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第28話 ノースガルドに至る道③~サルトリオ侯爵の禁じ手

烈歴98年6月15日  17時38分 シュバルツ帝国 アインス州 カッセル丘陵


正午に帝都シュバルツスタットを出た外交使節団一行こと凱旋軍(凱旋軍と呼称することにした)は、ラインハルトの森手前の丘陵地帯にて、野営の準備をしていた。


初日の行軍としては上々の戦果で、ラインハルトの森を抜ければ、険しい地形とラインハルト領に入ることから追手から追撃される危険性はグッと下がる。


しかしラインハルトの森は魔獣が多く住み着いている危険な領域であるため、明日早朝に出発し、火が明るいうちに森を抜ける算段だ。


今は兵士達と文官達が協力して野営の準備をしており、リタさん、アウレリオ准将、ヒルデガルド、僕とビーチェ、そしてパオっちの第一特務部隊の隊長代理のジーノ・フェスタ大尉と僕の第二特務部隊の隊長代理のダニエル・ロッシ中尉、そして外交使節団の長であるサルトリオ侯爵が円を囲むようにして明日の行軍について話し合いをしている。


この8人がこの凱旋軍の幹部であり、行軍を止める度に8人で集まって話し合いの場を持つことを僕たちは取り決めしていた。


今は今日の総括と明日の予定についての確認だ。


「今日はここまで来れたけど、どう?ヒルちゃん」


リタさんが今日の行軍について、先導していたヒルデガルドに感触を聞いた。


「……そうね……思っていたより、文官達の脚が速いわ……今も野営の準備を兵士達と率先して行っている……彼らの士気が高いから全体的な行軍の速度も想像以上よ……」


ヒルデガルドが感嘆したように言う。


「日中も彼らは極力馬車を使用せず歩いていたからな。女性文官や使用人達を優先して乗車させていたよ」


アウレリオ准将も彼らも日中の奮闘ぶりを伝える。


「それは良かった。禁じ手を使った甲斐があったよ」


ん?サルトリオ侯爵が禁じ手を使った?


何だろう?


「ライモンド…まさか……!」


リタさんが驚いた顔をしている。


その一連の流れでビーチェがサルトリオ侯爵の禁じ手を察したようだ。


「なるほど……()()()()()()()()()?」


明かされたって…ことは…


「その通り。私が皇王派ではなく、実はリータ殿下に忠誠を誓う忠実なしもべであることを使節団の皆に公表したのさ」


「「「「なっ!?」」」」


驚く面々


ただ僕とアウレリオ准将の驚きとジーノ大尉とダニエル中尉の驚きは別の種類の驚きだ。


僕とアウレリオ准将は、その秘密を明かしたことによるもの


ジーノ大尉とダニエル中尉は、サルトリオ侯爵が実は皇妹派であることによるもの


何も知らない2人にとってはサルトリオ侯爵は皇王の忠臣だからね。



「幸い私を慕う部下が多かったからね。反発は全くなかったよ。リータ殿下に懐疑的な者も少しはいたが、それも私が説得できた」


だから文官達は一致団結して、行軍に臨めているのか。


リータ殿下は信じられないが、サルトリオ侯爵なら信じる者がこの行軍に前向きになっているのだ。


であれば、この行軍で前を向いていない者は皆無だろう。


「……あなたが良いならそれでいいけど…もう後には戻れないわよ?」


「問題ない。いずれはどこかで明かさねばならぬこと。なら死地にいるここが一番の明かしどころだろう?」


「…まぁ…いいわ。帰ってからも頼むわよ」


「イエス、マム」


そのやり取りを見て、僕は皇国に帰還してからもリタさんとサルトリオ侯爵はやることが山積してそうだと感じた。


それ以上に恐れ戦いているのがジーノ大尉とダニエル中尉だ。


「……いやはや…この場にいるのが場違いと感じてはいるのですが、流石にそのようなお話も耳にするとは…」


笑顔ではあるが、顔を引き攣らせているジーノ大尉


「…わ、私ごときに……この場に入る資格は…お腹痛い…」


青い顔をしながら胃の辺りを抑えるダニエル中尉


ごめんね……でも隊をまとめる君たちにもこの場にいて欲しいんだ…


僕がそう心の中で謝っていると、リタさんがジーノ大尉とダニエル中尉の手を取り、2人の顔を見つめて言う。


「ごめんなさいね。このようなことになってしまって。でも今この危機に軍の経験が豊富なジーノ大尉とダニエル中尉の力が絶対に必要なの。私達を導いてちょうだい。帰還したらあなた達は軍の英雄だとゾエちゃんにもちゃんと言っておくから!」


リタさんに真っすぐ見つめられてその言葉を受け止める2人


すると二人の顔つきが凛々しいものに変わり、2人は膝をついて敬礼した。


リタさんの言葉に覚悟がより一層決まったようだ。


「このジーノ・フェスタ、命に代えましてもこの軍をノースガルドまで導く所存!」


「ダニエル・ロッシも同じ思いでございます!必ずや祖国の土を踏んで見せましょう!」


そして膝をついた2人に視線を合わせるようにしゃがむリタさん


「頼りにしているわ」


「「はっ!」」


そこには姫に忠誠を誓う忠実な騎士2人がいた。


リタさんの虜になった人が2人増えたところで、ヒルデガルドが明日の行軍について話を始めた。


「…明日の…ラインハルトの森についてなのだけど…地形自体はそこまで厳しくないわ…カルフという田舎街と帝都シュバルツシュタットを繋ぐ森路はある……でも魔獣が出没するからここを利用するのは腕に覚えのある冒険者か軍くらいね……庶民と商人は…遠回りでも湿原を通って、サタイディガン経由で帝都に行くもの…」


なるほど、危険だけども近道というものか。


安全性を重視するなら利用しない道なんだな。


「問題は魔獣だな。どれくらい危険な魔獣が出るんだ?」


アウレリオ准将がヒルデガルドに質問する。


「強いのでAランク魔獣が複数種類いるわ。この森の平均的な魔獣ランクはCかDってところね」


強い魔獣はいるけど、平均的な強さはそこまでか


「CかD程度なら我が隊の兵士でも討伐できましょう」


「無論我が隊も同様です。数的有利ならBランクまでなら十分対処可能です」


ジーノ大尉とダニエル中尉がそう答える。


「なら問題はAランク魔獣ね…この軍でAランク魔獣を狩れるのはシリュウちゃんとヒルちゃんくらい?」


「……いいえ、ベアトリーチェも狩れるんじゃないかしら?」


ヒルデガルドが何気なしに言う。


「え!?わ、妾が…!?と、とてもじゃないですが狩れませぬ…!?」


ビーチェが慌てて否定するも、ヒルデガルドが冷笑しながら一蹴する。


「……何乙女ぶってるのよ…旦那の前だから…?あなたの剣筋見たけど、達人一歩手前のそれよ。この森のAランク魔獣ぐらいなら狩れるわよ」


「そ、そんな…乙女ぶるなど…」


ビーチェが顔を赤くしながら否定するも、ヒルデガルド相手に一撃入れたのだ。


Aランク魔獣くらい狩れてもおかしくはない。


「まぁまぁ、あくまで戦力として考えるだけよ?それにAランク魔獣を単騎でベアちゃんに狩らせる状況なんてないわよ」


「……どうして……?…不測の事態もあるかもしれないわ…」


ヒルデガルドが不思議そうに、首を傾げているが、さすがリタさんよくわかっていらっしゃる。




「Sランク魔獣も狩る怖い旦那がそんな状況を許すわけないじゃない」




「いや誰が怖い旦那やねん」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


烈歴98年6月16日(行軍2日目)  5時38分 シュバルツ帝国 アインス州 カッセル丘陵


夜明けとともに目を覚ました僕らは、早々に野営の片付けをして、ラインハルトの森へ入った。


ラインハルトの森を抜けるには丸一日かかる。


このまま順調に行軍したとして日が沈むまでに抜けられるかは微妙なところだ。


ただ今の季節は日が長いから多分大丈夫だとヒルデガルドは言っていた。


後は魔獣に絡まれなければ大丈夫だと…


それって…あれじゃん…前振りみたいじゃん……


行軍の陣形は変わっていないが、1つだけ変わっているところは、僕とビーチェが最後尾だったが、今日は僕がヒルデガルドとともに最前列にいた。


ビーチェは最後尾で第二特務部隊の皆と殿を務めてくれる。


魔獣に最初に出くわすのは列の先頭だから、魔獣を対処するために僕が先頭に配備されていた。


殿には今日くらいは僕が不在にしてても大丈夫とのヒルデガルドの判断だ。


昨日のバルター将軍の話では、ヴィルヘルム軍が帝都に到着するのは今日の予定だ。


そこからここまで今日中に追いつくには物理的に不可能だそうだ。


もし対処するとしたら魔獣に襲われた時くらいだけども、ビーチェと僕の小隊なら大丈夫だ。


僕の隊は、強いからね。


それはそれとしてビーチェと離れ離れになった寂しさに襲われながら僕はトボトボ行軍していた。



「はぁ…さっさと森を抜けたいね…ビーチェと離れ離れは寂しいや」


僕がそう愚痴っているとヒルデガルドが呆れたような顔でこちらを見る。


何だよ。


「…普段あれだけ一緒にいるのに、ちょっと離れただけでそんな愚痴が出るの…?」


「何だよ。ヒルデガルドだってアウレリオ准将と離れて不満そうだったじゃないか」


「そ、それは…!…その…仕方ないじゃない……」


「そんな気持ち。そして普段一緒にいるからもっと一緒にいたくなるんだよ。ヒルデガルドもアウレリオ准将と結婚したらわかるよ」


「けけけ、結婚って!気が早いんじゃない…?」


茹で上がるほど顔を真っ赤にするヒルデガルド


この手の話に免疫がないのかな?


「そんなことないと思うよ。多分国に帰ったら皇妹派の活動は本格化する。皇妹派の中核であるアウレリオ准将も国内で被っていた嫌われ者の仮面を外すんじゃないかな。そうなればあの美形に懐の大きい人格、それに皇妹派の中心人物であるアウレリオ准将に縁談の申し込みは殺到しそうだけど…」


「なっ!?」


「幸いにも今君が1番近い女性なんじゃない?先手必勝、電光石火で決めるしかないと思うよ」


「……16のあなたに指南を受けているのは不本意だけど筋は通っているわね……」


「僕の方が先輩だからね!はははは!」


僕は高らかに笑いヒルデガルドに勝ち誇った顔を見せる。


「………そんな高笑いをしていいのかしら?」


ヒルデカルドが遠くを見つめて僕に問う。


そしてその視線の先の木々のゆらめきから何が起ころうとしているのか理解した。


「………これって僕のせい…?」


「その高笑いというよりあんたの体質かしら?あんたの血は魔獣にとって蜜かなにかなの?」


ヒルデガルドが冗談を飛ばすが、その後に僕たちの前にあった木々が飛んできた。


そして木々の間からそれはそれはとてもご立派なお猿さんがドラミングをしながら現れた。


「ウホホオオオオオ!!!!」





「Sランク魔獣『王猿』、あんたの出番よ。怖い旦那さん」




シリュウ「Sランク魔獣はいないって言ったじゃんか!」


ヒルデガルド「言ってないわ。あんたが気にするレベルの魔獣はいないって言ったの」


シリュウ「Sランク魔獣なんて普通に気にしますよ?」


バルター(あの森に生息する唯一のSランク魔獣は先日エジルのやつが討伐したはず…)

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