18
「気を取り直そう。もうぐだぐだは終わりだ。俺は旅立つんだ」
俺は翼をはためかせた。それが果たして本当のつばさかどうかはわからない。でも俺はそれを翼だと認識してる。そのつばさは、かなりいい感じの翼だと思えた。ぜんぜんつばさがどんな形をしているかだとか、匂いだとか、その素晴らしさについては微塵も理解できない状態ではあったが。
もしかしたらそれは翼ではないのかもしれない。翼ではなく、空気なのかもしれない。
そこには本来あるはずの翼はなく、俺の思い込みによる何かがそこにあるのかもしれない。
だが俺はそれを翼だと認識した。そう思うことにした。
だからそれは翼なのだ。誰が何と言おうと、俺は翼を背に付けている。これは素晴らしいことで、誰にも避難されることのない自由の現れだ。
「自由の翼。ちょうかっけぇ。かっけ、かっけ、かっけすぎるっしょ! やっべ、やっべ、やっべぇなぁ!」
俺はゆうゆうと空を飛んでいく。
鳥のごとく、雲のごとく。
今俺を傍から観察するものがいるとすれば、一体俺の姿をどのようにたとえるのだろうか。それが非常に気になりすぎて、夜も寝れそうにない。いや、もしかしたら夜は眠れるかもしれない。俺は不眠症ではない。だから眠れるかもしれなかった。それが俺の最強の眠り方だった。
完璧にねむるからこそ、俺は眠り方について熟知していた。
だから眠れないなんてことはありえないとわかっていた。だから俺の姿が他人からどう見えるか気になって眠れそうにないという問題については、それは杞憂だと断言できた。
俺は眠ることができる。だからこそ、自身をもって生きることができる。それが俺の考え方で、俺の素晴らしいところなのだ。
そうこう考えているうちに、よくわからない山についた。
山についたという表現をしたのは、その言葉に意味があるからだ。普通であれば山などごくありふれた風景の一つであり、それは俺の見ている世界においてスルーすることが決まりきってる認識外のものであることに違いない。しかしながら俺があえて山という存在をピックアップして主張することには、当然ながら意味があった。
それは山によくわからないオブジェが点在していたからだ。
あえてそのオブジェを言葉で表すなら、木の家と言ったほうがいいだろうか。まぁ普通の木なんだが、家っぽいのだ。
家っぽい木なのだから、まぁ家木とでも表現するのがいいのだろうか。それは誰にもわからない。俺でもわからない。
「まぁともかく無視はできない。あんな住処っぽい場所があるからには誰か住んでいるんだろう。それは素晴らしいことで、誇れることだ。俺はよくわからない集落を見つけることができた。それは紛れもない俺の手柄だ。もしこの瞬間をスルーしてしまえば、俺のその手柄はなかったも同然になってしまう。それは絶対にだめだ。だめでだめだめすぎる。だめすぎて発狂してしまうことだろう。どんなふうに発狂するかというときゃああああああああああああああああああああ!! こんな感じだ」
俺はきゃああああああああああああああああああという叫び声と同時に、たくさんの気の玉を放った。
すごい数の気を家に向かって降らせていく。
それはまるで雨のようだった。
水ではなく、気が降っている。これはとんでもないことで、それはあまりに現実離れした光景だった。だからこそ俺は笑えてきた。
客観的に自分のやっている行為を認識して、俺はすごい悪い笑みを浮かべてしまった。
俺ははっとなる。
今この俺のやばい表情を誰かに見られてしまったのではないだろうか。もしそんなことがあったとするならば、俺はもうこの世を生きていけないかもしれない。そのくらい俺はやばい表情をしていた自信がある。もし俺の今の表情を、例えば俺が好きな女の子がいたとしてその子に見られでもしたかと思うと、俺はその場合には確実に自害を選ぶだろうというくらいには俺は絶望的かつ悪魔的かつしんじられないような表情をしていた自信がある。
だからこそ俺はあえて、怖い顔をしてみた。
笑顔のあとの怖い顔は、よくわからない。そしてそのあとに辛そうな顔をしてみた。辛い顔は得意だった。俺の人生そのものだからだ。そんな顔をするのは初めてではない。俺はひとりでいるとき、辛いことを考えているときは、常に辛い顔をしてしまっている。その頻度はかなりのものだ。ときにはひとり枕を濡らすことだってある。そんな感じで自信があるものだから、当然この時に関しても俺は得意の辛い顔を滞りなく実行することができた。
その辛い顔は、これまたはたから見ればどんなふうに映ったのだろうと、いちいち気にしてしまうが、まぁこれは俺の悪い癖なので、このさいはあまり考えずともいいだろう。考え出せばきっときりがなくなってしまうだろうことは、これまでの経験から痛いほどわかっていることだからだ。
まぁといったところで、俺はいろんな表情をしてみせたわけだが、これには当然意味があって、その理由は、忘れてしまった。




