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5 ダンジョン化した森

 バーディガン王国の要塞都市ワグナウアを陥落させたシルビルード軍は、部隊を分けて西へと進んだ。


 騎兵を先頭に、三機の『ホーンウルフ』乗った巨大な陸亀(ギガントトータス)が引く魔導巨兵用荷車(マシンドールキャリア)と、二頭引きの馬車が後に続く。

 馬車の中では、重そうな鎧に身を包んだ兵士たちが雑談を交わしている。

 戦時にも関わらず兵士たちの表情は、ことのほかリラックスしていた。

 部隊の人数は三十人ほど、小隊規模の部隊である。


 部隊の名は、バンデル小隊。

 『ホーンウルフ』の人形遣い(ライダー)バンデル・ノワスを隊長に据えた、第六魔導巨兵工房(ファクトリー)制圧のために組まれた急造部隊だ。

 既に、次期量産機の開発計画は凍結されており、大した成果は期待できないが、長命種であるドワーフが長年魔導巨兵(マシンドール)研究をしていた施設を無視することは出来なかった。


「ダンジョンなんてものがなければ、ここまでの規模の部隊も必要なかったのだがな」


 バンデルは独り言のつもりだったが、人形遣い(ライダー)は常に通信用の魔道具を携帯している。


「隊長聞こえてますよ。愚痴りたいのは分かりますが、痩せた土地でも育つスフィーロ種を素体とした魔導巨兵(マシンドール)の研究です。作物がまともに育たない土地が巨人樹の養殖場に化けるかもしれないんですよ、国も興味が湧くでしょう。

癖のある巨人樹ほど魔導巨兵(マシンドール)にするのは難しいと言われていますし、試作機とはいえ完成させたカーネギー・アルダンとかいうドワーフは、並外れた才能の持ち主なのでしょう」

「見栄えが悪いだけで、完成間近の量産機開発計画を凍結したバーディガン王国のアホ貴族どもには感謝だな。もし、スフィーロ種を使った量産機が完成していたら、ワグナウアは、こうも簡単に落ちなかった」

「貴族は見栄えばかり気にしますからね、うちみたいな頭の柔らかい王は珍しいんですよ」


 少数精鋭の人形遣い(ライダー)たちが駆る魔導巨兵(マシンドール)を、象徴と見る国も多く、獣型魔導巨兵(ビーストタイプ)を主力量産機のひとつに据えるシルビルードを、侮る国は多かった。

 『ホーンウルフ』はシルビルードが独自開発したものではない。

 元々、南方大陸に暮らす長命種のダークエルフ族開発した、狼型の獣型魔導巨兵(ビーストタイプ)『グルンド』の装甲を大きく変えたライセンス生産機なのだ。

 ライセンス生産の権利を得るため、王は自国領にダークエルフの特別区を作ったほどだ。それ以外にもシルビルードは、ダークエルフ族を優遇している。

 シルビルード領内には、オオカミをはじめとした獣の魔物を生むダンジョンが多数あるため、製造に必要な材料も得やすい。

 それに、人型の魔導巨兵(マシンドール)では人形遣い(ライダー)に選ばれなかった者が、『ホーンウルフ』には見初められる、なんてことも珍しくなく。この決断は、シルビルードの人形遣い(ライダー)魔導巨兵(マシンドール)の数を、大幅に増やす結果となった。


 今回のアムルシアン連邦への進軍も、『ホーンウルフ』の量産化による武力拡大が一役買っている。


     ✿


 第六魔導巨兵工房(ファクトリー)は、盆地にある。

 丘の上から見下ろす。

 ドーナツ状に広がる森の中にポツリと浮かぶ陸の孤島が見えた。

 その陸の孤島が第六魔導巨兵工房(ファクトリー)だ。

 時折景色がぼやけて見えるのは、森がダンジョン化している影響だろう。

 その景色を見て兵士が思わず口笛を鳴らした。


「隊長凄いところですね。いかにも長命種好みの隠れ家って感じがします」

「お前の中で長命種はどんな扱いなんだ。まっ、景色に圧倒されるのは分かるがな」


 バンデルの指示で、兵士たちがベースキャンプを設営する。


 ダンジョン攻略は、『ホーンウルフ』一機と歩兵六~八人でパーティーを組み、三班編成で行われることとなった。

 森がダンジョン化した場合、外から見る森の情報は当てにできない。

 ダンジョンは異界であり、見た目と中身が異なるのだ。

 まずは出口を探さなくてはならない。

 三班編成にしたのは、少しでも早く出口を見つけるためである。


 森に入る際には、目印を立てる。

 一班が突入した場所から、十メートルほど離れた地点より、二班が森に入る。


「どうして一班が……」


 思わず兵士の一人が小さく叫ぶ。

 二班が森に入ると、そこには一班の兵士たちがいた。これがダンジョンだ。

 一度外に出て、さらに離れた場所からもう一度中へ入る、これを繰り返して別の入り口を探す。

 地下型ダンジョンの場合、大抵入り口がひとつだけなのだが、森をはじめとした地上に生るダンジョンは、入り口も出口も道筋も複数あることが多い。

 問題は、入り口があるからといって必ず出口があるわけではなく、人手があるならパーティーを分けて探した方が、より早く出口を見つけることが出来る。


 一班は、部隊長のバンデル・ノワスが率いていた。

 ダンジョンの中は、現実ではあり得ないほど木が密集して壁を作っていた。

 根と根が絡まり、木と木同士が張り付いている。

 『ホーンウルフ』が歩くのに問題がないほど、ダンジョンの中は広かった。

 兵士は探検家でも冒険者でもない。

 森に出来たダンジョンを見るのが初めてなのだろう。

 暫し足を止め、呆けた顔でダンジョンの壁や天井を見つめた。

 天井には、見たこともない形の色とりどりの葉が茂っている。


「目を奪われる気持ちも分かる。だがここはダンジョンだ。気を抜くと魔物の餌になるぞ」


 バンデルの言葉に、兵士たちは背を伸ばし、腰に吊るした剣を抜く。

 不思議なのは、光が差し込まないくらい葉がびっしり茂っているのに、仕組みは分からないが、ダンジョンの中は、曇天程度の明るさがある。

 バンデルの駆る『ホーンウルフ』を先頭に、兵士たちは、進みはじめた。

 風が吹いていないのに葉の揺れる音がする。気配は無いのに鈴が鳴るような虫の音が聞こえる。気になり出したらきりがない。


 真っすぐな一本道が続いている。自分たちの周囲だけが明るくなるのか、視線の先は暗闇である。

 緊張からか、兵士たちの額には汗が滲み、口はきつく一文字に結ばれる。

 耳の良い兵士が言った。


「隊長……鳴き声がします。獣の唸り声のような鳴き声が」


 魔導巨兵(マシンドール)に乗ったからといって、狼に似た形をしているからといって耳が良くなるわけではない。

 頭と手足に絡み付く植物の蔓は、操縦席に乗る人形遣い(ライダー)魔導巨兵(マシンドール)の感覚を同調させる。

 人形遣い(ライダー)が歩こう、走ろうと考えれば、魔導巨兵(マシンドール)も歩くし走る。攻撃も同じだ。

 四足歩行の獣型魔導巨兵(ビーストタイプ)は、人型の魔導巨兵(マシンドール)よりも慣れるのに時間がかかる。

 「自分が巨大な狼になった気分で動かしてみてください」そう言われただけで、動かせるのなら苦労はしない。


「見えた。前方からウルフレア、数は八、俺が先に突っ込む。突破された魔物の処理は、お前たちに任せる」

「「「「はっ」」」


 前方から土埃を巻き上げながら魔物が殺到する。

 首から上が狼で、首から下が走鳥と呼ばれるダチョウに似た足の長い鳥の身体。『ウルフレア』と呼ばれる魔物だ。

 牙にばかり気を取られると蹴りがくる。

 人間の首や腕程度の太さなら、一撃で斬り落とせるほど爪は鋭い。


 ウルフレアの群れにバンデルの『ホーンウルフ』が正面から突っ込む。

 角に当たりウルフレアの首が飛ぶ、続けざまにホーンウルフの前足が横一閃、血が舞うのと同時に、四匹のウルフレアの身体が勢いよく壁にぶつかり嫌な音を立てた。

 ウルフレアには小さな翼があるが空は飛べない、それでも脚力を生かしたジャンプはなかなかのものだ。生き残った三匹は、ホーンウルフを飛び越え後ろにいる兵士へと突っ込んだ。

 兵士たちは腰を落とし盾を突き出し、正面からそれを受け止める。

 ダンジョンに響く衝撃音。正面から全速力で突っ込んでくる馬車を受け止めるようなものだ。

 三人の兵士が派手に吹き飛ぶ。

 とはいえ、頭から鉄製の盾に突っ込んだのだ、ウルフレアたちもすぐには動けない。

 四人の兵士が剣を手に、地面に倒れているウルフレアに飛び掛かった。

 「うおりゃあ」兵士が吠える。

 何度も何度も、魔物の頭と胸に剣を突き刺す。何度も何度も。

 兵士の本分は対人戦だ。魔物との戦いに慣れているわけでもない。

 魔物の多くは常識から外れた姿をしている。獣の顔に鳥の身体、話で聞くのと実際目にするのでは、やはり違う、気味が悪い。


 ウルフレアが死ぬのを確認すると、すぐに倒れた兵士に駆け寄り治療に移る。

 二人は軽傷だったが、最後の一人は腕の骨が砕けていた。上半身を持ち上げた瞬間、右腕の肘から先がぶらりと垂れ下がる。

 それを見た兵士が、咄嗟に鎧の腰に縫い付けられた袋から、痛み止めの薬草を取り出し、痛みでもがく兵士の口にねじ込む。

 「う……あー」と唸っていた兵士の声が止んだ。

 この痛み止めは、腕を斬り落とされたとしても一瞬で痛覚を麻痺させるほどの効果を持つ痺れ薬だ、薬草というより毒草に近い。

 兵士の顔が少しだけ楽になる。


「状態はどうだ」


 『ホーンウルフ』の背中にある操縦席から顔を出すバンデルに、負傷兵の側にいる兵士が手で×(バツ)を作る。

 痛み止めのせいで、麻痺して口が上手く閉じられないのか、兵士の口から涎が落ちた。

 負傷した兵士は、入り口までそれほど距離がなかったこともあり、付き添いもなく一人でダンジョンの入り口に戻っていった。

 ダンジョン探索ははじまったばかりだ。足があって歩けるのなら、負傷者に人をつける余裕はない。

 自分たちがダンジョンにいる間も戦争は続いているのだ。

 バンデルたちは先へと進む。

読んでいただいてありがとうございます。

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