第4話 ドラゴスピア家の幹部
列歴98年 6月27日 皇都セイト 2区(華族区)サザンガルド家セイト政務所 応接室
「その…アポイントメントは取っていないそうなのですが、ドラゴスピア家の使用人として雇って欲しいとおっしゃっている方がいて…」
メイドのシュリットが少し困ったように言う。
その様子を不思議に思ったビーチェがシュリットに聞く。
「ん〜?そんな来客普通なら門前払いじゃろう?妾達に報告に来たのはただの来客ではないということかや?」
「そうなんです…ハリーさんにも確認したら応接室にお通しせよとの指示がありました」
この政務所の責任者のハリーさんがわざわざ僕達がいる応接室に通すように指示した?
「ただものじゃない?それとも使用人達で断るには高貴な方なのかな?」
僕は考え込むが、トスカが僕達に進言をする。
「何にせよ、会ってみては?その方が話は早そうです」
確かにトスカの言う通りだ。
ここで議論してても話は進まない。
「その通りだね。シュリット、お通しして」
「はい!」
そうしてシュリットは来客を案内するため部屋を出た。
そして再び戻ってくると、そこには…
「突然の来訪失礼します。シリュウ・ドラゴスピア将軍とその奥方様にご挨拶申し上げます」
モノクルを付けているいかにもできる執事と言わんばかりの風貌のこの人…
「ブ、ブルーノさん!?ブッフォン将軍の執事の!」
「お久しぶりでございます。二月程前にお会いした以来ですが、ご活躍は聞き及んでおります」
この人は僕が皇都に来て間もない頃にブッフォン将軍から皇軍に勧誘された際に案内してくれた執事の方だ。
凄くできる執事の風貌と皇都華族の政略結婚に苦言を呈していたことが印象的だった。
「まさか…ブルーノ氏がドラゴスピア家の使用人に応募されるつもりかや?」
ビーチェはおそるおそる聞く。
「はい。ご帰国なされたらお会いに来ると決めておりました。ぜひ私をドラゴスピア家の末席に加えていただきたく参上しました」
唐突な展開だが、家令問題が解決するのでは?
僕がそう思っていると、トスカが青い顔をしている。
トスカは好きだね、その顔
「ひえぇ…皇都華族に引っ張りだこのブルーノ氏と共にお仕事…?…ダメ…胃が痛い…」
「そ、そんなに?どうして?」
僕がトスカに聞くと、いつのまにか応接室にいたこの政務所の責任者のハリーさんが代わりに答えた。
「私が代わりにお答えしましょう。ブルーノ氏は皇都ではそれは優秀な執事と名高いのです。様々な華族がブルーノ氏を雇い入れようと画策しましたが、長年ルイジ・ブッフォン将軍のお家にてご活躍なされておりました。なのでブルーノ氏が他家に移籍するだけでも皇都の一大事なのですが、いやはやまさかドラゴスピア家に志願とは…驚きを禁じ得ません」
やっぱり凄い人なんだね…
「恐縮でございます。私はただ幼き頃にお館様に拾っていただいた恩を返しているだけでございますゆえ、大したことはしておりません」
落ち着いた雰囲気で答えるブルーノさん
「でもそんなブルーノさんがなんでわざわざうちに?ブッフォン家を辞めることになるんでしょ?」
僕はブルーノさんに直球で質問した。
「はい。まずブッフォン家の家令を後進に譲りたく思いました。いつまでも私のような老害が居座っていてもブッフォン家のためにはなりません。幸い優秀な執事達もいますので、その者たちにブッフォン家のことを任せたいのです」
なるほど
ブッフォン家の世代交代のために自ら身を引くのね
「しかしながら私もまだ妻と子を2人養う立場でございます。再就職先を探していたところ、シリュウ准将が新たに屋敷を構えると噂を聞きました。初めてお会いした時から勝手ながらシリュウ准将に英雄の影を見ていました。今回の遠征のご活躍でそれが確信に変わりました。若き英雄の支えになり、この年でございますが、新たな挑戦をしたいと思っております」
英雄なんて照れるなぁ……ん?挑戦?
ブルーノさんのその言いように少し引っかかりを覚える。
ビーチェはブルーノさんの発言の意図を汲み取ったようだ。
「挑戦……なるほど…ドラゴスピア家がどのような家かご存知かや?」
「もちろんでございます。国を変えるのでしょう?」
「!?」
ブルーノさんの断定に僕は驚く。
ブルーノさんは僕達がリタさんを担ぎ上げ、この国の王にしようとしてることを知っているのだ。
「いやはや…これが皇都華族から引っ張りだこのブルーノ氏かや…流石の情報網じゃのう」
ビーチェはブルーノさんのあまりの情報通に感嘆している。
「そんなことはございません。たまたま遠征に行った者の中に知り合いが居ただけのこと…」
「その知り合いからの話ぶりだけで、妾達のしようとしていることに行き着いておる慧眼をも褒めておるのじゃよ」
「大したことではございません」
えぇ…この人めっちゃ凄いじゃん
あの使節団の中に知り合いがいることの顔の広さもそうだけど伝聞だけで真実に行き着く聡明さも凄い。
新興の家であるドラゴスピア家をまとめるのにうってつけの人材じゃないか!
「して、旦那様よ?もう答えは出ておるじゃろうが…」
ビーチェは僕を横目に見ながら言う。
当然、答えは一つ
「歓迎するよ、ブルーノさん。あなたをドラゴスピア家の家令として迎え入れる」
「私が家令でよろしいので?」
「もちろん。華族社会においては経験不足な僕達を導いて欲しい」
「畏まりました。謹んでその役拝命させていただきます」
ブルーノさんは見事なお辞儀で、僕らに答えた。
「よし、ついでだ。シュリット、リナさんを呼んできて。そのあとはシュリットもここに残って」
「かしこまりました!すぐ呼んできます!」
そしてシュリットは現状唯一のドラゴスピア家の騎士であるリナさんを応接室に呼んできた。
ここには僕とビーチェ、トスカにブルーノさん、シュリットにリナさんと新生ドラゴスピア家の人が揃っている。
「改めて、今ここにいる人がドラゴスピア家の中心だ。家をまとめる家令はブルーノさん、家計を預かる会計役はトスカ、護衛騎士団長はリナさん、メイド長にシュリットをそれぞれ任命する」
「畏まりました」
「はい!」
「……承知」
「はい!…ってえええ!」
シュリットは驚き叫んでいる。
「どうしたの?シュリット」
「どうしたもこうしたも私がメイド長!?」
「シュリットしかいないじゃないか。あぁ、他のメイドはこれから雇うからブルーノさんとトスカと相談しながら採用してね」
「シュリットならできるじゃろうて、頼りにしておるぞ」
「ひょえええ…」
シュリットはメイド長に任命された荷の重さでへたり込んでしまった。
そんなシュリットに近づき、優しく肩に手を当てるトスカ
「シュリットさん…あなたの気持ち…痛いほどわかります…!」
「ト、トスカ様…!」
トスカとシュリットに謎の連帯感が生まれている。
同い年だし仲良くして欲しいね。
「まぁそんなことでこれからよろしくね。新生ドラゴスピア家の幕開けだ!」
「「「「おー!」」」」
僕達は手を掲げて、声を上げる。
ここから僕達は皇都の華族社会に飛び込んで行くことになるのであった。
トスカ「あの人達は本当に突然この身にあまることをしてきて心臓に悪いのです…」
シュリット「わかります!この間も…」
ビーチェ「妾達の愚痴で盛り上がっておるのう………」




