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第31話 ボナパルト王城の戦い④~ベアトリーチェ・ドラゴスピアの奮闘


妾はかつてないほどの修羅場にいることを嫌でも感じていた。


命のやり取りは初めてではない。


領主教育の一環で、盗賊狩りに参加したこともあるし、小さな紛争なら王国との前線で戦闘経験もある。


しかしそれは多数の領邦軍の兵士に守られ、更に歩兵相手に馬上で剣を振るう安全圏での戦いだったと、妾は今更ながら痛感していた。


妾の横には、アウレリオ准将


こやつには舞踏会等でさんざん声を掛けられ、鬱陶しい奴と思っていたが、今はこやつが隣で盾を構えているだけで、どれだけ心強いか。


そして妾達の後ろには、守るべきこの国の王と我が国の未来を憂う皇族がいる。


決して討たせるわけにはいかない。


対するは、帝国の十傑第9位 『紅猫』ヒルデガルド・ラーム


顔を見るのは初めてじゃが、その名声は皇国にも轟いている。


女性の身ながら若くして帝国の十傑に入るほどの才女


その身のこなしは猫の如く、しかしその髪は鮮血で染まる。


まさに『紅の猫』


相対するだけでも、彼女がどれほどの実力者かは、彼女の放つ気で十分に伝わってくる。


「………ベアトリーチェ……思い出したわ…サザンガルドの剣闘姫ね……齢14歳の女子ながら皇国の全国武術大会の弟子部門で優勝した……こんなとこで会うなんて奇遇だわ」


「……ほぅ?帝国の十傑とやらに知られておるとは少しこそばゆいのう…帝国の猛者でも皇国の武術大会の優勝者を調べるほど、皇国の武術師に恐れをなしているのかや?」


「……まさか…しかしサザンガルドの武術大会の結果は無視できないわ…前回大会優勝者はあのファビオ・ナバロだもの…準優勝者はマリオ・バロテイ……どちらも今は決して帝国としては無視できない存在よ…調べるに決まっている…」


「そうかや。なら再来月の大会も見に来るが良いぞ?我が夫シリュウの優勝に掛けると良い。大儲けできるじゃろうて」


「……あの化け物を大会に出す?正気?…」


「人の夫を化け物呼ばわりとは失礼な女じゃのう…!あんなに可愛らしいのに!」


「………理解不能ね……あの氷塊を砕く男が可愛いなんて…」


「はぁ?これだから行き遅れは見る目がないのう…?」


「……見る目がないのは周りの男よ……!」


ヒルデガルドを挑発しつつ、会話をして、時間を稼ぐ。


そうすれば、きっとシリュウがあの大男を倒して、駆け付けてくれる。


妾達がすることは、シャルル王とリータ殿下を守りつつ、時間を稼ぐこと!


この女を倒すと欲を掻いてはいけない。


アウレリオ准将もその辺は理解しているようで、妾達の会話を引き延ばすように会話に参加した。


「……そんなに怒るでないぞ、レディ。私から見てあなたは十分綺麗で魅力的な女性だ。出会いがここでなければ、夜のバーで一杯奢っていただろう」


「……お世辞が上手ね…?それも皇都のお茶会で磨かれたのかしら?剣の腕は磨かれてないみたいだけど?」


「ふっ、努力とは人に見せるものではない。私は皇軍准将だぞ?そう易々と爪は見せないさ」


「…弱い者は決まってそう言うわ。でも『能ある鷹は爪を隠す』と言うけど、能だけしかない鷹はそうね……」


「なに…?」


「……『力を持つ鷹は爪を隠せない』…その爪が大きくて、鋭すぎて、隠せないのよ…私みたいにね…!!」


そう言って、ヒルデガルドが一気に妾達の横を抜けて、シャルル王目掛けて切り込んで来た。


何て速さじゃ!


妾は反応が遅れて、シャルル王の護衛に間に合わない!


しかしアウレリオ准将はヒルデガルドの切り込みにしっかりと反応して、シャルル王の手前にて、しっかりと方盾でヒルデガルドの細剣を防いでいる!


「……せっかちだな、レディ。もう少し会話を楽しまないか?」


「……あなた……意外とやるわね…」


「いやいや、精一杯さ。できたら君とは剣ではなく杯を交わしたいところだけどもね」


「……戯言を…!」


ヒルデガルドがアウレリオ准将に気を取られているうちに妾はヒルデガルドの脚を目掛けて突く!


ヒルデガルドは、妾の剣を躱して、再度距離を取った。


「…脚を狙うなんて下品ね…それがサザンガルド流?」


「戦に下品も何もないとは思うが、サザンガルド流ではないぞ?我が夫の教えじゃよ」


そう対人戦において、下半身を中心に狙うのはシリュウが指導してくれたこと


『ビーチェ、もし対人戦になったら、下半身を、特に足首当たりを狙うといい。武術のほとんどは下半身の動きで成り立っている。下半身が傷つくと、相手の動きは一気に鈍る。それに生け捕りもしやすくなる。腕は切られてもまだ戦闘はできるけど、足を切られると終わりだからね』


「……シリュウ・ドラゴスピア……何者なの…?」


「うん?妾の愛しい夫じゃよ?」


「…どこまでもふざけて……いいわ。あなたの首をシリュウ・ドラゴスピアに捧げてあげるわ。どんな顔をするでしょうね?」


「それはさせない。シリュウ准将に守ると約束したからね」


「できるかしら?さぁ、本気で行くわよ……!」


そしてヒルデガルドはこれまで以上に剣を速く振るう。


まるで突風のようじゃ。


そして縦に横に、跳ねるようにして、足取りを重ねる。


妾とアウレリオ准将の2人を相手しても、なお妾達が完全に防戦一方じゃった。


なんという剣の技量


そして俊敏さ


帝国十傑の名は伊達ではない。


それでも妾は何とかその速さについていけていた。


ガキガキキィンガッキイン!


剣と盾がぶつかる音が響く。


数十もの連撃を、妾はレイピアで、アウレリオ准将は方盾とロングソードで防ぎ続けた。


「……こ、この!…早く…斬られなさい…よ!」


実際ヒルデガルドの連撃は凄まじい。


しかし妾はこの連撃よりも早い動きを知っている。


それも毎日のように目にしているのじゃ。


「…残念…じゃが…!シリュウより数段緩やかじゃのう…!一杯紅茶でも飲む暇もあろうて…!」


「……こ、この…!…馬鹿にして…!…」


妾の挑発に、腹が立ったのか、妾の方に攻撃を軸をシフトしてきたヒルデガルド


しかし、それは悪手じゃろう。


「……そこだ…!」


ヒルデガルドが妾に集中するあまり、アウレリオ准将がヒルデガルドに向き合う時間ができる。


そしてヒルデガルドの気が妾に集まった時を見て、アウレリオ准将が目いっぱい盾をヒルデガルドに押し付けた。


「……きゃあっ!!………」


アウレリオ准将の方盾の突進をモロに食らったヒルデガルドは吹っ飛ばされて尻餅をついていた。


「……良くあの連撃を耐えたな…おかげで隙ができた」


妾の奮闘をアウレリオ准将が褒める。


「…シリュウの連撃に比べれば止まっているようなものですよ」


妾は笑いながら言う。


大げさかと思うが実際、シリュウの槍捌きを普段から目にしていたおかげで、動体視力がここ数か月でかなり向上しているのは確かじゃった。


このまま時間を稼げれば……シリュウがきっと来てくれる…!


そう思い、ヒルデガルドの連撃をアウレリオ准将と共に防いでいると、妾達の方に大きな氷塊が飛来してきた!


「なっ……!」


「あれは先ほどの!」


氷塊はシャルル王とリータ殿下の場所を的確に捉えている!


シリュウが破壊した氷塊の10分の1程度の大きさしかないが、それでも人2人を圧殺するには十分な大きさじゃ!


「……ちっ…無粋な氷女…でもこれは好機…!」


氷塊を見たヒルデガルドが構わず突撃してくる。


氷塊…ヒルデガルド…何をどう防ぐ!?


するとアウレリオ准将が氷塊の方へ向かう。


「…少し頼む!」


アウレリオ准将はどうやら氷塊を防ぐ気だ。


ならば妾がすることは一つ。


この猫女を止める…!


「……承知したのじゃ!」


妾はシャルル王とリータ殿下の場所とヒルデガルドの動線上に割り込むようにして、ヒルデガルドに剣を突く。


「……邪魔を…するな…!」


構わずヒルデガルドが妾に細剣を切りつける。


妾はその剣を瞬時によけ、また返しに剣を突く。


「……行かせぬ!…約束したのじゃ!シリュウと!」


「…ガキの恋愛に付き合ってられないわよ…!」


「…独り身の僻みかや!?……早く相手が見つかるといいのう…!」


お互いに罵り合いながら剣を交わす。


初めは見えなかったヒルデガルドの剣もだいぶ目が慣れてきて、同等以上に鍔迫り合いができるようになったきた。


氷塊の方は、もう振り向く余裕もない。


アウレリオ准将に任せる。


妾はヒルデガルドの剣を防ぎつつ、一撃を入れるため隙を伺う。


シリュウ……妾に力を……!


そしてシリュウの教えをまた思い出す。


『防御しているところって、意外と狙い目なんだよ。防御しているからこそ意識がそこにないから逆に攻撃が通ったりするよ。特に鍔迫り合いするほど膠着している時とかね』


そうか。


妾は守っていないところばかり狙っておったが、ここは逆なのじゃ。


もう一度、ヒルデガルドを見る。


妾が執拗に下半身を狙ったゆえ、姿勢が低く沈んでおり、急所を隠すように常に半身で構えている。


そして一番防御が固いのは、剣を持つ右手


ヒルデガルドがまた妾に連撃をしかけてくる。


そして、妾はヒルデガルドが剣を振るう右手を目掛けてレイピアを突いた。


ブシュっ


「くっ……!!」


妾のレイピアは、ヒルデガルドの右手の甲を貫いた!


少し浅かったが、ヒルデガルドに一撃を入れることができた!


「…や、やった……!」


「……こ、これくらいの傷…何ともないわ…!…それにこうすればいいもの…!」


そう言って、ヒルデガルドは剣を左手に持ち替えた。


そしてまた妾に連撃を浴びせる。


その速度と精度は先ほどまでの右手での連撃と変わらなかった。


「う、うそじゃろ…!逆手でも…このような剣捌きなど…!」


「戦場じゃ利き腕を怪我したくらいで撤退なんてできないでしょう…逆手でも訓練しておくのは常識よ…!」


「…やっていることは非常識じゃて…!…くっ…」


ヒルデガルドの連撃は続く。


数多の連撃を捌き続けて、妾の腕も限界に近い…


このままでは……


「ほらほらほら!!どうしたのよ!」


ヒルデガルドが意気揚々に剣を振るう。



妾は防戦一方で、成す術がない……


しかし


「わ、妾は諦めぬ!」


「…しつこい女…これで終わりよ!」


さらに一層速い剣が妾を襲う!


そして………


ガギイイン!


ヒルデガルドの剣を何かが防いだ。





「…ふぅ…遅くなって済まない。ベアトリーチェ、選手交代だ」


「ア、アウレリオ准将…」


アウレリオ准将が方盾でヒルデガルドの剣を防いだのじゃ。


「……氷塊はどうなったの…!?」


「あれはベタンクール都督が燃やし尽くしてくれたよ。幸い燃やせる大きさだったらしい」


「……ベタンクール!?…あの氷女は…!?」


「あれを見なよ。とっくに逃げ出しているよ」


「……氷の塔…!?…あの女ァ……!?」


「さて、お怒りのところ悪いが、選手交代だ」


「……何ですって…?」


「ベアトリーチェ、見事な戦いだった。君のおかげでシャルル王とリータ殿下は守ることができた。ベタンクール都督とともに護衛に戻ってくれ」


「ア、アウレリオ准将は?」



「決まっている。あの子猫ちゃんを手懐けてくるさ」








リアナ「何よ?あの氷の塔…」


パオ「………あそこ…氷の道を作って移動している魔術師がいるぬん」


リアナ「…ほ、本当だ…!何あれ…すごい…」


パオ「……後をつけたいが、今はシリュウっち達の方が心配だろん。あそこで何かが起こっているにー」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 ビーチェよく頑張った!悪い言い方をすれば今回の面子の中では一番経験不足の若輩でしたから、大きい怪我を負わず時間稼ぎに成功したのは殊勲ものですね。 [一言] プスキニア…
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