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「よーおおおおおおし! 無駄な時間は食ってしまったが、こうなれば今まで以上に早くたどり着くしかないな。もう足に凄まじいエネルギーを溜め込んで、そんまますっ飛んで建物までいこう。そしてその衝撃でたくさんの人を殺すんだ」


 そうだ、こんな訳の分からない匍匐前進に時間を取られている場合じゃないんだ。俺はもう覚悟を決めた。いや、覚悟を決める時間すらもったいない、俺はとにかくいち早く人を殺すんだ。


「いくぞおおお、発射、五秒前! 四! 一! 匍匐前進!」


 俺は匍匐前進に切り替えた。

 飛ぶかと思わせての、匍匐前進だ。

 これは完全に決まってしまったな。もう完全に多くの人が騙されただろう。もう匍匐前進しかしないと俺は最初から決めていたんだよ。俺はもう匍匐前進しかできない体になっちまったんだよ。もうこれはどうしようもないことなんだ。


「お、あんなところにぬいぐるみが落ちてんぞ? 可愛らしいぬいぐるみだなぁ。もしかして俺から逃げたりする際に落っことしちゃったのかな。ぬいぐるみを抱っこしてたってことは、持ち主は可愛い女の子かなぁ? まだまだお母さんに手を引かれているようなかわいい女の子だよね? ああ、いいねぇ、すごく滾るよ。その女の子をお母さんの前で殺してみたいなぁ。そうしたらお母さんどんな反応するかなぁ。そうだなぁ、より残酷になるように、女の子と頭をめっちゃんこにしてあげたいなぁ。平たくいい感じに焼き上げたいなぁ。そうしたらきっと素晴らしい絵になると思うんだよなぁ」


 俺はもうとんでもなく興奮してきてしまった。

 やばいやばいやばいやばい、もう無理だ。完全に無理だ。もうやばすぎる!


「もうやばい! こうなれば匍匐前進をもっと早くやるしかない。匍匐前進最強モードで、全てをぶっ飛ばすしかもうほかにないな! 匍匐前進! くらえ! くらえ!」


 頑張ってただただ匍匐前進を繰り返す。

 何も起こらない、何も起こるはずもない。

 本当に起こらないんだ。

 でも俺は頑張る、なにか起こるかもしれないから、俺は最後の最後まであがき続ける。


「ひっひゃひゃひゃあああ! こんなところに訳の分からないやつがいるぜぇ」


 俺が匍匐前進していると、世紀末のような意味不明なやつが近づいてきた。

 なんだろう、俺が匍匐前進してるからってなめてるのかなぁ。それだとガチで心外だなぁ。

 心外すぎて、おばけになってしまいそうだよ。

 そうだ、俺はおばけっぽくなって、この訳の分からない男を驚かせてやろう。


「おら、踏んづけちまうぜ。そんなところでうじうじしてたらよぉ、いいのか? ああん? マジでいいのかよぉ、踏んづけちまうぜぇ」


「ばあああああああああああああああああああ!!」


 俺は匍匐前進を解除して、ガチ驚かせをしてみせた。

 本当にガチでびっくりさせてやろうと思ったのだ、こんなみっともないこと、本当だったらしたくない。

 なんでいい年した男が、こんなふうに驚かせたければならないんだろう。

 頭がおかしいと思われてしまうかもしれないじゃないか。

 もう泣いちゃうよ、おばけの演技をすることを忘れて、おぎゃおぎゃしちゃうよ? いいのか? 俺がそんなことをしてしまっていいのか?


「ふぎゃああああああ!!」


 男はすごく驚いていた。

 それはそうだ、いきなり匍匐前進していたやつが立ち上がったんだ。驚かないわけがない。ここで驚かないのは、心がないロボット人間だけだ。


「ふふふふ、どうだい男、驚いただろう。俺が幽霊に見えただろ?」


「ああ見えたぜ、お前は間違いなく幽霊だった。あの瞬間だけは確実に幽霊だったよ、それは認めよう。だがしかし今は違う。お前は幽霊には見えない、普通の人間に見える。だからお前は消えてほしい。お前は最悪だ、人を騙す最低な人間だよ」


「はは、まぁおばけじゃないことはバレちゃってるよな。そりゃそうだよな、発言的にも透けてると思うし、まぁかなりいい感じだと思うよ、かなりいい感じですよ。確かにおばけが普通に喋るわけ無いもんな、そんな当たり前のこと、わざわざ言う必要はなかったとは思うけど」


「お前は何がしたいんだ? お前は死んだほうがいいのか。それとも俺が自殺したほうがいいのか? 俺は自分がわからない、自分がどうしたいのかわからない」


「そうか、だったら僕の答えは一つだ、君は死ぬべきだ。自分からね。もしその択を取らないのであれば、俺がお前を殺してしまうだろう。ばーんと殺してしまうだろうから、それなら自分で死んでもらったほうが手っ取り早いんだよなぁ」


「ふざけんな! 死ぬのはいやだぁあ! いろいろ考えたけど、やっぱり自殺なんてしたくねぇ! 俺は生きるぞ! お前を殺してなぁ!」


 そう言って男は俺に殴りかかってきた。

 ああ、人間はどうしてこうも弱いんだ。本当に信じられないよ。怖いよ、ビビり散らかしたくなるよ。俺は泣いてしまおうか。うわんうわんと泣くことで、全てを忘れ去ってしまいたいよ。


「残念だよ、死んでくれ」


 俺は男を突き飛ばした。

 男はどこまでも遠くに飛んでいった。

 頃合いを見計らって爆発させた。

 花火となってこの世から消えていった。

 俺は匍匐前進のスタイルに戻り、歩み、いやほふみを開始した。

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