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第23話 僕が目指す未来


「レギウスの後継者として、その力を貸してやって欲しい。シリュウ・シュバルツ・ベッケンバウアーよ」


カール皇帝のあまりにも重すぎるお願いに、僕は話の大きさに心が押しつぶされそうだった。


「いやいやいやいや…皇帝なんて僕なりたくないですよ!」


「ほっほ。別にレギウスの後を継がなくともよい。ただ側に仕えるだけで良いのじゃ。そうすれば周りの名家が勝手に勘違いする。レギウスがシリュウという後継者を得たと。そうすることで支援を申し出る勢力も出てこよう」


「ほ、本当に?でもレギウス皇子が皇帝になった後は?男子しか皇帝になれないのでしょう?」


「レギウスもまだ40じゃ。子を成すことはできよう。流石の彼奴も皇帝になれば、妻の2人や3人娶るであろう。皇位継承に本意でない者に継承を迫る奴ではあるまい。それにハインリヒの子を養子にする等方法はいくらでもあるぞい?」


僕の逃げる先に皇帝陛下が先回りしてくる…


だ、だめだ…相手は海千山千の猛者なのだ。


僕如きが舌戦で太刀打ちできる相手ではない。


「じゃ、じゃあカール皇帝がそこのミュラー将軍やカチヤ将軍、バルター将軍に言ってレギウス皇子に仕えさせればいいじゃないですか!」


僕は必死に案を絞り出す。


「それができるならそうするのじゃ。しかし…」


カール皇帝はミュラー将軍の方を苦笑いしならがら向く。


「……カール皇帝………仕える……レギウス……仕える…値しない…」


ミュラー将軍は小さい声ながらも、はっきりとした声色で答えた。


「このようにこやつは朕への忠誠心が高すぎて、朕が生きているうちは他の誰にも仕えぬのだ。カチヤもフリッツも似たようなもので朕の元を離れぬのだ」


おう……忠誠心が高すぎるのも考えものだな……


「ほっほ。まぁ皇帝たるもの十傑を惹きつけてこそよ。して話はまとまったじゃろう。お主の気持ちを聞かせて欲しい」


「僕の気持ち…」


そう言って優しい顔で僕を見るカール皇帝


あまりの新事実の多さに僕の頭は混乱していた。


僕が帝国の皇帝の血を引く者であること


ハインリヒ皇子は仮初の後継者であること


ヴィルヘルム皇子は決して皇帝にしてはいけない人物であること


そしてカール皇帝はレギウス皇子を皇帝に導きたいということ


そのために僕の武をレギウス皇子に貸して欲しいということ


話の筋は通った。


カール皇帝に聞きたいこともない。


後は僕がどうしたいかだ。


僕はビーチェの顔を見るが、ビーチェはいつも通り微笑んでいた。


その顔は「シリュウの好きなようにするが良い。妾はついていくまで」と語っているようだ。


僕がどんな道を歩もうがビーチェはきっと隣にいてくれるだろう。


そんな安心感と信頼感が僕ら2人の間を繋いでいた。


考え込んでも仕方がないと思ったので、思ったことを口に出していこう。


今までのこの旅を振り返るんだ。


「正直…突然の話で驚いています。まず僕の夢はこの大陸で100年続いているこの戦乱を終結させることです。そのためにどのように終結させるか、そして僕に何ができるかを見出すために、皇国の海軍の門を叩きました。そしてこの外交使節団の一員として、初めて他国を目にしました。短い期間ではありますが、王国のシャルル皇子やリクソン・ベタンクール都督、帝国のカチヤ・シュバインシュタイガー将軍、そしてカール皇帝など、他国でありながら仲良くなれた方がたくさんいました。その方たちと僕は争いたくないし、争うべきでないと思っています。だから……」


僕は、意を決してカール皇帝に言う。


「僕が目指すこの大陸の未来は、皇国、王国、帝国が各々を尊重し合い、手を取り合って、協力して平和を築く未来です。その為に必要なのは皇国と王国と帝国の恒久的平和条約の締結だと思います」


「ほっほっほ!若くしてその考えに至るか!これは素晴らしい…!」


僕の答えに満足が行ったのか、カール皇帝は大きな声で笑う。


ビーチェは僕の手を握り、涙目だけども笑顔だった。


「シリュウ…素晴らしい未来じゃ…妾もそう思う…!」


「ありがとう、ビーチェ。共にこの未来を実現させよう」


「もちろんじゃ!」


「ほっほ。眩しいのう…してその未来に必要なことは何かわかるか?」


カール皇帝が僕に問う。


「もちろんです。まず各国の覇権主義者を排除すること。そして戦乱に明け暮れる大陸の未来を憂う指導者を各国で擁立すること」


「そうじゃ。じゃが残念なことに、各国の状況はそうではないようじゃ。帝国は未だ朕の後継が定まらぬし、王国は若き王が国内を治めるのに四苦八苦しておる。皇国は皇王の周囲が腐敗しているため、他国から相手にもされておらぬぞ」


「なら帝国はレギウス皇子に皇帝になってもらい、王国はシャルル王の敵を王国から排除して、皇国にはリタさんに即位してもらいましょうか。そして三者に恒久的平和条約を締結してもらう」


「ほっほ!やることが山積みじゃのう!」


「はい。でもやることがはっきりして僕は雲が晴れたような気分です」


「よいよい。では朕の願いとそなたの目指すべき未来は重なるかのう?」


「そうですね。同じ方向ではありそうです。まぁレギウス皇子に実際に会ってみないとわかりませんね。本当にレギウス皇子が僕と同じ志なのか」


「うむ。レギウス皇子と会って判断するが良い。お主のお眼鏡に叶わなければ、所詮彼奴もその程度の人物ということかのう…」


「まぁ…僕はそんな大層な人間じゃありませんけど…しかしカール皇帝とお話しできて良かったです。図らずも僕の目指す未来がはっきりとしました」


「ほっほ。若者の道を示すのは老人の役目じゃろうて。しかしお主は今はまだ皇国の将軍じゃ。レギウスの勢力に参画するにも、機を見なければならぬな」


「確かに…今すぐレギウス皇子の元に参るわけにはいきませんし…」


「よいよい。機は朕が注視しておく。お主はしばらく皇国の将軍としての職務に邁進するが良い。機が熟せば朕からお主へ文を出す」


「わかりました。ではその時まで腕を磨いておきます」


「十傑第8位のエゴンを生け捕りにし、インペリオバレーナとエンペラーボアを討伐したその腕…楽しみにしておるぞ?」


そう言ってカール皇帝はおどけたように笑う。


「任せてください。武にだけは自信があります」


僕は力強くそう答えた。


カール皇帝は深く息を吐いて、真剣な表情で僕に言う。


「……この国を…いや大陸を…頼むぞ…シリュウや…」


その頼みは、皇帝から皇国の将軍に対してのものなのか、祖父から孫に対してのものなのかは僕にはわからなかった。


でもカール皇帝の想いを僕は確かに受け継いだのだ。



やることは山積みだけども、この大陸の平和のため、僕は必ずやりきる。


そう心に固く誓い、ビーチェの手を強く握りしめた。



シリュウ「あとミュラー将軍なんでここにいるんですか…」


ミュラー「…僕の寝床…ここ……」


ビーチェ「ほんとじゃ……カール皇帝のベッドの向こうに小さなシングルベッドがあるぞい…」


シリュウ「なんでやねん」

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