」


「早すぎません?」


僕は即座に突っ込む。


「やけに魔術師が多いと思っておるのですが…」


ビーチェはそう疑問を呈した。


確かにやたらと魔術師が多い気がするが…


「ああ、これはポアンカレの魔術師達よ」


「「は!?」」


なんでこんな所にポアンカレの魔術師が?


「パオ少将と一緒に皇国まで来ちゃったらしいわ。曰く『パオ少将の普段の生活を研究するのだ!』だそうよ。ついでに皇都での滞在費用を私(メディチ公爵家)が持つ代わりに、この建築事業を支援してもらってるのよ」


「うーむ、やはり成すこと全てが規格外ですのう…大陸広しと言えどもポアンカレの魔術師を大工代わりにするなどリータ殿下しかおりますまい」


「使えるものは使わなくちゃ!」


そう言って胸を張るリタさんは、どこか楽しげだった。


ついに皇妹派の反撃が始まる。


この場所はその本拠地なのだ。


「ここに住むことが確定しているのはメディチ家とアンブロジーニ家にそしてサルトリオ家、後はそこの傘下がどれだけここへの移住を希望するかによるわね。軍はとりあえずシリュウちゃんは確定、パオ少将にも声はかけるわ。あとはリオが独立できたら屋敷を用意しなくちゃ」


そう語るリタさんは建築されていく建物を真剣な眼差しで見つめていた。



その目線が捉えるのは建物だけでなく、皇国の未来であることを僕とビーチェはリタさんの顔つきから感じた。





トスカ「えっ?会計役の私もここに住むの?」


シリュウ「今の家と比べて学園から遠くなる?」


トスカ「むしろめちゃくちゃ近くなってるのですよぉ!!」



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