第14話 全部もらう
「私が皇国を取り、レギウスかシリュウちゃんが帝国を取る。そしてルナと結婚してもらって、子を儲けてもらう。生まれた子を帝国と皇国を合併させた超大国の初代皇帝にするのよ。帝国と皇国が一つになれば、王国も帰順せざるをえない。これが今の私が描く大陸統一よ」
妾はリータ殿下の途方もない大陸統一への道を聞かされて、目眩がして膝をついてしまった。
シリュウの夢はこの戦乱の終結
そしてその方法を明確に提示しているリータ殿下
シリュウは妾を捨て、ルナ殿下と伴侶になりこの大陸の覇王となることができる。
そんな可能性が現実になろうとして、妾の内心はもうぐちゃぐちゃだった。
「…うぐ…うぅん…」
張り裂けそうな胸の痛みに耐えるべく胸を力一杯握りしめる。
その手を温かな手が包み込んだ。
リータ殿下の手だ。
「……怖がらせてしまったわね…ごめんなさい…今のは忘れてちょうだい。ただの夢想物語よ」
「リ、リータ殿下……?」
「今のは言ってみただけ…そもそも無理な点が多いわ。まずレギウスが帝国を取るなんて今からじゃほぼ不可能みたいだし。それになにより、シリュウちゃんはベアトちゃんにゾッコンだもんね。それが何より難しいわ」
リータ殿下は俯きながらそう言うが、妾はまだその可能性を消し切れないでいた。
「し、シリュウの夢は…戦乱の終結…そのためなら…妾の他に妻を迎えることなど…受け入れるのでは…?」
妾は絞り出すような声で言う。
自分で言っていてその事実が受け入れ難く、また胸の痛みが増す。
妾の言葉にリータ殿下はくすりと冗談を聞いたかのように笑う。
「あんなに近くにいるのにわからないかしら?シリュウちゃんはあなた以外の女性なんて目に入ってないわ。本人に聞けばいいじゃない」
「わ、妾は…」
妾は言葉が紡げず、また俯いてしまう。
「……ごめんね…私も冷静じゃなかったわ…そんな話がしたかったわけじゃないの。シリュウちゃんの秘密を何より近いあなたに初めに聞いて欲しかっただけなの。シリュウちゃんを1番近くで支えているあなたに…」
「…それは感謝いたします。シリュウの妻として知っておきたかったので…」
「ありがとう。私にとってもシリュウちゃんは単に可愛い甥っ子よ。今のは忘れてちょうだい…私も疲れているようだわ…今日はもう寝ましょう…」
そう言って疲れたように首を振るリータ殿下
「わ、わかりました…貴重なお話ありがとうございました…」
「ええ、おやすみなさい」
妾は頭を下げて会議室を退室する。
そして退室した廊下の先にシリュウが壁にもたれて待っているのが見えて、妾は一目散に駆け出した。
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ビーチェを会議室に残して先に自室に戻ろうにも、やはり少し気になったので、会議室から少し離れた廊下でビーチェを待っていた。
しばらくするとビーチェが会議室から出てくるのが見えた。
足取りが少し重く、俯きがちだから心配だ。
そう思っているとビーチェが僕を見つけるやいなや駆け出して僕の胸に飛び込んできた。
「おっと…おかえりビーチェ」
僕より少し身長が高いビーチェを抱きしめながら頭を撫でる。
少しビーチェは涙ぐんでいるようだった。
「……うっう……ぐすっ…」
「とりあえず部屋に戻ろうか、深夜とはいえここは目立つ」
「……うむ……」
涙ぐんでいるビーチェを抱きながら、僕らは自室へと戻った。
自室で寝巻きに着替えた僕らはいつものように同じベッドで横になっている。
ビーチェは僕の腕にしがみつくようにして離れない。
「……話の内容は聞かない方が良さそうかな?」
「…そうしてくりゃれ……これは妾の心の弱さが招いたこと…悪いのは妾じゃ…」
「うーん、話の内容が何かわからないけど、そんな時こそ頼って欲しいな。愛する人が泣いているんだ。僕だって力になれることがあるなら何でもしたい」
僕がそういうと、ビーチェが僕の腕を抱く力が強くなった。
「……うぅうぅぅ…わ、笑わないで聞いてくりゃれ?」
「もちろん、約束する」
そしてビーチェは意を決して、僕に向き合って言う。
「わ、妾を…す、捨てないで…」
「!?」
涙ぐみながら上目遣いでそう言うビーチェ
話の内容が何かわからないが、リータ殿下にまた僕の側室がどうとか吹き込まれたのだろう。
困ったなぁ、リタさんは
でもリタさんにそう言われて不安にさせてしまう僕も悪い
僕の愛情がビーチェに伝わってないのだ。
僕は子犬のように泣きべそを掻くビーチェを正面から抱きしめる。
「捨てるわけない。この国を捨てたって、ビーチェだけは離してあげない。僕はそう決めているんだ」
「し、しかし…シリュウの夢は…この戦乱の終結で…大を成すには小を捨てることも…」
「なら僕にとって戦乱の終結が小で、ビーチェが大かな」
「そ、それは!?」
驚きながらも顔が綻ぶビーチェ
全く可愛いなぁ、もう
これはもう仕方ないよね
そう思って、僕はビーチェを優しく押し倒す。
「……なら僕がどれだけビーチェを愛しているか、その身で感じてもらおうかな…」
「えっ…そ、それは…ま、まさか…!//」
「結婚式までお預けの約束だったけど、もう関係ないね….そんなに捨てられるか不安なら僕がしっかりと教えてあげる」
「シ、シリュウ…//」
「インペリオバレーナの時の約束を果たすよ」
そう言って僕はそのままビーチェと唇を重ねる。
「全部もらう」
そして僕らは一つになった。




