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【閑話】帝都を呑み込む悪意と暴力

烈歴98年 6月某日 ツヴァイ州 州都ランベルリン ブライトナー城 城主室


シュバルツ帝国第二皇子ヴィルヘルム・シュバルツ・ブライトナーが治めるツヴァイ州の州都


その州都の中心地に位置しているヴィルヘルムが率いる勢力の本拠地であるブライトナー城に、ヴィルヘルムを始めとした主要人物が集結していた。



この城主室のソファに腰掛けているのは4人


いずれも帝国を代表する十傑だ。



「皇子はいつ帰ってくるのじゃ?待ちくたびれて骨になってしまうわい!」


齢六十を超え、髪はすっかり白髪だらけになりながらも、快活振りと弓の腕はこの国で未だに並ぶものがない。


序列第7位 『怪鳥』ロタ・マテウス


「皇子は多忙の身であらせられる。座して待つのが臣下の務め!」


白髪に青黒い鎧を纏い、その表情は般若のように険しく、まるで青鬼と形容すべき大柄の青年


序列第6位 『白龍』ミロ・クローゼ


「それにしても、遅いでございまするなぁ。私とて暇な身ではないのだから」


金の髪に貴族が着るようなローブと鎧を組み合わせており、その身には多数の宝石があしらわれた装飾品をその身にやつし、自身を高貴な者であると喧伝してやまない


序列第4位『金狼』フィリップ・ラーム



「………………」


巨躯に漆黒の鎧を纏い、その顔つきからは歴戦の修羅場を潜り抜けた強者の雰囲気が抑えきれていない。


序列第1位『黒獅子』ロロ・ホウセン



この4人はこの城の主に呼ばれてこの場にきている。


しかし主はまだこの部屋に到着しておらず、4人は主の到着を待っていた。


「それで…王国に赴いたエゴンとヒルデガルドはいつ戻るのでしょうかねぇ?」


フィリップ・ラームが軽い雰囲気で話を切り出す。


「帰還予定日を過ぎておる…何かあったのは間違いないじゃろうのう!がっはっは!」


ロタ・マテウスが深刻な内容を陽気に話す。


「笑いごとではありませぬ!2人の身に何かあれば…某は心配でござる…!」


超が付くほど真面目なミロ・クローゼは2人の安否を心配する。


「……………」


そしてロロ・ホウセンはいつものように会話に入らず、じっと座して待っていた。


そして、この部屋の主が帰還した。


「ほう。思ったより集まりが早かったな。貴様らにしては殊勝なことだ」


赤茶色のウェーブがかった髪 


皇帝の血を引く者しか身に着けることが許されない黒のローブ


華奢ながらも引き締まった体に、見る者を惹きつけてやまない美しい顔


しかしその顔つきは自分以外の全ての人を見下すように冷たい。


シュバルツ帝国第二皇子 ヴィルヘルム・シュバルツ・ブライトナーだ。



「皇子よ!このような時が惜しい時に待たされては困りますぞ!がっはっは!」


ロタ・マテウスが豪快に笑いながらもヴィルヘルムに苦情を言う。


「そんなに待ってはなかろう。それに貴様は少し待たせた方が静かになると思ってな。目論見は失敗したがな」


ロタ・マテウスの苦情もさらりと躱すヴィルヘルム


そして執務室奥にある自分の執務机に座り、手に持った報告書を4人の前に投げ捨てた。


報告書はソファの前のローテーブルの上に綺麗に着地している。


「読め。エゴンとヒルデガルドの末路だ」


「「「!?」」」


ヴィルヘルムの言い様に驚くロロ・ホウセンを除いた3人


そしてフィリップ・ラームが報告書を拾い上げて読む。


「え~と……何々……はぁ!?エ、エゴンが皇国の将軍に一騎討ちに敗れ捕虜に!?…そしてヒルデガルドは行方不明…!?」


報告書の内容に驚くフィリップ・ラーム


「なんじゃと!?儂にも貸せい!」


フィリップ・ラームが持っていた報告書を奪い、自分で読み始めたロタ・マテウス


「……なんと……あの二人が負けたのでしょうか…」


自分のことではないのにやたら悔しがるミロ・クローゼ


人一倍仲間想いのミロ・クローゼには自分のことのように心を痛めた。


「タレイランが立案した王の暗殺計画に2人を貸し出してやったが、ものの見事に返り討ちにあったようだな」


ヴィルヘルムが淡々と言う。


「はぁ~ん。タレイランとかいう奴も使い物になりませんねぇ…エゴンとヒルデガルドも所詮十傑では下の方だしなぁ」


フィリップ・ラームはタレイランとエゴン、ヒルデガルドを馬鹿にするように言う。


「控えよ!エゴン殿もヒルデガルド殿も立派な武人であった!貶すような発言は某は許せぬ!」


フィリップ・ラームの物言いにミロ・クローゼは激怒する。


「しっかし、任務に失敗して敵の手に落ちているんだ。無能としか言えないねぇ」


「その言葉を撤回されよ!共に戦った仲間であろう!」


フィリップ・ラームの仲間を馬鹿にした発言に怒りが収まらないミロ・クローゼ


「静まれ」


激昂したミロ・クローゼを抑えるように、ロロ・ホウセンが一言だけ言葉を放つ。


その言葉を聞いてミロ・クローゼは大人しく黙った。


ミロ・クローゼは自身が敬愛するロロ・ホウセンの言葉には素直に従う。


そこでヴィルヘルムはミロ・クローゼを擁護するように言う。


「しかしミロの言うことも最もだ。エゴンとヒルデガルドは簡単に敵の手に落ちる武人ではない。それにタレイランの事前の献策と諜報も見事な物であったぞ。奇襲自体は成功しているのだ」


ヴィルヘルムは暗殺に失敗したもののタレイランを評価し、エゴンとヒルデガルドの失敗を咎めなかった。


「えぇ~…でも暗殺は失敗してますよねぇ?」


フィリップ・ラームが執拗にエゴンとヒルデガルドを貶めるように言う。


「暗殺自体はな。しかし我らはエゴンとヒルデガルドを下すほどの武術師が皇国にいるという情報を得た」


「「「!!」」」


「これは今から帝都に攻め込む我らにとっては非常に有用な情報だ」


ヴィルヘルムは口角を吊り上げ、怪し気に笑う。


「では皇国の遠征団が去ってから攻め込むと!?そのような武人が居れば極力避けたいですなぁ!」


ロタ・マテウスが大きな声で言うが、ヴィルヘルムは渋い顔をする。


「脳が筋肉でできている爺は黙っておけ。逆だ。十傑を下す程の武術師…皇国の軍略的に重要な人物であることは明らかだ。それがノコノコと帝都に来てくれている……ならすることは1つだろう?」


「…ははーん…なるほどねぇ…相変わらず皇子は悪い人ですなぁ」


フィリップ・ラームはヴィルヘルムの思惑を理解した。


「どういうことなのだ?某にも説明していただきたい」


「そうじゃ!そうじゃ!」


しかしロタ・マテウスとミロ・クローゼは理解できず、フィリップ・ラームに説明を求めた。


しかし答えたのは意外な人物だった。



「…………寡兵であるうちに潰す……」


ロロ・ホウセンが低い声で呟くように言う。


「ホウセンの言う通り。いかに武術に優れてようが数の暴力に勝てる人間はいまい。皇国の外交使節団は外交員が100名程でその護衛が500人程と聞いている。幾万の軍で攻めればいずれは討ち取れる。できれば生け捕りして登用したいがな。そしてシュバルツスタットの現在の防衛戦力はおおよそ3万だ」


ヴィルヘルムはロロ・ホウセンの回答を肯定し、自身の机の上にある地図に数字を書き込んでいく。


「3万…?やけに少ないですなぁ」


ヴィルヘルムの言葉に疑問を呈するフィリップ・ラーム


「ハインリヒはズィーベンを我らが攻めるという情報に臆してアインスとドライの兵をズィーベンに移しつつある。ビスマルクとバルターの反対を押し切ってな。我が兄ながら無能すぎて涙が出そうだ」


「がっはっは!これは重畳…!」


ロタ・マテウスはヴィルヘルムの言い様に豪快に笑う。


「シュバルツスタットが手薄とは言え、それでもランベルリンから動かせる兵は5万程度!今からシュバルツスタットへ行軍しても5日はかかりまする!そのうちにヒュンフから援軍が来るのでは?」


ミロ・クローゼはヴィルヘルムにそう意見するが、ヴィルヘルムの表情は崩れない。


そして手元の地図を、4人の前に投げる。


挿絵(By みてみん)


「これは帝国の地図…」


「ご丁寧に色付けされておりますな!はっはっは!」


「脳が筋肉でできている貴様らにも分かりやすく説明してやろう。青色が我が領地、緑色はハインリヒ…いや現皇帝の領地だ。そして北方のアハトはレギウスの領地だ。ここまではガキでもわかるな?そして我はズィーベンを攻める情報をハインリヒの周辺に流した。そしてズィーベンに兵が集中する構図を作っている。そしてシュバルツスタットには現兵力は3万程度となったわけだ」


「し、しかしそれでもこのランベルリンからは5万程度しか出陣できず、それもシュバルツシュタットまで5日は要します!」


ミロ・クローゼはヴィルヘルムに言う。


しかしヴィルヘルムは気にせずに語る。


「誰がここからだけで攻めると言った?」


「「「!?」」」








「我が領地の総兵力20万全てで帝都シュバルツスタットを急襲する。それも皇国の外交使節団が来訪中にな。目指すは帝城、ハインリヒの首、皇国の皇妹殿下とやらの身柄、そして我に付かぬ十傑と皇国の将軍の首だ」



「がっはっは!なんとも剛毅じゃのう!」


「ひゅ~…どの州も軍備を進められていたけどこのためだったのかぁ…」


「…戦…!我が武で勝利に導きましょうぞ…!」



ヴィルヘルムの侵攻宣言に沸き立つ3人


しかしロロ・ホウセンだけは静かに地図を見ていた。


そして疑問を放つ。


「……………皇国は…どこから来るのだ…?」


「…ほう?獣の貴様にしては良い着眼点だ。皇国の外交使節団はハンブルグに船でやってくる」


「……西よりこちらが攻めれば…東に逃げられる…」


「貴様如きの頭で我の知略の底が知れると思うか?ハンブルグは王国のタレイランが船団で包囲する手筈だ。奴らは逃げ帰った先の船で沈む運命なのだよ」


「……承知……失礼した……」


「ほぇ~…ということは帝都に来た時点で皇国の人らは袋の鼠かぁ~可哀そうに」


「恨むなら自身の運のなさよな。我が帝都に攻めようという時期にノコノコ来たことを後悔しながら逝くが良い。そして皇国の外交使節団が帝国で全滅することで、さらにこの大陸は戦火に塗れよう。奴らの死に際の悲鳴は烈国大戦の号砲となってくれよう」


卑しく笑うヴィルヘルム


強大な悪意が帝都を呑み込む日がそこに迫っていた。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 なるほど、カール皇帝が「ヴィルヘルムが後を継ぐのはNG」と言った理由が解りますね。 獅子は兎を倒すのにも全力を注ぐと言いますが、今回の侵攻案も油断慢心なしできっちり仕…
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