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【閑話】慄く後継者 忠誠は誰に誓うか


リータとの会談を経て、特別会議場に残されたハインリヒ皇子とビスマルク宰相、バルター将軍は非常に重苦しい空気の中言葉を発せずにいた。


完全に格下だと見下していた皇国の皇妹に過ぎないリータ・ブラン・リアビティが王国のボナパルト王家、プラティニ公爵家、ポアンカレ公爵家と同盟をしていただけでなく、まさか帝国の武の象徴である帝士十傑の2人もリータの手に落ちているとは予想だにしえなかった。


ハインリヒはその現実を受け入れがたく、唇を噛みしめている。


ビスマルクは、帝国の宰相として、リータとどう接するかを思案している。


バルターは十傑第8位のエゴンを単騎で下したシリュウ・ドラゴスピアの脅威を目の当たりにし、驚きから抜け出せなかった。


そんな中1人だけ別世界のような空気を醸し出している人物がいた。


十傑第5位『紅虎』カチヤ・シュバインシュタイガー将軍だ。


「おいおい!おっさん3人がそんな渋い顔してちゃこっちまで気分が下がるだろう!これからシリュウと打ち合うってのに、水を差すなよなー」


明らかに格上の3人に対し、まるで友のように気軽に声を掛けるカチヤ


しかしその3人はそのカチヤの様子を咎める様子はない。


いや咎められないのだ。


「……カチヤ殿…少し静かにしていただきたい…これから皇国への対応を協議せねばなるまい…」


絞り出すようにしてビスマルク宰相がカチヤに言う。


「はぁ~。ビスマルク宰相よ~少し過保護じゃないかー?さっきの会談は何だよ~?小難しいことはわからないうちでもハインリヒ皇子がリータ殿下にやり込められたってわかるぞ?」


宰相にも、皇子にも遠慮なき物言いをするカチヤ


「……や、やり込められてなどおらぬ!こ、交渉はこれからだ!」


ハインリヒがカチヤに反論するも、カチヤの顔は失望に満ちていた。


「まぁそういうんならいいけどさ。うちは興味ないから。お前さんに付いているのも皇帝陛下がお前さんを次期皇帝に指名したからだよ?うちの忠誠は皇帝陛下にしかないから」


皇子に対してあまりにも不躾な物言いをするカチヤ


ハインリヒは顔を真っ赤にして、憤怒の表情をしているが、ビスマルクもバルターもカチヤを諫める気はなかった。


むしろ心情としてはカチヤに同調したかったからだ。


「わ、私が皇帝になれば、貴様も私にちゃんと忠誠を誓うんだな!」


ハインリヒが怒鳴るようにして言うが、カチヤには逆効果だった。


「はぁ~?そんなわけないんよ。うちはカール皇帝個人に忠誠を誓っているだけだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んよ」


「な!?」


「うちが忠誠を誓えるようなご立派な御仁になってくれよな。じゃあうちはシリュウと打ち込みの約束があるからさいなら~!」


「あっ!待てっ!」


ハインリヒの制止も聞かずに、去るカチヤ


残されたビスマルクとバルターもそれぞれが思うところがあるようだった。


口を開いたのはビスマルクだ。


「…ハインリヒ皇子よ…其方も皇帝の血を引く者として、もう少し余裕をもっていただいたい。確かにリータ殿下のもたらした新事実は衝撃でしたが、それにしても取り乱しすぎですぞ。それは他国に突かれる隙となりまする」


「う、うむ…以後気を付ける」


第一皇子のハインリヒと言えども、帝国を長年支えているビスマルクの忠言は聞き入れざるをえなかった。


「…バルターよ。そなたも何か言うことはないか」


ビスマルクがバルターに問う。


「…不肖の私めが、第一皇子に諫言するなど、恐れ多い」


バルターは謙虚にも、ビスマルクの申し出を断る。


「…よい。我が許す。バルターよ、申すが良い」


しかしハインリヒが促して、バルターはようやく答えた。


「はっ…では一つだけ。この国をどう導くか…皇子なりの答えを見出していただきたい」


「国を…導く…」


「この帝国の行く末を決めるのは皇帝ただ一人…ならばこそ皇帝たるお方はこの国の在り方、在るべき姿を見出さなければなりませぬ」


「な、なるほど」


「カール皇帝とは形は違えども、ヴィルヘルム皇子はそれを見出しつつある…だからこそヴィルヘルム皇子の元に今まさに人が集まっているのです…」


「確かに…ヴィルヘルムのところには若者が集まっていると聞く…」


「ハインリヒ皇子は、この国をどう導かれますかな…?それが見えれば、リータ殿下との交渉の方針も自ずと決まりまする」


「…なるほど…少し考えさせてもらおう…」


先ほどとは違い冷静になったハインリヒは会議場を退室していった。


その退室する姿を見届けてビスマルクはバルターに言う。


「……お主は誠に親切であるな。ほとんど答えを言ったようなものではないか」


「…いえ…それにハインリヒ皇子を次期皇帝に指名した皇帝陛下の真意を探っているだけです…」


「…ふぅむ…確かに…性格は冷酷ではあるが優秀なヴィルヘルム皇子……常識外れの言動を繰り返すも民や兵士からは絶大な人気を誇るレギウス皇子…このどちらかを後継者に指名すると思われたが、第一皇子とはいえ凡庸なハインリヒ皇子を後継者に指名するとは……儂にも未だにわからんのよ…」


「…私には皇帝陛下にしか見えないハインリヒ皇子の良さがあると思い、ハインリヒ皇子の秘めたる力を引き出すようにしているのですが……後継者指名より早2年…未だに見いだせておりませぬ」


「…皇帝陛下の真意は誰にも分からぬよ……このような状況でも自らが出しゃばると争いの元だと言い張り、帝城の奥から出てこられぬ…」


「……そこまでお体が悪いのでしょうか…」


「…おそらく…そしてハインリヒ皇子の独り立ちを信じておるのじゃろうが…」


「ええ……王国も皇国もかなり危うい…おそらくは戦乱の世が再び来ます。」


「じゃろうな。この難局を我が国が乗り切るには強力な指導者が必要ではあるな」


「……ええ…しかしないものねだりをしている場合ではございませぬ」


「そうであるな。それまで我らが繋ぐとするか」



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