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6 託されたモノ

 ダンジョン攻略をはじめてから十六日目、バンデル小隊はようやく出口に繋がるルートを見つけた。


 ダンジョンから外に出ると、目の前には草が伸び放題の荒れた土地が広がっており、イネ科の牧草が多いせいか、垂れた穂が並ぶ光景は、一見畑にすら見える。

 土地の中央には、倉庫と思しき建物も並んでいた。

 目立たないように斥候役以外の兵士は、ダンジョンの中で待機している。

 斥候役として外に出た三人の兵士は、ここが第六魔導巨兵工房(ファクトリー)であると確認すると、すぐに引き返した。

 目的の施設を発見しても、手は出ず帰還するように、と命令が出されていたのだ。


 人が暫く立ち入らなかったせいだろう。ダンジョンは、沢山の魔物で溢れていた。

 もちろん『ホーンウルフ(鋼鉄の一角狼)』は三機とも健在だ。

 魔導巨兵(マシンドール)に並び立つことのできる魔物など、お伽話に登場するドラゴンや上位種の巨人といった伝説の魔物くらいだろう。

 されど、生身の兵士たちは別である。

 ダンジョンには、魔導巨兵(マシンドール)では入ることの出来ない小さな脇道も多かった。

 そういった場所は、兵士だけで調査をする必要がある。

 出口を見つけるまでの十六日間、多数の怪我人と死者が出た。

 ダンジョン探索当初、彼らは、ここまで被害が出るとは考えもしていなかったのだ。

 まともに動ける兵士は、三人の人形遣い(ライダー)を合わせても、十二人しかいない。


「あれだけの規模の工房を調査するとなると、人手が足りないのではないでしょうか」


 第六魔導巨兵工房(ファクトリー)に続くルートを発見した部隊の兵士が、進言する。


「その通りだ、明らかに人手が足りていない。人手に関しては、怪我人を搬送する馬車に増援依頼の手紙を預けるつもりだ。俺たちに支給されている通信用魔道具は、せいぜい半径一キロが限度だからな、時間はかかるが手紙しかないだろう。

増援が来るまで少なくとも十日はかかる、このダンジョンについては分からないことだらけだ。時間をかけることで魔物が湧きはじめるかもしれない、俺たちは増援を待たずに先行して調査をはじめる」

「隊長……子供たちは、皆殺しですか」

「呪いの首輪の解除方法が分からないのだから、殺すしかあるまい。これは戦争だ諦めろ」


 子供に剣を向けることに割り切れないのか、質問した兵士の表情は暗い。

 別の兵士が手をあげる。この男は、悪い方の噂が絶えない兵士だった。


「あの、やったあとは必ず殺すので、女を見つけた場合は愉しんでもいいでしょうか」

「相手は十代だぞ」


 バンデルは兵士に軽蔑交じりの視線を向ける。

 それに気付いていないのか、兵士は下品に口元を緩めながら、「俺、十二、十三は全然いけるんで、問題ありません」と、自慢げに言う。

 バンデルは思わず頭を抱えそうになった。


「少女に首輪の痣がある場合、手を出すのは禁止だ。これを破った者は殺してもいいと言われている。『呪いの首輪』がある相手と性行為をした場合に何が起こるか分からないからな、国も余計なトラブルを抱えたくないのさ。表沙汰にはなっていないが、ワグナウアでもそれを破った兵士が処刑されている。万が一、それを隠し、後で露見した場合には、部隊に所属する全員が処罰対象となる。罪人にはなりたくないだろう。ワグナウアに兵士用の娼館を作るって話しもある、もう少し我慢しろ」

「まじか、自分を抑える自信がねえんだけど、女を見つけた時は、性欲が湧く前に殺さなきゃダメだな」



 ――彼らは、この話が盗聴されていることに気付いていない。



「もーサイテー、性欲が湧く前に殺せとか、我慢できないとか、本当に同じ人間なの」


 音魔法でベースキャンプの音声を流しながら、キキが顔を顰める。


「キキの魔法って本当に便利ね。これ以上マシンドールが増えたら厄介だし、増援は勘弁してもらいたいわ」

「サキ姉、それは大丈夫なんじゃない。相手はこっちを子供だけだと侮ってるみたいだし、増援があっても普通の兵士でしょ」


 地図を睨みながら、キキとサキ姉の会話に僕は、口を挟んだ。

 第六魔導巨兵工房(ファクトリー)の倉庫のひとつ、入り口に『3』と書かれた倉庫の中で、キキが集めた敵の会話を、兄弟全員が聞いていた。

 次女のキキは、音魔法を得意とする自称天才魔法使いだ。

 ダンジョンのような特別な場所では、自分も同じダンジョンに潜らなければ音を拾うことは出来ないが、ダンジョンの外であれば話は別、地図を見ながらテキトーに範囲を決めて音を拾い、敵の居場所を特定する。

 大勢の人間が集まるベースキャンプは、すぐに見つけることが出来た。


「兵士がダンジョンの外にいるなら、今のうちにダンジョンリセットを使って入り口をバラバラにすればもっと時間が稼げるんじゃないの?」

「レアンそれは悪手だ。相手を叩くなら兵士の数が減ったいましかない」

「ルークは減ったって言うけど、相手はホーンウルフとかいう一角獣みたいな角付きが三機もいるんだぜ。それに比べてこっちは、動かせるマシンドールが一機だけだ」

「僕もルークの意見に賛成するよ、首輪を外すためにもマシンドール一機は倒さなきゃならない。相手がダンジョン攻略で疲れているいまがチャンスだと思う」

「リュカまでルークに賛成かよ。あー分かったよ、分かりました」


 ふてくされるレアンの頭を、ルークは「俺を心配してくれたんだろう」と優しく撫でる。

 レアンはすぐに「うっせえー撫でるな」と大声で怒鳴り、頭に乗ったルークの手を払い除ける。なんだかんだ二人は仲が良い。


 シルビルード軍が、ダンジョン攻略にもたついたことで、サキ姉は、スフィーロ種を素体にした三機の魔導巨兵(マシンドール)を完成させた。

 三機完成したのに、動かすことが出来たのがルーク一人のため、現状、戦力として数えられるのも一機だけだ。

 それにしても、十六歳の少女を魔導巨兵(マシンドール)設計者(デザイナー)として育て上げるなんて、博士は本当に何者なんだろう。

 僕の、カーネギー・アルダンへの猜疑心は、日増しに強くなっていく。


「でもさ、僕たちの育ての親っていったい何者なんだろうね」

「何者ってドワーフだろ」


 僕の質問にレアンは、〝ナニ当たり前のこと聞いてんだよ〟と今にも言い出しそうな表情で、呆れながら答える。


「まあ、そうなんだけど……ダンジョンリセットなんて、本にも載っていないダンジョンの仕組みだし、『呪いの首輪』についても詳しかっただろう、一番驚いたのは、原初の魔導巨兵(マシンドールオリジン)が眠っているかもしれないダンジョンの情報だ。マシンドールオリジンは数百年もの間、世界中の国々が血眼になって追い続けているモノだろう、それを知っているなんて変だよ」


 僕たち六人は、博士から多くのモノを託された。

 三男のレアンは、ダンジョンの秘密を託された。その一つが、第六魔導巨兵工房(ファクトリー)を囲むダンジョン化した森をはじめとする、地上型ダンジョンの性質についてだ。

 地上型ダンジョンには、複数の入り口と出口があり、安全地帯と呼ばれる魔物が発生しない空間もある。安全で距離が短い裏技的な抜け道すら託されたモノの中には記されているという。

 そんな全ての場所をランダムで入れ替えることが出来るのがダンジョンリセットだ。

 レアンは、その方法も知っていると以前口を滑らせたことがある。


 託された情報については、兄弟であっても秘密にしなくてはならない。

 例えばレアンであれば、話していいのは自分がいる場所から一番近いダンジョンの情報だけだそうだ。

 僕は、原初の魔導巨兵(マシンドールオリジン)が眠っているかもしれないダンジョンを知る方法を託された。

 博士から、僕たち兄弟に託された情報は、どれもバレたら飼殺し確定、毎日拷問されてもおかしくないようなレベルの情報(もの)である。


「リュカ兄喋り過ぎ。あたしたちが父さんから託されたモノは、兄弟だからといって気軽に話していいモノじゃないんだよ。ちなみにあたし、キキ・アルダンが父さんから託されたモノは魔法に関するモノかな、詳しくは内緒。あたしたちが持つ情報は、必要な時に必要な情報だけを兄弟にだけ打ち明けることが出来る。それが、決まりでしょ」

「キキの言う通りよ、リュカはおしゃべりね。私、サキ・アルダンが師匠から託されたモノはマシンドールに関するものよ、それ以上のことはまだ言えないわ」

「俺もサキとキキが言うことが正しいと思うぜ。リュカは、もう少し考えてから話すようにしないとな。

それと、俺ルーク・アルダンがジジイから託されたものは、うーん、どう説明すればいいんだろうな。物を使うための知識?それにはマシンドールの操縦も含まれている。マシンドールがすぐに手足のように動かせたのも、託されたモノのお陰だな。あとジジイの正体は、天使か悪魔……とか?」

「流れには乗っておくか、おいら、レアン・アルダンがドワーフから託されたモノはダンジョンに関するモノだ。あと、あいつが天使だって、ありえないだろう。天使が十代の子供に王を殺せとか言うか?その二択ならぜってぇー悪魔だ」


 僕たち兄弟は、博士と別れる際に依頼を受けた。

 『呪いの首輪』に関わる者の殺害依頼だ。その中にはこの国の王様の名前もある。


「次はララの番。ララ・アルダン十歳です。じーじに託されたのはモノ作り?サキ姉ちゃんと一緒?」


 こてん、とララは首をかしげた。彼女は託されたモノについて、自分でもよく分からないらしい。


「ララが託されたモノは私と組むことで力を発揮するの。ララは、マシンドールの武器を作ることが出来るわ」

「そう武器作り、楽しいの」


 目をキラキラさせながら、武器作りを楽しいと話す十歳の少女。

 色々と将来が心配になってくる。


 魔導巨兵(マシンドール)の武器は特別だ。

 ダンジョンに群生するルプスニウムと呼ばれる生きた鉱物に、スライム種の魔物を錬金術を使い合成することで、ルプスニウム合金が出来る。

 ルプスニウム合金は、魔導巨兵(マシンドール)を斬ることが出来る武器を生み出す、数少ない鉱物である。

 ララは武器を作ることは出来るが、まだこの合金を錬成することは出来ない。


「最後は僕かな、みんなの前で託されたモノについて喋ったことは謝るよ。託されたモノのことは、例え相手が兄弟であっても話してはならない。それが契約だからね。僕、リュカ・アルダンが博士から託されたモノはマシンドールオリジンが眠る場所への手がかりだ」

読んでいただいてありがとうございます。

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