第11話 帝国の実情
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烈歴98年 6月7日 深夜 リアリ・バルカ号 特別会議室
時刻は日付が変わろうかどうかと言うところ、既に寝巻に着替えて、床に入っていたところ、リタさんから呼び出しがあり、僕とビーチェはいつもの軍服に着替えて、パオっちとリアナさんを連れだっていつものように4人でリタさんが待つ特別会議室に来た。
特別会議室には、リタさんの他にアウレリオ准将、サルトリオ侯爵、リックことベタンクール都督そしてヒルデガルドが待っていた。
これは皇妹派の緊急集会だなと僕は感づいた。
「こんな夜更けに急に来てもらってごめんなさいね」
僕らが入室するやいなや、すぐに謝罪をするリタさん。
「いえいえ、僕らはリタさんに呼ばれれば参集する立場の人間ですのでお気になさらず」
僕がそう答えるとリタさんは少し安堵したような顔になった。
「そう言ってもらえると助かるわ。こんな深夜に集まっている理由は2つあるの」
「2つ?」
「1つは私達の時間がこの時間じゃないと取れないこと。日中は外交省の文官達とずっと帝国との交渉内容の調整会議をしているもの」
それはそうだろう。
それに帝国との交渉は難航が予想されているそうだ。
詳細は聞いても僕の頭ではあまり理解はできなかったのでビーチェに嚙み砕いて説明してもらったけど、要は帝国の皇帝が死にかけらしいから今の皇帝と交渉しても次代の皇帝が約束を守ってくれるかどうか見通せないらしい。
それに誰が次の皇帝になるかも現状では見通せないため、交渉方針が固まらないそうだ。
だから誰が次の皇帝になっても、締結された交渉内容が維持できるかどうかを外交省の役人達が必死になって考えているらしい。
なぜ今更そんなことを考えているかって?
原因は王国での外交がうまく行き過ぎたことにある。
もともとは以前から行っている外交でまとまった交渉内容の確認レベルの作業だったのが、リタさんがシャルル王とあまりにも懇意になったため、三国間の勢力図が大きく変わっている。
つまり皇国の外交の場における発言力が増しているのだ。
それを好機と見た外交省の役人達は、交渉内容を更にグレードアップさせるべく、急遽折衝案を議論しているらしい。
リタさんは皇妹派としての勢力拡大のためにこの外交使節団を率いることを口実に、裏での交渉をしているため、表向きの皇国としての交渉内容はどうでもいいのだが、使節団のトップであるリタさん抜きで会議は行うことなどできないため、日中は外交省の役人達の会議に付き合わされているのであった。
「もう1つは……外交省の中に私達のこの会議を訝しんでいる者が出てきたの…だから今後皇妹派の会議はなるべく人目につかない深夜に行うことにするわ」
さすがに皇妹派として日中から集まりすぎたか
外交省はトップのサルトリオ侯爵が裏では皇妹派であるものの、表向きは皇王派だから外交省も皇王派の巣窟なのだろう。
怪しまれるのは得策ではない。
「さて、深夜に集まる理由を説明したところで、さくっと本題に入るわ」
リタさんが全員に向き合い、真剣な表情になる。
「今回は帝国の実情をヒルデガルドちゃんから聞くわ。お願いできるかしら?」
そう言ってヒルデガルドの方を向くリタさん
「…わかりました…しかし…どこから話せばいいのか……皇国…いやリータ殿下はどれほど帝国の実情を掴んでいるの……?」
ヒルデガルドがリータ殿下に質問する。
ヒルデガルドは敬語が苦手でリタさん相手に完全に敬語で話していないようだ。
まぁそれを気にする人じゃないけどね。
ヒルデガルドの質問に答えたのはアウレリオ准将だ。
「帝国の皇帝が高齢により、ほとんど公の場に出られていないこと。そして第一皇子と第二皇子が激しく後継者争いをしていること。後継者争いは互いの領地の発展度合いで競争しており、最終的には皇帝が決定すること。このくらいは把握している」
ビーチェに聞いた内容とほぼ同じだ。
これが皇国における帝国の共通認識なんだな。
それを聞いたヒルデガルドが少し考え込む様子になる。
「……なるほど……それは…」
考え込むヒルデガルドにリタさんが声を掛ける。
「…どう?あなたが知る帝国とそう離れていないと思っているのだけど」
リタさんは帝国に諜報活動を行っていたからある程度帝国の事情を掴んでいる。
「王国で認識している状況ともそうは離れてないね」
リックことベタンクール都督も同意する。
そしてヒルデガルドが答える。
「……残念ながら少し情報が古いわ……」
「え?」
「……実は後継者争いはもう終わっているの…現皇帝カール・シュバルツ・ラインハルトは2年程前に次期皇帝に第一皇子のハインリヒ・シュバルツ・ラインハルトを内々に指名したわ」
「「「「!?」」」」
ヒルデガルドの発言に驚く一同
まさか皇帝の後継者争いがもう終わっているなんて
後継者争いで帝国が揺れているから侵攻するという皇国の戦略は足元から崩れ落ちるではないか。
「し、しかし諜報活動では帝国国内はひどく混乱状態にあると聞いているが!?」
アウレリオ准将がヒルデガルドに問う。
「……それは合っているわ。帝国国内は今やほぼ内乱状態って言ってもいいもの…」
後継者争いが終わっているのに内乱…?
もうわけがわからないよ。
「…どういうことかね」
サルトリオ侯爵が険しい表情でヒルデガルドに問う。
「……まずあなた達が認識している皇帝の後継者争いって何?」
ヒルデガルドが逆に一同に問い返す。
「…あれじゃろ?皇帝が各州を治める知事の任命権を持っているから、後継者候補を各州の後継者候補に任命して領地経営をさせ、発展度合いで競争させているという…」
ビーチェがヒルデガルドに答えるが、ヒルデガルドが首を横に振る。
「…知事が実権を持っている州もあるけど、多くは有名無実化しているわ。その州を治めているのはその州の実力者よ。それが知事だったり、総督だったり、果ては…何の役職もない人だったりね…」
ヒルデガルドの口から出る衝撃の事実に一同は返す言葉もない。
それでもビーチェはヒルデガルドに問う。
「…つまり皇帝の後継者争いとは…?」
「表向きに行っているのは、見せかけね。実際は血で血を洗う戦によって次期皇帝は決まるわ。現状第一皇子が次期皇帝に収まっているけど、それに異議を唱えている第二皇子と内乱状態になっているわ」
「…な、なんですって!?…帝国はすでに割れているの!?」
「…そうよ…私達が王国まで来ていたのは、タレイランと第二皇子の協定の一環よ。私達がシャルル王の暗殺に与して、タレイランが第二皇子に魔術師軍団を貸与する協定だったの…」
「…ちょっと待て……じゃあ私達がこれから向かうシュバルツ帝国の首都…は…」
アウレリオ准将が青い顔をしながらヒルデガルドに問う。
「……帝国の内乱の中心…謀略渦巻く伏魔殿よ…」
パオ「……ねむい…」
リアナ「……ねむたそうなパオ可愛い…」
シリュウ「ぶれねぇな、この夫婦」




