第24話 ここから始める皇妹派
烈歴98年6月14日 早朝 帝都シュバルツシュタット シュバルツ城 第8会議室
カール皇帝との話を終えて一夜明けた朝、僕はアウレリオ准将に緊急で皇妹派で話をしたいとお願いをした。
アウレリオ准将がリタさんに確認して、今日の午前中の会談の開始時間までなら時間が取れると言うことなので、皇国が借り受けている会議室に皇妹派の面々に集まってもらったのだ。
ここにいるのはリタさん、アウレリオ准将、サルトリオ侯爵、ヒルデガルド、そして僕とビーチェ、パオっちにリアナさんだ。
「急にお集まりいただきありがとうございます」
僕は開口一番、お礼を述べる。
「いいのよ。どうやら只事ではない事があったのかしら?」
リタさんは怪しげに笑う。
「ええ、その通りです。昨晩カール・シュバルツ・ラインハルト皇帝陛下とお会いし、話をさせていたただきました」
「「「「「!!??」」」」」
一同は目を見開いて驚く。
ビーチェとリタさんを除いて。
「いやぁその反応になりますよね。僕も昨晩呼び出されてびっくりしたので…」
「……どういうことですかな?外交大臣を長く務める私でもお会いするには相応の手続きを踏まねばお会いできぬお方…それをなぜ将軍とはいえシリュウ殿とお会いになられたのか…」
サルトリオ侯爵が疑問に満ちた表情で言う。
そりゃそうだろう。
本来外交のトップであるサルトリオ侯爵でさえ、お会いするにはいくつもの難関があるお方だ。
でも僕が会えた理由はとても単純
それを今日ここで明かそうと思う。
「まぁ理由は単純なのですよ」
「単純…?」
そしてその理由を明かそうとするとリタさんが立ち上がる。
「シリュウちゃん…いいのね?それを明かせばもう止まれないわ。私も…あなたも…」
僕を心配そうな目で見つめて言うリタさん
この人は僕を利用しようとするけど、なんやかんや要所では心配してくれるからやはり憎めない。
「ええ、僕はもう決めましたので」
僕は決意を込めて言う。
「なら…いいわ…聞かせてちょうだい…」
リタさんは再び席に座り、また僕に注目が集まる。
そして意を決して僕は告白した。
「カール皇帝に会えた理由は単純です。カール皇帝は僕の父方の祖父でした。僕はカール皇帝の孫になります」
「はぁ!!??」
「なんと!?」
「……嘘でしょ…!?」
「…ぎょえっ!?」
「…あわあわあわあわ!?」
一様に驚く面々
しかしリタさんは全て知っていたかのように僕の告白を黙って噛み締めていた。
「驚いているところすみませんが、話を続けます。時間もないようなので」
そして僕は驚くみんなを置き去りに話を続けた。
「カール皇帝からこの帝国の内情の全てをお聞きしました。ハインリヒ皇子は仮初の後継者で、ヴィルヘルム皇子を皇帝にしないための苦肉の策だと。そして次期皇帝にはレギウス皇子が相応しいとカール皇帝は考えており、この内乱は後ろ盾がないレギウス皇子が実力で皇帝の座を掴むために、カール皇帝が誘発したものです。カール皇帝は僕に武将としてレギウス皇子の勢力に参画して欲しいとの要請がありました」
そして僕は昨晩カール皇帝との話を詳らかにした。
僕の説明を聞き終えて、一同は静まり考え込んでいた。
「……シリュウ准将の話が本当なら私達の交渉方針は全部ひっくり返るな…」
神妙な顔で考え込むアウレリオ准将
「そうね。取り込み易そうだけどそこそこ影響力のあるハインリヒと手を組もうとしたけど、シリュウちゃんの話を聞く限り泥舟よ。それにヴィルヘルムなんて組むに値しない奴だし、やっぱりレギウスしか…」
リタさんも同様に今の状況でできる最善策を模索している。
「それに外務大臣としても聞き流せない話ばかりでしたな。第二皇子がそれほどの危険人物とは…第二皇子とも外交の筋はありますが、早々に切ったほうがいいのやも…」
危機感を募らせるサルトリオ侯爵
皇妹派の3人は僕の話を元に思案をしていた。
そんな中、僕に白い目を向けるヒルデガルド
「……あなた本当に何者なの…?化け物じみた強さを持っているかと思えばカール皇帝の孫…?……この大陸を制覇でもしたいの……?」
「この状況でそういうこと言うのはやめてくれよ…冗談に聞こえないからさ…」
ヒルデガルドの軽口に胃を痛める僕
いや本当に皇帝になる気なんてさらさらないんすよ…
「状況はわかったわ。そしてシリュウちゃん…いやシリュウ・シュバルツ・ベッケンバウアー皇子はどうなさるのかしら?」
リタさんの呼び方に一斉に僕の方を見る面々
「いやいやいやいや!そんな風に呼ばないでください!僕は皇位を継承する気など全くありません!それはカール皇帝にもはっきりとお伝えしました」
僕は会議室に響き渡る声で叫ぶ。
「そう?シリュウちゃんがその気なら皇国のついでに帝国も貰い受けようと思ったのだけど」
「ついでで帝国を制覇しようとしないでください…」
「あら残念。ではシリュウ・ドラゴスピア将軍はどうなさる?」
「はい、僕はカール皇帝とのお話を通して、僕の目指す未来がはっきりと見えました。皇国と王国、そして帝国と共に歩んでいく未来です。目指すは三国で恒久的平和条約を締結することです」
「…恒久的平和条約の締結ね…統一による平和を目指すのではないのね」
「はい。帝国にも王国にも仲良くなれた人がたくさんいました。僕はその人達と矛を交えることはしたくない」
「そう…つまりシリュウちゃんはあなたの目指す未来と私の目指す道が同じなら…」
「はい、僕は…シリュウ・ドラゴスピアはリータ・ブラン・リアビティ殿下に忠誠を誓いましょう」
「「「!!」」」
僕が初めて皇妹派に加入すると明言したことで、アウレリオ准将、サルトリオ侯爵、ヒルデガルドが驚いた。
「ついに…シリュウちゃんが…私の元に…」
僕の言葉を上を向いて噛み締めるリタさん
しかしそこに割って入る声があった。
「ちょいと待っておくんましい〜オイラを忘れていないかい?」
「パ、パオっち?」
今までずっと黙っていたパオっちが前に出た。
「オイラとシリュウは一心同体さ。シリュウ・ドラゴスピア将軍がリータ・ブラン・リアビティ殿下に忠誠を誓うなら、このパオ・マルディーニも同じく忠誠を誓う」
パオっちが真剣な表情で、リタさんに向けて言う。
「ほ、ほんとに!?」
「なんだと!?」
「政争に無縁なマルディーニ少将がリータ殿下につくとは…」
パオっちの宣言に戸惑いながらも歓喜の声を上がる皇妹派の方々
僕は申し訳なさそうにパオっちに向き合う。
「…勝手に突っ走ってごめんね…それに本当にいいの?」
「水くさいにー。オイラとシリュウっちの仲じゃんよ。オイラはオイラのしたいようにしているだけろん。一緒に頑張ろうっぜ!」
「パオっち…」
パオっちの無償の信頼がたまらなく嬉しかった。
「無論妾も夫と同様に、忠誠を誓いまする」
「わ、私もです!」
ビーチェとリアナさんもパオっちに続いて言う。
「君達4人は仲が良いと思っていたが、同志だったか…どうする?リタよ」
アウレリオ准将がリタさんに回答を促す。
「どうもこうも…私はこの大陸の全てを手に入れたいわけではないわ。国境なき世界を作る。まぁその第一段階に、三国間の平和条約はうってつけね」
「つまり…?」
「シリュウ・ドラゴスピア准将、パオ・マルディーニ少将、ベアトリーチェ・ドラゴスピア少尉、リアナ・フォッサ少尉…歓迎するわ。私と共に世界を変えましょう」
そう言って僕らに向かって両手を広げて歓迎の意を示すリタさん
こうして僕たち4人は正式にリータ殿下の忠臣となった。
ここから始めるのだ。
僕らの世界を変える戦いを




