【閑話】援軍~研究成果を試させて
10/12にポケモンカードのシティリーグに出るため今週はその練習のため更新が低調になります。
ご容赦を…
烈歴98年 6月10日 アルジェント王国 王都ルクスル ポアンカレ魔術研究所 所長室
華族や貴族の邸宅にありがちな絢爛豪華な装飾やきらびやかさが一切なく、無地の四角い建物が無造作に並んでいる公爵家の建物
ここはポアンカレ魔術研究所で、王国で、いや大陸でもっとも魔術の研究に熱心な魔術師が集まる場所
そんな魔術の最高学府と言うべき場所で、この場所の主マーガレット・ポアンカレ公爵兼魔術研究所長は、数日前に皇国の稀代の魔術師『海の迅雷』パオ・マルディーニ少将が協力した実験結果のデータとパオ・マルディーニ少将に聞き取りした生い立ちや魔術経歴の書類を穴が空くようほど読んでいた。
その成果物はこの大陸きっての魔術研究者であるマーガレットをもってしても画期的だと言わざるを得ない内容だった。
王国では魔術の才は遺伝による先天的なものに拠ることがほとんどであるという常識が蔓延っている。
その証左に王国では魔術師は『家』に属し、法令で魔術師同士であれば兄弟姉妹同士の結婚も許されている。
しかしマーガレットはそのような学術的根拠がなく、経験則でしかない常識に懐疑的であった。
そして皇国の最高学府であるタキシラ大学では、魔術の才は先天的なものでなく、本人の資質や環境等の後天的なものに拠るものが大きいとの考えが主流だ。
マーガレットもこのタキシラ大学の研究と近い考えを持っていた。
しかしマーガレットはタキシラ大学の研究の先を行く。
タキシラ大学ではあくまで後天的だということの主張で留まっているが、何が魔術の力に影響しているかまでは特定できていない。
マーガレットは長年の研究から魔術の力に影響する要素をある程度推測していた。
そしてその推測を確信に変えてくれる存在に目を付けたのがパオ・マルディーニ
パオ・マルディーニは魔術の名門で生まれたわけではないが、皇国では群を抜く魔術の力を持っている。
ならば着目すべきはパオ・マルディーニの歩んできた人生そのもの
そう考えたマーガレットは、破格の条件で皇国(正確にはリータの勢力)と同盟を組んでまで、パオ・マルディーニと言う人物を丸2日かけて解剖したのだ。
そしてその結果は、あることについてはマーガレットの想像通り
そしてあることについてはマーガレットの想像の上を行くものだった。
まずマーガレットの想像通りのことについて
それはパオ・マルディーニの生涯を紐解いて確信した魔術の力を伸ばす要素のこと
今までの常識では魔術の力を伸ばすこと、魔術の練度を上げることは魔力操作性を磨くことと同義であった。
実際才ある者の魔術の練度は、ほとんどが魔力の流れを操る魔力操作性に終始しており、魔力保有量や魔力感受性については、完全に先天的なものとされている。
保有している魔力と取り込む魔力をどれだけ効率的に使用できるか、いかに速く魔力を現象に変換するか、そして変換した現象をどれだけ操作できるか、現象をどこまで広範囲に顕現させられるか、これを総称して『魔力操作性』といい、魔術を磨くということはこの力を伸ばすということだ。
つまり魔力保有量や魔力感受性を伸ばすことはできないということが一般的な常識とされている。
しかしマーガレットは魔術の力を伸ばす要素を鑑みると、魔力保有量と魔力感受性を伸ばすことも可能だと理論立てていた。
そしてパオ・マルディーニの幼少期のとある特殊な事情を聞いて、その理論は確立された。
そしてマーガレットの想像の上を行くこと
それはパオ・マルディーニにはまだ伸びしろがあるということ。
ポアンカレ研究所の魔力測定器とパオ・マルディーニの採血検査の結果を総合して鑑みると、パオ・マルディーニは近いうちに『氷の魔力』に目覚めることが判明した。
彼の持っている水の魔力は氷の魔力に目覚める直前まで大きくなっていたのだ。
そしてマーガレットの考えた魔力保有量を伸ばす方法をパオ・マルディーニに伝授した。
彼は王国から帝国の航海の内に、その方法を履行して水の魔力を伸ばすだろう。
それに航海中というのも水の魔力を伸ばすことに都合が良かった。
マーガレットは近いうちに起こるパオ・マルディーニの覚醒をこの目で見ることができないことを心底残念だと思った。
そんなパオ・マルディーニがもたらしてくれた研究のデータを眺め、至福の時間を過ごしていたマーガレットに水を差すような報告が入る。
「所長、すみません。所領から緊急の伝令です」
部屋の扉をノックしてポアンカレ公爵家の部下が入室してそう報告する。
「何だね…私が研究成果を噛みしめる至福の時間を遮るほどのものだろうな?」
「……そう言われると弱いですが、少し珍しい報告なので緊急の『風伝』で入ってきました」
※『風伝』とは風の魔術を利用した王国特有の伝達手段で、音を風の魔術で飛ばす技術であり、丸1日要する連絡も数時間で到達させられる。
「ほう?…所領からわざわざ緊急の『風伝』とは…それで何か?」
「はい。我がポアンカレ公爵領の近海で北上するタレイラン公爵家の船団を確認しました。その数約20隻とのこと」
「……タレイランの船団?北上してもその先にあるのは、プラティニ公爵領だ…何の狙いだ…」
「それが現場の方も、ポアンカレ公爵領は素通りで、北目掛けて一直線に進む船団を奇妙に感じたと…」
マーガレットは思案する。
このタイミングでタレイランが狙う者は何か
そして数日前に同じように北上した船団を思い出す。
「皇国の外交使節団の次の行先はどこだった?」
「ええ、確か帝国の東端の港湾都市『ハンブルグ』であったかと…」
「ハンブルグ…」
そしてマーガレットもう一つ奇妙なことを思い出した。
それはパオ・マルディーニが来訪を中止した日のことだ。
皇国側の説明は『御家の目の前まで訪問しましたが、マルディーニ少将が王城にて巨大な魔力を感知して、皇妹殿下の身に危険が迫っていると思い、すぐに馳せ参じた。結果ベタンクール都督が王城内の秘密演習場で魔術の鍛錬をしていた』というものだったが、マーガレットはこれに奇妙な点を感じた。
それはリクソン・ベタンクールが『王城内の秘密演習場で魔術の鍛錬をしていた』ということ
普通の人が聞けば、何も違和感がないが、マーガレットはリクソン・ベタンクールのことを良く知っている。
あの自信家で気障な男が、魔術の鍛錬をする様が露見するようなことは絶対にしない。
あの男は自身の努力を他人に見せず、周囲に天才だと思わせている。
幼少期に魔術学校で出会ってからマーガレットはリクソンが魔術の鍛錬を他人に見せることがないことを良く知っていた。
ならばパオ・マルディーニ少将が感知した魔力は何か?
それは当然リクソン・ベタンクール以外の者の魔力
あの日王城にいた王国の一級魔術師である『七魔導』は『深淵焔』リクソン・ベタンクールと『無限砂漠』ティオフィル・アンリのみ
しかしティオフィル・アンリという良識的な人物が王城でそれほどの魔術を放つことは考えにくい。
そして残りの七魔導のうち3人はポアンカレの者でいずれも王城にいなかった。
残る候補はタレイランの『絢爛氷河』のプスキニア・メルセンヌとピケティの『迅雷風烈』のマクシム・ファロ
かのリクソン・ベタンクールと同程度の魔力を放てるのはこの2人しかいないだろう。
つまりあの時王城ではプスキニア・メルセンヌかマクシム・ファロが特大の魔術を放ったのだ。
その後日ボナパルト王家とリータ・ブラン・リアビティの親密な関係が構築される。
そして皇国の外交使節団の後を追うように北上するタレイランの船団
以上の事実からマーガレットは限りなく近い真実に辿り着く。
「ふむ……至急船団を組め。タレイランの船団を追う。ジャンヌとダイヤも連れていく」
マーガレットは瞬時にやるべきことを見定めて、部下に指示する。
「えっ!?…お、追うのですか?それもジャンヌ・ディルク氏とダイヤ・ミュラトール氏も連れて…!?マーガレット様もその船団に?」
唐突なマーガレットの指示に面食らう部下の男性
それもそのはず
奇妙な報告が届いたので耳に入れる程度の報告をしただけなのに、船団を組んで追うと、それも『七魔導』のマーガレット・ポアンカレ、ジャンヌ・ディルク、ダイヤ・ミュラトールというポアンカレが誇る一級魔術師を揃えて行くというのだ。
「もちろんだ。場合によってはその船団を叩きつぶさねばならない」
「な、なぜ…?」
「決まっているだろう?約束の履行だよ。皇国の『身内』が危機に瀕するかもしれない。同盟相手なら当然の行動だろう?空振りならそれでよし。しかし悪い予想が当たれば、皇国の面々は帝国に閉じ込められる可能性があるな」
「……ま、まさか…あのタレイランの船団は皇国の外交使節団を襲撃に!?」
「あのタレイランがプラティニ公爵領を海から急襲するとは思えん。タライランの領地からは王国の対角線上だからな。つまりあの船団は帝国のハンブルグを目指している」
「……な、なら船は何隻用意しますか?兵士の数は…!?」
タレイランの船団との戦うことを現実に感じた部下は冷や汗を掻きながら、マーガレットに問う。
「決まっている、可能な限り全部だ。ちょうど試したい魔術もあったのだ。タレイランの船団を的に新たなデータを得るとするか」
リクソン「王国の一級魔術師は7人しかいないから『七魔導』って総称されるね。基本は各勢力に1人ずつなんだけど、ポアンカレには3人いるんだよ。ずるいよね。純粋な魔術師の戦力ならポアンカレが王家よりも凄いと思うよ。まぁポアンカレは戦争や政争に興味がないから活用されることは稀だけどね」




